パーソルP&T×HRog 徹底討論【前編】有効求人倍率からはわからない、アルバイト市場の変化とは

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
SEEDS COMPANY COMPANY長
陳 シェン 氏
ちぇん・しぇん/大学卒業後、パーソルキャリア株式会社(旧インテリジェンス)に入社。出向先のUSENのインターネット回線個人向けセールスで個人全国一位を獲得。約半年後、パーソルキャリア株式会社に帰社。求人広告領域にてリテールと大手向けセールスの個人・チーム全国一位を獲得し、サービス企画部門の経験を経て最年少ゼネラルマネジャーへ昇格。2015年10月、社内ベンチャーSEEDS COMPANYを立ち上げ、COMPANY長となる。複数の新規サービスの立ち上げ、企画、開発、戦略立案、人材採用、組織作り、広報、マーケティングなどに携わる。現在パーソルプロセス&テクノロジーに在籍中。

株式会社フロッグ
代表取締役 HRog編集長
菊池 健生
きくち・たけお/2009年大阪府立大学工学部卒業、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、退職。2017年、ゴーリストへジョイン。2019年取締役就任。人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務める。2021年より株式会社フロッグ代表取締役に就任。

新型コロナウイルスの流行から3年が経ち、経済活動も回復してきた。厚労省が発表している有効求人倍率も上昇してきているが、アルバイト採用のリアルな現状はどうなっているのだろうか。今回はパーソル プロセス&テクノロジーSEEDS COMPANY長の陳氏とHRog編集長の菊池が対談。アルバイト採用の現場で起きている変化とこれからの展望について語る。

有効求人倍率はもはや実態を映していない!?

厚生労働省の発表によると、2023年2月時点でのパート有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍だ。2019年3月時点では1.79倍だったことから、まだコロナ禍以前の有効求人倍率には戻っていないことになる。

陳氏「でも実際、肌感覚ではアルバイト・パート系の求人倍率はもっと上がっていませんか?有効求人倍率はハローワークのデータのみで算出されているので、実態と乖離してきているのではないかと思います」

菊池「そうですよね。アルバイト・パート系求人メディアのデータと比較してみると、厚労省が発表しているハローワークのデータとは異なる推移をしていることが分かります」

HRogチャートと厚生労働省「一般職業紹介状況」よりフロッグ作成

菊池「主要5媒体の求人数を見ると、2023年2月時点でコロナ前の最高値を超えてさらに増加を続けているんですよね。最近では特に物流・軽作業・飲食・オフィスワークなどの求人が伸びています。しかしハローワークではまだ求人数が完全には戻っていません」

陳氏「求職者数は求人数ほど伸びていないので、アルバイト採用はどんどん厳しくなってきていますね。ハローワーク以外の求人も含めた実際の有効求人倍率は、もっと高くなっているんじゃないかと思います。有効求人倍率だけを見ていては、もはや市場を語れません。それこそHRogのデータなどを参考にしてもらうのがいいんじゃないでしょうか」

菊池「ありがとうございます(笑)。ハローワーク求人の伸びが鈍いのはどんな理由が考えられますか?」

陳氏「いくつか理由が考えられそうですね。まず、そもそも倒産してしまった企業があります。また、コロナ禍を機にハローワークから求人を取り下げた企業が戻ってきていなかったり、新しい企業の場合はハローワークではなくATSなど(x:eee、HITO-Managerなど)を使って採用していたりする可能性が高いと考えています。ハローワークへの申し込みに結構手間がかかるのと、思い切って採用周りをDXした企業も多いことから、ハローワーク離れが起きている可能性はありますよね。ATSなどの導入ハードルは近年とても低くなっていますから。

逆に、その他の求人メディアで求人数が伸びている要因の1つとして、原稿の細分化が挙げられます。例えばレストランの求人だと、ホールとキッチンで分けて出稿されるようになってきているんです。ジョブディスクリプションをしっかり作らないと求人検索エンジンに弾かれることがあるため、その対策という側面も強いですね」

