株式会社ワンキャリア
コンサルティングセールス事業部 アシスタントマネージャー
香川 稔 氏
かがわ・みのる/2018年新卒で美容クリニックのマーケティング支援会社に入社し、5年間toCのウェブマーケティングを経験。2022年6月に「to Bマーケティングに携わりたい」という想いからワンキャリアに転職し、人事向け採用クラウド「ONE CAREER CLOUD」のマーケティングに従事。
株式会社ワンキャリア
技術開発部 エンジニアリングマネージャー
山口 拓弥 氏
やまぐち・たくや/東京大学工学部を卒業後、ソフトウェアエンジニアとしてウェブアプリケーションの開発など約7年従事。2022年12月にワンキャリアに入社し、おもにプロダクト開発におけるチームのマネジメントに携わる。
近年、ChatGPTなどの生成AIが注目を集める中、就職活動においても生成AIを活用する学生が増えている。一方、学生間で急速に広がるAI利用に対し「学生の意思、個性が損なわれる」といった懸念を示す人事担当者も少なくない。今回はChatGPTを活用したエントリーシート自動生成機能「ESの達人」をリリースした株式会社ワンキャリアに、生成AIの台頭によって学生の動きや採用のあり方がどう変わるか、それを踏まえて企業はどのような対応をしていくべきかを伺う。
ChatGPTで変わる学生の就活スタイル、企業はどう向き合うべき?
学生間でChatGPTの活用の動きが広がっている。同社が2023年7月に25卒学生を対象に行ったアンケートでは、27.8%の学生がChatGPTを就職活動ですでに「活用している」、38.1%が「活用してみたい」と回答した。
香川氏「用途別では9割が『エントリーシートの作成』と回答しました。傾向として、一からAIに作成を任せるより添削のために使用するケースが多いようです。具体的には『既存のエントリーシートを企業ごとの指定文字数に合わせて要約する』などが挙げられました。加えて人事の想定質問をAIに出してもらうなど、面接対策にも使用されているようです」
様々な用途で活用が進むChatGPTに対し、一部の企業は懸念を示している。株式会社時事通信社が2023年6月に行った「就職活動と生成AI利用に関するアンケート」では、23%の企業が「就職活動における生成AIの利用」に対し「総じて否定的」であると回答した。「エントリーシートには自社に対する思いを自身の言葉で書いてほしい」や「学生本来の適性や資質を見極めたい」といった意見が寄せられた。こうした懸念に対し、香川氏は「生成AI活用の広がりは止められない」とし、「この流れをポジティブに捉えてほしい」と述べる。
香川氏「確かに、生成AIによって従来の選考のやり方だけでは学生と自社のマッチングの見極めが難しくなる可能性は否めません。主にエントリーシートで活用が進む中、企業は面接など対面のコミュニケーションをより重視して学生の魅力を深掘りしていく必要があるでしょう。
こうした変化は求められるものの、学生のエントリーシートにかける工数が減ること自体は企業にとってもプラスになると考えています。エントリーシートの書き方に悩む時間が減れば、学生は代わりに企業について深く調べたり、自分に向き合ったりすることにより時間を割くことができます。学生がより本質的な就活ができるようになればマッチングの質も上がり、企業にとってもメリットになるのではないでしょうか」
エントリーシートがAIで作られたかを判別するツールも出てきているが、そこで「『AI使っているからこの学生はダメだ』と判断をしてほしくない」と香川氏は語った。マイナビ社の「学生就職モニター調査」によれば23卒学生は3月時点で平均20.7社にエントリーしている。企業ごとにエントリーシートを書かなければならない学生の負担は計り知れない。
香川氏「一昔前に『エントリーシートは手書きで書くべきだ』という論争があったと思いますが、今はWeb上で提出するのが当たり前になりました。今回のAIの話もそれと似た流れになると考えています。工数を削減したいという学生のニーズに合わせてAIの普及が進み、ニューノーマルになっていくのではないでしょうか」
エントリーシート自動生成の「ESの達人」
同社は2023年5月、就活サイト「ONE CAREER」においてChatGPT APIを搭載したエントリーシートの自動生成機能「ESの達人」をリリースした。業界の中でもいち早くChatGPTに注力した背景は何だったのだろうか。
山口氏「前提として、学生にとってエントリシートを書く作業が大きな負担になっていることがありました。弊社が行った調査では82%の学生がエントリーシートの対策に対して不安と回答しています。具体的には『書き方がよく分からない』が一番多く、加えて3割程の学生が『時間がかかる』『申込み期日に間に合わない』と回答しました。時間がかかって期日に間に合わないのは機会損失になっていてもったいないと考えていたんです。
