株式会社求人企画
代表取締役社長
森 悟史 氏
もり・さとし/1978年4月生まれ。島根県出雲市出身。20年前より名古屋市在住。2001年にan・dodaの発行元である(株)学生援護会に入社し、合併に伴いインテリジェンス(現パーソルキャリア)に転籍。13年間にわたり愛知・岐阜・三重の東海地区すべてのテリトリを経験し、一宮の営業所長を務める。2014年に株式会社求人企画を立ち上げ、現在は千種区にて二児の娘のパパとして子育てと仕事に奮闘中。
2019年11月に、惜しまれながら50年以上の歴史に幕を下ろすことになったアルバイト求人情報サイト「an」。アルバイト領域の老舗である同サイトの終了に驚いた人も多いのではないだろうか。今回の特集では「an」とその関係者にスポットを当て、激変するアルバイト求人市場の最前線を追う。
今回は東海地区で求人広告代理店を営む株式会社求人企画・代表取締役社長の森悟史氏にインタビューをおこなった。2001年から18年間にわたりanの販売に携わり、アルバイト求人市場の最前線に立ってきた森氏に、an終了時のインパクトとこれからの求人広告代理店に求められるものについて話を聞いた。
情報誌メディアからweb化、そしてATSへ
2001年にanの営業スタッフとして働き始めてから、営業所長時代にはanの地域限定版フリーペーパーの立ち上げなどにも携わってきた森氏。2014年に独立してからも東海地区に特化した求人広告代理店としてanの販売をずっとおこなってきたこともあり、「僕にとってanはすごく思い入れがある媒体なんです」と話す。
そんな森氏にアルバイト求人市場の変化について尋ねると、「この5年から10年間で徐々に変わってきている」と語ってくれた。
「僕が入社した頃は情報誌による求人募集が全盛期の時代でした。求人倍率も今に比べると高くなく、媒体提供側も企業側も『情報誌で求人広告を出しさえすれば人が集まる』という意識の人が多かったように思います」
「その後、2010年代前半から徐々にスマートフォンが年代問わず普及するようになり、急速に求人広告のweb化・スマホ化が進みました。anもLINEバイトと提携するなどスマホ対応をおこなっており、webの広告がメイン商品・フリーペーパーのほうがオプションという扱いになってきた時期でもありましたね」
一方でその時期は求人倍率が高水準で推移、媒体に掲載しても応募が来ないという悩みに直面する企業が増えてきていた。そして2017年頃、アルバイト求人市場の転換期となる出来事が起こる。Indeedが全国でテレビCMを放映し始めたのだ。
「そのあたりから、『アルバイト・パートの募集だったら媒体一強』という時代から徐々に変化が起こりはじめます。媒体に載せても人が来ないので、企業のほうもオウンドメディアやSNSで直接求人募集をおこなったり、求人検索エンジン・アグリゲーションサイトに掲載したりなど、徐々に媒体から別の採用ツールを検討する企業が増えてきました」
その中で求人広告代理店として自社に求められるものも「単なる媒体の提供」から「採用成功のためのノウハウの提供」へ変わってきたのだ。
「媒体に掲載するだけでは応募を集めるのが難しくなってきたということもあり、システム会社と連携して採用サイトの立ち上げを行ったり、媒体掲載後の文言の精査や分析といったアフターフォローを手厚くしたりなど、価値提供の形を変化させてきました。またATSやindeedなどを使って自社で採用活動を行いたいと考える企業も増えてきたので、そんな企業に向けて採用ノウハウを伝えるセミナーを行ったり、情報提供するためSNSやオウンドメディアを運営したりしています」
現在は求人媒体だけではなくATSも取り扱いもはじめ、現在ではそちらの販売・運用が主力商品になりつつあるらしい。
an撤退がむしろアップセルにつながった
そんなアルバイト求人市場の変化のただ中で飛び交ったanサービス終了のニュース。森氏はどのように見ていたのだろうか。
「an終了を知ったのは8月1日のプレスリリースのタイミングです。プレスリリースが発表された直後のタイミングでパーソルキャリアの方から電話をいただきました。突然だったので当時は驚きましたね」
その後anを提供しているクライアントへの代替提案は「意外にもトラブルになることはなかった」と語る森氏。
