コロナ禍で増加したフリーランス人材 “個”の市場価値を高めるランサーズの取り組みとは

ランサーズ株式会社
テックエージェント事業本部 部長
岡本 健 氏
おかもと・けん/高校卒業後、建設業界で施工業者の経営を経て2008年に株式会社セントメディアに入社。人材サービスを提供する事業部門にてエリア責任者、部門責任者を担い、事業部全体の営業統括として営業戦略立案等の企画に従事。2019年より株式会社アイスタイルに入社し、株式会社アイスタイルキャリアの営業部長に就任後、同社取締役に就任。その後、親会社であるアイスタイルのVice Presidentとして、グループ経営の運営に一部参画。2023年1月よりランサーズ株式会社に参画し、現職に至る。

政府が働き方改革の一環で副業を解禁。働き方の価値観が多様化する中で、副業・フリーランス市場が活性化している。今回はフリーランスのマッチングプラットフォームや、ハイスキルITフリーランスの人材紹介サービスなどを展開するランサーズ株式会社でエージェントサービスの事業責任者を担う岡本氏に、フリーランス市場の動向や企業・フリーランス人材に対する支援の取り組みについて話を伺った。

オンライン化によって変化する人材ニーズ

時間や場所などの自由度が高いフリーランスという働き方が、近年注目を集めている。その背景には、コロナ前後の社会変化があると岡本氏は語る。

「当社が2021年度に行った『新・フリーランス実態調査』の結果では、フリーランス人口は約1570万人でした。注目すべき点として、新型コロナウイルスの流行により約500万人も増加したことが挙げられます。コロナ禍で金銭的に不安を抱えた主婦層をはじめ、すきま時間に仕事を始めたいと考えた人や時間に余裕ができて働き方を見直したい人などが、このタイミングで副業を始めたようです。

また、『オンラインで働ける』ことが認知され、世の中のスタンダードになってきたことも影響しています。リモートワークの普及により、仕事の選択肢が広がって新しい働き方を選ぶ人が増えてきました。コロナ禍で一度副業を体験した人は、次に転職するときも副業を行いたいと考える傾向がありますね」

フリーランス人材が増える中、企業側もその人材を活用しようとする動きが高まっている。フリーランス人材を必要とする背景として、企業はどのような課題を抱えているのだろうか。

「中小企業の経営課題で圧倒的に多いのは、人材の確保や販路開拓です。これはコロナ禍に限った話ではなく、特にIT人材においては、2030年ころに最大で79万人が不足すると言われています。また、コロナ禍の影響が大きい地場に根ざした中小企業などは、販路を拡大したいがそれを実現できる人材がいないという課題に直面しています。

さらに販管費の効率化も、多くの企業が抱える課題です。日本の労働人口は今後ますます減少し、企業の人材確保の課題感は大きくなっていくでしょう。そのような中で、企業はいかに一人あたりの生産性向上を考える必要があります。正社員にこだわらず、必要なときに必要な人材をうまく活用できる体制を作ることが企業には求められているんですね」

企業が抱える課題はコロナ禍でも大きく変化した。フリーランス活用においては、特に「営業」や「マーケティング」に関するニーズが高まっているという。

「フリーランスマッチングプラットフォーム『Lancers』での2022年のデータを見ると、企業からのニーズが特に高まった職種は『営業』ですね。当社がコロナ禍前後の需要を比較調査した『フリーランス市場の需要トレンド』においては、営業の発注数が170%近く増加しています。大きな要因は、営業を受ける企業側のオンライン化が進み、オフィスに出社しなくとも業務を遂行できる環境が増えたことです。また営業のニーズ増加に伴って、資料作成やトークスクリプトの作成など副次的な需要も増えています。

さらに、ここ数年でオンラインマーケティングを行う企業も増えています。その上で、足りないスキルをフリーランスで局所的に補完する動きも活発化していますね。SNSの利用が活発になったこともあり、例えば動画編集を行うクリエイターの登録者はコロナ前後で約500%増加しました」

フリーランス活用が進む一方、企業側とフリーランス人材の双方において解決していかなければならない課題もあると岡本氏は続ける。

「フリーランスの活用というのは、今までの人材活用の仕方とは属性が異なります。何から始めたらよいかわからない、という企業も多いでしょう。法律遵守の観点からも、社内での手続きや煩雑な契約処理、フリーランスへの指揮命令、オペレーション構築の仕方など、企業側の体制による課題が多くあります。

