Thinkings株式会社
代表取締役社長
吉田 崇 氏
よしだ・たかし/早稲田大学政治経済学部を卒業後、人材コンサル企業を経て、2005年に双日株式会社へ入社しITビジネスに携わる。2013年、イグナイトアイ株式会社を設立し、採用管理システムsonar ATSを提供開始。2020年経営統合により、Thinkings株式会社を設立。代表取締役社長に就任。
時代の変化に合わせて多様化する採用手法に伴い、人事担当者が求められる業務は増えている。そのため、本来集中すべき候補者との関係構築に時間を割けないなどの課題を抱える人事担当者は多い。その中でThinkings株式会社は、採用や人事担当者をテクノロジーで支援する採用プラットフォーム「sonar HRテクノロジー」を展開している。今回は、代表取締役社長の吉田崇氏に、サービス開発の背景や人事が取り入れるべき採用マーケティングについて伺った。
候補者から選ばれるために「1対1」で向き合っていく
まず最初に、吉田氏が考える採用マーケティングと、人事担当者がそれを取り入れるべき理由について伺った。
「採用マーケティングは、その言葉から大衆に向けた『マス』的な考え方だと捉えている方も多いですが、私は『1対1』で候補者一人ひとりに向き合っていくことが採用マーケティングの本質だと考えています。
近年、採用市場の状況は大きく変化しました。以前は企業側が圧倒的に優位な立場で候補者を選んでいましたが、現在では候補者の方が優位となり、企業は候補者から選ばれる必要がでてきました。またSNSや口コミサイトの発展によって、候補者は企業の実態を入社する前から見ているため、企業側の不特定多数に向けた一方的な発信だけでは『選ばれる企業』にはなれないでしょう」
こうした厳しい状況からも、企業が良い人材を採用するためには「1対1で一人ひとりに向き合った」採用プロセスを取り入れる必要があると吉田氏は続ける。
「企業が優位だった頃は、たとえばリファラルでの候補者と求人サイトからの候補者を同じ採用プロセスで管理していても、両者とも採用できていました。しかし、今はリファラルでの候補者を型通りの会社説明会に誘導してしまうと、『紹介で応募したのにいきなり会社説明会が始まった』と企業に対しての不信感やマイナスなイメージが生まれ、離脱されてしまう時代です。
こうした理由から、候補者体験を下げないための適切なプロセス作りが人事に求められています。応募チャネルごと、そして候補者一人ひとりの文脈に沿ったプロセスで、マッチングを図っていく必要があるでしょう」
人事担当者の採用マーケティングを加速させる採用管理システム「sonar ATS」
Thinkings株式会社は2012年から「sonar ATS」の提供を開始し、この10年間で約1,200社を超える多くの企業の採用を支援してきた。
「sonar ATS」の開発に至った着想の原点は、吉田氏の前職となる採用コンサルタント時代の経験だと同氏は語る。人事担当者の忙しすぎる実態を目の当たりにしていた同氏は、人事担当者が煩雑な業務にリソースを奪われてしまい、本来の人事の業務である適切なマッチングになかなか向き合えていないという課題に着目した。
「コンサルタント時代、多くの人事担当の方が、履歴書のコピーや仕分け、日程調整などの煩雑な業務に時間を奪われているのを見ていました。本来なら、将来の採用戦略の企画や、選考を通過した候補者に対して時間を使うべきなのにそれができていない……そんな状況を課題に感じていました。
忙しいがために候補者一人ひとりに向き合えず、ピントが合わないまま、候補者をぼんやりとした塊、つまり『マス』で捉えてしまっているんです。すると結果的に本来採用できるはずの人を採用できなかったり、たとえ採用できたとしてもミスマッチが起こったりします。つまり、採用ターゲットの『解像度』が低いまま採用していることが、大きな懸念点でした」
人事担当者の抱える課題を解決したいという思いから開発に至ったのが、採用管理システム「sonar ATS」だ。「採用の解像度を上げる」「真のマッチングを実現する」をビジョンに掲げ、サービスを通じて「より良い採用活動」の実現を目指している。
「より良いマッチングを行うには、採用の『解像度を上げる』ことが大切だと気づきました。着想のヒントとなったのは、私が前職(双日株式会社)で米国駐在した際に現地で触れた、SFA(営業支援)ツールです。SFA(営業支援)ツールの『購買プロセスを可視化・自動化することで、顧客と向き合う時間を確保し受注につなげる』という一連の流れが、採用プロセスに似ていると感じたんです。応募から入社後の活躍までのプロセスを設計し、可視化して段階を踏みながら進捗管理をしていく。これをすべて自動化することができたら、一人ひとりと向き合い、1対1の採用が実現できるのではないかと思ったのが『sonar ATS』の提供に至った経緯です」
採用プラットフォーム「sonar HRテクノロジー」には、採用管理システムの「sonar ATS」とマーケットプレイスの「sonar store」という2つの主力サービスがある。採用におけるあらゆるプロセスを誰でも簡単にデザインできるsonar ATSで、一人ひとりに合わせた採用を実現し、その中で見えてきた課題に対してsonar storeから外部のHRサービスを購入して課題解決を図る仕組みだ。この2つのサービスの組み合わせにより、採用を全面的に支援するというビジネスモデルを展開している。
