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「年齢より機能重視」「プレイヤーとして何ができるか」ミドルシニアを取り巻く採用市場の意識変化に、エージェントはどう対応するべきか?

キャリア・リエゾン・パートナーズ株式会社
代表取締役
鈴木 洋樹 氏
すずき・ひろき/1979年生まれ。愛知県出身。転職エージェント歴12年超。コンサルティング業界特化の人材紹介会社で実績を重ねたのち、2021年に現キャリア・リエゾン・パートナーズ株式会社を創業。ハイキャリア・ミドルシニア層に特化した人材紹介・転職支援を手がける。LinkedInでの情報発信を長年継続しており、フォロワー数は27,000人超。

最近、「40代・50代の転職成功事例が増えている」という話題を耳にする機会が多い。それは一時的な人手不足の反動なのか、それとも構造的な変化なのか。また、実際、現場ではどのような変化が起きているのだろうか。

ハイキャリア・ミドルシニア層に特化した人材紹介業を手がけるキャリア・リエゾン・パートナーズ株式会社代表の鈴木洋樹氏に、現場で起きている変化について話を聞いた。

採用対象年齢は、確実に上がっている

「ここ1〜2年で明確に感じる変化は何か」
鈴木氏は間を置かず答え始めた。

「企業側の採用対象年齢の引き上げです。特に50代前半までを採用検討のラインとする企業が増えました。

以前は40代半ば前後が実質的な上限となることが多く、50代の中途採用は例外に近いものでした。しかし現在は40代の決定が珍しくなく、50代も着実に増えています。実際、弊社の直近の支援実績はそれぞれ49歳、53歳、56歳の方でした」

この傾向は一部の先進企業に限らず、業種や企業規模を問わず広がりを見せているという。これは単なる人手不足による各社の一時的な緩和策なのだろうか。

「おそらく短期的な変化ではないでしょう。少子高齢化による若手採用の難化や中堅層の不足が慢性化する中で、採用方針を見直す企業が業界問わず増加しているものと思われます」

ただ、年齢上限の引き上げに伴って、企業の評価手法も変わり始めていると鈴木氏は言う。

「対象年齢が引き上げられるに連れ、企業の人材評価手法も深化していると感じます。企業にとって、ミドルシニア層の採用は成長期待やポテンシャル要素のない純粋な即戦力採用です。『純粋な即戦力採用』を突き詰めていくと、次第に年齢の重要性は薄れ、逆に即戦力性の判断は精緻化していきます。各企業がこれまで40代以上の求職者をメインターゲットとしていなかったことの反動として、いまになって判断手法が急速に高度化しているのかもしれません。

そのため、採用対象年齢が上がったからと言って、必ずしも入社決定が出やすくなった訳ではありません」

年齢よりも機能。評価はむしろ精緻化している

より具体的には、どのような変化があるのだろう。

「まず、クライアント様から『年齢上限を引き上げた』という通知が頻繁に届くようになりました。週一で届いた時期もあります。また、求人票には『20代30代歓迎』などと記載されていても、実際に人事担当にお話を伺ってみると『実は最近は50代前半まで見ています』というケースも増えています。複数社から短期間で同様の動きが続いていますので、これは一つのトレンドなのでしょう。

しかし、より重要なのは、判断手法の高度化だと考えます。どの企業も、今まで以上に即戦力性を精緻に判断するようになってきています。何を任せたいのか?どんな開発環境での経験が必要なのか?と言った点について、詳細な注文を頂くことが増えました。面接後のフィードバックも詳細になりつつあります。業務内容と経験が合致すれば年齢は問わない、その代わり合致するか否かはしっかりと判断する、というスタンスの企業が増加しているのです」

もう一つの変化として、ミドルシニア層を管理職ではなくプレイヤーとして採用する企業も増えているという。

「これまでは40歳以上になるとマネージャーや管理職としての採用が当然の前提とされていました。しかし、最近は40代の方をプレイヤー想定で面接に呼ぶということが増えています。

プレイヤーとしての採用を検討されているのであれば、面接では、マネジメント経験よりも、現場で成果を出せるか、再現性があるか等が問われます。現職が課長・部長といった役職の求職者であっても、面接ではプレイヤーとしてなにができるか?という質問が飛んでくるので、ここで準備を怠ると失敗します。エージェントとして、面接準備の重要性が以前より高まったと感じています」

求職者側の変化:市場参加の活発化

企業側の動きと呼応するように、求職者側の動きも変化している。

「以前は『どうせ年齢で切られる』と考え、そもそも転職市場に出てこない求職者が相当数いました。しかし、最近は明らかに参加者が増加しています。Web上で成功事例がよく見られるようになったことや、国による高齢労働者活用の後押しも影響しているのでしょう。

