二重派遣とは?禁止理由や罰則を具体例を交えてわかりやすく解説

二重派遣とは、派遣会社から派遣された労働力を、別の会社に供給して供給先の指揮命令下で働かせる行為のことを言います。二重派遣は法律により禁止されている違法行為であり、違反した場合には罰則が科せられます。この記事では、二重派遣の仕組みや罰則、禁止されている理由などをくわしく紹介します。

二重派遣とは?

二重派遣とはどのような状態のことを指すのでしょうか。まずは、二重派遣についての基礎知識と注意したいケースについて解説します。

「二重派遣」は罰則のある違法行為

二重派遣とは、派遣会社から受け入れた派遣労働者を、派遣先企業が新たな労働者の供給元となり別の企業に再派遣することを指します。職業安定法と労働基準法により禁止されている、罰則のある違法行為です。

例えば、次のようなケースが二重派遣に該当します。

・派遣会社から派遣労働者を受け入れたA社が、派遣労働者をB社に派遣した場合

派遣先のA社が、受け入れた派遣労働者を自社の業務には就かせずに別の企業であるB社に再派遣し、B社から仲介手数料を得ているケースが該当します。

通常の労働者派遣の場合、派遣会社と雇用契約を結んだ派遣労働者は、派遣先企業で指揮命令を受けて業務を行う必要があります。しかし上記のケースは、派遣先企業のA社が第三者であるB社に再派遣している、典型的な二重派遣です。

派遣先企業が雇用関係のない労働者を別の企業(供給元)に再派遣する行為は「労働者供給」といいます。この労働者供給事業は、職業安定法第44条により一部の場合を除いて禁止されている行為のため違法となるのです。

【注意点】二重派遣の抜け道「偽装請負」とは

形式的には請負契約をしつつ、実態としては二重に労働者を派遣していることがあります。このことを偽装請負と言います。

<偽装請負の具体例>

派遣先企業のA社が、請負契約を結んでいるB社から受注した業務について、B社の指揮命令のもとに派遣労働者を働かせる行為

そもそも請負契約とは業務委託の一種です。業務を委託する側と委託される側は対等な関係であり、本来は業務を請け負う労働者に対し、委託者が直接業務上の指示をすることが禁止されています。直接指示をしたい場合は、本来であれば労働者派遣契約を結ばなければならないのです。

にもかかわらず、労働者派遣という形態にした場合、労働者の派遣期間や業務などの制限があることから、あえて偽装請負の形がとられる場合があります。このような偽装請負は、二重派遣の抜け道とも言われており、当然ながら違法です。

偽装請負が違法だと知らずに行われる場合もあるため、どのようなケースが偽装請負に該当するのか覚えておく必要があるでしょう。

(参考:厚生労働省東京労働局『あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ?』)

二重派遣が禁止されている理由

二重派遣の禁止は、派遣労働者が派遣先において不当な扱いを受けないようにするためだと言えます。二重派遣となってしまった場合、派遣労働者にとってどのような不利益が生じるのでしょうか。

雇用に関する責任の所在が不明確になる

二重派遣により、派遣労働者の雇用に関する責任の所在が不明確になる恐れがあるでしょう。雇用責任が不明確になると、雇用の維持や適切な賃金の支払いをめぐり責任の押し付け合いが生じる可能性が高まります。

例えば、派遣労働者が就業中にケガを負った場合、通常は派遣会社が労災申請を行います。しかし、二重派遣先でケガをした場合、派遣会社と二重派遣先の企業との間には契約関係がないため、3社間で「責任の所在はどの企業にあるのか?」という問題が生じてしまうことが考えられます。結果として、派遣労働者の雇用を保護することが難しくなるのです。

派遣労働者が不利益を被る可能性がある

二重派遣により、派遣労働者が次のような不利益を被ってしまうことも考えられます。

・仲介手数料も二重になり賃金が引き下げられる
・労働条件が守られない

派遣会社は通常、派遣先企業が支払う「派遣料」から仲介手数料を差し引いた金額を派遣労働者に支払います。しかし、二重派遣となると、派遣先に別の企業が加わることで、本来なら発生しない派遣先企業への仲介手数料が発生するため、派遣労働者に支払われる賃金が減ってしまうのです

また、労働条件が守られないケースでは、再派遣先の企業に労働条件を勝手に変えられたり、雇用を継続する代わりに不利益な雇用条件を強要されたりする可能性があります。

二重派遣がなくならない背景

さまざまな問題がある二重派遣ですが、なかなか無くならないのが現実のようです。その背景には人手不足や企業間の力関係などが理由として挙げられます。深刻化する人手不足により派遣労働者の管理が疎かになったり、上位関係にある取引先企業の要求にやむを得ず応じたりしてしまうことがあるのです。

二重派遣を行った場合の罰則

二重派遣を行ったり受け入れたりした場合、職業安定法第44条と労働基準法第6条の規定違反となります。それぞれの法律に違反した場合、以下のような罰則が科せられます。

法律
職業安定法第44条
労働基準法第6条
罰則1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金
対象・再派遣を行った派遣先企業と労働者を受け入れた企業
※ただし、再派遣であることを知らなかった場合、受け入れ先企業は罰則の対象外
・再派遣を行った派遣先企業

(参照:厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領」)

労働基準法第6条では他人の就業に介入し不正に利益を得る「中間搾取」を禁じています。二重派遣は、再派遣を行う派遣先企業が手数料を受け取るため、中間搾取に該当し罰則が科せられます。なお、派遣会社と派遣労働者の間に雇用関係がある労働者派遣事業は、中間搾取には該当しません。

罰則をうける企業はどこか?

