「人との繋がり」が地方の人手不足を変える 「ふるさとワーホリ」から見えた関係人口の重要さ

総務省
地域力創造グループ地域自立応援課 課長補佐
藤岡 茉耶 氏
ふじおか・まや/長野県出身。2014年総務省入省。行政評価局、行政管理局、内閣官房内閣人事局で国の行政機関の業績評価や機構・定員管理に携わり、2024年から現職。ふるさとワーキングホリデーや地域おこし協力隊の制度運用を担当し、関係人口も含めた地方への人の流れを創出・拡大に取り組んでいる。

旅人に活路を見いだせ 地方活性×ワーホリ特集

地方の人材不足を解決する方法として、旅をしながら仕事をする「ワーキングホリデー」の活用に注目が集まっている。田舎での暮らしに興味がある人や経験・スキルを活かせる場所を探している人は少なくないが、いきなりの転職・移住は勇気がいるものだ。ワーキングホリデーなら観光しながら仕事や土地を知れるだけでなく、旅人ならではの形で貢献できるという。
今回はそんな地方活性×国内ワーホリの取り組みについて特集する。

総務省では2017年から「ふるさとワーキングホリデー」の取り組みを行っている。今回は、地方の人手不足の現状と、7年間の取り組みから見えた地方活性のヒントについて話を伺う。

止まらぬ東京一極集中、地方へ人を呼び寄せるカギは「価値観のアップデート」

日本の人口動態は、長年にわたり東京への一極集中が続いている。総務省の統計によると、2022年度の東京圏への転入超過は9.4万人、2023年度には11.5万人にまで増加している。特に15歳から24歳の若年層が、進学や就職をきっかけに東京へと移り住む傾向が強い。三大都市圏である名古屋圏や大阪圏と比較しても東京圏の転入超過数は桁違いに大きく、実質的な東京の一人勝ち状態となっている。

また東京圏は、他地域に比べて求人数が圧倒的に多い。地方にも雇用がないわけではなく、求人媒体のデータを見ても、一定数の求人は存在するが、業種のバリエーションは農林業や製造業などに偏っており、若者に人気の仕事はどうしても少ない。

さらに、地方の採用の現場を見てみると、地域の産業に対する危機意識はあるものの、「外部から人を集める」という発想に至らない事業者も多い。後継者を探すことを諦め、そもそも情報発信がされていないことも地方の人口流出が止まらない理由の一つだ。

藤岡氏は、若者が東京圏へと移動する背景として、「賃金や処遇、仕事の内容などの観点から、自分の希望する仕事が地元にはないと考えている若者が多い」ことを指摘する。

一方で、ワークライフバランスや自己実現を重視して「地方に移住したい」というニーズも増えているという。その上で藤岡氏は「地方の価値観のアップデートを早急に進めることが、地方と人とのマッチングを実現する鍵だ」と続ける。

「地方企業では保守的な価値観が根強く、女性や若者など多様な人材が働きやすい環境が都心部ほど整っていません。いまだに仕事や雇用形態の選択肢が限られているケースもあります。現在政府で議論をされている『地方創生 2.0』では、こうした地方のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を取り除き、雇用の多様性を増やすための政策も議論されています」

ふるさとワーキングホリデーで生まれた人同士のつながりが、地域の関係人口を増やす

政府では都心から地方へと人の流れを創出するべく、地方へ3年間定住しながら地域を盛り上げる仕事に取り組む「地域おこし協力隊」の取り組みを実施してきた。

さらに2017年からは「移住」という形にこだわらず、「関係人口」を増やして地域振興に繋げる「ふるさとワーキングホリデー」の取り組みも進めているという。

関係人口とは、その地域に住んではいないが、何らかの形で地域に関与する人たちのこと。いわば移住者と一時的な観光客(交流人口)のちょうど間にいる存在で、特定の地域と多様な形で継続的に関わってくれる人を指す。

