エンゲージメント=従業員満足度だけじゃない。ポイントは“相互”信頼関係

株式会社スタメン
代表取締役社長  CEO
大西 泰平 氏
おおにし・たいへい/筑波大学を卒業後、大手広告会社などを経て、2014年よりITベンチャーのベトナム拠点事業責任者に就任。ゼロから2年で200名を超える拠点に成長させる。帰国後、2016年に取締役としてスタメンに参画。営業、マーケティング、デザイン、開発、財務などの幅広い職能を活かし、事業部長やコーポレート本部長を歴任。2023年1月より現職。

労働人口の減少により慢性的な人手不足が続く中、人的資本経営に注目が集まっている。またコロナ禍でリモートワークが普及するなど、現在は働き方の価値観も多様化している。その中で株式会社スタメンは、組織エンゲージメントの向上によって企業を支援するサービス「TUNAG」を提供。今回は、強い組織を作るエンゲージメント経営の概要やその重要性について伺った。

企業と従業員の「”相互”信頼関係」を築くエンゲージメント経営

近年、ヒトを投資対象とする人的資本経営が重要視されている。人的資本経営が注目を集める背景には、経営資源となるヒト・モノ・カネ・情報のうち「ヒト」の希少性が高まったことが考えられる。

「少子高齢化による労働人口の減少や働き方に対する価値観の多様化などにより、『ヒト』の獲得が以前に比べて非常に難しくなりました。これまでコストとして見られていた『ヒト』の希少性が高まり、『コストとして削減するのではなく、資本として投資してより価値を高めていく必要がある』と捉え方が変化したことが、人的資本経営が注目を集めている一番の要因だと感じています」

大西氏は、人的資本経営において「エンゲージメント経営」が必要不可欠だと語る。スタメンの定義する「エンゲージメント経営」とは、組織のエンゲージメント向上を重視する経営のこと。「エンゲージメント」は、経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート2.0」の中で、人的資本経営を構成する要素の一つとされている。

「エンゲージメントは国が推進する人的資本経営の要素となっているだけでなく、企業のカルチャーや目指す方向性とも連動しています。企業がエンゲージメントとしっかりと向き合っていくことで、従業員全員が同じ方向を向いて日々の業務に取り組める。結果として組織の安定感が高まり、企業の競争優位性を生み出すことに繋がります。エンゲージメント経営は、企業と従業員の繋がりを深めることで強い組織をつくっていくという経営方針です。『ヒト』へのアプローチによって企業価値を高め、人的資本経営を進めやすくしてくれるという点で非常に重要な要素だと言えますね」

エンゲージメントは、従業員満足度と捉えられる場合も多い。しかし「エンゲージメントが高い状態」とは、企業と従業員の間に「相互信頼関係」がしっかりと築かれている状態だという。

「従業員から企業に対しての信頼を得るには、心理的安全性の担保や待遇のよさなど、この会社で長く働きたいと思ってもらう状態を作ることが大切です。いわゆる『従業員満足度』を高めるということですね。しかし信頼関係の構築は、従業員から信頼を得るだけの一方通行ではなく、企業側も従業員への信頼感を持っている『相互』の状態であることが大事だと思っています。企業が従業員を信頼している状態とは、従業員が企業の成長に貢献していたり他の従業員に対してよい影響を与えたりしていると認識できる状態を指します。

そしてこの相互の信頼関係においては、企業と従業員がお互いによい影響を与えているかどうか、歩み寄れているかどうかという点が重要です。『この会社に居るとよい待遇が受けられるから嬉しい』で終わるのではなく、企業が心地よい環境を提供し、その中で従業員がベストを尽くして貢献してくれる、という両輪が揃ってはじめて相互の信頼関係の醸成につながると考えています」

しかし、エンゲージメント経営が組織の成長に重要となる一方で、エンゲージメントの向上は難易度が高いと大西氏は続ける。

「人的資本経営を構成する主要要素は、多様性と生産性、そしてエンゲージメントとされています。定量化・数値化できる他の要素と違い、エンゲージメントは数値化しにくく評価が難しいというのが特徴です。ボトルネックが非常に掴みづらく、絶対的な勝ちパターンもないため、エンゲージメントの向上は難易度が高いんです。エンゲージメントにはさまざまな要因が複合的に関係しているため、これを高めるためにはその全ての要因に対してアクションを起こし、さらにそれを維持していくことが求められます。

また、企業は事業の拡大に伴って常に変化を求められ、コミュニケーションの取り方一つとっても最適解は変化します。人が増えれば、さまざまな人的トラブルや組織課題が生じやすくなるんですね。

私を含めた創業メンバーの3人はそれぞれ、前職で従業員数が数年で10倍、100倍になる経験をしました。その中で様々な組織課題を目の当たりにしてきましたが、その大部分は『先手を打って対応すれば防げる問題』であると経験から実感しました。

少子高齢化や労働人口の減少が取り沙汰される日本社会の中で、人と組織づくりの対策が先手で打てるような支援サービスは必ずニーズがあるだろうと確信して『TUNAG』の開発に至ったのです」

