トップ企業の人事に聞く、人材育成と人材採用

(写真左)平岩 力氏
ひらいわ・りき/1984年生まれ。成蹊大学卒業後、2007年にセプテーニグループ入社。人事・営業と経験し、2015年にインターネット広告事業の採用部門を立ち上げる。後に、開発に特化した子会社の取締役として人事領域を兼務。現在はインターネット広告事業の事業会社人事として、採用・育成等を担当。

(写真右)西村 晃氏
にしむら・あきら/1983年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、証券会社、フリーランスでのコンサルタント、Sansan株式会社での採用責任者等を経て、2019年1月より株式会社カケハシに人事としてジョイン。個人として企業の人事コンサルティングやコーチングにも従事している。

2019年4月4日(木)『トップ企業の人材育成力 ― ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』が発売された。組織の歴史から、経営との連動、組織開発、HRTech、採用、育成、コミュニティなど各分野の専門家が、理論と実践的なケーススタディの両面で、人事担当者が経営に近づくための知が詰まっているHRog編集部注目の一冊だ。

本書のテーマである「人材育成」と「人材採用」について、著者であるセプテーニ平岩氏とカケハシ西村氏の2名に話を聞いた。

人材育成は曖昧なことだらけ

ヒトは「育てる」のか「育つ」のか、まずは人材育成についてセプテーニ・平岩氏の見解を聞いた。

「ヒトは『育てるの?』『育つの?』と聞かれると、意外と答えに困りますよね。おそらく多くの方が『育てる』と『育つ』それぞれの実体験があり、明確に答えることが難しいのだと思います。関係を整理すると、主語が異なります。『育てる側』は上司目線で『育つ側』は部下目線です。一方、人事の目線では、『育てる』『育つ』の二元論ではなくどちらも大事で、“ヒトは狙って『育てる』ことで『育つ』”というプロデュース側の目線が重要だと思います」

また「『育てる』と『育つ』は非常に曖昧で、現場のブラックボックスであることが多いです」と平岩氏は続ける。

「人材育成は効果測定が非常に困難です。これをやったから能力が○○ポイント上がりました、というものが基本的にはありません。なので、この人の下ならメンバーが勝手に『育つ』、あの人はメンバーを『育てる』のが上手、という感覚はあるものの、人事にとってはブラックボックスです。この感覚的な部分をしっかりと定義してデータ化し、科学できる状態を作ることが重要だと考えています。データが全てにはなりえませんが、科学的アプローチにより人材育成の確率(効率)を上げていくことは十分に可能だと考えています」

データ活用で変わる人事の役割

では、人材育成を科学するとは具体的にどういうことなのだろうか。

「セプテーニグループ(株式会社セプテーニ・ホールディングス/人的資産研究所)では、
『“人が育つ”を科学する』というコンセプトの下、ピープルアナリティクスの活用を積極的に推進しています。当社では常に『育成方程式』という概念に基づき、採用・配置・育成の各施策を提供しています。

具体的には、一人ひとりが持っている個性と、チームと仕事で構成される環境とを掛け合わせ、個性と環境の相性が良ければ良いほど本人、ないしはその成果も成長曲線を描く、というものです。例えば、新入社員の配置におけるチーム(T)の相性という観点では、基本的に同タイプのマッチングレベルが最も高いです。個性がAタイプの上司の下には、同じくAタイプのメンバーを配置するイメージです。仕事のスタンスや進め方などの考え方のクセが近く、メンバーは上司の良い所(武器)を 真似しやすい。結果、職場適応のスピードも早い傾向にあると考えています」

人材育成でデータを活用するようになったのは、実は新卒採用がキッカケだった。

「『マネー・ボール』(著:マイケル・ルイス)という本をご存知ですか? 同書は、基本的にはエンターテインメント仕立ての物語として描かれる小説です。アメリカのメジャーリーグを舞台に、資金力のない弱小球団が、独自の野球理論により豊富な資金力をもつ強豪チームを打ち負かし、リーグを制覇するという実話が基になっています。その勝ち方は、強豪チームのように『スター選手を高年俸でスカウトする』ということはせず、自分たちの独自の指標で選手を目利きするというものです。その代表的な指標が『出塁率』です。アマチュア時代に際立った成績を残した選手ではなく、メジャーリーグの試合で勝てる選手をスカウトすべきである、ということが書かれています」

「当社のピープルアナリティクス活用の起源になる一冊です。『マネー・ボール』の野球理論を採用の世界に応用すると、内定を複数取るような採用市場で人気のある人ではなく、自社でプレーヤーとして活躍する人を事前に目利きできるようになろう、ということになります」

