【副業特集#01】複業研究家 西村氏に聞く副業マーケットの今とこれから

株式会社HARES
代表取締役社長
西村 創一朗 氏
にしむら・そういちろう/「二兎を追って二兎を得られる世の中をつくる」ために日々奮闘するパラレルアントレプレナー(複業起業家)。2011年にリクルートキャリアに新卒で入社後、会社員時代に株式会社HARESを設立。その後独立し経営者として働く傍ら、2019年3月までランサーズ株式会社のタレント社員として人事・広報(HR・PR)を担当。3児の父。

副業で採用はどう変わる?副業マーケット特集

政府が働き方改革の一環として副業を推進、大企業でも副業解禁が進むなど、副業マーケットが徐々に広がりを見せています。また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークの体制が整い、個人が副業をはじめるハードルも下がっています。副業がより一般的なものとなりつつある中、今後企業と個人の関係性はどのように変化し、採用のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?本特集では変化の只中にある副業マーケットを追います。

今回は株式会社HARESの代表取締役社長で複業研究家の西村氏にインタビューをおこなった。複業に関する情報発信や複業コミュニティ「HARES COMMUNITY」などを運営する同氏に、副業マーケットの最新動向と今後副業が転職マーケットに及ぼす影響について話を聞いた。

※インタビューはリモート取材で行った。写真は株式会社HARES提供。

副業が注目される背景とは?

2018年1月に厚生労働省が働き方改革の一環として「モデル就業規則」を改定、原則副業禁止の規定が削除されることになった。また副業・兼業の促進に関するガイドラインも新設され、2018年は「副業元年」と呼ばれるようになった。政府が副業を推進する背景には、終身雇用制の崩壊により企業が個人の生活を守ることができなくなったため、個人が自分で稼ぐ力を身に着けてほしいというメッセージがあると西村氏は話す。

「もともと高度経済成長期には、個人が自分の自由を犠牲にして100%本業にコミットし、自由を引き換えに終身雇用という安定を手に入れていた時代がありました。その時代では長時間労働や単身赴任など企業が従業員の自由を制限するのは当たり前で、副業もできませんでした。しかしその代わりに、企業はきちんと従業員を雇用し続け、年功序列の賃金体制でその人の家族を含めた生活分の賃金を保証してあげていました」

しかし、そのような企業と個人の関係は1990年代のバブル崩壊とともに崩れることになった。

「バブル崩壊により日本経済全体の競争力が弱まり、各企業は従業員みんなの生活を守る資金力を失いました。1990年代~2010年前半は、年功序列を撤廃・成果主義を導入して今までのようにすべての従業員の生活は保障はできない時代になっていたにもかかわらず、バブル以前と同様に従業員に長時間労働・単身赴任などを強い続けていました。個人と企業の関係性が全く平等ではなくなってしまったんです」

その後雇用における企業・個人間の関係性の不均衡が「ブラック企業」「過労死」など社会問題として取りざたされるようになった。それらの問題を受けて、長時間労働を是正する働き方改革の取り組みが政府主導で進んだ。

「そのムーブメントの中で、企業がもはや個人の生活を守り切れなくなったのであれば、一つの会社に個人を縛るのではなく原則副業を認めましょう、という副業解禁の動きが2016年のロート製薬の副業解禁をきっかけに出てくるようにました」

またそれに伴い、個人・企業の副業に関する考え方にも大きな変化が起こった。

株式会社BLAMの調査によると、約9割のビジネスマンが副業禁止の会社には所属したくないと考えているという状況が明らかになりました。この調査結果は、企業にとっても副業を禁止することが採用においてリスクになってしまうことを意味しています。優秀な人材を採用するため、また優秀な既存社員の離職を防止するため、従業員の副業を認める企業が増えてきています」

コロナショックが副業の盛り上がりを後押しした

働き方改革の後押しを受け、徐々に副業が企業・個人ともに一般的なものとなってきた。そして昨今の新型コロナウイルスの影響により、副業のニーズはさらに高まってきているという。

「緊急事態宣言発令後、多くの副業マッチングサービスで登録者が急増しています。景気の先行きが不透明になる中で今働いている会社とは別に収入源を持っておきたいと考える人が増え、また在宅勤務によって可処分時間が増えたこともあり、個人の副業したいニーズが高まってきていますね」

また企業側も新型コロナウイルスをきっかけに副業社員の登用に積極的になるところが増えているらしい。その理由は何なのだろうか。

「多くの企業がコロナショックが起きた直後、コストカットのために採用を一時中断しました。しかしここから数か月たって『withコロナ』という言葉が一般的になり、この状況が中長期的に続くことを前提として事業を進めなければならなくなりました」

目の前には進めなければいけないプロジェクトやタスクがあるが、一方で先行きが見えない今、正社員の採用はなるべく抑えたい。そのようなニーズからフリーランスや副業社員に発注をして、人材のリソースを変動費として賄おうという流れが生まれつつある。

また、各社がリモート勤務開始に伴いコラボレーションツールを導入したことで、副業社員受け入れのハードルが下がっているようだ。

「副業社員の多くは日中は本業に時間を割いているため、副業受け入れ企業とのコミュニケーションはチャットや本業の就業時間外でのリモート会議が中心になります。以前は副業人材を受け入れる際の課題として、受け入れ企業側がリモート・チャットによるコミュニケーションに慣れておらず、副業社員とうまくコミュニケーションをとれないというものがありました。しかしリモート勤務を始めたことで、各社が続々とビジネスチャットツールやweb会議ツールを導入しました。このように副業人材を巻き込みやすい環境が整ったことも、副業普及の追い風になっています」

副業の盛り上がりによって転職市場に影響は?

コロナショックを受け、さらに広がる副業マーケット。この広がりは今後転職マーケットにどのような影響を及ぼすのだろうか。

「今後採用のあり方、転職のあり方はどんどん多様化していくと思います。今までは現職から次の会社へ、自分のリソースの振り分け先を一気に変えるというのが従来の転職のあり方でした。しかし今後は自分のリソースの1、2割を本業とは別の副業先に使って、その割合を徐々に増やしていきながら本業をシフトさせていきつつ、場合によってはかつて本業だった会社も副業先として働き続けるという『コミットメントシフト型』の転職が増えるのではないかと思います」

また、このようなコミットメントシフト型の転職では、企業・求職者ともに実際に働いてみることでミスマッチを限りなく減らせるメリットもある。今後コミットメントシフト型の採用・転職はさらに広がっていきそうだ。

「副業社員を受け入れている企業は増えてきているもののまだ少数派です。個人側の意識が変化して、副業に挑戦したいという人はとても増えているので、今後副業マーケットをさらに盛り上げるためには、企業側の発注ニーズ・副業社員の活用事例を増やしていくことがとても重要になると思っています」

「僕の人生のミッションとして『二兎を追って二兎を得られる世の中をつくる』というものがあります。みんながみんな本業としてやってることが自分の人生の天職なんだと思うことができればいいのですが、現実は必ずしもそうではありません。だからこそ副業を通して、本業の外、会社の外で自分のやりたいことに挑戦できる世の中にしたいと思っています」

「本業と副業の二兎を得て、個人が自己実現できる世の中を実現するためには、まだまだハードルがあります。副業に興味はあるけど踏み出せないという人はまだまだ多いので、一歩踏み出すためのコミュニティや副業について学ぶ場、実践の場を増やしていくのが、複業研究家としての自分の使命だと思ってます」