技能実習・特定技能はどう変わる?現状の問題点と変更案を解説

労働力人口の減少や日本経済の低迷を受け、外国人雇用の拡大を目的とした技能実習・特定技能制度の見直しが進んでいます。今回の記事では、現行の制度にはどんな問題があり、何が見直しの争点になっているのかを分かりやすく解説します!

技能実習制度・特定技能制度とは?

まずは技能実習制度と特定技能制度がどのようなものなのかを確認しましょう。

技能実習制度のしくみ

目的と成り立ち

技能実習は、人材教育を通じて開発途上地域等に技能・技術・知識を移転し、国際協力を推進することを目的としています。労働力の確保が目的ではありません。

1960年代、海外に拠点を持つ大企業向けに現地法人の社員研修として「研修制度」が創設されました。1980年代ごろからは中小企業でも人手不足感が高まり、海外人材を受け入れようという動きが強まります。こうして1993年に「研修制度」を前身として生まれたのが技能実習制度です。

要件

上記の目的のため、習得する技能等が単純作業でないことや母国では習得が困難なものであること、帰国後に本国への技能等の移転に努めることなどが要件とされています。

対象職種・作業

農業系、漁業系、建設系、食品製造系、繊維・衣服系、機械・金属系、その他からなる87職種159作業が対象となっています(2023年5月時点)。中でも建設系や飲食製造系は実習生が多く、また近年ではインバウンド需要によって「宿泊」が増加しています。

在留資格

技能実習生は最長5年働くことができます。在留期間のうち1年目を1号、2,3年目を2号、4,5年目を3号と呼び、各号に移行するにはテストに合格する必要があります。

特定技能のしくみ

目的と成り立ち

特定技能は、国内人材を確保するのが難しい産業分野において、専門性や技能を持つ外国人材を受け入れて人員を充足することを目的とした在留資格です。少子高齢化によって労働人口の不足が深刻化してきたことから創設され、2019年4月より受け入れが開始されました。

要件

特定技能を取得するためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。

・日本語と技能の水準を測る「特定技能評価試験」に合格する

・「技能実習2号」を良好に終了し、「特定技能1号」に移行する

対象分野・作業

介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の計14の分野が対象となっています(2023年5月時点)。農業と漁業のみ、派遣での雇用が可能です。

また、「特定技能2号」の対象となるのは建設と造船・舶用工業の2分野のみとなっています。

なお、2022年4月の閣議で素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業を統合し12分野に再編することが決定されましたが、実施時期は未定です。

在留資格

「特定技能1号」は「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」と定められており、最長で5年働くことが出来ます。対象は14分野全てです。

「特定技能2号」は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」であり、「特定技能1号」を修了した人だけが移行できます。資格を更新する限り、上限なく長期就労が可能です。対象は建設と造船・舶用工業の2分野です。

技能実習と特定技能の違い

技能実習と特定技能の最も大きな違いは、その目的です。

技能実習は技術・技能の移転による国際貢献を目的としているため、単純労働が認められていないほか、永住や家族の帯同もできません。一方で、特定技能は労働力確保を目的としているため単純労働が可能であり、特定技能2号を取得すれば永住や家族の帯同も認められます。

その他、主な違いは以下の通りです。

現行制度の問題点

現在の技能実習制度・特定技能制度について、以下のような問題点が指摘されています。

技能実習の目的が形骸化している

技能実習の本来の目的は「技能移転による国際貢献」にあります。しかし、この制度が労働力確保に利用されている実態があり、目的の形骸化が問題視されています。裏を返せば、技能実習と特定技能が実質同じ目的で利用されているにもかかわらず、異なる制度として存在しているため手続きが煩雑になっているとも言えます。

技能実習現場における賃金未払いや人権侵害

技能実習現場では、受け入れ企業からの賃金未払いや不当な長時間労働、暴行や暴言による人権侵害などの問題が度々起こっています。実習生は原則転職・転籍が認められないため、不当な扱いを受けても相談や交渉が難しい現実があり、国際的にも批判を受けてきました。管理団体による監査・支援体制が不十分であることも、問題の温床になっていると指摘されています。

また、多くの技能実習生は送り出し機関に支払う手数料や保証料をまかなうために多額の借金を背負っており、労働環境の問題も重なって日本国内での失踪や不法就労の原因となっています。

