採用代行EORのリーディングカンパニーに聞く グローバル採用のこれから

Globalization Partners社
CEO
Bob Cahill 氏
ボブ・キャヒル/人手不足の解消や海外向け事業の立ち上げを目的に、海外に住む人材を雇用することを検討する企業が増えている。しかし海外人材を雇用するには、現地法人を設立しなければならないなど、さまざまなハードルがある。そこで注目されているのが、EOR(Employer of Record:グローバル雇用代行業者)と呼ばれる、企業が海外で従業員を雇用する際にかかる労力や時間面でのコストを削減してくれるサービスだ。

EORとは

サービス提供者が進出先における法的な雇用主となり、給与支払い、税金の支払い、保険の提供等を代行するサービス

グローバリゼーションパートナーズ(Globalization Partners、以下G-P社)は、187もの国で事業法人を立ち上げた経験を持つSaaS型EORサービスのフロントランナー企業だ。「日本は今後のEOR拡大における重要な市場だ」と語るGlobalization Partners社新CEOのボブ・キャヒル氏に、EORサービスの今後と、これからのグローバルな採用のあり方について話を聞いた。

EOR市場の概況と日本企業におけるEORサービスの意義

EOR市場の規模について、キャヒル氏は「コロナ禍をきっかけに急速に拡大し、事業者も増えている」と述べた。

「EOR市場は年々拡大を続けており、1600億ドルもの巨大な市場になるという予想もされています。その背景には、コロナ禍で多くの企業がテレワークを採用するようになり、対面での採用や出社にこだわらなくなったことがあります。住む場所にこだわらず採用ができるようになった今、才能ある人材を獲得したいのであれば『世界中から人を集めて、グローバルなテレワークチームを作る』という考え方は近い将来、当たり前のものになるでしょう」

とはいえ、日本企業で海外在住の人材活用に取り組んでいる企業はそこまで多くない。キャヒル氏は、日本におけるIT技術者の人手不足の課題をどのように見ているのだろうか。

「日本企業の海外人材雇用における課題は『特定の職務への従事を約束しないにもかかわらず、長期にわたり同じ企業に勤務させる』という特殊な労働慣行にあります。そのような慣行が残る企業は『やりたいこと』にこだわる人材や、キャリア開発を重視する人材にとっては喜ばしい環境ではありません。

そんな労働慣行を改め、雇用を流動化させたり、仕事選びの柔軟性を高めたりすることで、日本企業は国内外を問わず多くのIT技術者を惹きつける会社になるでしょう。また、高齢者や子育て中の母親といったまだ活用できていない人材の発掘も可能です。そしてそれは、グローバルにおける日本企業の競争力の強化につながります。またEORサービスは、日本企業が海外人材を惹きつけるための大きな橋渡し役にもなれると考えています」

そしてキャヒル氏は「EORサービスは、今後日本のIT分野の人材管理に大きな役割を果たすことになるのは間違いありません」と続ける。

「EORサービス事業者は、クライアント企業に代わって現地の労働法や税法にもとづき、契約書作成や労務管理を代行します。EORサービス利用企業は、国ごとに対応しなければならない煩わしい労務管理から解放され、国際的なコンプライアンスリスクを軽減させながら、居住国に関係なく優秀な人材を迅速に雇えるようになります。

実際に、Fin-tech・eコマース・バイオテック・製薬企業など、テック企業を中心としたさまざまな日本企業がEORサービスを活用し、グローバルチームの立ち上げに動いています」

海外人材の獲得競争、日本はどう戦えばいい?