ジョブディスクリプションとは

職務の内容を詳しく記述した文書のこと。職務のポジション名、目的、責任、内容と範囲、求められるスキルや技能、資格などを記載する。特に職務内容と範囲については、どのような業務をどのように、どの範囲まで行うかまで明確にすることで、業務のあいまいさを排除できる。

大学生・高校生の働き方に変化 アルバイトに社会経験を求める世代

菊池「では求職者側はどのように変化しているのでしょうか?」

陳氏「求職者も全体的には増えています。ただ、その割合に変化が見られていて、中でも高校生アルバイターが増えているようです。注目したいのがその目的で、株式会社マイナビが発表している『高校生のアルバイト調査(2022年)』によると、就職活動を意識してアルバイトをしている高校生は2022年時点で38.5%にのぼります。これは2020年と比較して13.1ポイント高い結果です」

菊池「アルバイトする上で意識していることについても、『将来の仕事や職業に役立つような経験をする』『正しい言葉遣いができるようになる』などの項目が伸びていますね。コロナ禍をきっかけに大学へ行く頻度も減りましたし、一時はイベントなどの開催も自粛されました。社会経験を積む機会がなくなることを危惧して、早めにアルバイトを始めて経験づくりをしておこうと考える高校生が増えたとも考えられますよね。

高校生をターゲットに採用をしている企業って少ないですが、これは力を入れていくべき層なんじゃないですか?」

陳氏「そうだと思います。高校生の時から働き始めて大学でも続けてくれたら、最長7年間の戦力になってくれるわけですからね。今まで高校生を雇いにくかった居酒屋などでも、コロナで営業時間が前倒しになったことで、高校生にも働いてもらいやすくなっているようです。これからますます高校生人材の活用は進むと考えています。

ただそれを実現するためには、高校生が応募したくなるような求人や環境を作っていく必要がありますね。高校生が持ちそうな疑問に答えるページだとか、ここで働いていた卒業生のインタビューとか。『経験を積める』というのが大きなアピールポイントになりそうです」

菊池「先述の調査では、8割以上の高校生が『バイト先選びに親の関与があった』と回答していました。親御さんが安心してわが子を任せられるような職場づくりも重要ですね」

大学生の活動範囲が狭まっている

菊池「高校生アルバイターが増えているという話でしたが、大学生はどうですか?」

陳氏「大学生はコロナ禍をきっかけに活動範囲が狭まりましたよね。これまで大学生がバイト探しをする際の選択肢は、主に自宅付近と大学付近、そして通学途中の3つでした。それが大学に行く頻度が減ったことで、自宅付近の一択になった傾向が強いんですよね。

その他にも、サークルの活動が鈍くなったり学生団体のイベントがなくなったりしていました。リアルの場で大学生と接触するのが難しくなったので、大学生を対象に採用やサービス提供をしている企業はけっこう苦戦したのではないでしょうか。そういう声もちらほら耳に届いていました。最近では対面授業やサークル活動も再開されているので、大学生市場がここからどう変化するのかは気になるところですね」

菊池「大学生や高校生など若い年代の人たちは、働くことについての考え方も僕らとまた違いますよね。最近の若年層は、アルバイトの応募前に会社のホームページやGoogleマップ、食べログなどの口コミサイトを見に行くと聞きました。つまり、求人原稿に書いてある情報をすべて信用しているわけではない。

デジタルネイティブな年代にはもはやネット広告は効きづらくなっていて、インフルエンサーによる情報発信の方が信用されているんです。アルバイト求人の領域には口コミ文化がまだまだ浸透していないので、その点でより一層警戒されがちなのかもしれませんね」

陳氏「企業側の対応が求職者側に追いついていないんだと思います。これからの時代、アルバイト採用にも企業イメージや口コミが重要になってきます。そのため絶対にホームページはしっかり作った方がよくて、採用ターゲットのペルソナごとにコンテンツを作成する必要があります。今後企業側はこうした対応に迫られるでしょうから、早めに取り組むべきだと感じています。

ところが、企業の中ではアルバイト採用がそれほど大事にされていないことがまだまだ多いです。コロナ禍で採用を減らしたときに人事部も縮小されて、そのまま戻されていない企業も多々あります。僕としては、もっと力を入れて本気でアルバイト採用に取り組もうよと言いたいですね!」

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