『営業はキツイ、ツライ』。そう思っている方たちに営業を楽しむヒントを伝えたい。そんな思いで企画されたHRog編集部主催イベント「案内営業からの卒業、売りこまない営業で売れる営業を目指す」が、2019年12月18日(水)に開催されました。今回はそのイベントの様子をレポートします。
登壇者:嶋崎 真太郎 氏
アスタミューゼ株式会社 執行役員事業推進本部 本部長
しまざき・しんたろう/株式会社リクルートで、企画営業を経験。数々の営業表彰を受賞し、全国TOP11の営業にも選ばれる。その後、Web系ベンチャー・人材系ベンチャーの役員とし、事業企画、営業企画、人事・採用企画の経験を経て、2017年に同社アスタミューゼへ参画。専門技術・研究職人材のダイレクトリクルーティングサービス「SCOPE」「SCOPE地方創生」の企画立ち上げや、社内イノベーター人材を可視化し、新規事業創造を加速させる「Discover Innovators Program」のプロジェクト責任者を務める。
登壇者:菊池 健生
株式会社ゴーリスト 取締役/HRog編集長
きくち・たけお/2009年大阪府立大学工学部卒業、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、退職。2017年、ゴーリストへジョイン。人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務める。
売れない理由ばかり探していた新人時代
菊池「嶋崎さんはいつ営業としてのキャリアをスタートされたんですか?」
嶋崎「2008年のときに27歳ではじめて営業デビューしました。実はファーストキャリアは消防士として人命救助に携わっていたのですが、努力してもしなくても給与が変わらない年功序列の給与体系が不満で。だから『成果を出した人が認められるビジネスの世界にいこう』と思い、リクルートに入社しました。
リクルートにはCV職という三年半契約の契約社員制度があるのですが、入るときに『三年半でリクルート全営業のトップになる』と決意していたのであえて契約社員で入社しました」
菊池「入社したての頃の成績はどうだったんですか?」
嶋崎「僕は『HOT PEPPER』という飲食店向け広告を売っていたのですが、1年目は目標数値に対して60%~70%という達成率でした。8割達成したら嬉しいという感じでしたね」
菊池「『三年半でリクルート全営業のトップになる』という目標を掲げて入ったにもかかわらず、数値が達成できない日々が続いたんですね。当時の心境はいかがでしたか?」
嶋崎「売れない理由を探して言い訳ばかりしていましたね。『僕が売れないんじゃない、お客さんが広告を打つお金がないんだ』とか『このエリアにはマーケットがないんだ』とか、そういう売れない理由をつくるのにかけては超一級品でした」
菊池「目標数値と現実にギャップがあるとき、そのようなマインドになってしまう営業の方は多いと思います。しかしそのような『売れない営業時代』を経て、リクルートで年間MVPを受賞するくらい実績をあげられるようになったと思うのですが、仕事に対する取り組み方が変わったきっかけは何だったのでしょうか?」
嶋崎「1年目の年間表彰式のときですね。リクルートでは年に一度、全エリアから全社員を集めてMVPを表彰するイベントがあって。当時1,400人の社員が集まる会場のステージ中央で、スポットライトを浴びて登壇しているMVPの人たちを見たときに、めちゃくちゃかっこいいなと思ったんです。そして成果を上げていない自分が壇上に上がれずに、ここで見ているだけと思うとすごく悔しくて。そのときに『絶対に成果を出してやる』と思ったのがきっかけです」
売れる営業のエッセンスを徹底的に集めた
菊池「マインド面でスイッチが入っても、いざ仕事に向き合ってみると『売れるために何をしたらよいのか分からない』という営業の方も多いと思います。嶋崎さんはどうでしたか?」
嶋崎「僕も最初は何から取り組めばよいのか分からなかったので、『売れるためのテクニック』を収集するところからはじめました。リクルートで成果を出している営業100人に片っ端から電話をかけて『どうしたら売れるんですか、何を工夫していますか』と一人ひとりに聞いていましたね。そして使えるものは自分の営業の中に組み込んでいって、自分なりの営業方法を作っていきました」
菊池「会社にもうすでにあるロープレをそのままやるのではなく、ご自身で売れている営業マンのエッセンスを取り込みながら営業スタイルを確立していったんですね。具体的に『これは使えるテクニック!』というものを一つ教えてください」
嶋崎「これは今でもたまにやっているのですが、必ずバッグの中にはがきを入れておいて、打ち合わせの後すぐに玄関近くのロビーでお礼の手紙を書いて、その日のうちに近くのポストに入れていました。そうするとお客様には商談当日消印のはがきが翌日に届きます。そして翌日電話すると驚いてくれて、『ここまでやってくれるなら任せるよ』と言ってもらって受注をもらったりしました。当時は全ての商談でお礼の手紙を書いていましたね」
