スタートアップ×若手派遣 新しい成長支援のカタチ

One Work株式会社
派遣・業務委託事業部長
小西 繁樹 氏
こにし・しげき/立命館大学経済学部卒業後、研究開発型メーカーにて、基礎研究、開発を担当。主に企画開発や自社マテリアルを活かした事業企画、事業推進に8年間従事。2017年、大手人材紹介会社への転職を機にHR領域でのキャリアをスタート。人財開発を軸とした組織開発、組織発展をハンドリングしながら、スタートアップ企業の西日本エリア立ち上げに従事。2022年、One Workに参画。

テクノロジースタートアップ企業の成長支援を行うOne Work株式会社が、新たに人材派遣事業を立ち上げる。人材や組織への投資に手が回りにくいスタートアップと、さまざまな経験を積んでキャリア形成を行いたい若者とをつなぐ人材派遣サービスだ。今回は、派遣・業務委託事業部長の小西氏に新事業発足の背景や、目指すゴールなどを伺った。

スタートアップ企業の採用課題解決を目指し、新事業を発足

テック系のスタートアップ企業の成長支援をメインに行うOne Work株式会社。今回、これまでのサービスに加えてなぜ新サービスを立ち上げたのだろうか。その背景について小西氏に話を聞いた。

「新事業は、これまでスタートアップ企業の成長支援を行う中で感じた、人材不足を解消したいという思いから発足に至りました。労働人口の減少や人口そのものの減少が社会問題として取り沙汰される中、人材不足を解消し、人材そのものの生産性を上げてポテンシャルの開放をしていく必要があると弊社は考えています。そのためには、働く人材が得意分野とする領域で働けるよう、適切なマッチングを行うことが重要で、その役割を担うべくこの新事業を立ち上げました。一方で、世の中では即戦力の人材を求める動きが加速しています。若手がチャレンジし、ポテンシャルを伸ばす機会が少なくなっているのであれば、若年層のポテンシャルを上げていくためのサービスをスタートしたいとも考えていました」

これまでの事業で見えてきた、スタートアップが抱える採用課題

スタートアップ企業では、資金を調達後、事業を成長させていく上では必ず人材が必要になる。しかし、スタートアップ企業では人材を育成するのが難しく、はなから新卒採用やポテンシャル採用は行わずに即戦力を求めがちだ。その結果、人材の採用が難しい傾向にあると小西氏は言う。

「スタートアップ企業は人材に投資する余裕がないことから即戦力を求めます。新卒採用を行う企業はとても少ないですし、中途採用に関しても年齢や職歴、経験を重視する傾向にあるため、若年層はどれだけ優秀でレベルが高くてもマッチする求人票がなかなかありません。

しかし、若手は即戦力にならないというのは先入観です。そもそも即戦力の定義とはなんでしょうか。職務経歴書はいくらでも華やかに見せることができますし、面接も建前だけで切り抜けることができてしまいます。採用してみたものの活躍してくれない、という問題は若手に限らず起きています。

また、即戦力にこだわるあまり、結局採用できずに終わっている企業も少なくありません。欲しい人材の要件が曖昧なまま『即戦力』という絵に描いた餅を追い求め、結果的に採用が上手くいっていないのが、スタートアップ企業の採用における一番の問題点だと思います」

日本ではまだまだ年齢や経験を重視する企業も多く、スタートアップ企業に限らず若年層は書類選考で門前払いされてしまいがちだ。先入観を取り払い、真に活躍する人材を採用するには、「ポテンシャル」が一つのキーワードになるという。

「誰を採用しても、自社で活躍してもらうには育成が必要になります。はじめから『育てる』という意識で採用するのであれば、即戦力でも新卒でも採用基準に大きな違いはないと思うんです。新卒や若手人材は職務経歴書や面接に物足りなさを感じるかもしれませんが、『これから頑張るぞ!』という熱意を持ち合わせており、入社後も前向きに働いてくれているというケースが多い印象です。そういった、『ポテンシャルに掛ける気持ち』を持つことも、実は重要なんですよね」

若手人材の働き方やキャリアに対する意識も変化

一方で、時代の変化やコロナ禍の影響により、若手人材の働き方やキャリアに対するマインドも変化しつつあるという。

「近年の傾向として、大企業に属して定年まで働くことよりも、自分自身の力で新しい事業を起こすこと、社会に影響を与えることに関心を寄せる若年層が増えています。キャリア自律の流れに加え、コロナ禍や円安などの企業努力ではどうにもならない時代の煽りを受け、一つの企業に依存して働くことに疑問を感じる若手が多いようです。それならば、若いうちから様々な企業で経験を積み、自分自身で生きていける力を身につけていくことがこの先重要になるのではないか、と彼らは考えています。

それにともなって、新卒や第二新卒で無期雇用派遣を選ぶ方も出てきています。派遣は不安定な雇用形態というイメージがあるかもしれませんが、無期雇用型派遣は派遣元の正社員として働く形態ですので、雇用や収入が途切れる心配がありません。様々な職場を試して経験を積みたいと考える人にはうってつけの働き方なんです。

