株式会社NGA
CEO
王沁 氏
アレックス・ワン/連続起業家。2010年に留学で来日し、慶應義塾大学商学部に入学。在学中にコンテンツ商社「JCCD.com」、AI商社「AiBank.jp」を起業。 大学卒業後、同社を経営しながらリクルートHDに入社。企画運営、中華圏企業との提携交渉などを経て、事業開発本部・新規事業統括に配属。2021年に5年間在籍したリクルートを卒業。 2021年3月に2年間の研究成果を凝縮した書籍『中国オンラインビジネスモデル図鑑』を出版したことをきっかけに、2021年5月に「次世代アプリで、社会課題解決に挑む」をミッションにNGAを創業。日本の採用効率を10倍、採用コストを10分の1にすることを目指し、第3世代AI採用アプリ『HelloBoss』をリリース。
昨今、ChatGPTなどのAI技術が世間で話題になる中、人材業界においてもAI活用に注目が集まっている。中でも特に期待が高まっているのが「AIによるマッチング」だ。株式会社NGAは2023年2月、AIマッチング機能を搭載した次世代採用アプリ「HelloBoss」をリリースした。今回は、同社CEOのアレックス氏に、サービスの開発背景や概要、さらにAI時代の採用の未来について見解を伺った。
人を介さないAIマッチング、「第3世代」の採用とは
「HelloBoss」はAIによるマッチングと、企業と求職者のチャットでのやり取りで完結する採用アプリである。人を介さないためコストが下げられ、月額5,000円からという低価格での提供を実現したのが特徴だ。アレックス氏は、AIマッチングによる採用を、従来の「仲介型」や「掲載型」に次ぐ「第3世代」の求人サービスだと定義付ける。
「今までの求人サービスの一番の課題は、コストが高いことでした。人がアナログでマッチングする『仲介型』のサービスでは人材年収の25〜50%の手数料、キーワード・検索でマッチングする『掲載型』のサービスでは、毎月10万円以上の掲載料がかかるのが一般的です。こうした料金感が、採用ニーズがあるのに求人サービスを利用できない企業を生んでいる現実がありました。
一方『第3世代』の求人サービスは、AIマッチングによってコストを大幅に抑えられる点において、従来サービスと一線を画しています。中国をはじめとする海外ではすでに提供企業がNASDAQに上場しており、企業にもかなり普及している採用手法です」
「HelloBoss」は、特許を取得した独自のAIマッチングシステムを利用している。どのような基準で採用企業・求職者がリコメンドされるのだろうか。
「マッチングにおいて、『HelloBoss』では2つのAIが組み込まれています。1つが入力したデータに基づくマッチング。Aさんがこういう経歴を持っている、B社がこういう人材像を求めている、などの入力情報を元に、AIが両者をマッチングします。
2つ目は、行動分析によるマッチングです。求職者がどんな会社を見ているか、企業がどんな人材を見ているかをAIが分析します。例えば企業側では、どんな人材の経歴を何秒見たか、誰とどれくらいの頻度でチャットしたかなど。Photoshopができる人ばかりを見ているなら、この企業はPhotoshopを必須スキルにしているんだなとAIが理解してくれます。見れば見るほど学習が進んで推薦の精度は上がっていくため、仮にほしい人材要件や働きたい企業が言語化できていなくても、AIが適切な人材・企業をおすすめしてくれます」
こうしてマッチングした人材とは、チャット機能で直接やりとりをする。チャット機能を搭載したのには「心理的な負担を下げ採用活動をスピードアップする」意図があったとアレックス氏は語る。
「従来のサービスでもう一つ課題だと感じていたのが、企業と求職者のやり取りに工数がかかってしまうことでした。例えば仲介型では連絡をエージェント経由で行うため、その分時間とコストがかかります。第2世代の掲載型では基本的にメールやサービス内の機能でやり取りをしますが、他のメールと混ざって見落としやすかったり、迷惑メールBOXに入ってしまったりと、開封されずに終わってしまうケースが多いです。
こうした課題を踏まえ、『HelloBoss』はチャット機能をつけています。かしこまった文章を書かなくてはいけないメールと違い、チャットでは比較的気軽にメッセージを送り合えるため、行動も起こしやすくなります。これによって、企業の採用活動がスピードアップしていきます。また、人材側がスマホのアプリから、いつでもどこでもすぐ返信できるのも、スピードアップさせる要因です」
徹底的な自動化で負担・コストの軽減を
「HelloBoss」は「仕事探しをAIの時代へ」をスローガンに掲げ、マッチング機能以外にも様々な機能でAIを活用している。その一つがChatGPT技術による募集要項・自己PRの自動作成機能だ。求職者・採用担当者の工数を削減し、採用のスピードアップに寄与する。