菊池「他の人がやらないからこそ差別化できる、自分なりの工夫だったんですね。営業として成果をあげられるようになってから、考え方や行動に変化はありましたか?」
嶋崎「売れるようになってから言い訳は一切しなくなり、『どうやったらできるようになるだろう』と考えるようになりました。どういう難題が出てきてもできない理由を探すのではなく、やるための方法を模索するようになりました」
営業が解決するべきは「目の前の課題」ではなく「経営課題」
嶋崎「僕は営業する上で『お客様の課題に対して自分はどれくらい遠くの未来のことまで見えているだろうか』ということを意識しています。
『お客様に寄り添った営業をしています』と言っているのになかなか売れない営業は、じつは『稟議を通すのが難しい』『社内調整がめんどう』といった担当者の方のネガティブな気持ちに寄り添ってしまっています。
そのような先方の事情に寄り添った結果何が起こるかというと、いつまでもクロージングができないんです。 担当者の方と一緒にネガティブなことに寄り添っているので、担当者を動かすことができない。
寄り添うなら、その会社の未来やその人の上司が考えていることに寄り添わなければいけません。経営者はどういう経営戦略を立てているか、この会社は未来に向かってどう進んでいくのか、事業ポートフォリオが今後どうなっていくか、そういうことに寄り添うべきだと思います」
菊池「『寄り添う』の質が売れている人と売れていない人では違うんですね。『寄り添う』という言葉を変に解釈すると、単なる担当者の御用聞きになってしまいます。
でも一方で御用聞きをやっていると、お客様からは好意的反応が返ってきたり、距離感が近くなったりして楽しいんですよね。ただ受注はできないので、月末になると数値が未達という苦しい現実が待ち受けている。
僕は営業のメンバーによく『お客様よりもお客様のことを考えなさい』と言っています。担当者の方と事業部長・経営者クラスの方では課題感や追っている指標、どれだけ未来を見据えているかという視座の高さが変わってきます。
その時間軸の取り方と課題の大きさが、売上の金額の大きさにそのまま跳ね返ってくるんです。そこで『自社の商品をどう売るか』という観点で営業をしていると、課題が短い時間軸で終わってしまうので、そこからなかなか抜け出せなくなってしまいます」
嶋崎「僕は『飲食店の集客課題を解決するのではなく、経営課題を解決する』ということを意識することで受注をもらいやすくなりました。
たとえば肉屋や野菜屋・不動産屋・内装業者・看板業者・ビール業者といった飲食店をつくるための全てのエコシステムの業者を抑えて、飲食店の経営者の方が『肉を仕入れたいな』と思ったら、僕が肉屋に連絡して安いお肉を教えてもらったりしていました。
そうしていると新しい飲食店ができるときに、他の業者の人から僕のところに話が集まってくるんですね。テレアポや飛び込みをしなくても紹介でアポが取れる。『あのお店の人が嶋崎くんに任せればいいって言っていたから、ここは嶋崎くんに任せるよ!』と受注をいただくことも多く、 新規受注率は80%以上、顧客継続率は90%以上でした。
まずお店の売上があり、そこから何にどれくらい投資をするかというのが経営の基本的な考え方です。なので広告費を増やしてもらおうと思ったら、他の予算を減らさなきゃいけない。
だからその予算を最適化するために材料費を削減しましょう、そのために安くていい肉を仕入れられる業者を教えます、そして年間トータルで原価がこれだけ下がりますよ、という風に提案をしていました。お財布には上限があるので、そこから広告予算をどう引っ張ってくるかを考えていました」
菊池「広告という領域だけではなく、飲食店経営全般に関わる提案やネットワークづくりをやっていたんですね。
これを人材業界に置き換えると、『自社サービスを使って入社した人たちが、その後その会社でちゃんと活躍しているのかを気にする』ということだと思います。会社の離職率は通常あまりヒアリングしませんし、自社のヒアリングシートの項目にも入っていないかもしれません。でも『その会社が人を採用した後、組織がどうなるか』という時間軸を長く取ると、そういう質問が出てくる。
そもそも自社サービス経由で採用できたかどうかしか追えていないケースも多いと思いますが、そうすると集客課題しか解決できません。その先の離職率改善の提案や、入社後よりメンバーが活躍できるようになるためのツールを紹介するだけでもお客様から『ありがとう』と言われることが増えると思います」
担当者の立場と性格によって攻め方を変える
