人事の採用力向上を阻む3つの課題とは?

Daxtra Technologies Japan合同会社
代表
矢野 広一氏
やの・こういち/日本アイ・ビー・エムを皮切りに25年以上IT業界に携わり、2011年からは人材業界(紹介事業および転職サイト)での勤務経験を持つ。IT業界と人材業界のいずれも熟知し、2017年よりDaxtra Technologies Japan合同会社の代表に就任する。

IT活用が遅れる日本の採用現場の実態

「企業人事や転職サイトを含め人材業界の方々と会うと、みなさま口を揃えて『優秀な求職者がいない』とおっしゃいます。

今の日本は労働人口が圧倒的に減少しているので、この状況はまったくの必然と言えます。対策の一つとして外国人採用なども進められていますが、それだけでこの大きな穴は埋まらないし、そもそも外国人人材では対応できない職種もたくさんあります」

そんな中で、「いかに数少ない優秀な日本人求職者を見つけるか」は重要なテーマだ。

「ところが日本企業は海外と比較して、圧倒的に人材紹介会社を利用する率が高く、結局紹介会社からの推薦を待っていることが多いです。人材紹介会社が優秀な求職者を見つけられないのですから、ここに手を打たない限り状況は好転しません。

また一方で、企業人事側にも課題があります。せっかく過去に人材紹介会社から優秀な候補者を推薦してもらったにもかかわらず、なぜか求人があるたびに新しい候補者から選ぶことしかやっていない企業が非常に多い。もっと『優秀な人材を逃さないように』という危機感を持って採用活動にあたるべきだと思います」

優秀人材を確保するために乗り越えなければならない壁

このような状況で、企業が優秀な人材を確保するために対応しないといけない課題は3つあると矢野氏は語る。

「まずは『いかに優秀な人材に早く声をかけるか?』ということです。私も人材紹介の経験があり、かなりの採用現場を見てきましたが、その中でうまくいく確率が高いのが『掘り起こし人材への声がけ』です。例えば面接をして非常に結果が良かったのに、残念ながら以下のようなケースで入社に至らなかったことが過去にあるのではないでしょうか?」

・残念ながら本人が他社の内定を受けてしまった。
・採用枠の問題で、採用を見送った。
・今回の募集要項とは少しずれていた。(例えば経験が浅すぎるなど)

「他社を選択された候補者は、辞退した手前、貴社には良いイメージを持っているものですし、経験が浅かったために見送りになった方は、数年経てばそこが解決されています。

求人が出てから人材紹介会社に声をかけ、紹介会社からの推薦を待っているだけではなく、このような方々にまず声をかけることができれば、より素早く最適な採用ができる可能性が高まります」

2点目は、いかに「面接の負担を下げるか」ということだ。

「あまり意識されていませんが、実は『面接』という作業は現場にとってかなりの負担になっています。その面接の時間は本来の現場の業務を止めているわけですから、当然その分、例えば営業であれば営業活動が止まってしまうので、生産性という結果に大きな影響が出てしまいます。

良い人を採用する、というのは会社にとって非常に重要なことなので、『面接』という行為は社内でも大切な業務だと思われている企業が多いですが、実は『面接』そのものは会社にとって1円も生まない非生産的な時間だということをもっと意識するべきです」

そんな面接の非効率化を抜け出すためには、「良い人を採用するために面接を数多くする」という考え方から「良い人と面接をする回数を増やす」という考え方にシフトする必要があると矢野氏は語る。

「例えばAさんという優秀な方を採用できた場合に、そのために50人と面接をしてAさんを採用したのか、5人と面接してAさんを採用したのか、結果は同じでもそこに至る現場の負担は大きく異なります。人事はやみくもに面接を設定するのではなく、いかに的確な書類選考を行い、密度の濃い面接を設定できるかがとても重要になります」

ただし、同時に書類選考の段階で優秀な人材を落としてしまっては元も子もない。現状は、書類選考で候補者を見極められずやみくもに面接を組んでしまっている企業も多いのではないだろうか。

「適切な人だけと面接をするためには、書類選考の精度を上げる必要があります。どういう経験を持った人が採用に至っているか、どのような学歴やキャリアを持った人が採用後に活躍しているのか、そういったことを精緻に分析することでしか書類選考の精度は上がっていきません。これは時間のかかることですが、しかし取り組まなければならない課題です」

3点目は経営陣の「採用」に関する意識の改革だ。

「多くの経営者は『良い人を採用する』重要性は理解しつつも、どうしても人事部門というのは事務方で、コストセンターだという認識を持っています。最大の理由は、経営者自身が、求人が生じた場合には求人票を作成し、人材紹介会社に候補者推薦を依頼することが採用業務だと思っているからです。

なかなか言いにくいのですが、業務変革の最大の抵抗勢力が経営者自身であることが往々にしてあります。経営陣が本気で採用プロセスを見直さない限り、自社の採用は進化しません」

テクノロジーの活用で採用課題を解決する

以上の3つの課題の共通点とは何だろうか。

「今の人事では自社で候補者を蓄積し、必要に応じて声をかけていくツールや仕組み整っていない、ということです。

海外では、人事が独自で採用候補者を蓄積していくツールを『タレントプール』と呼んで、積極的に活用しています。直接応募をしてきた求職者や人材紹介会社経由の候補者、すべての方々をこのタレントプールに蓄積し、その中から採用に至った人、至らなかった人、採用後に活用できた人、できなかった人などを分析します。

そして新しい求人が発生したときには真っ先にここに適切な人材がいないかを探し、いた場合にはまずは直接声をかけることで、より早く、また低コストで最適人材の採用につなげています」

そしてタレントプールの構築を実現するHRテクノロジーが、「Parsing」と呼ばれる日本ではまだまったく知られていない技術だ。

「Parsingとは、簡単に言えば、人間に代わってコンピュータが求職者の履歴書を読んで、必要な情報を取りだしてくれる技術のことです」

多くの企業は求職者の履歴書をきちんと保存しているが、単なる履歴書のファイル添付とParsingして構造化された状態でデータを保管するのとでは、データとしての価値が全く異なってくると矢野氏は話す。

「求職者の情報を細分化し、構造化された状態で持って、初めて様々な角度からの検索が可能になり、また様々な分析が行えるようになります。一方で、ファイル添付で履歴書を保管していても、何も利用価値はありません。実際に多くの企業で過去の応募者の情報が活用できていない状況にあると言えるでしょう」

「データが無ければ分析もできませんし、検索をすることもできません。分析ができなければ、書類選考の精度を上げることもできませんし、そもそも自社に必要な人材を募集する求人票の精度を上げることもできません」

採用効率を高め、採用力を向上させるための施策は数多くあるが、まずは求職者のデータを構造化されたビッグデータとして持つことが最初のステップになると言えるだろう。

「とはいえ、人事部門はあまりITに精通していない人も多いため、解析結果がXMLやJSONという形式で出力されてもデータを活用できない場合があります。

そのような場合には、Parsing技術を利用してITに不慣れな方でも利用できる情報抽出ツール『JET』を活用するなど、情報整理の部分からスモールスタートではじめてみてはいかがでしょうか?」

自社でタレントプールを持つことができれば、事務作業しか業務がなかった人事の採用担当者がもっと生産性の高い、企業の収益に直接貢献できる業務を行うことも可能になる。採用力向上のための最初のステップとして、Parsing技術に今後も注目が集まりそうだ。

Daxtra簡易履歴書抽出サービス「JET