「終了のニュースが入ったのとほぼ同じタイミングで、anがお盆明けからanが終了する11月末まで求人を掲載できるキャンペーンを出してくれたんです。なのでan利用企業のクライアントにはまずそれを提案して、そのキャンペーンで出してもらっている間に代替の提案をしていました。終了の告知から実際に終わるまで3ヶ月弱あったこともあり、その間にクライアント一社一社に提案する時間はたっぷりあったので、大きな混乱はなかったです」
長期で求人掲載をする企業にはATS、単発の求人ニーズに関してはバイトルを代替提案することが多く、特にATSに関しては、ただ単にツールを提供するだけではなく運用まで含めて発注するクライアントが多かったので、結果として売上は上がったとのことだ。
「ここでも単にツールの提供ではなく、運用やアフターフォローなど『本質的な採用課題の解決』が求められるようになってきていると痛感しました」
営業一人ではなくチームで価値提供する時代へ
旧来の求人広告代理店のあり方は、媒体側が掲げる売上目標に応えることで利益分配をしてもらうというモデルだった。しかしそのモデルもいずれ壊れるだろうというのが森氏の見立てだ。
「たとえば飲食業界では、もともと力を持っていたぐるなびからクチコミ評価などのユーザーファーストの機能をいち早く追求した食べログが強くなり、その後SNSやローカルSEOが力を持つようになるなど、どんどん集客のあり方が変化しています」
Google上で地名+飲食店のジャンルで検索したとき、検索結果に飲食店が表示されるシステム のこと
「採用領域でもIndeedやGoogle for Jobsが出てきたことで、同じことが起こるのではないかと思います。そんな中で求人企業の方の代理店選びの判断軸は、どんな採用ツールを提案してくれるのかではなく、採用課題の解決、さらには従業員の定着のためにどんなことをやってくれるのかにシフトするのは間違いないありません」
なので求人広告代理店も、媒体力に頼る媒体売りではなく、お客様の採用課題を解決するサポート体制を拡充する必要があるという。実際に求人企画では、クライアントに対してどのようなサポートをおこなっているのだろうか。
「今力を入れているのは、お客様の信頼を獲得するためのナレッジの提供です。お客様の中には忙しくて電話に出るのが難しいという方も多いので、LINEやチャットワーク・Facebookメッセンジャーなどのチャットツールで情報提供をしています。またLINE公式やYouTubeチャンネルも運用しており、そこで最低賃金の改定や有給休暇の付与についてなど、アルバイト採用をする上で知っておいてほしい情報を定期的に配信しています」
「また、ときどきお客様から『内定ってどういう風に出したらいい?』『応募者へのメール返信文面テンプレートがほしい』といった必ずしも売上にはつながらないようなご相談も来たりします。そのようなご相談に対しては、チャット相談窓口を共有して内勤スタッフに即対応してもらうような体制を作っています。昔は一人の営業マンが1 to 1で対応していたところをチームでやることによってレスポンスも早くなりますし、結果お客様の満足度も上がっています」
ちなみに内勤スタッフは子育てをしている主婦が多い。
「子育て主婦の方は朝から晩までバリバリ働けるわけではありませんが、ヒューマンスキルが非常に高いので、お客様から来たチャットに対して言葉の裏まできちんと読んできめ細かく対応してくれており、信頼獲得に貢献してくれています」
そのような子育て中の女性に活躍してもらいながら、小さな要望にもきめ細かに応えられる体制を作ることで、リピート率や顧客単価が向上。新規営業に力を入れる必要がなくなった。
「どんどん営業マンを採用してしらみつぶしにテレアポをする、という旧来のやり方はリスクが大きくなっていると感じます。どうしても押し売りに近くなってしまうので、営業マンに心理的負荷がかかって離職コストも高くなってしまう。そのような消耗する戦い方ではなく、採用支援のフォローを手厚くすることでお客様の信頼を獲得する、というところで勝負するべきだと考えています。anのサービス休止は、結果的にそういったビジネスモデル転換を一気に後押ししてくれたと思います。タイミングとしてもベストで、感謝してますね」
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