コロナ禍の求人市場データから予想する2021年人材マーケットの展望【ウェビナーレポート・1月19日開催】

【左】株式会社ROXX
agent bank事業責任者/株式会社22 代表取締役
植木 大介 氏

うえき・だいすけ/株式会社キャリアデザインセンターの求人広告営業として入社。全社表彰などを獲得した後、株式会社SCOUTER(株式会社ROXXの旧社名)にジョイン。SCOUTERやセールスの立ち上げを行う。2016年4月から、営業のマネージャーを担いながら、広報・PRに取り組んだ後、「agent bank」の立ち上げに参画。2018年12月に事業責任者に就任。

【右】株式会社フロッグ
代表取締役 /HRog編集長
菊池 健生
きくち・たけお/2009年大阪府立大学工学部卒業、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、2017年ゴーリストへジョイン。人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務め、2019年より取締役、2021年より株式会社フロッグ代表取締役に就任。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年の人材マーケットは雇用の流れや働き方が大きく変化するなど、多大な影響を受けました。今後もコロナ禍による人材業界の停滞が予想されており、2021年の人材マーケットにも引き続き影響を及ぼすと考えられます。

2021年1月19日に開催したウェビナー「コロナ禍の求人市場データから予想する2021年人材マーケットの展望」では、agent bankの植木氏とHRog編集長の菊池が対談。今後の人材業界の展望や、それに対応するために企業や個人が行うべきことについて話しました。

2021年の人材業界は社会の変化を見据えた適応力が鍵に

菊池「2020年は新型コロナウイルスの流行により人材マーケット全体が大きく変化しました。フロッグで集計した求人広告データを見ると、アルバイト・パート領域の求人件数は、2月・3月は好調に推移したものの、4月~6月にかけて大幅に減少しています。中でも6月の減り幅は大きく、前年比の約半分まで落ち込みました。

正社員領域も同様、3月から徐々に減少していますが、減り幅で比較すると、最も減った時期で前年比67%でした。回復するのも比較的早いですね。また、人材紹介だけを見るとマーケットの伸び率は減少していますが、縮小はしていません。

特徴的なのは、未経験者やアルバイトなど、採用のハードルが低い求人が特に減少していることです。未経験OKなど、応募条件が比較的緩い求人が絞られてしまった一方で、スキルが必要な求人は一定数ありました。このことからも、採用は『厳選採用』へと変化していることがうかがえますね」

2020年の求人マーケットの変化

植木「私からは、人材紹介マーケットに絞ってお話しします。1回目の緊急事態宣言時は、オンライン選考できる体制が整っていないことが理由で採用をストップした企業が多くありました。しかし、2回目の緊急事態宣言時は、オンライン選考の体制が整ったことや、緊急事態宣言自体が限定的な措置であったこと、またワクチン接種の見通しが立ったこともあり、採用をストップする企業はほとんどないのが現状です。

また、求職者数もマーケット全体では増加しています。しかし、人材会社は大手企業も含めて求人案件数の減少の影響を受け、新型コロナの影響で厳しい状況に陥った会社もありました」

「その一方で、売り上げを伸ばした会社も同じくらいありました。マーケットの変化にスピーディーに対応され、変化を恐れずに今までの正攻法を捨てられた会社さんがコロナ禍でも成長されていたいました。また、『ハイレイヤー層』『若手層』など今需要があるターゲットを的確に絞ったうえで、政府の助成金や借入をうまく活用しながら新規投資をした会社はレバレッジを効かせてさらに売上を伸ばした印象です」

新型コロナウイルスがもたらした人材紹介マーケットへの影響

菊池「ここからは、これまでの過去の振り返りをもとに、私たちが予想する2021年の需給バランスの変化についてお話していきたいと思います。新型コロナウィルスの影響で働くことの価値観が大きく変わりましたね。国を挙げてリモートワークを推進していることもあり、転職を考える人は今後も増え続けると思います」

植木「確かに、リモートワークによって時間に余裕が生まれたことで、個人としての生産性が上がった人も多いと思います。その中で、自身のキャリアや人生について考える人も増えましたよね。実際に、ホワイトカラーでハイキャリアの人も転職に向けて今動く人が増えているという声も聞きます。

