【anのその後#04】「an」利用企業と営業担当に聞く「定着・活躍」まで見据えた採用戦略

(左)株式会社インターメスティック
岡庭 正洋 氏
おかにわ・まさひろ/2001年のZoff創業期に入社。10年以上現場にて店長を経験したのち、エリアマネージャー、教育部マネージャー、採用グループマネージャーを経て、2019年より人事統括のポジションを担う。

(右)株式会社パーソル総合研究所
フィールドHRラボ ビジネスパートナー
辻 寛樹氏
つじ・ひろき/新卒でパーソルキャリアに入社以降「an」の営業として、一部上場企業からベンチャー企業まで200社以上を支援。同社内の個人売上髙において2年連続で全国1位を獲得、MVPを受賞するなど多数の表彰を獲得。2019年4月より現職。各企業が抱える本部の課題感と店舗の実態把握を進め、採用・育成・定着のコンサルタントを務める。

「an」終了の衝撃。その後を追う

2019年11月に、惜しまれながら50年以上の歴史に幕を下ろすことになったアルバイト求人情報サービス「an」。アルバイト領域の老舗である同サービスの終了に驚いた人も多いのではないだろうか。今回の特集では「an」とその関係者にスポットを当て、激変するアルバイト求人市場の最前線を追う。

今回はメガネブランド「Zoff」を展開する株式会社インターメスティックの採用担当岡庭氏と、「an」の営業担当として同社の採用支援をおこなってきた辻氏に話をうかがった。年間400名もの社員の採用をおこなってきた二人に、当時の採用戦略と今後人材営業に求められるものについて話を聞いた。

※インタビューはリモート取材で行った。写真は株式会社インターメスティック、株式会社パーソル総合研究所提供。

ATSを用いて数値分析のもと採用戦略を立てる

岡庭氏と辻氏との出会いは7年前にまでさかのぼる。インターメスティックの当時の採用課題とはどのようなものだったのだろうか。

岡庭氏:「当時は景気が緩やかに上向く中で求人倍率が上昇しており、働き手のメインだったフリーター層の採用が難しくなっていました。そのため募集するターゲットを変更し、学生や主婦などの短時間で働きたいニーズがある人たちを採用していく方針にシフトしていました」

しかし、採用ターゲットを変えたことで離職率が大きく悪化。「採っても採っても人が辞めていく」状態になってしまったという。そんな時期に着任したのが辻氏だ。

辻氏:「私が担当として着任したのは2013年だったのですが、それ以前からインターメスティック様は長い間『an』をご利用いただいている大切なお客様でした。しかし私が着任する直前までは『an』経由での採用の効果が芳しくなく、また離職率の問題もあったため、どうやってリカバリーするかという提案からお取引が始まりました」

離職率の改善のために、辻氏はまず現状の数値分析から取り組みはじめた。

辻氏:「インターメスティック様には2011年頃から採用管理システムとして『HITO-manager』をご利用いただいていたので、まずはそこにあった情報を元に経路ごとの応募数・有効応募数・採用数・採用後の離職率の分析をはじめました。そして分析した数値をもとにディスカッションを重ねる中で、短時間勤務を希望している人たちは専門知識が必要とされる眼鏡の販売職とはマッチしづらく、そこが離職率が上がってしまっている原因なのではないかという仮説が浮かび上がってきました」

岡庭氏:「そもそも眼鏡は、商品であると同時に医療器具でもあります。実際に販売する上でも商売と医療行為が混在するので、知識をキャッチアップして一人前の販売員になるには、フルタイムで学んだとしてもだいたい1年弱かかります。ところが学生や主婦の方など、1日のうち4時間だけ働きたいという短時間のニーズの人たちとなると、その専門知識を現場で働きながら学ぶ時間がどうしても短くなってしまいます。働ける時間に対してキャッチアップしてほしい知識量がマッチしていないので、教育がなかなかうまくいかず離職率があがっていたのだと分かりました」

離職率悪化の原因を突き止めた辻氏が次におこなったことは、採用KPIの変更だった。

辻氏:「一般的に媒体営業が見るKPIは応募数であることが多いのですが、インターメスティック様の募集職種においては『採用した人が1週間あたり何日働いてくれるのか、1日あたり何時間出勤してくれるのか』が定着・活躍の成否を分ける大きなポイントでした。そしてこれは学生さんを一人採用できるよりもフリーターの方を一人採用できるほうが定着に結び付きやすい、ということです。ですので働いてもらえる実時間を単位とする『人工(にんく)』という概念をKPIとして導入し、社員の方を1人工としたときにフリーターの方なら0.7人工、学生なら0.3人工と求職者の属性ごとに人工を定めた上で媒体ごとのパフォーマンスの分析をあらためて進めていきました」

