“人生単位”で伴走する。平均面談数10回、離職率1.2%の人材会社BOXの支援

株式会社BOX
代表取締役
澤田 拓馬氏
さわだ・たくま/学生時代までに日本・シンガポール・ベルギーと多様な国で過ごす。中央大学在学中に、フラッシュモブの団体を立ち上げ、4年間で250名規模・年間10回以上の依頼を頂く組織へと牽引。新卒で東京海上日動火災保険に就職し、法人営業・代理店コンサル営業に従事する。現職ではコーチングを基礎とした転職支援に従事し、新卒PJや複数の横断PJ経験の末、2年目にマネージャー職に就任する。2023年に福岡拠点の拠点責任者、2024年に取締役となる。

人材紹介の魅力はプロフェッショナルが候補者に寄り添い、希望のキャリアに合った仕事を紹介してくれる点にある。スタートアップ特化の人材紹介を手がける株式会社BOXでは、候補者の一番近くで伴走するために面談を平均10回も実施しているという。今回はBOXの澤田氏にインタビューし、伴走支援へのこだわりと、BOX独自の卒業生コミュニティについて話を聞いた。

内定獲得率72.7%、半年以内離職率1.2%を叩き出すBOXの人材エージェント事業

株式会社BOXは、スタートアップ特化型の支援サービスを多数展開するSEVENRICH GROUPからスピンアウトして生まれた会社だ。その母体となる「セブンリッチアカウンティング」という会計事務所では、過去15年間で累計900社以上のスタートアップを支援、ファイナンス面でのサポートを実施してきた。

人材業界の中でも会計事務所をルーツに持つ会社は珍しい。澤田氏によると、SEVENRICH GROUPからBOXの事業が生まれた背景には、同グループが大切にしている「トータル支援」の考え方があるという。

「経営の要であるファイナンス面でのサポートを行う中で、経営者の方からお金周り以外のことも相談いただくようになりました。採用はもちろんのこと、マーケティングやオフィス移転など多岐に渡るお悩みを聞く中で『会計だけではなく、スタートアップ・ベンチャーに必要なサポートを自分たちが担い、企業の価値向上をトータルで支援したい』と思うようになったんです」

そしてスタートアップ向けの支援サービスを次々と立ち上げたSEVENRICH GROUPは、現在約40事業ほどを運営するグループにまで成長している。

また、多くの人材ベンチャーが人材業界での経験を経て独立・立ち上げを行う中、BOXでは立ち上げメンバー全員が人材業界未経験者という点も特徴的だ。

「立ち上げ当初は誰も人材業界を経験していなかったからこそ『まずは自分たちがどこまでも成長しなければ』というマインドのメンバーが揃っていました。だからこそ、支援企業・個人の両者に対して全力で向き合ってきましたし、今でもそのマインドは会社のカルチャーとして根付いています」

そんなBOXの本気の姿勢を象徴するのが「平均面談数10回」という数字だ。一般的な人材エージェントのキャリア面談実施数が3〜4回とも言われる中、候補者にそこまで多くの時間を割くのはなぜか。

「理由としては、私たちのクライアント属性がスタートアップであることが大きいです。もうすでに多くの人数が働いている中堅〜大企業とは違い、スタートアップではまだ数名しかいない会社に対して、新しいメンバー候補をご紹介することになります。つまり、1人が入社することによるインパクトが桁違いに大きいのです。だからこそ、カルチャーやスキルがきちんとマッチしていないと、両者ともに幸せにならないと考えています」

BOXのキャリア面談では、長い時間をかけて子どもの頃の家庭環境やこれまでの歩みを聴き、候補者の価値観が形成された背景を深掘りする。また人材紹介事業では珍しい取り組みとして、BOXの全メンバーに対してコーチング研修を実施。候補者本人も気づいていない部分を引き出すために、日々スキルを高めているという徹底ぶりだ。

澤田氏いわく、「その人の過去を丁寧に解きほぐせば、現職で抱えている不満や、転職によって実現したい未来も鮮明になる」とのこと。実際に、BOX経由で転職活動を行った人の内定獲得率は72.7%、半年以内離職率は1.2%と、一般的な人材エージェントと比較してかなり高いマッチング率を誇っている。