またフリーランス人材側の大きな課題としては、福利厚生がないことや収入が安定しないこと、営業力が必要となることなど、社員としての雇用ではないために起きる問題があげられます。特に、自分を売り込む営業やブランディングに苦戦する方が多い印象です」

企業のフェーズにあわせたランサーズの支援

フリーランス人材を「ランサー」と呼び、「個のエンパワーメント」をミッションに掲げて活動しているランサーズ。企業のフェーズごとにさまざまなサービスを展開しているという。

「グループの中心になっているサービスが、フリーランスのマッチングプラットフォーム『Lancers』です。スキルを持ったプロフェッショナルのランサー(個人)と、仕事を発注したい企業をマッチングさせるサービスとなっています。企業と求職者のハブのような事業ですね。

また、フリーランスの活用が初めてで、どのように活用すればよいかわからないという課題を抱える企業も多いです。そのような企業に対しては、フリーランス人材との仲介役を担うエージェントサービス『Lancers Agent』を展開しています。自社開発などに携わる優秀な人材を求めている企業に、専任のエージェントが即戦力となる人材を紹介しているんです。

さらに、子会社の株式会社ワークスタイルラボでは、経営課題を抱えた企業に対してフリーランスとして活躍するコンサルティング人材をつなぐサービスも行っています」

企業に対してだけではなく、フリーランス人材に対しても働く環境を整えるためのさまざまな支援を行っていると岡本氏は続ける。

「フリーランス人材にとっては、足りない知識をどう補完するかが重要です。そこで、自分のスキルに対して課題認識を持っている方と、『メンター』をしたい方をマッチングするサービス『MENTA』や、デジタル人材育成サービス『ランサーズデジタルアカデミー』を提供しています。

また、フリーランスは自分一人で業務を行うことから、孤独を感じやすいといった課題もあります。そこで、『新しい働き方LAB』というフリーランスコミュニティも運営しています。例えば『○○の仕事を一緒にできる方を探してます』などと提案し、ユーザー自らがチームメンバーとなるフリーランス人材を集めて1つのプロジェクトに携わるといった活用が可能です。こうしたサービスをうまく活用しながら、自分の市場価値やスキルを強化してほしいと考えています」

ランサーズが展開するサービスの強みは、「個人の市場価値を高められる」ところにあるという。一方で、市場価値を高めるためには、自身の市場価値が現時点でどのくらいあるのかを可視化することも重要だ。

「スキルを可視化する点では、『信頼ランサー』という仕組みがあります。具体的には、プロフィール情報が充実していることや、レスポンスの速さ、仕事完了率など、今までの実績から信頼できるランサーとして認められた人を『信頼ランサー』と定義しているんです。『ブロンズ』『シルバー』『認定ランサー』と段階的に評価しており、認定後は特別なバッジがプロフィール画面に表示されるようになります。どうしたらクライアントから信頼され仕事の受注を増やすことができるのか、単価を上げられるのかも分かりやすい仕組みです。プラットフォーム事業を展開するランサーズだからこその最大の強みと言えます」

ランサーズを社会的なインフラにしていきたい

企業やフリーランス人材の課題・フェーズに合わせて支援を続けるランサーズ。今後は着実にサービスを拡充するために事業のスリム化を図っていくという。

「コア事業であるプラットフォーム事業とエージェントサービス事業を、まずはしっかりと伸ばしていきたいです。プラットフォームはフリーランス人材の入口となり、エージェント事業ではランサーの力を最大限に活かすことができると考えています」

さらには今後、ランサーズのサービスを社会的なインフラになるよう育てていきたいと岡本氏は語る。

「都心部においては『フリーランスと一緒に仕事をする』ことの認知度や理解度が一定数上がってきていると感じますが、地方や業種、業界によってはまだ当たり前の選択肢になっていないと捉えています。今後はさまざまな地域、業種でフリーランスの活用を当たり前にできるよう、フリーランスの認知・理解度を高めていくことにも取り組んでいきたいです。

また、フリーランス人材の活用が当たり前の世の中になれば、一人ひとりが自然と自分の市場価値を高めようとするのではないでしょうか。そうなることで、日本としての生産性を上げるなど、国が抱えてる課題の解決にもつながると信じています。今後、我々がインフラになっていくことが求められてると思いますし、ぜひ実現していきたいです」