職業安定法第44条に違反した場合、「再派遣を行った派遣先企業」と「再派遣された派遣労働者を受け入れた企業」の双方に罰則が科せられます。労働基準法第6条に違反した場合、罰則を受けるのは「再派遣を行った派遣先企業」です。

二重派遣と知らずに受け入れた企業への罰則は?

二重派遣と知らずに派遣労働者を受け入れていた企業には、罰則は適用されません。しかし、二重派遣であることを知った後も継続して受け入れていた場合は、職業安定法違反で罰則の対象となります。

二重派遣が起こりやすいとされている業種

二重派遣はすべての職種に起こりうる問題ですが、中でも以下の業種では起こりやすい傾向にあると言われています。

・製造業の作業員
・IT業界のエンジニア

「IT・エンジニア業界」におけるIT関連の業務は作業工程が多く、必要な人数や専門性がそれぞれ異なります。そのため、下請け企業が数多く存在し、委託や再委託など多重構造になりやすいのです。

さまざまな企業と、派遣や業務委託、準委任契約といった契約を結ぶため、その際に二重派遣が発生してしまうことがあります。

「製造業」の場合、受注量の増減に応じて必要となる労働者の数が変動する体制であることが多いです。そのため、業務がなくなった派遣先企業が子会社や他社に派遣労働者を送り、働かせることで二重派遣が起こってしまうケースがあります。

二重派遣と紛らわしい契約形態

ここからは働く上での契約形態に注目してみましょう。さまざまな種類がある契約形態の中には、二重派遣と紛らわしいものもあります。「業務委託」「出向」という2つの契約の概要について紹介します。

業務委託(アウトソーシング)

偽装請負の説明でも触れましたが、業務委託とは、自社の一部の業務を他企業や個人に委託する契約のことです。業務を委託する側と委託される側は対等な関係であることが特徴と言えます。

業務委託は一般的に知られた言葉ですが、法的には「業務委託契約」という契約は存在しません。業務委託の契約形態としては、「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3種類があります。

●請負契約
請負人が業務を完遂することを約束し、依頼した企業がその「成果」に対して報酬を支払う契約形態。


●委任契約・準委任契約
成果物の有無は関係なく、業務の履行そのものに対して報酬を支払う契約形態。委任と準委任契約の違いは、委任契約が弁護士など法律行為を行うものに対し、準委任契約は法律行為以外の業務を委託する場合のことを指します。

業務委託は、委託元企業と受託企業が契約を結び、受託企業は雇用関係のある労働者に対し指揮命令を行います。依頼側の委託元企業に直接的な指揮命令権はありません。

出向

出向とは、企業が雇用している従業員を、子会社や関連企業で就業させる形態です。指揮命令は、出向先の企業が行いますが、従業員の給与の支払いは雇用する企業が行います。

注意点として、派遣労働者を出向させることは違法となります。指揮命令が出向先の企業の場合、雇用関係のない派遣労働者を労働力として別企業に供給する「労働者供給事業」にあたり、職業安定法第44条に違反する点を理解しておきましょう。

二重派遣の告発を防ぐには「派遣会社のチェック体制」が重要

二重派遣を防ぐには、派遣会社のチェック体制を整えおくことが大切です。「指揮命令系統」や「勤務実態」をしっかりと確認・把握しておくようにしましょう。派遣労働者の「就業場所」や「労働内容」が、派遣契約の内容と同じかどうか定期的にチェックします。派遣労働者が実際に就業するのは派遣先企業のため、就労環境を常に配慮し確認を怠らないのがポイントです。

労働者に直接ヒアリングを行うのも効果的でしょう。労働条件や指揮命令が実態と異なる場合は、二重派遣や偽装請負とみなされてしまう可能性があります。そうなると、労働者から告発され、行政処分や罰則を受けるおそれがあるため注意しましょう。

二重派遣の考え方を理解し業務に活かそう

この記事では、二重派遣の基礎知識や罰則、紛らわしい契約形態について紹介しました。二重派遣は、職業安定法と労働基準法で禁止されている違法行為であり、派遣労働者を受け入れているすべての企業にリスクがあります。「知らぬ間に二重派遣になっていた」ということがないよう、派遣営業の担当者は二重派遣についての理解を深め、予防に努めましょう。