今後、EORサービスを日本企業が活用していくためにはどんな動きが必要になるのだろうか。日本市場におけるEORサービスの将来性について話を聞いた。

「円安が続く中、今後多くの企業は輸出産業や海外市場に目を向けることになるでしょう。それに伴い、能力を持つ海外人材の需要も高まると考えています。日本企業がEORサービスを活用して、海外人材の獲得競争で勝つためには、以下の3つが重要となるでしょう」

仕事への満足度が高い

「アジア・グローバルな人材獲得競争は今後も続きます。多くの労働者が企業選びで重視するのが、仕事への満足度です。新型コロナウイルスの感染拡大はテレワークの増加をもたらしましたが、上長の監視がないテレワークでは、この仕事への満足度が生産性を大きく左右します。出社+テレワークの組み合わせはより多くの従業員が望む働き方となっている今、仕事への満足度は仕事探しにおいて、必須のチェック項目になっています」

働く場所を柔軟に選択できる

「従業員が会社の近くに住んでいない限り、働く場所を柔軟に選択できる仕事のほうがよりワークライフバランスを高めやすくなります。そのような職場のあり方を進めることが、従業員に求められる社風を育む第一歩となるでしょう」

従業員の健康と安全に配慮する

「『運動不足だから出社したい』『体調がすぐれないから在宅で仕事がしたい』など、出社とテレワークどちらが適切かは、個々人や当日のコンディションによってさまざまです。出社とテレワークを自由に組み合わせられる会社は、従業員の健康と安全の観点からも、選択肢の幅が広いと言えます。健康問題に悩む従業員にとって、自分で自宅かオフィスで働くかを選べる柔軟性のある企業は、従業員の福利厚生と個々人の事情を優先してくれる会社として多くの人材を惹きつけるでしょう」

EORサービス業界最大の19以上の言語、180か国以上でサービスを提供しているG-P社。世界中の人材の雇用ノウハウを持つG-P社が考える、強力なグローバルチームに必要なものとはどんなものだろうか。

「どの国にも、独自の労働法、コンプライアンス、賃金体系、福利厚生のあり方があります。無理やり『私たちの国ではこうだから、それに合わせて』と言っても、その人が就業に際し違和感や嫌な思いを感じれば、仕事に奮起することはないでしょう。どの国の人材であろうとも、企業の第一印象は非常に重要です。

当社は契約書作成、賃金支払い、福利厚生、税務対応を180か国以上で対応可能のため、“どこでも働ける”仕組み構築を支援できます。当社のような信頼できる企業と組むことで、企業はそれぞれの国の法令を遵守しつつ従業員を雇用できます。

また一方で、従業員に自社の社風を理解してもらい、馴染んでもらうことも重要です。当社では日々の業務を快適にするコミュニケーションアプリを導入し、社内のコミュニケーションが活性化するような支援もしています」

EORサービスの活用を日本企業の選択肢に

G-P社は11月に新たなグローバル雇用を加速させるプラットフォームをリリースした。キャヒル氏によると「このサービスは、業界を主導する人的資源管理システムと共に、ADPなどの採用管理システム、支払い管理システムを統合することができるプラットフォームになる」という。

「このサービスは、業界初の“雇用契約書ジェネレータ”機能がついています。この機能を使えば、それぞれの国・地域に即した労働契約をすぐに結ぶことが可能になり、採用と就業にかかる時間をより短縮できます。今後も当社では世界的な採用・人員管理の潮流を注視しながら、製品・サービスの改良に取り組んでいきたいです」

最後に、日本の労働市場のトレンドを踏まえたEORサービスの可能性について語った。

「日本政府による強力な起業・スタートアップ支援策は、次の5年までにスタートアップ起業の数を現在の10倍生み出すことを目指しています。日本政府のこの前向きな姿勢と実際の施策は、日本企業・ベンチャー、特に海外進出を目指す事業主体により多くの機会を創出するとみています。

実際に、当社のアジア太平洋地域の顧客の30%が、日本に拠点を置く企業です。その中には、国外へ打って出ようとする日本企業だけでなく、世界から日本へ進出しようとする企業も存在します。日本は世界市場へ進出しようとする企業の数がアジアの中で最も多く、EORサービスの大きな需要が見込まれます」

今後拡大が予測される日本企業のEORニーズに対応するため、G-P社は日本向けに特化したサービスを開発中だという。

「EORサービスは新たな市場へ進出するためにも、また国内市場での成長のために世界の人材を確保するためにも、他にはない強みを持つ選択肢です。魅力的な人材が世界のどこにいようとも、当該国に法的主体を設立することなく、仕事をしてもらうことができるのですから」