【副業特集#06】人脈がなくても副業できる!フィットする組織の見つけ方

株式会社n
代表取締役社長
熊谷 昂樹 氏
くまがい・こうき/ 2015年横浜国立大学経済学部卒業。株式会社ディー・エヌ・エーに新卒入社し、SHOWROOMのプロダクト開発や新規事業開発を担う。2017年に株式会社バンクに創業メンバーとしてジョイン。バンクではCASH、TRAVEL Nowの立ち上げを行う。2019年に株式会社nを創業し、2020年春におためし採用プラットフォーム「workhop」をリリース。

副業で採用はどう変わる?副業マーケット特集

政府が働き方改革の一環として副業を推進、大企業でも副業解禁が進むなど、副業マーケットが徐々に広がりを見せています。また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークの体制が整い、個人が副業をはじめるハードルも下がっています。副業がより一般的なものとなりつつある中、今後企業と個人の関係性はどのように変化し、採用のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?本特集では変化の只中にある副業マーケットを追います。

今回はおためし入社・おためし採用プラットフォーム『workhop』を運営する株式会社n代表取締役の熊谷氏にインタビューをおこなった。自身の元同僚の経験談からサービスの開発に至った同氏に、転職前の副業のあり方と今後の採用マーケットのトレンドについて話を聞いた。

転職時の大きな課題は「入社前に聞いていた話と違う」

経済的不況や少子高齢化により、日本の終身雇用制度は崩壊しつつある。それによって同じ会社で一生働き続けるのでなく転職することが当たり前の時代になった。しかし、転職する際の課題はまだ残っていると熊谷氏はいう。

「求職者の抱える課題として、数回の面談の雰囲気のみで自分に合う会社かどうかを判断して転職しなければならないリスクがあります。私の元同僚が転職活動をしたとき、面談で社風や制度などに良い印象を持ったのに、いざ転職して働いてみると実際に耳にしたことと大きく違ったという話をよく耳にしました。一日のうち多くの時間を費やす仕事は個人の人生に大きくかかわるものなのに、企業側が裏切るようなことをするのはあってはならないと思いました」

一方元同僚の中には、フリーランスの形態などで何社か働いてみて転職先を決めた人もいたという。その人は入社後の満足度も高く、ミスマッチも発生しなかったらしい。

「副業を推進する流れで副業を容認したり副業社員を受け入れる企業が増えてきました。そのため実際に働いてみてから転職するという方法はかなり現実的になっています。しかしそのような形の転職は、SNSでの発信が活発な人などにしかできない現状がありました」

入社前に副業で働くという新たな選択肢

「社外にツテはないけれど、組織の中でコツコツ努力してきたとても優秀な人はたくさんいます。そのような人たちも平等にマッチングの機会を得られる採用方法が必要だと感じました」

熊谷氏が代表を務める株式会社nではおためし副業のプラットフォーム『workhop』を運営している。「おためし副業」とは、転職や副業を決める前に気になる企業で副業として働くことだ。入社前に副業として働くことで、求職者側と企業側の両者でマッチ度を判断することを目的としている。

「特にスタートアップ企業やベンチャー企業は社員が少ないため、個人が企業のカルチャーに与える影響は大きいです。そのため求職者が自社のカルチャーにフィットするかどうかがスキル以上に重要となります。また個人側もおためしで一緒に働いてみることで、自分がこの組織によい影響を与えられそうか、すなわち『働きがい』を見出せそうかどうかを確かめることができます」

そして、企業がおためし副業を実施する際、受け入れのコストと教育のコストの2つがあるという。

「副業社員と働くには、副業社員用に仕事を切り出すコストが発生するため、初めて社外の人を受け入れる企業は社内での理解が必要になります。しかしこのコストは働きたい人と働くためのプロセスで発生するものなので、意義あるものとして理解してもらえることが多いです」

「また、副業社員の教育にもコストが発生しますが、そのコストも含めて採用するか否かをおためし副業で検討できます。思っていたよりもスキル面で教育コストがかかりそうだから正式採用は辞める、もしくはこれから育てていくといった判断材料になります」

社外の人が実際に働くことで求人広告だけでは伝わらない素の社内の様子を見せることになる。求人広告のようにきれいな面だけでなく、実際の社内の雰囲気もさらけ出すことでその社風に魅力を感じる求職者を採用できる。おためし副業は、副業社員の受け入れと教育、2つのコストはかかる一方、入社後のマッチング精度を上げることで長く活躍する人材の確保を可能にするようだ。

副業の一般化で転職活動はより柔軟化、流動的に

副業が一般化していく中で、正社員と副業社員の境目は次第になくなっていくと予想される。境目がなくなることで採用マーケット自体も変化するだろう。その変化について、熊谷氏は2つの可能性を挙げた。

「1つは採用方法がより柔軟になります。たとえば、求職者も企業もまず働いてみてから正社員として採用するか副業社員として採用するかを決めることができます。私は最初から副業社員・正社員と決める必要はないと思っていて、働く中で副業社員が正社員になったり、正社員が副業社員になることも起こりうることだと思います」

副業社員としておためしで入社したものの、より高いコミットメントを求めて正社員となる、ということも現実的にありえそうだ。

また、今後正社員と副業社員との境目がなくなることで、転職の潜在層がより流動的になるという。

「転職の潜在層とは、今の会社に満足しているものの、自分にマッチした会社が他にあるかもしれないと思っている人のことです。このような人は今の会社に満足しているため転職サイトなどに登録することはなく、いきなり転職して失敗するリスクの方が大きく見えるためアクションをなかなか起こしません」

「私が大企業にいたころは、自社や他社を問わずこういう人がかなりたくさんいた印象です。転職すれば今より高い給与が貰えてより面白い仕事ができそうな人や、文句を言いつつもずっと同じ会社にいる人など、周りにいないでしょうか。もちろん今の仕事に対して何かやりがいを感じているなら問題ないと思うのですが、ミスマッチのリスクが怖いから転職しないというのはもったいないことだと思います。仮におためし副業をした結果実際に転職しなくても、他社を知って自社の良さを再確認するきっかけになるのではないかと思います」

正式採用のワンクッションとなるおためし副業が一般化することで、入社後のミスマッチが減少するだけでなく、自社によりコミットできるケースもありそうだ。

人脈を持たない人もフィットする仕事を見つけられる世の中に

実際に気になる企業で働いてみてから転職するのは他社とのツテがなければ難しいと冒頭で熊谷氏は話した。他社に人脈を持つ人について、最近はSNSなどを利用して他社の人と繋がる人が多いと話す。

「友人などのツテでリファラル転職をすることもあると思いますが、最近はSNSの普及によって個人の力で人脈を広げることが可能になりました。自分のスキルを高いプレゼンテーション能力で売り込んでマネタイズやビジネスをする人が増えています」

広げた人脈を利用して何社か吟味して転職するのは、知人の紹介で選考を受けるリファラル転職に近いものがある。

「リファラル採用は今人脈に恵まれている人をさらに恵まれるところに導く仕組みだと思います。でも社外にツテや知人が少なくても『この人と働きたい』と思えるような優秀な人っていますよね。そういう組織の中では目立たないけれど優秀な、いい人が自分に合った求人を見つけられる世の中なればいいと思います」