そんな中で、2022年末にChatGPTが登場し、『ゲームチェンジするようなテクノロジーだ』とエンジニア間で話題になりました。そこで学生のために何か作れないかと考え、すぐに経営陣を含んで意思決定を進め、開発に踏み切りました。リスクがあってもチャレンジする姿勢に経営陣をはじめとした社内全体がコミットしたこと、『学生にとって本質的な就活ができるようになってほしい』という共通の想いのもとスピーディーに開発を進められたことがいち早くリリースできた背景だと思います」
開発において特に意識したのは「工数を減らしつつ、学生の意思をきちんと反映できるようにする」ことだったと山口氏は語る。
山口氏「就職活動においてボトルネックになっていた『エントリーシートの書き方で悩む時間』を減らせるよう、『てにをは』を整えたり分かりやすい文章にするところはAIに任せられるように開発しました。それと同時に学生の意思や経験もしっかりと反映できるようにするため、選択式に加えて希望であれば自由入力で情報を追加できるようにするなどの工夫をしました。
生成されるエントリーシートには、ワンキャリアがこれまで蓄積してきた約15万件のデータが活かされています。ワンキャリアにはクチコミや選考体験談を投稿する機能があり、学生が実際に企業に提出したエントリーシートも沢山投稿されています。エントリーシートが選考に通過したかどうかも分かるようになっており、ESの達人はそのデータをヒントに作られているので、『選考に通過しやすいエントリーシートの型』に基づいた文章を作成できるようになっているんです。これは私たちにしかできないサービスになっているのではないかと思います」
AIを使うのは学生だけではない?採用活動でのAI利用
同社は、引き続き「ESの達人」の機能向上やデータの充実を図るのに加え、AIを活用した人事向けのサービスの開発も検討している。
香川氏「早期化や採用の通年化により人事担当者の業務の負担が年々増えています。現在では24卒学生の内定者フォローに加えて、25卒の採用活動、26卒の採用計画の立案と、3か年同時並行で進行しなければならない状況です。
そんな中、今採用には効率化が求められています。人がやるべき部分、AIに任せる部分の切り分けが必要になってくるはずです。引き続き学生との対話や重要な意思決定は人が行いつつ、学生との日程調整やスカウトの文面作りなどAIで代替できる部分に関しては、サービスをもってサポートしていきたいと考えています」
さらに今後は「適切なマッチングシステム」と「情報開示」によって内定承諾率を上げていきたいという。
山口氏「AIによるマッチングは、自分の興味のある分野しかリコメンドされず、学生にとって新しい発見がなくなってしまう側面もあります。最適化しすぎても視野が狭まってしまい、学生にとっての価値がなくなってしまうので、どのくらい活用するかのバランスは難しいところです。イノベーションを起こすような思いがけない選択肢も含めて、マッチングの精度をあげられるシステムにする必要があると感じています。
それに加え、マッチング後に情報が足りなくて人事が判断しきれなかったということがないように情報の充実も大切です。私たちは『ESの達人』のような学生の魅力を適切に伝えられるツールの開発や、そもそも学生が情報を登録しやすいようなプロダクトの改善を行っていく予定です」
「人の数だけ、キャリアをつくる。」ミッションの実現に向けて
最後に二人は「生成AIは採用の未来を大きく変えうる技術」であるとし、活用により「キャリアの実現に近づけていけるように価値提供していきたい」と意気込みを語った。
山口氏「この10年を振り返ると、SNSや動画コンテンツが大流行して就活や採用のあり方が大きく変化した10年間でした。ChatGPTの登場は、それと同じくらい、もしくはそれを超えるくらい採用環境を大きく変えうるツールだと感じています。『人の数だけ、キャリアをつくる。』というワンキャリアのミッションのもと、いちエンジニアとしてどのようにAIを活用するか模索し、キャリア実現のための価値提供をしていきたいです」
香川氏「弊社は今までも過去のHR業界の常識にとらわれずにサービスを展開してきました。今後もその強みを発揮してAIの潮流にどう対応するかを模索していきます。AIによって数年後の未来がどう変わるかは分かりません。しかしワンキャリアのひとつの特徴として学生の声が集まっていることがあるので、学生がどんな動きをしているかをリアルタイムでお伝えし、採用担当者さまをサポートしていきます」