長期的な労働力確保・経済成長が難しい

特定技能制度のもと外国人材が活用されることで、人材不足の解消や経済成長などの効果が見込まれます。しかし特定技能1号は最長5年の期限付きであり、無期限の2号は対象が少ないため、その効果は限定的なものと言えるでしょう。長期的な労働力確保と日本経済の改善のためには、長期就労できる外国人労働者を増やすべきとの意見があります。

キャリアパスを描きにくい

技能実習から特定技能に移行する実習生は多いですが、技能実習制度の対象職種と特定技能制度の対象分野が一致していないため、一貫したキャリアパスを描きにくいという課題があります。外国人材に長期就労を求めるならば、技能実習から特定技能へシームレスにつながる体制を作る必要があります。

見直しの内容

上記のような問題点を踏まえ、政府は2023年6月9日、「特定技能2号」の対象分野の拡大を決定しました。また、2022年12月より7回にわたって技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議が開催されました。現在示されている主な方針についてチェックしていきましょう。

「特定技能2号」の対象拡大

日本での永住が可能な「特定技能2号」の対象が、現在の2分野から11分野まで拡大されます。追加対象となっていない介護分野については、特定技能とは別に「介護」という在留資格が存在するため、実質的には特定技能の対象分野すべてで永住が可能になります

特定技能制度が始まったのは2019年で、2024年5月以降は特定技能で働く人材が順次帰国を迫られるため、関係省庁から拡大を急ぐ声が出ていました。政府は2023年6月に拡大の方針を閣議決定しました。

追記:2023年8月31日、「出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令の一部を改正する省令」が施行され、特定技能2号の対象分野が追加されました。

技能実習制度の廃止と代替制度の設立

「国際貢献」を目的とした現行の技能実習制度は廃止し、「人材確保と人材育成」を目的とする新たな制度の創設を検討しています。特定技能制度は存続とし、支援体制の整備や新制度との関係性などを引き続き議論していく方針です。

新制度と特定技能制度の対象分野を一致

技能実習制度の代わりに創設する新制度では、外国人材がキャリアパスを描けるよう、対象職種を特定技能制度の対象分野と一致させる方針です。同時に、育成・評価のあり方についても議論が必要だと考えられています。

転籍制限の緩和

技能実習制度の代わりに創設する新制度では、転籍不可の制限を緩和する方針です。ただし、人材育成という目的や受け入れ企業が負担するコストなどを鑑み、どの程度緩和するかについては引き続き議論を行います。

管理団体や支援体制の見直し

管理団体や登録支援機関の存在意義を認める一方で、人権侵害等に対処できない管理団体や適切な支援が行えない登録支援機関については適正化・排除を厳格に行う方向です。また、悪質な送出機関の排除に向け、二国間での取り締まりを強化します。

その他にも、受け入れ見込数の設定等の見直しや、外国人の日本語能力の向上に向けた取り組みなどについて議論が進んでいます。

見直しによってどんな影響がある?

制度の見直しによって、以下のような影響が考えられます。

外国人を雇用する企業の増加

技能実習制度における人権侵害が国際的に批判されていたこともあり、これまではグローバル的な展開をおこなう企業を中心に、制度の利用を躊躇する傾向がありました。技能実習制度が廃止され、諸問題を解決する新制度が設立されれば、外国人採用に踏み出す企業は増えると予想されます。

日本で長期就労・永住する外国人の増加

「特定技能2号」の対象が拡大されれば、「1号」を取得しているすべての人に日本定住の選択肢が開かれます。「2号」は家族の帯同が可能なため、労働者の家族も含め日本で暮らす外国人の人口は増加するでしょう。

それに伴って必要になるのが、外国人が生活しやすい環境の整備です。日本語が不自由な状態で行政サービスの手続きや保育園探しなどを行うことは難しく、周囲のサポートが必須になります。

中長期の滞在や定住の増加を踏まえ、文化庁は地域による日本語教育の内容を拡充するよう要請しています。しかし自治体によっては財政事情が厳しく、対応のハードルは高いと言えます。

外国人の都市部への移動

転職制限の緩和によって、好条件の業界や都市部の企業への移動が起こり、人材受け入れ先の偏りが生まれるのではないかと懸念されています。地方企業が「入国の足がかり」として利用される可能性があり、緩和の程度については慎重を期すべきだとの意見もあります。

まとめ

特定技能2号の拡大については2023年6月、技能実習制度の見直しについては2023年秋ごろの決定を目指して議論が続いてます。いずれにしても、日本で働く外国人材は今後増加していくでしょう。

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