人工をKPIとして導入し数値を分析する体制を整え、媒体選定やターゲット選定・文言の精査をおこなった結果、採用戦略や離職率にどのような変化があったのだろうか。

岡庭氏:「人工の概念を導入することで、学生1名の採用よりもフリーターの方1名の採用のほうが価値として大きいということが認識できていました。ですのでレッドオーシャンだとしても弊社にマッチしやすいフリーターの方を採用する方針に大きく舵を切ることができました。そしてその方針をもとに採用を推し進めていった結果、人の人数という点ではそこまで大きく増えたわけではないものの、働いていただける人工を大きく増やすことができました 。また離職率も大きく改善することができたので、活躍・定着する人材をきちんと採用できたという点においても人工の導入は非常に効果的でした」

単に応募数を集めるだけに留まらず、その先の定着・活躍までを見据えた提案をおこなうことで辻氏は信頼を獲得していったという。

「人工」導入で媒体戦略が変化していた

岡庭氏・辻氏の二人三脚で採用をおこなってきたインターメスティック。2019年8月に発表された「an」終了をどのように見ていたのだろうか。

岡庭氏:「当時はほんとうに寝耳に水という感じです。また、『an』は全国的にも知名度のある媒体なので、そこがなくなってしまうのは痛手にも感じていました。今まで『an』で募集していた求人を今後どの媒体にシフトしていこう、というところは考える必要がありましたね。またそのときには辻さんの後任の方に担当していただいていたのですが、きちんと『an』が終了する直前までサポートいただけていたのでその点は安心しました」

そして「an」が終了した後の媒体戦略の変化について聞くと、意外にも「そこまで大きな変化はなかった」という。

岡庭氏:「というのもさらに人手不足が加速する中で、『人工を確保する』という観点から採用ターゲットもフリーター層ではなく社員希望の方、出稿する媒体に関してもアルバイト系の媒体ではなく『doda』や『マイナビ転職』などの中途系媒体への出稿という形で徐々に方針転換していた時期だったんです。『an』などの認知度の高いエリアは新規エリアで店舗をオープンするときなどにスポットで利用することが増えてきていました」

そして今まで「an」で募集していた求人は、中途採用の媒体に吸収されていったようだ。

岡庭氏:「採用人工ベースの単価で見たときに中途系媒体でもアルバイト系媒体と遜色ないくらいの単価感になっています。なのでその部分はあまり抵抗なくシフトできました。これも全ての採用経路を人工という概念で比較できるようになったからというところが大きいと感じています」

単なる媒体売りではなく活躍・定着にフォーカスを

最後に、岡庭氏に媒体営業に求めるものについて話を聞いた。

岡庭氏:「単なる応募数ではなく採用・定着にまでコミットしてくれることを期待しています。他の媒体では『応募数は集めるのであとは御社で考えてください』という方も少なくなかったのですが、辻さんは有効の応募が多い媒体の分析だったり、採用率を上げるための店長の面接のやり方への提言だったり、採用人工にきちんとコミットしてくださっているのが印象的でした」

顧客の表層的な課題ではなく、その先の活躍・定着までを真摯に見据えていたからこそ、辻氏は社外のHR的な存在として信頼される関係性ができていたと言えるだろう。

岡庭氏:「また辻さんは『an』を売ることにフォーカスせず、客観的な視点から媒体選定の提案をしてくれていました。自社商品の強みや弱み、他社商品のそれもきちんと理解したうえで、弊社にとって最善の提案をしてくれていました。ときには『このエリアはうちの商品ではなく他の媒体を使いましょう』と言ってくれる方だったからこそ、私たちも信頼して辻さんに相談できました。お世辞でもなんでもなく、辻さんのような方がいいなと思っています」

辻氏:「ありがとうございます(笑)。私自身、仕事をする際には『目の前のお客様が自社に評価され、社内で評価されること』を目標に置くようにしています。ですのでまずは岡庭様が何に困っているかを引き出して言語化し、それに対して自分が何ができるかということを第一に考えていました。媒体が売れるかどうかはその後についてくると思っています」

そのようなマインドで課題解決をしてきた経験や、その中で深まった顧客との関係性はその後必ず自分のキャリアの糧になると辻氏は続ける。

辻氏:「今後労働力不足が加速する中で、採用を支援しながら定着までを支援するのが当たり前になります。採用領域に特化した商品を売っていたとしても、定着領域において自分がどういう影響力があるのかを考えることで今後市場が求めるニーズに応えられるような知見を得られると思います」

辻氏:「私自身もインターメスティック様と日夜店舗の充足を一緒に追いかけた日々があったからこそ、今はパーソル総合研究所のフィールドHRラボという、店舗などの現場の採用・育成・定着のコンサルティングを行う部門にステップアップすることができました。人材業界の営業は、お客様と一緒にしてきた試行錯誤を通じて自分の知見を深められるところが大きいです。そしてその知見を別のお客様に還元しながらブラッシュアップを繰り返すことによって市場価値が高まるので、人材業界で働く方はまずはお客様ときちんと向き合うところからはじめていってほしいと思います」