「当時のセプテーニグループは、事業は非常に速いスピードで成長する一方、ヒトの供給もマネジメントのレベルも追いつかないという苦しい時期でした。新卒採用においては、100名を超える採用目標に対しかなり苦戦した記憶があります。『他社と採用競合せず、自社で活躍する人材の採用ができないか』。こんなことを試行錯誤する日々でした」

「当社では、採用ターゲット設定にあたり、社内で活躍しているのはどんな人なのか、活躍している人を定義することから始めました。もともと20年ほど前から『360度サーベイ』という人事考課制度を取り入れていました。部門の分け隔てなく、一人当たり約20〜50名が匿名で評価をつけるというもので、その平均値が高ければ高いほど『評判がいい』というわけです。このデータをもとに、活躍している人を定量的に分析し、2009年頃から、社員情報や組織情報、査定情報などのデータ蓄積を始めます。各所に散らばる人事関連データをアナログに集めることは大変苦労したと聞いています」

蓄積し続けたデータはAIを通し、採用活動をブラッシュアップさせていく。

「当社の新卒採用では、学生の『個性』『取り巻く環境』『行動』を中心とした情報から、入社後のパフォーマンス予測を行っています。具体的には、パーソナリティ診断(株式会社ヒューマンロジック研究所提供のFFS診断)やエントリー時のアンケート、過去の行動履歴など約100の項目から、過去の社員のパフォーマンスを参照して、応募者の活躍度の予測をしています。基本的に面接は役員面接の1回のみで、その他の選考は定量的なデータを取得する目的で行っています。

ステップとしては、通常の選考フローでは、エントリー後にWEB上でパーソナリティ診断を受検してもらい、その後グループワークを2回行っています。ここでは、人事の目による行動確認と、学生同士の他者評価(360度評価)から行動情報を取得します。グループワーク選考を通過した学生には、役員面接に進んでもらいます。役員面接では、学生時代などの過去における環境や行動について話を聞きながら、パーソナリティの情報をもとに行動確認を中心に行っています。このように、定量的なデータから選考基準を設けて、一般的な選考に見られる『複数の主観的な判断の連続』を防ぎながら、学生への負担が大きい面接回数を最小限にとどめた採用活動が行われています」

新卒採用でこのようなデータ活用ができるようになるまでには、セプテーニグループ内で何年もの試行錯誤が繰り返されたという。データ蓄積と検証を重ね、選考時のパフォーマンス予測と入社後の成果(営業成績等の定量的な評価が可能な情報)を紐解いていくと、そこには正の相関が実証できた。こうした取り組みにより、採用活動における人事の役割にも徐々に変化が起こった。

「採用活動におけるアセスメントはある程度AIでカバーできるということが分かったため、採用担当はアセスメント以外のマーケティングやクロージングの活動に重点を置く体制にシフトしていっています」

入社後の活躍をKPIにした新卒採用、および配置・育成の考え方が人事の役割を変化させている。優秀なマーケティング経験者やコミュニケーション力の高い営業経験者が採用領域で活躍する理由も納得だ。

採用活動は”ファン”を作る仕事だ

続いて、採用を科学する観点で今後の人事担当に求められることについてカケハシ・西村氏に聞いた。

第一に西村氏は「『こんな楽しい仕事、他にはない』と思っている採用担当がいる会社は採用に強い」という。彼が提案している「IJAICモデル」に基づいて話してくれた。

IJAIC(アイジェイク)とは

Introduce
会社や事業、社員などを適切に紹介する機能(会社紹介や社員紹介など)

Judgement
面接などの候補者とのやり取りを通じて、自社とのマッチ度を判断する機能(書類選考や面接での評価など)

Attrarct
候補者に対して、自社を適切かつ効果的に魅力づけする機能

Impact
候補者の人生における、自社との出会いの価値を最大化する機能

Coordinate
候補者の応募から入社までのフローを適切に進めていく機能(日程調整や面接官アサインなど)

「なかでもAttractとImpactは重要で、楽しい業務です。自分の大好きな会社をより知ってもらってファンになってもらえるAttract、人に対していい影響を与えられるImpactの2つは正に候補者を『口説く』業務と言えます。今はインターネットを通じて簡単に企業を知ることができ、転職先の選択肢が増えている時代です。候補者と深いコミュニケーションをすることが難しくなっているからこそ、このAttractとImpactの重要度が増しています」