リーマンショックでは全ての業種で求人数が減少したのに対し、今回の新型コロナは業界によって営業度合いが異なるのが大きな特徴です。IT系業種は求人数は衰えていませんが、飲食・観光業界では大きく下がるなど、業種によって影響が色濃く違います。それを踏まえると、今後は業界をまたいだ転職も増えそうです。逆にこれをチャンスと見出して採用を強化する会社も出てくると思いますし、今以上に需給バランスの変化が出てくるんじゃないかなと思います」

菊池「また、人材紹介会社含め、採用する側や求職者共に、今後は勝ち負けがはっきりしていくことも考えられます。リモートワークを取り入れていないなど、2020年代の変化に適応できていないことで、人材が離れていってしまうこともありそうですね」

植木「変わっていく時代にどう適応していくかが、2021年は特に重要になりそうです」

新型コロナにより成長が見込まれるサービスにも変化

菊池「採用の観点からいうと、2021年は特化型のサービスも注目しています。例えば、マッチングサイトや人材紹介サイトでも、地方副業などに特化しているなど、ニッチなサービスです。求職者の価値観が多様化したことから、求職者に提供する価値やコンセプトだけではなく、より求職者の働き方に合わせた提案などの需要が高まると考えています」

植木「今まで以上に細分化された個別最適なサービスが増えていくことが予想されますね。また、新型コロナをきっかけにDXが盛り上がりを見せましたが、人材ビジネスでは、それをオペレーションとして組んでいく上で求められるITリテラシーと、現在社内にいる人材のITリテラシーの差をどう埋めるのかもテーマになると思います。

すでにHRTechは様々なサービスがありますが、最新のツールを使用しても、現場の大多数の方は使いこなせていないのが現実。地方の中小企業などにツールの選定から提案し、導入までをコンサルティングしていくようなサービスも増えていくと考えています」

菊池「今は業務管理や勤怠管理などでそれぞれ独立したツールが使用されています。採用においても求人広告やオウンドメディア運営など使用ツールも細分化しています。細分化が進みすぎているので、それぞれの領域を組み合わせながら、全体最適を目指すための代行業務や、スキルシェアリングなどのサービスが求められそうですね。その一方で、リテラシーの溝をテクノロジーで埋めることを検討する会社も増えそうだと思っています」

植木「確かにそのようなニーズはあると思います。HRサービス各社でAPI連携を行い、それぞれのサービスを繋げていくのか、またはSmartHRのように自社で全ての課題を幅広くカバーするサービスを展開するか、これは各社の戦略による部分もありますが。HRサービスのプレイヤーとしても、幅広くサービスを展開していくのか、細分化して細かいニーズに貢献していくのか、それとも他社と提携して影響範囲を広めていくかなど、分かれ目になりそうです」

今後の人材業界プレーヤーに求めらえる「広い視野」と「発信力」

菊池「今後の人材業界では、守備範囲を広げることが求められると思います。例えば、正社員のみを知識・販売サービスの対象としていたところを、入社後の活躍や人材育成、副業採用、業務委託発注など、少しずつ自分が提供できる価値の範囲を広げていく。視野を広く持つことが対人事に選ばれる理由にもなります。ツールが細分化すればするほど、自社サービスのみで解決できる課題が相対的に減っていくので、自社以外のサービスについても勉強し、理解していくことが大切ですね」

植木「この1年で大きな変化があり、特に人材業界では、その変化が起きたタイミングでどのように迅速に対応できたかが明暗を分けたと感じました。新しい領域での検証や、新しいサービスにチャレンジするなど、この変化に適応できたかどうかが会社としても個人としても大事なことかもしれません」

菊池「人材会社で働く個人の観点でも同じことが言えて、とにかく勉強することが重要だと思います。採用する側の人と接する機会が多いと思いますが、自分の中ですごくいいなと思うことをどれだけ盗んで自分のものにできるのかも大切ですね。

また、2020年代は個人のSNSで発信をする人材系エージェントや営業もさらに増えていきます。エージェントも会社単位ではなく、個人単位で仕事が依頼されるケースも増えてくると思います。『この会社のキャリアカウンセラーにキャリア相談したい』のではなく、『この会社に勤務する○○さんにキャリア相談がしたい』というケースです」

植木「病院でいうと、その病院がいいから行くのではなく、医者がいいからその病院に行くのと同じですね」

菊池「またそのような時代においては発信力も必要です。まず大切なのは、期待値以上の仕事をきちんとやること。それと並行して、自分がどういう人なのか、得意なことは何かなどをSNSなどを活用し、発信していくこともポイントになると思います」