もっとも、市場参加が増えたからといって、成約率が自動的に上がるわけではありません。求職者の活動の質は二極化しているように感じます。前述のとおり採用手法が緻密になっているため、年齢が上がるほど自身のスキルを整理し『刺さる』ように採用企業に提案する必要が出てきますが、それをせずにポストや役職を軸に動いて苦戦する方が居る一方、戦略的に取り組み転職に成功している層も増えてきています」

少子高齢化と「若い」40代・50代

なぜこのような変化が起きているのだろうか。

「第一の理由は少子高齢化です。団塊ジュニア世代が40〜50代に入り、シンプルに母数が大きいという現実があります。

第二に、今の40代・50代は若い、という点も挙げられます。本当に若い。第一印象が『元気いっぱい』という方も多いですね。医療の高度化や健康志向の高まりが影響しているのでしょう。労働時間の遵守意識の浸透も影響していると思います。過度な残業をさせない前提であれば現場業務を十分任せられますし、本人たちも働く意欲が高い。

第三に、定年延長などの、労働を終了するタイミングが後ろ倒しされつつあることも原因だと思われます。『70歳まで働く可能性が高いから、40歳以降もしっかりしたキャリアプランを作る必要がある』と気づく人が増加しているのでしょう。40歳はまだキャリア後半戦の入り口でしかないのです。少し前まではありえないスケジュールでしたが、実際、私の義父は80歳まで正社員で働いていました。

また、別の観点からは、少し前に流行ったジョブ型雇用に代表される機能重視の採用手法がようやく浸透してきた、という面もあると思います」

エージェントに求められるのは「翻訳力」

そういった市場環境の変化があるとして、人材紹介会社はどう対応すべきだろうか。鈴木氏は次のように語る。

「まず年齢フィルターの考え方を見直すことです。多くのエージェントは年齢・学歴・社格で一次スクリーニングをしていると思いますが、前述のとおり『実は50代でも検討対象』という企業も増えています。そうでなくとも、経験がフィットしていれば多少のオーバーは問題にしない企業は多い。年齢だけで機械的に切るのではなく、求められる機能と経験のマッチングを一次基準と考えるべきです。年齢は副次的要素とすべきでしょう。

次に重要なのは、業務理解のための学習を進めることです。判断手法が高度化し役割と経験とのマッチング力の重要性が高まっていますが、『役割』や『経験』を具体的にイメージできなければ、マッチングは不可能です。たとえば『課題解決』と言っても、どんな企業のどんな課題を対象としているのか?解決するとして、現場では何を調べ、何を起案し、どんなアウトプットを作るのか?そういった具体的なイメージを持てていなければ、精緻なマッチングはできません。『AIがリコメンドしてきた求人票をとりあえず送付する』という仕事の進め方では、すぐに見限られてしまうでしょう。

そして、面談力の強化です。履歴書の表面には出てこない経験を引き出し、企業に刺さる形で文章化する。これはおそらく、AIによる代替が難しいスキルです。AIは、テキスト化された情報からしか判断できませんからね。多くのエージェントが職務経歴書を『添削』してしまうので、結果として書類から削除されてしまった経験がある、という側面もあります。

また、『この人は本当は疲弊している』『家族に言えない葛藤がある』『年収より尊厳の問題を抱えている』といった内心を理解することも転職支援の上では大変重要ですが、これもシステムにはなかなか対応しにくいポイントです。対話を通じてそれらを引き出す能力は、今後重要視されていくでしょう」

若さ・年齢という分かりやすい武器が相対化された今、エージェントの基礎力がより明確に問われる時代に入った、ということだろうか。

「活況」ではなく「再編」

鈴木氏の話から考えれば、40代・50代の転職成功率上昇は短期的な市場拡大ではない。社会の人口構造の変化に伴う自然な変容のようだ。

「年齢に対するステレオタイプ自体が書き換えられつつあるのです。若さではなく、果たせる役割だけで判断する時代への移行。その傾向は以前からありましたが、より速度が早まりつつあります。

その背景にあるのは、少子高齢化が想像以上に急速に進行していることです。高齢者を活用せざるを得なくなったという社会全体の変化を如実に感じます。日本は外的圧力でしか変われないと言われることがありますが、ある意味、今回もそのパターンの一つかも知れませんね。

ただ、私たちはそんな社会の中で生きて行かなければなりませんし、どんなきっかけで始まったものであれ、人材の価値を能力で判断する時代は好ましいと多くの方が考えるのではないでしょうか。目をそらさずしっかりと順応していくことが大切だと考えます」 

市場は拡大しているのではなく、再編されている。
この再編に適応できるかどうかが、今後の人材業界の分岐点となるだろう。

(寄稿:キャリア・リエゾン・パートナーズ株式会社)