こうした点に着目し、ポテンシャルに富んだ優秀な若年層とのマッチングによってスタートアップ産業を加速度的に成長させたいといった願いを込めて新事業を立ち上げました」

One Workが目指すスタートアップ支援のカタチ

今回立ち上げたサービスは、若年層がポテンシャルを開放して活躍できる環境を提供することで、スタートアップ企業の人材不足の解消と事業成長を目指すものだ。メンバーはスクリーニングを行った優秀な若年層に限定していて、起業家精神を持っている人材が多い。

EXIT型派遣だから一歩を踏み出しやすい

このサービスが他の派遣事業と異なる最大の特徴は、派遣した若年層の転籍を視野に入れた「EXIT型派遣」という形態で運営していることだ。

「派遣事業ではありますが、他の派遣会社とは本質が異なっており、若年層のポテンシャルの有無を見極めてもらうための『お試し期間』として派遣というシステムを利用しているイメージです。我々はスタートアップ企業に若年層採用を勧めていますが、若年層が企業側の求める『即戦力』としていきなり活躍することは難しいです。ポテンシャル層を正社員として採用するのはリスクがあると考える企業も多いでしょう。そこで、一度若年層のポテンシャルを見極めていただくために派遣というビジネスモデルを採用しています。

派遣で採用した若手がいい人材だと感じたら、転籍という形で正社員登用していただくことが可能です。卒業ありきの派遣であるという点が、一般的な派遣事業とはまったく異なる部分だと思います」

求職者のスキルアップ支援にも注力

また、この新サービスにおいてOne Workが一番注力しているのが、求職者の育成支援だという。

「スタートアップ企業の戦力として活躍するには、経営者に近い知識も必要だと考えます。例えば、経営者が今月の営業利益について話をした時に入社3年目でも理解できるように、勉強支援を行なっています。メンバーもスタートアップ企業で働くというリスクを取ってチャレンジしてくれていますので、弊社の介在価値の一つとして勉強支援に最も力を入れています。弊社を選んで頂いた以上、経験だけでなく目に見える資格を取らせてあげたい、という思いからこのサポートを実施しているんです」

双方への支援もあり、利用者からは嬉しい声が届いているという。

「若年層メンバーは将来自分で経営できる力を身に着けたいという思いが強いので、スタートアップ企業の経営者の近くで働けることは、自分自身のキャリアのチャンスだと捉えている声が多いですね。また、経営が不安定なスタートアップで働くことはリスクもはらんでいます。そんな中で無期雇用派遣の制度はある種の保証制度になっており、万が一派遣されたスタートアップ企業が上手く軌道に乗らなかった場合でも他の企業を紹介してもらえるという安心感から、チャレンジしやすく成長に振り切った働き方ができると好評を頂いています。

スタートアップ企業からは、非常に採用がしやすくなったという声を頂くことが多いです。また経営者の方からも、未経験者を採用するのは不安だったけれど、実際に採用してみたところとてもよく働いてくれているという嬉しい言葉を頂きました」

事業を通じて実現したいこと

直近の目標は、若年層のマッチングを通してスタートアップ企業の発展や成長を支援することだと言う小西氏。その先に見据えるのは、自社の抱える若年層がさまざまな経験を積んだ後に経営者となってスタートアップ企業を立ち上げる未来だ。小西氏はこの事業を通じて日本社会にインパクトを与えていきたいと話してくれた。

「今の日本は働いても働いても給料が上がらず、生産性も上がらないままどんどん先進国から置いていかれています。この状況を打破するには、新しい産業を生み出すことが最重要課題だと考えています。スタートアップ企業に対して弊社が優秀な若年層をマッチングすることで、スタートアップ企業が事業を成功させ、新しい産業を生みだす。その確率を上げていきたいですね。それによって雇用が広がったり、給料アップが実現したりと、今の日本が抱える社会問題の解決につながると考えます。それが我々が日本社会に与えたいソーシャルインパクトです」

スタートアップ企業とそれを担う若手人材、それぞれに対して小西氏は次のような想いを語った。

「今後の採用市場では、一社の中で同じ仕事をずっと続けてきた実績よりも、幅広い経験をどれだけ豊富に積んできたかがポイントになっていきます。そのため重要なのは、成功することではなくチャレンジをすること。たくさんチャレンジしてたくさん失敗してきた人材の需要が、スタートアップ企業のみならず大企業でも高まっていくと予想されます。その未来を踏まえて、若いうちからスタートアップ企業でさまざまな経験を積んでいくことは、求職者にとって有利に作用するのではないかと感じています。若年層の方々には、3カ月でもいいのでスタートアップ企業で働いてみてほしいですね。

反対に、企業側には3カ月からでもいいのでぜひ若年層を採用していただきたいと思っています。もちろん、書類選考や顔合わせも採用する上で大事ですが、それだけで人材の良し悪しを判断することは難しいのも事実です。なので、まずは3カ月受け入れてみて、自分の目でポテンシャルを確かめてほしいと強く思います。インターンなどではなく実際に働いてみることでお互いに気づくことがあるはずです。それがスタートアップ企業の発展や社会の発展につながると信じて、我々はこのサービスに取り組んでいます」