採用対象者の違いによってもその重要度は変わってくる。

「新卒やジュニアの中途採用はKPIの採用の側面が強いと考えています。どういう属性の方と何名会って、何名が選考を通過するというような、マーケティングでいうファネルの考え方です。そしてKPIの採用の反対側にはROIの採用、つまり、1人が入社したら会社が変わるような採用があります。ROIの採用はデータだけでは実現できない部分もあると思っています。会社として入口のマーケティング部分にAttractとImpactの能力が弱ければそもそも会えないですし、会ったとしても人事担当としてその二つの能力が高くなければ、現職でハイパフォーマンスを出されている方に自社を選んでいただくのは難しいと思います」

西村氏が重要視するAttractの機能は自社だけで完結しなくてもよいのだと言う。

「まず、リファラル採用はAttractの究極系です。自身がその企業で活躍しバリューを発揮できていることが友人に伝わっていることは、Attractがある程度完了している状態と言えます。ですので、選考フローにおける他社とのバッティングが少ないのが特徴です」

「Attractにどれだけ人材紹介のエージェントさんなどのステークホルダーを巻き込めるかも採用活動において重要です。エージェントさんが素敵な候補者とお会いされた時に、他企業に紹介する前に自社に紹介してもらうなど、代弁者を増やすことでAttractを外注化することができます。自身の経験に基づいた話ですが、いま思えば一種のマーケティング活動だったと思います」

過去にエージェント業も経験している西村氏。エージェントを巻き込むうえで、エージェントの気持ちを理解することが重要なのだという。

「面談した候補者が気分を害される対応をされたり、フィードバックもろくにもらえなかったりすると、もうこの会社へ推薦するのはやめようという気分になりますよね。候補者の人生に触れているという自覚があれば、必然的に落選者に対しても本気で向き合うことになるはずです。高評価の人を通過させることは誰でもできる一方で、落選者の方にとって意味のある面談や面接ができれば、エージェントも候補者の方も自社のファンになってくれます」

候補者の方やエージェントの心情や目的を考えて行動しなくては、候補者と会った数だけ嫌われることになりかねないということだ。

P/L型の採用とB/S型の採用活動

候補者やエージェントとの関係にあるように、西村氏はアセットが重要だと言う。

「採用担当は、実は無責任にできてしまう部分もあります。いつまでにいくらで何人採用して、というような短期のKPIに対して『3人採用したから後はよろしく』というように、スポット型の仕事の感覚をお持ちの方も多いのではないかと思います」

「他にも、新卒採用において『1年のフローが終われば、また次の1年も同じフローで行う』というように、仕組みを新しくしなくてもある程度機能していれば、回し続けることでKPIを達成することができるという考え方です」

このような短期的なP/L型の採用に対し、長期的な視点でアセットを大きくしていくというのがB/S型の採用だ。

「辞退者とのネットワークを作ることや、パートナーとなるエージェントとの関係を築くことは、長期的な視点でB/Sにおける『資産』を大きくしていこうという発想です。採用活動でコミュニケーションを取る度にアセットを大きくしていく。辞退者の辞退理由や転職先など、貯めようと思えば貯められるデータは多くあります。それを元にアセットを大きくしていかなければ、自転車操業的な採用活動から脱却することはできません」

採用活動におけるアセットは候補者のデータと自社のブランドだ。

今回ご登場いただいたお二人は書籍本編で以下の内容について語っている。より深く学びたい方はお見逃しなく。

第 2 章 実務家による育成論 ヒトは「育てる」のか「育つ」のか?
株式会社セプテーニ 平岩 力
2 – 1 「 育てる」観点からみたヒトと、「育つ」観点からみたヒト
2 – 2 「 育てる」と「育つ」を整理して考える
2 – 3 人材育成担当の働き方 OS をアップデートする
2 – 4 未来の人材育成について考える
2 – 5 人材育成に関する経営からの問いにロジックで答える

第 3 章 トップ企業の「採用
株式会社カケハシ 西村 晃
3 – 1 最高の仕事「採用」 そして、その成功とは
3 – 2 採用に関する経営からの問いに答える
3 – 3 採用活動における採用担当の役割
3 – 4 一流の採用担当になるための成長ステップ

トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか
276ページ
出版社: さくら舎 (2019/4/4)
北野 唯我 (著, その他), 平岩 力 (著), 西村 晃 (著), 西村 英丈 (著), 西村 隆宏 (著), 寺口 浩大 (著), 堀 達也 (著), 白石 紘一 (著)

(HRog編集部)