「もちろん、自分一人で自己分析ができている方もいらっしゃるので、そういった方はトータルの面談回数も少なくなる傾向があります。しかし、多くの候補者は言葉にならないモヤモヤを抱えているもの。なので面談のおよそ半分は、この自己分析や自己内省のための時間に充てています。『自分の人生をより良くしたい』という思いと真摯に向き合うからこそ、ここまで時間を費やすのは必然だと考えています」

候補者一人ひとりに時間をかけることが、長期的な利益につながる

キャリア面談を重ねれば重ねるほど満足度は高まる一方で、候補者1人当たりにかかる時間は増え、利益率は低くなってしまう。この点について澤田氏に見解を聞くと「キャリア面談に力を入れるからこそ、逆説的に利益を生み出す構造ができつつある」と回答が返ってきた。

「一般的な人材紹介ビジネスでは、求職者の集客コストが大きい割合を占めています。近年は労働人口減少に伴い、そのコストはさらに増大傾向にあるのではないでしょうか。

しかしBOXでは、転職に成功された方が周りにいる転職希望者の方を紹介してくださるケースが非常に多いのです。短期的に見れば、キャリア面談に時間をかけるというのは非効率に見えるかもしれません。しかし目の前にいる人の『体験価値』を高めて、紹介の輪が広がれば、紹介だけでもこの事業を成り立たせることができる。中長期的にこの状態を作ることができれば、利益率の観点でもむしろ効率的だと思っています」

近年は人材ビジネスでもDXが進展、スキルベースでのマッチングの効率化が進んでいる。しかし澤田氏は「価値観をベースにしたマッチングはシステムによる置き換えが難しく、人が介在する価値が残っている領域。アナログだからこそやる必要がある」と語ってくれた。

またBOXでは独自の取り組みとして、BOXが過去に転職支援を行い、転職に成功した「卒業生」向けのコミュニティを運営している。この卒業生コミュニティはどんな意図で運営されているのだろうか。

「転職はゴールではなく、自己実現のきっかけの一つにすぎません。そう考えたときに『転職後もその人の活躍をサポートする仕組みがあればいいな』と思って作ったのがこの卒業生コミュニティです。たとえばBOX経由で転職した人が、同じ会社に転職した先輩社員とつながれたり、近い業界で働く人に話を聞けたりなど、このコミュニティを通じて思わぬ縦・横のつながりを作りたいですね」

この卒業生コミュニティでは定期的にオフラインの交流会を開催しており、毎回50名ほどが参加。エージェントと候補者が仲良くなったり、候補者同士で新しい友人関係が生まれたりするという。

「BOXを通じてスタートアップへ転職した方にアンケートを取ると、その多くがスタートアップで働くことに対して不安を抱いており、約9割が『転職活動時にスタートアップで実際働いてる先輩と話をしてみたかった』と回答していました。そういった不安を解消する際に、この卒業生コミュニティの人たちの生の声がとても貴重なものになると考えています。今のコミュニティの形からさらにアップデートして、互いに助け合える場を作っていきたいです」

既存の人材紹介のあり方を壊し、ニュースタンダードを確立したい

BOXの今後の事業展開を聞くと「短期的には人材紹介と採用コンサルティングという2つのビジネスの拡大に注力したい」と回答があった。また今後はSEVENRICH GROUPとして「新しく立ち上がったスタートアップにとって、最初の相談窓口になること」を目指しているという。

「採用課題の相談だけではなく、資金やマーケティング、ひいては従業員の健康まで、スタートアップに関わるあらゆる悩みをグループ全体でサポートできる世界を作りたいと考えています。BOXはその中でもHR領域のプロフェッショナルとして、人材マッチングと採用に強い組織作り、両面からの支援で企業成長を加速させたいです」

また澤田氏個人のビジョンとして「個人がキャリアに迷わずに済み、人材エージェントが不要になる世界を作りたい」とも話してくれた。

「私たちのような人材紹介ビジネスが成り立つのは、個人の方がキャリア選択の知見を持っていなかったり、ファーストキャリアで思うようなキャリアを選択できなかったりするから。欧米と比較すると、日本のキャリア教育はまだまだ遅れている部分があると言われています。もしもキャリアに対する考え方が確固たるものであれば、新卒で理想的な会社を見つけたり、エージェントに頼らない自律的な転職をしたりできると思うんです。

そういう意味で、今後は現在の中途向け転職支援よりももっと手前の部分である、新卒領域やキャリア教育の領域にも挑戦したいですね。既存の人材紹介のあり方を壊し、ニュースタンダードを確立したいです」

(鈴木智華)