嶋崎「新規営業では案件を多く回す必要があるので、短い時間の中でいかに相手に伝わるように話すかを工夫していました。電話と商談の中で、目の前の担当者の方やその上長がどういう性格の傾向があるのか、どういう伝え方をすればこの人は買いたくなるのかを考えています。
たとえば数字が好きなのかそれとも情に厚いタイプなのか、商談10~15分でその人の性格の傾向を掴んで、もしも資料がその人向きのものじゃなかったら途中で出す資料を変えます。それくらいの準備をしないと新規営業の受注率は上がらないと思います」
菊池「人事の方でもバックオフィスの経歴が長い人と営業の経歴を持っている人では当て方を変えますよね。営業経験がある人事の方は数字を積むことの苦しさが分かるので、月末のお願い営業が実はけっこう有効だったりします」
嶋崎「『営業上がりの社長は熱意やガッツで通じるが、理系やエンジニア上がりの社長はロジカルじゃないと通用しない』といった性格パターンをおさえて伝え方を変えると、受注しやすさが変わってくると思います。
またその人の立場になって考えることも大切で、たとえば稟議資料を担当者の方に送るときは『上長が見ただけで分かる資料になっているかどうか』がすごく大事なんです。なぜなら資料を上長に渡したときに『説明しろ』と言われるのが、担当者の方にとって一番のリスクなので。そのリスクを恐れて稟議に上げてもらえないということをなくすために、資料の分かりやすさにはとことんこだわっていました」
「未来の営業スケジュール」で自分に暗示をかける
菊池「今まで『どうやったら受注できるようになるか』ということを話していましたが、一方でそこまで思考し続け、実行し続けるためにはセルフマネジメントが重要だと思っています。嶋崎さんは先ほどお話ししていたような方法論にたどり着いて実績をあげるまで、どういう風に自分を管理していましたか?」
嶋崎「自己暗示をかけていましたね。リクルートの言葉で『自ら機会を創り出し機会によって自らを変えよ』というものがあるんですけれども、この文言をスマホの待ち受けにしていました。また、『やると決めたことはやる』という言葉を徹底的に自分に叩き込んでセルフコントロールしていました。
営業計画も月のはじめに1時間単位で『この日は午前中に絶対2つアポを取る』『ここには絶対に商談を入れる』というふうにスケジュールを立て、そのスケジュールを必ず実現するためにめちゃくちゃ頑張るということをやっていました。
『思考は現実化する』というナポレオン・ヒルの本があるんですけれども、それをめちゃくちゃ読んで、読みこんで、自分に暗示をかけていました」
菊池「未来の計画を立てるというのは自分で考えた結果生まれたノウハウですか?」
嶋崎「そうですね、会社の方法を無視して自分で勝手に編み出していました。トップ営業になるために野心的な目標を立ていたのですが、その目標を達成するためには数値目標達成率200%~250%くらいは当たり前にやらなければいけないと考えていたので。だからこそできたのかなと思います」
相手にメリットを与え続ければ人脈は広がる
嶋崎「売れるための人脈を作りたいなら、ビジネスで繋がったほうが良いと思います。仲良し同士で繋がるのではなくて、課題を解決するためのソリューションを提供するというところでどれだけ繋がれるか。仮に売上に繋がらなくてもよくて、営業先や採用の候補者を繋くだとか、いろいろ提供できる価値はあると思います」
菊池「僕と嶋崎さんは飲み会ではじめて会ったんですけど、『何をやったらお役に立てますか?』というコミュニケーションが普通にあったりするんですよね。僕がHRogというメディアの編集長をやる中で、嶋崎さんの『メディアに出たい』というニーズと僕の『記事を書くリソースがない』というニーズがマッチして、嶋崎さんに記事を書いてもらったりしたことがあります。そういうコラボの中で人脈が生まれるのだと思います。
目の前の数字を持っていると『売らなきゃいけない』という気持ちになりがちですが、そこを我慢して『どうやったら役に立てますか』というスタンスを持つのは大切ですね。
特に人材系の営業は幅広い業種のお客様と取引があるはずなので、お客様同士をつなぐだけでもシナジーが生まれていくと思います。とはいえこれは相手の困りごとを知らないとできないことなので、お客様のお客様を知るというのも大事ですね」
嶋崎「たとえ今売上に繋がらなくとも、自分が貢献できる価値は何か考えて行動することで信頼関係が生まれると思います」
菊池「会社から与えられたヒアリングシートとロープレが基礎としてあるものの、それだけではただの『サービスを売りに来る人』になりがちです。そこから自分独自の工夫をどのように積み上げていって、自分はどんな価値を提供できるかをお客様にしっかり伝えていくことが『信頼されるビジネスパートナー』になるためには大切なのではないでしょうか」
会場提供していただいた株式会社サポーターズ(株式会社VOYAGE GROUP)様、素敵な会場を使用させていただき、誠にありがとうございました。
(HRog編集部)