立ち上げ1年で応募数を2倍にしたオウンドメディアの作り方

株式会社じげん経営推進部
広報マネージャー
杉原麻裕子
すぎはら・まゆこ/青山学院大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て2005年に株式会社ボルテージへ入社。総務・財務を担当しIPO業務に携わる。東証一部上場後に広報部を立ち上げ、同社執行役員広報担当に就任し、コーポレート広報・採用・IRを管轄。2019年1月、株式会社じげんに入社。企業広報、サービス広報(グループ会社含)、社内のエンゲージメント向上施策の設計など、じげんグループの広報業務を幅広く担当。

自社の理念や組織文化の理解を促し採用につなげるために、オウンドメディアを立ち上げ運営する企業が増えている。しかし「閲覧数がなかなか上がらない」「採用効果が上がってこない」「社内の理解を得られず記事作成がうまくいかない」などの理由で、運営を継続できていない企業も多いのではないだろうか。

今回は株式会社じげんの広報マネージャーで同社のオウンドメディア『OVERS』の運営責任者でもある杉原氏に、社内外にファンを作るオウンドメディアの作り方を伺った。

「組織のブランド確立」を目指してオウンドメディア立ち上げ

同社がオウンドメディアを立ち上げた背景にはどのようなものがあったのだろうか。

「私が広報マネージャーとして入社した2019年1月ごろ、じげんの代表である平尾と広報の課題について話し合ったときに『じげんは代表のイメージが強すぎて、他のメンバーや会社の組織風土が世の中に伝わっていないのではないか』という意見を伝えたのがきっかけです」

「じげんは2018年にマザーズから東証一部に株式市場を変更したこともあり、代表平尾のメディア露出は増えていました。しかしその成長を支えている平尾以外の経営幹部や従業員が表に出ることは当時はあまりありませんでした。また急成長しているということは知られているものの、誰に向けてどのようなビジネスを展開しているかもほとんど知られていない状況でした」

そして代表とディスカッションを重ね、代表個人のブランドだけではなく会社組織としてのブランドイメージを確立する目的で社内の情報を発信するオウンドメディア『OVERS』を立ち上げることが決まった。

「『OVERS』のコンセプトは、『挑戦する人を応援するメディア』です。じげんの中で挑戦をしているメンバーたちの魅力を伝えるのはもちろんのこと、社外の方を取材したり、他メディアとのコラボレーションができるような作りにしたりなど、社内外の人に興味を持ってもらえるようなメディアづくりを心がけています」

指標を追い過ぎず「コンテンツの質」を徹底したメディアへ

会社組織としてのブランドイメージを確立するというミッションを掲げ、オウンドメディアの立ち上げを行った杉原氏。同氏が一番はじめにしたことは、もうすでにオウンドメディアを運営している企業に足を運び、オウンドメディア運営のコツを教えてもらうことだった。

「オウンドメディアを運営している企業のみなさんが口を揃えておっしゃっていたのが、『目標数値を追いかけすぎず、継続することが大切』ということでした。メディアはもともと長期で投資を行うべき施策で、初期のうちから数値目標を追いかけすぎると途中で挫折してしまうからです。そこで『OVERS』は広報管轄であるという利点も活かし、採用数を追うメディアではなく、企業広報的な要素も加えたメディアという立ち位置にしました」

また『OVERS』は3ヵ年計画で目標を立てているという。新規ユーザー数や入社者の行動変容といった定量的な中期の目標は立てているものの、直近は記事本数、すなわち毎月定期的に記事をアップすることを一番重視しているらしい。

「実はメディア立ち上げ時の際には、『コンバージョン数をどのように上げるのか』『セッション数を高めるには何をすればいいのか』といったじげんらしい定量目標に関する意見を社内からもらうことも非常に多かったです。しかしオウンドメディアの場合は、数値に固執しすぎると継続が難しくなるという社外の方のアドバイスもあったため、まずは数値ではなく継続することが大切なのだという周知を行いました」

オウンドメディアを継続して運用していくためには、成果がすぐに数値に現れるわけではないということを社内の人にきちんと認識してもらったうえで、中長期的にメディア運営ができる体制を作っていくことが重要なようだ。

「数値目標を厳格にしない代わりに、世の中の潮流やじげんの経営・事業を意識しながら伝えていきたいことをタイムリーにコンテンツ化していく、という広報の基本的な考え方は非常に大切にしています。その結果、『OVERS』は社内のメンバーに会社の今の方向性を伝える社内報の役割も担っています」

また杉原氏は『OVERS』を立ち上げる前から、経営陣にメディアのコンセプトを伝え、意見を交わすようにしていたという。

「広報は私を含めて2名体制です。事業の領域も広くサービスも30以上ある中で、少ないリソースで『OVERS』の安定した運営を実現するためには、社員の協力が不可欠です。そこでメディアを立ち上げる前から経営陣にコンセプトや会社におけるメディアの立ち位置、意義を共有することで、経営陣の協力を得られるようにしていました。その結果、記事作成時にも社員の協力を得られやすくなっていると感じています」

「加えて運営時にもこまめに現場とやり取りを行い、目立たずとも評判になっている社員には個別にコンタクトを取り、話を聞くようにしています。記事によっては採用チームのメンバーが編集業務を手伝ってくれるなど、社内のメンバー全員で『OVERS』をつくるという風土が出来上がってきていると思います」

採用だけではなく社員エンゲージメントにもつながるツールへ

社内の協力と理解を得るための試行錯誤を行いながら運営を続けてきた『OVERS』。運営を継続したことでどのような効果が得られたのだろうか。

「結果的に、『OVERS』経由で直接応募してくださる求職者の方の数は2倍以上に増えました。実際にそこから採用できる人数も増えています。またエージェントの方にも『OVERS』を読んでいただくことでじげんの組織文化を理解してもらうことに役立っています」

また採用だけではなく、思わぬ副次的な効果もあったという。

「じげんは年間数件のM&Aを実施するため、新しいメンバーが時に数十人、それ以上の単位で増えることもあります。その方たちがじげんを知るツールとして『OVERS』が役に立っていますし、彼らを取材することで既存社員もタイムリーに社内について知る事ができるようになりました。これまでじげんには社内報がなかったのですが、『OVERS』ひとつで社内外への情報発信ができる良いツールに成長しています」

「また若手の社員には、インタビューしてもらえるように頑張ります!と声をかけてもらえたり、過去インタビューした社員から、親に見せたらすごく喜んでいましたと言ってもらったりする機会も増えました。『OVERS』を通じて社内のエンゲージメントも高められていると感じています。これからも、各ステークホルダーの方々を意識してバリエーション豊かなコンテンツを配信することで、社内外にじげんファンを増やしていきたいと思っています」