【HRog10周年特集】潜在層へのアプローチで雇用を創造する 人材業界が見据えるべき今後10年

ルーセントドアーズ株式会社
代表取締役
黒田 真行 氏
くろだ・まさゆき/1988年に株式会社リクルートに入社。2006~2013年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長を務める。リクルートエージェントHRプラットフォーム事業部長、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任。2014年ルーセントドアーズを設立。35歳以上向け転職支援サービス「Career Releease40」を運営。2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。

HRog10周年特集

2023年11月6日、「HRog」は10周年を迎えます。「人材業界の一歩先を照らすメディア」として、anのサービス終了やIndeedの登場、コロナショックなど10年間人材業界の動向を追い続けてきたHRog。これからの10年はいったいどんな時代になるのでしょうか?今回はメディア・紹介・派遣・HRTechなど各領域の注目企業や人材業界の有識者にインタビュー。この10年間が業界や自社にとってどんな10年だったか、そしてこれからの10年間で何を成し遂げたいか伺います。

今回は「採用100年史から読む 人材業界の未来シナリオ」や「35歳からの後悔しない転職ノート」の著者であるルーセントドアーズ株式会社の黒田氏に、人材業界全体の直近10年を振り返って頂きました。

人と企業の摩擦係数が跳ね上がった10年

黒田氏によると、直近10年の人材業界の歩みは「人と企業の接触面積が増大し、人と企業の摩擦係数が一気に跳ね上がった10年だった」といいます。

「30年前の1990年代は、求人広告による募集が採用活動の主流でした。2000年代には人材紹介業の規制緩和が行われ、転職エージェントが次々と生まれたものの、依然として多くの企業は『人材会社に相談して、求人票を掲載・保有してもらう』というプロセスを経ないと候補者と接触できませんでした。

しかしこの10年で求人検索エンジン・ATS(Applicant Tracking System)・ダイレクトソーシングといったサービスが一気に拡大しました。それにより、企業は人材会社を介さずに直接候補者へアプローチする機会が増えたわけです。こうして起こったのが、人と企業の接触面積の増大です」

企業から候補者への直接接触が広がり、採用の自由度が高まった一方で「企業のアプローチはごく一部の優秀人材に集中している」と黒田氏は語ります。

「データベース上で優秀な人を見つけて、声をかけること自体は自由にできるようになりました。しかしそこから採用につなげるには、多数の競合企業の中から候補者に選ばれなければなりません。良い条件を提示できる人気企業であれば、自由にアプローチできるメリットを十分に享受できるでしょう。一方でほとんどの企業は、候補者がなかなか振り向いてくれず、優秀な人材の奪い合いに疲弊し、かえってストレスを感じているのではないでしょうか」

黒田氏は優秀な人材にオファーが殺到する一方で、転職回数が多い人材やシニアなど、転職市場において弱い立場にある人材にはオファーが来ない不均衡が猛烈なスピードで拡大しているリスクを指摘します。

「不人気企業が人気人材の獲得を目指すことでミスマッチが起こり、膨大な数の『未充足の求人』と『就職できない人』が生み出されてしまっています。そして、人材業界はこの状況に対して有効な解決策を提示できていません」

AIを最大活用して『適材適所の雇用』を創造せよ

求職者から選ばれる企業とそうではない企業との間で格差が広がる中、黒田氏は「これからの人材サービス業は『潜在求人需要』と『潜在候補者』を掘り起こし、マッチング量を増やす必要がある」と続けます。

「これまでほとんどの人材会社は、もうすでに顕在化している求人ニーズと転職顕在層のマッチング率を高めることに終始してきました。しかし、世の中には『いい人がいればもっと成長できるのに、今採用をしていない企業』と『よい求人条件のオファーがあれば転職したい人材』がまだまだ眠っています。昨今登場したAIを活用して潜在層へのアプローチが実現できれば、雇用の総量は圧倒的に増え、人材の適材適所がより多く実現するでしょう。そしてそれを実現する責任が、人材業界にはあると思っています」

またAIの進化によってマッチングのコストが下がれば、今まで人材ビジネスがアプローチしてこなかった領域にも人材ビジネスが介在できるようになるといいます。

「かつてマッチングが難しく、人材ビジネスとして収益を上げにくかった障害者や女性・中高年・外国人の就職、地方・中小企業の採用でも、AIを活用すればマッチングができるようになります。そうすれば、日本全体で雇用の総量はもっと増やせるはずです」

最後に黒田氏に人材業界で働く人へメッセージを伺うと、「『顧客』を再定義するべき」という答えが返ってきました。

「現在の人材サービス業における『顧客』、すなわちニーズが顕在化した顧客の数は、潜在的顧客を含む本当の顧客層の10%程度に過ぎません。つまり、顧客だと認識している対象が狭すぎるのです。

労働人口が減る中で労働力を増やし日本経済を維持するには、潜在層にも目を向けて適材適所のマッチングを創造する取り組みが必須です。AIというテクノロジーが到来した今、人材サービス業に何ができるかが問われています。人材サービスに関わる者の責任として、この国の雇用をより良くするために、パラダイムチェンジを実現するサービス開発競争が進んでいくことを期待しています」

(ライター:鈴木智華)

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