「そして『ふるさとワーキングホリデー』は、都市部の人々が一定期間地方に滞在し、働きながら地域との交流を深められる制度です。参加者は働いて収入を得ながら地方での暮らしを体感でき、地域側にとっても農作物の収穫期といった局地的な人手不足をスポットで埋められる仕組みとしてご活用いただいています」

制度開始から2023年までに、日本全国で約5,100名が「ふるさとワーキングホリデー」に参加。農業、旅館、地元特産品の製造など多岐にわたる仕事のマッチングが行われ、参加後にその地域への就職や移住につながったケースもある。「約7年の取り組みを経て感じるのは、観光で訪れるだけでは得られない人とのつながりを生みだすことが、地方活性化のポイントになるということ。多くの参加者が『会いたい人がいるからまた訪れたい』と言うんですよね。地域で尊敬できる人や、一緒に働きたいと思う人に出会えると、それが再訪や移住のきっかけになるようです」

そうしたキーパーソンとの出会いを契機に移住を決めた人が、今度は地域の魅力を伝える立場となり、新たな移住者を引き寄せる現象も見られるという。人とのつながりによる安心感は、移住や定住へのハードルを下げることに大きく寄与するようだ。

「新潟県の南魚沼市のふるさとワーキングホリデーには、毎回60名ほどの方が参加しているのですが、その運営には元ワーホリ経験者も関わっています。経験者がリアルにワーホリの楽しさや意義を伝えてくれるからこそ、新しい参加者を呼び込み続けられるのではないでしょうか」

さらに「ふるさとワーキングホリデー」の参加者は、定住以外にも、『関係人口』として地域へメリットをもたらしてくれる。

「たとえば、高知県香南市のみかん農家で働いた参加者は、体験終了後も香南市のみかんの魅力発信を続けてくれたそうです。さらに、東京で開催された販売イベントに自主的に参加し、販売を手伝ってくれたというケースもあるようです」

「ふるさとワーキングホリデー」によって築かれた関係性は一時的なものではなく、継続的なつながりとなって地方の活性化に貢献している。地方創生の課題である「持続的な関係構築」に対する一つの解決策として、今後も注目される取り組みだ。

外からの視点を得ることで、住民たちが地域の未来をつくる足がかりに

ふるさとワーキングホリデーの制度運用に携わる藤岡氏は、地域に対して「外の人の視点を知ることで地域の魅力を再発見するとともに、新たな価値観を取り入れるきっかけにしてほしい」と語る。

「実際に、参加者を受け入れた企業や自治体からは、『若い世代の視点への理解が深まり、活力を得られた』、『実際に人を雇ってみて、もっと働きやすい環境を整えようと思った』『自分たちにとっては当たり前のものでも、外部から見ると意外な魅力があることに気づけた』といった声が寄せられています。単に働き手を呼ぶだけでなく、外の人との交流を通じて視野を広げ、住民自身が地域の未来をつくる足がかりにしてほしいです」

ふるさとワーキングホリデーはあくまでも手段であり、単にイベントを開催するだけでは一過性に終わってしまう。まずは自分たちの地域をどんな場所にしたいのかを考え、その上で、地域の外の人たちに、地域にどう関わってもらいたいのかを見極めるのが重要だ。

「関係人口を増やす取り組みの中で、地域に住む人たちも自分のまちの魅力を知り、それを誇りに思えるようになることが理想です。ふるさとワーキングホリデーを通じてシビックプライドを育み、地域の未来を自分たちの手で作っていく意識が広がれば、より持続可能な地域づくりにつながるはずです」

自然や食文化をきっかけにその地域を好きになる人も多いが、最終的にそこに関わり続ける理由は「人」にある。藤岡氏は「関係人口の取り組みは、最初はなかなか成果が測りにくいもの。まずはどんな地域を目指したいのか、地域内外の人たちにどんな関係性を築いてほしいのかを考え、その中でふるさとワーキングホリデーが活用できそうなら、ぜひ挑戦してほしい」と呼びかけた。

(鈴木智華)