エンゲージメント経営を支援する「TUNAG」

「TUNAG」は、組織のエンゲージメントを高めて強い組織づくりを支援するサービスだ。組織のエンゲージメントを高めることで、さまざまな「組織や人」の課題解決を図る。創業4年という速さで上場を果たしたスタメンも、急激に組織を拡大させた企業だ。「TUNAG」はスタメン自身の成長にも重要なサービスであり、その経験を活かした支援を行う。

組織が拡大する中で起こる課題に着目して開発された「TUNAG」だが、実際には企業のエンゲージメント経営をどのように支援するのだろうか。

「エンゲージメントの向上を目指すには、まず企業が目指す理想の姿を明文化することから始まります。どのような組織や会社を目指すのか、企業のありたい理想を明確にすることが重要です。理想を決めたら、アンケートを実施して現状を把握します。その上で、理想に近づけるための社内制度を作り、運用・分析する。この一連のプロセスを丸ごと管理できるプラットフォームが『TUNAG』です。

当社では企業の規模や特性に合わせた社内制度を提案しています。クライアント企業様は『TUNAG』を通して、実際の実行状況や浸透度合いをモニタリングしながら制度を運用していただけます。PDCAを適切に回しながら制度を運用してもらうことで、企業のエンゲージメント経営を支援しているんです」

TUNAGで設計できる社内制度には、サンクスカードやトップメッセージ、日報など様々な種類が存在する。「TUNAG」では、それぞれ目的を定めた上でどのように運用していくのかなどを、企業に合わせて細かく設定できる。

「たとえば従業員同士の感謝の気持ちを伝え合う『サンクスカード』では、共有範囲や送る内容も、実施目的や企業の特性次第でカスタマイズする必要があります。中小規模の企業では、サンクスカードを全社で共有すると日々の従業員の頑張りが可視化されて、本人にとっても他の従業員にとってもよい影響を与えられます。しかしこれを、数千人規模の大企業で同じように行っても上手くいかないでしょう。全ての従業員間のやり取りが表示されても全てに目を通すことは難しく、見落としや形骸化が起きやすくなります。そのため、部署ごとに限定した範囲に表示させたり、文量を減らしたりなどの工夫が必要です。

トップメッセージにも同じことが言えます。トップメッセージは特に、社風や代表の特性に合わせた発信が重要で、発信方法によって伝わりやすさや浸透度合いが異なるんです。代表の想いを伝える手段にも文字や音声、映像など様々な選択肢がありますし、発信頻度も検討する必要があります。従業員に読み続けてもらうためには、企業や代表に合ったやりやすさに応じた発信方法で行うことが重要ですね。

エンゲージメントの高め方は複合的で難しいからこそ、それぞれの企業に合った取り組みを継続して運用し続けるためにはきめ細やかなチューニングが必要です。その上で、細かな設定ができてPDCAを回せる『TUNAG』のカスタマイズ性は一番の特徴であり強みであると思っています」

一方で社内制度を取り入れる際、どのような制度をどのように自社に合わせて運用するのかを企画することが一番難しいと大西氏は話す。

「社内制度の企画や運用について、我々はクライアントの皆さまの成功事例をノウハウとして共有することで支援しています。他の企業が実施して上手くいっている社内制度を参考にしてもらいながら、自社に合わせてカスタマイズしてもらう方法です。また、ユーザー同士で成功例を伝え合うエンゲージメントサロンも運営しています。情報交換の場として成功・失敗事例を共有してもらい、エンゲージメントや信頼関係のあり方などを模索して改善に役立ててもらっているのです」

エンゲージメントを高めることが、人事のメイン業務になりつつある中で、何からやればよいのか、どうPDCAを回せばよいのかわからない企業も多いと言う。サービスの機能性だけではなく、実際の運用までを企業に合わせて柔軟にカスタマイズして指南してくれることも「TUNAG」の強みだ。

人的資本に関するデータを一元管理できるプラットフォームに

カスタマイズ性を強みとする「TUNAG」によって、企業のエンゲージメント経営を支援してきた大西氏。今後はエンゲージメントだけではなく、人的資本に関するデータを一元管理できるようなプラットフォームに育てていきたいという。

「さまざまな複合的要素によりエンゲージメントは高まっていくので、まずは『TUNAG』の機能と機能を連携させて、より柔軟に活用できるようにしていきたいと思っています。サンクスカードやトップメッセージなどの社内制度についても、さらに機能を充実させ、『TUNAG』でこんなことまでできるんだ、と感じてもらいたいです。よりよいサービスを提供するためにも、新規機能の開発にも注力していく所存です。

また人的資本経営においては、上場企業の開示情報を規則化していこうという流れがあります。財務に関する情報は決算情報として数値化されますが、今後は人的資本経営やエンゲージメント向上の取り組みについても、データ化して開示することが企業に求められると思っています。人的資本やエンゲージメントに関する取り組みをどのように行って離職率などの数値がどのように変化したのか、これらの全てを一元管理できるようなプラットフォームに育てたいですね。人的資本に関するデータは数値化しづらいからこそ、より多くの企業が『TUNAG』を通して人的資本を開示し、改善していってもらいたいです」