「実は、『HelloBoss』は人材業界で初めて(2023年2月21日時点、同社調べ)ChatGPTを実装したサービスなんです。必須項目を選択するだけで、約3秒で自己PRや募集要項を生成できます。初めて採用をする中小企業やスタートアップ企業は、募集要項の書き方に悩まれることが少なくありません。今まで一つ一つネット検索して手探りで募集要項を書いていた、という企業でもChatGPTを使えばかなりの時間短縮になります」
AIで生成できるのは文章だけではない。2023年10月、「HelloBoss」は新たに生成AIでサービス内経歴書の写真が作れる機能をリリースした。日常の写真を1枚アップロードすると、スーツを着た写真が髪型や角度別などで20パターン生成される。
「今まではきちんとした写真を撮ろうと思うと、写真館や駅構内などにある写真機に撮りに行かなくてはいけませんでした。どちらもお金がかかってしまいますし、夏や冬だとスーツを着ていくのが大変だったり、到着までに髪型が風に吹かれて変わってしまったりと一苦労です。一方AI生成なら、家にいても簡単に画像が作れます。体の不自由な方々や育児、介護などで忙しく外出が不便となる求職者にとっても非常に便利だと思います」
こうした徹底的な自動化は、求職者や採用企業の工数削減になるだけではなく、サービス自体のコスト削減にも繋がっている。「HelloBoss」では、営業や契約も自動化されているという。
「私たちは全国538万社の企業データベースを保有しています。このデータベースを活用した自動企業認証で、営業担当の訪問や対応なしで契約を完了しているんです。
例えばA社が『HelloBoss』に登録すると、データベースに存在するA社の登記上住所宛てに認証コードが送付されます。その認証コードを『HelloBoss』アプリ内に入力するだけで、すぐに求人掲載が始められる仕組みです。
今までだと営業担当が訪問しなければならなかった工程を、セルフサービスで完結できます。クライアントも半分以上が営業なしの自然流入で入ってきており、その後の契約も自動認証で完了。そして募集要項もChatGPTで書けますし、マッチングもAIの力で行います。こうした自動化でコストダウンすることで、中小企業でも採用しやすい値段感を実現できているんです」
どんな企業でも採用ができる世界へ
AIを最大限活用する「HelloBoss」。人材業界でAIを取り入れた先駆者として「AIが今後採用や人材サービスにどのように影響していくと考えているか」を尋ねたところ、「採用できる企業が増え、人材の流動性が上がっていく」との答えが返ってきた。
「AIが台頭しても、仲介型や掲載型といった従来のサービスのニーズはなくならないと思います。しかしAIの台頭で1番の恩恵を受けるのは今まで従来のサービスを十分に利用できていなかった中小企業です。AIマッチングは人の手間がかからない分コストをグッと抑えられるので、より気軽に採用活動をできるようになります。これによって人材の流動性が上がり、社会全体の効率もよくなっていくと思います」
とはいえAIどこまで活用すべきかに関しては、まだまだ人材業界各社は模索している印象だ。人材サービスにAIを導入する際には「どこまでAIに助けてもらうべきなのかを慎重に検討することが大切」であるとアレックス氏。
「AIには時間短縮、コスト削減といったメリットがある一方、人間のような感情がなく非常に冷静に物事を判断する側面を持ち合わせています。そのため、AIが判断したほうがいいタイミング・人間が判断したほうがいいタイミングはそれぞれ異なります。
初めのマッチングはAIが行い、面接など対面でのコミニュケーションをする際や、発想力などのクリエイティブな面を見る際は今まで通り人間の力が必要になってくるのではないでしょうか」
同社は、更なるアルゴリズムの最適化やAI技術の開発に着手している。2023年12月にはPre-Aラウンドにて6億円の資金調達を発表した。それに伴い、リリースしてわずか7年でNASDAQ上場を果たし、時価総額一兆円を超える中国人材サービス大手「BOSS直聘」のマッチングシステム開発を手がけたYanbo Xue博士を最高科学顧問として迎えた。アレックス氏は今後について、「低価格で高精度のマッチングを提供することで日本の採用格差をなくしたい」と意気込みを語った。
「日本国内の大企業と中小企業の採用格差はまだまだ大きいのが現状です。この格差がなくなり、どんな企業でも10分以内に自社に合う人材を見つけられる世界になれば日本の生産性・創造性は大きく飛躍していくと思います。今既存サービスが高くて利用できないと悩まれている企業の方は、ぜひ一度『HelloBoss』を使ってみてほしいです」