今回の記事は、公認会計士 眞山 徳人氏により寄稿いただきました。
眞山氏は公認会計士として各種コンサルティング業務を行う傍ら、書籍やコラム等を通じ、会計やビジネスの世界を分かりやすく紐解いて解説することを信条とした活動をされています。
眞山氏の著書、「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」では、難解な会計の世界を分かりやすく解説しています。
「ビッグマック指数」という言葉を聞いたことがある方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
世界中のマクドナルドで販売されているビッグマック1個の価格を比較することで、各国の経済力を推し量るための指標です。
2016年5月時点での、ビッグマック1個の価格を円換算すると、このようなグラフでまとめることができます。
日本のビッグマックの価格は370円。これはビッグマックが販売されている55か国のうち、31番目の順位。これはアメリカのビッグマックの価格(585円)と比べると36%も安いため、その分だけアメリカのほうが「経済力」が強い、と言える・・・というのがビッグマック指数の考え方です。
※ビッグマック指数は「アメリカと日本ではビッグマックのサイズが全然違う」ことや「各国の消費税率にも大きな差がある」ことなど、いろいろなノイズが含まれてしまう指標であることも有名です。上記の指数の話はあくまでも参考、ということで。
こういった国ごとの経済力の比較が、世界共通のアイテムであるビッグマックを通じて行えるというのは、非常に面白いことだと思いますが、一方、日本国内では基本的にビッグマックの価格はどこでも同じです。よくよく考えてみると、住んでいる場所の物価水準や賃金水準はバラバラであるにも関わらず、ビッグマックの値段が同じというのは、なんとなーく違和感を感じないでもありません。
例えば、東京より物価の安いベネズエラに行けば、給料が安くなってしまいそうですが、ビッグマックも同様に安くなるのでそれほど困ることはなさそう。でも、東京から物価の安い国内の地方都市に引っ越したら、給料が少し下がることもありうるのに、ビッグマックは1円たりとも安くならないのです。
というわけで、今回はビッグマックを用いて、私たちの給与水準にどの程度の地域差があるのか、簡単な分析をしてみたいと思います。
今回はこんな指標を使ってみます
ビッグマック指数はビッグマックの価格を用いた概念ですが、今回は日本国内での地域差を分析したいので、全国一律のビッグマックの価格をそのまま用いても意味はありません。そうではなく、ビッグマックの価格に対して、私たちがもらっている賃金がどれくらいの水準なのかを比較する必要があります。
そこで今回は、「私たちの時給は、ビッグマック何個分なのか」を指標として用いてみます。計算式はとてもシンプル。
1時間あたりの給与/370円(ビッグマックの値段)
この1時間あたりの給与を、今回は「最低賃金」「アルバイト求人の平均時給」「正社員求人の平均給与(1時間あたりに換算したもの)」の3パターンで分析してみます。
なお、今回もゴーリストの求人情報データを活用しています。
まずは、最低賃金で比較してみる
最低賃金は、その地域で必要最低限の生活を営むために要する費用をベースに算出されています(生活保護世帯への支給金額とのバランスがとれていないという指摘もありますが、今回はその議論は扱いません)。
「最低限の生活」をビッグマックで換算すると、いったい1時間当たり何個分に相当するのでしょうか?
分析した結果が、このグラフです。
東京や神奈川では2.4個を超えているのに対して、沖縄などの地域では1.9個を下回っています。このおよそ「0.5個」の差のほとんどは住居費をはじめとした物価の違いが「最低限の生活に必要な賃金水準」に反映されているのだと思われます。
次は、アルバイトの時給で比較してみる
最低賃金で働かざるを得ない人は必ずしも多数派ではないと思いますので、今度は実態ベースでの比較をしてみましょう。すなわち、直近の求人情報から収集したアルバイトの時給を、ビッグマックの個数に換算するとどのようなことが見えてくるでしょうか。
最低賃金のグラフと比べると特徴的なのは、アルバイト時給は実は「大阪」がトップにきているということ。トップの大阪と、最下位の秋田県ではおよそ0.8個分の開きがありますが、この開きの原因は、実は最低賃金の場合とは異なり、「アルバイト人材の需給バランス」が大きく影響していると思われます。
大阪、東京、神奈川といった地域では飲食店が非常にたくさんあり、アルバイトを募集する件数がそもそも多いのですが、それに対して働き手になるような人が少なくなってきているという事情があります。学生やフリーターの方に満足してもらえるような待遇を提示しないと、都市圏ではアルバイトも集まらないという現状が、ビッグマック指数に現れています。
こうなってくると、都市圏は生活に必要なギリギリの待遇よりもずっと良い条件で人を働かせることができる、ということがわかります。そしてそれは、当然のことながら価格に反映されます。例えば、都内でランチを食べると1,200円くらいの出費になることも珍しくありませんが、消費者がこういう価格を受け入れているということは、これらの地域はやはり「経済力」が高い地域なのでしょう。
今度は、正社員の1時間当たり給与で比較してみる
アルバイトだけでなく、正社員のほうも比較をしてみましょう。正社員の求人はほとんどの場合「基本給ベースの月収」が待遇として示されていますので、簡便的に「1日8時間、月20日勤務」を想定し、月収を160で割ったものを1時間当たりの給与として用いています。
正社員の場合、やはりトップは大企業の多い東京都になります。優秀な人材を獲得するために、少しでも高い賃金を払おうという意識が、大企業や優良企業ではやはり顕著です。
第2位に福井県が登場しているのは一見意外なことにも思えますが、福井県は実は平均年収の高い企業がちらほらと存在しています。北陸新幹線が開通した以降も、福井県は依然として東京からのアクセスが悪いなど、人材を確保することに少しハンディキャップを背負っている地域でもあるのです。そのため、ゼネコンなどの地場産業でも、高い賃金を出して優秀な人材の獲得に乗り出そうという動きが強く出ています。
なお、トップの東京都と最下位の長崎県との差は約0.7個。人材獲得のために高い出費ができる地域は「経済力」が高い地域ということもできますが、この比較はあくまでも「基本給ベース」。そういう意味では、福井県よりも埼玉県や神奈川県の企業のほうが時間外手当の支出が多いであろうことを考えると、実際にはもう少し異なる順位になるべきなのかもしれません。
「ビッグマック」を使うと何が良いのか
冒頭に簡単に説明しましたが、ビッグマック指数にはいろいろな問題があり、厳密な経済指標としてはとても使い物にならないものです。今回の分析も、賢い読者さまはきっと「別にビッグマックに置き換えなくても、金額で比較すればよくない?」という突っ込みをひそかに胸に抱いていたことでしょう。
今回の分析は、世の中の建物や土地の面積を「東京ドーム」に置き換えて話をするのに似ています。私たちは無機質な数字や金額を用いて説明を受けるより、何か身近なものに置き換えられた数字を聞いたほうが、より具体的にものごとをイメージしやすくなります。
あなたの時給がビッグマック何個分か、一度計算してからもう一度この記事を読むと、見え方が変わってくるかもしれません。
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