「sonar ATSは、さまざまな採用チャネルと連携しているため、すべての採用の一元管理ができます。例えば、IndeedやOfferBoxなどからの応募は即座にsonar ATSに取り込まれ、sonar ATS上でやり取りができるため、候補者とやり取りするツールの一本化が可能です。取り込んだあとは、『リファラルからの候補者用のプロセス』や『一次面接で高い評価がついた候補者用のプロセス』など、採用チャネルやステップごとにオペレーションを自由に設計できます。
また、プロセスを細分化すると、どうしても対応が複雑になり業務が増えてしまいますよね。そのためsonar ATSは、生産性をあげるための自動化機能も備えています。具体的には、会社説明会前日のリマインドや、一次面接に合格したあとの2次面接の日程調整など、人事担当者が行っているさまざまなオペレーション業務を自動で行います。こうして採用担当者の負担を抑えつつ、『1対1』で向き合った採用を可能にしています」
sonar ATSは進捗管理や自動化のほかにデータ分析にも長けており、社内の採用の状況を簡単に把握し、課題を見つけることができる。そのため、効率よく予算を振り分けたり、課題への対策を打ち出したりすることも可能だ。
「例えば、どの応募経路から一番効果が出ているのかが一目瞭然にわかるので、効果が出ているところには追加予算を投下し、効果のないところの予算は別の施策に当てていく、という決定がしやすくなります。セールスマーケティングの世界では当たり前に行っていることですが、採用で同じことが出来ている企業はまだまだ少ない印象ですね。
さらにsonar storeでは、課題に応じたHRサービスを購入できます。外部のHRサービスとのAPI連携数は採用管理システムの中でNo.1の数を誇っており、『候補者を集める領域』『マッチングする領域』『入社後の労務・タレント関連領域』の3つのカテゴリから選んでいただけます。この『採用管理システム×HRサービスのマーケットプレイス』という組み合わせは、他にはないユニークな仕組みだと評価を頂いています」
多くの採用管理システムは自社が運営する求人媒体との連携サービスであることが多いため、他社の媒体やツールとの連携は難しく、sonar storeのような多岐にわたる外部サービスを集約するマーケットプレイス事業は展開しにくいという。この2つの組み合わせによる採用支援のビジネスモデルは、まさにThinkingsだからこそできる強みだ。
一人ひとりに向き合った採用を支援するため、業務の可視化や効率化を図るテクノロジーを提供する同社。しかし吉田氏は「人事担当者にはまず、1対1で候補者と向き合った採用をアナログでも行ってみてほしい」と語る。
「採用において、一人ひとりに向き合うことが大切だと理解した上で、まずは1対1を意識して取り組んでみてほしいです。すると必ず、時間やリソースなどさまざまな壁に直面します。そこで初めてテクノロジーで解決できることと人が行うべきことの仕分けができ、テクノロジーを導入すべきかどうかの検討や、マーケティング的な考え方の応用につながると思います。
また、採用を成功させるためには『自社がどういう人を採用したいのか』を明文化して解像度を上げることも必要です。ペルソナとも言いますが、ただ単にこの職種に何名欲しい、といったぼんやりとした目標ではなく、『自分たちが何者で、どういう人に仲間になってもらいたいのか』を言語化して社内で共有していく。それを突き詰めることで、自社が求めている人たちがどこにいて、出会うためにはどうすれば良いのか、という道筋が見えてくるでしょう。一番大切な採用の本質は『一人ひとりに向き合う』ことです」
「ヒト」全体を支える企業に
「sonar HRテクノロジー」は、煩雑化する業務の中で人事担当者が「1対1」で候補者に向き合えるよう支援してきた。さらに吉田氏は、採用だけでなく経営資源としての「ヒト」全体を支えていきたいという。
「『ヒト』の課題は求人に現れやすいと考えています。そのためにまずは求人に注力し、企業がヒトで困ったときは『sonar』を一番に想起してもらえるポジションを目指してサービスを育てていきたいです。
さらにもう少し中長期的な目標としては、『採用の再定義』を目指しています。今の採用は、求人から入社までをゴールにしている企業がほとんどです。しかし、本来は入社して活躍している状態がゴールであり、それを逆算して設計すべきだと我々は考えています。入社したら終わりではなく、入社して活躍するまでを可視化・自動化し、伴走していくことが採用だと、社会に向けて再定義していきたいと思います。
採用が難しい今、一人ひとりと向き合うことが大事だと再三お伝えしてきましたが、企業と候補者がそれぞれ対等に向き合うことによって、入社後のパフォーマンスも上がっていきます。それが企業のビジョンや成し遂げたいことの実現だけでなく、日本や社会へ与えるインパクトにもつながると考えています。採用はその『起点』であり、一番最初のきっかけになる部分です。採用にこだわってより良い採用を実現していけるよう、我々から情報を発信していきたいと思います。企業が必要とする『ヒト・モノ・カネ』の3つのリソースのうち、『ヒト』の入り口である採用からお手伝いしていくイメージです。そして、長期的には『ヒト』の全体を支えられる企業を目指したいですね」