海外M&Aで加速!リクルート決算分析(2016年3月期第2四半期)

リクルートホールディングスの2016年3月期、第2四半期決算が2015年11月10日に発表されました。
事業内容と戦略の分析をして、成長の要因と、今後の戦略を考えてみましょう。
2016年3月期第2四半期の決算説明会資料と、Business Overview2015を参照します。

単位:億円

2015年2Q 2016年2Q 増減
売上高 6,173 7,364 1,191(119.3%)
EBITDA 858(13.9%) 937(12.7%) 79(109.3%)
営業利益 534(8.6%) 522(7.0%) -12(98.8%)

売上高は昨年に比べて1千億円以上の増加となり、非常に大きく伸びています。営業利益は下がっていますが、国際的な企業の利益額を測る指標であるEBITDA(金利・税金・償却前利益)では79億円増加しています。

M&Aなどの投資によって営業利益は下がっていますが、投資コストをのぞいた利益は順調に増加している、ということがわかります。

ビジネスモデルとNo.1戦略


リクルートの主となるビジネスモデルは非常にシンプルで、情報誌や情報サイトを作成し、その中の「掲載枠」を販売するというモデルです。このビジネスモデルのすぐれている点は、原価率が低いことと、仕入れリスクが無いことです。

「掲載枠」というものは何かを仕入れて売るわけではありませんので、仕入れコストが必要ありません。また、原料を仕入れすぎるリスクもありません。

情報誌の印刷も外注業者に依頼をすれば印刷機や紙を仕入れる必要もありません。リクルートは仕入れリスクも無く、工場などの設備も持たず、非常に身軽にビジネスを行うことが可能です。このようにして、リクルートは原価率を低くおさえ、非常に高利益率、低リスクのビジネスを行ってきました。

非常に良いビジネスモデルですが、大きな弱点があります。原価率が低く、リスクが小さいということは、他社の参入が容易という点です。実際にリクルートと競合するような情報誌や情報サイトは多数あります。

しかし、競合他社に圧倒的な差をつけたナンバーワンの地位を築くことで高い売上と利益を確保しています。

競合他社との規模差も大きいため、広告主はリクルートを選ばざるを得ません。リクルートの媒体は他社に比べて高いといわれていますが、高くてもリクルートの媒体を選ぶことになります。求人雑誌「リクナビ」から始まり、「SUUMO」、「カーセンサー」、「ゼクシィ」「じゃらん」とナンバーワンの領域を広げ、売上を拡大してきました。

ナンバーワン戦略によって、国内で高い売上と利益を上げてきたリクルートの次のキーワードは「グローバルナンバーワン」。海外でのM&Aを繰り返し、売上を伸ばしています。

加速する海外M&A

年度 社名 業種
2010年 The CSI Companies 米国 人材派遣
2011年 Staffmark 米国 人材派遣
Advantage Resourcing 米、英、豪州 人材派遣
2012年 Indeed 世界 求人情報サイト
2015年 Quandoo 欧州 オンライン飲食店予約サービス
Hotspring 欧州 オンライン美容予約サービス
Treatwell 欧州 オンライン美容予約サービス
Peoplebank 豪州・アジア 人材派遣
Chandler Macleod 豪州 人材派遣
Atterro 米国 人材派遣

ここ最近のおもな買収先です。

Overviewには、海外の企業を買収し、リクルートのノウハウを導入することで価値の向上を行うことができていると書かれています。(Overview14P)実際に買収した企業は業績を伸ばしているようです。

しかし、いくら業績が伸びていると言っても、5年間で海外の企業をこれだけ買収するのは、かなり積極的なM&Aと言えます。営業利益率、額ともに低下しており、EBITDAは、額は増加していますが率は減少しています。

ここまでしてリクルートが海外企業を買収し、規模拡大をしている理由は、近年の環境変化に伴う「グローバル化」にあります。リクルートの「ナンバーワン戦略」は、グローバル視点で見た時に大きなチャンスと脅威が訪れるという側面を持っています。

チャンスは、市場の拡大です。日本の人口が1億人に対して中国の人口は10億人です。中国で「リクナビ」のようなサービスを展開すれば、単純に考えれば日本の10倍の売上が見込めます。同様に世界で展開すれば、さらに何十倍もの拡大が見込めます。

一方で脅威も存在します。リクルートより大きな規模の企業による「ナンバーワン戦略」です。リクルートは、日本ではナンバーワン戦略による独占的な地位を築きましたが、世界を見るとリクルートより遥かに規模が大きく、高い売上を持つ企業が存在します。例えばGoogleやAmazonです。

もし、GoogleやAmazonが世界中で求人サイトを開始したら、リクルートが今のシェアを維持できる確証はありません。シリコンバレーのベンチャー企業がリクナビより圧倒的に便利で使いやすい求人サイトを作り出したら、大きな脅威となるでしょう。リクルートにとって大きな脅威となるに違いありません。ナンバーワンの地位が崩れてしまうと、リクルートの戦略は根底から揺らいでしまいます。

このように考えると、リクルートの課題は

・グローバル化による市場拡大

・グローバル化による、海外の競合他社への対抗

この2点です。この2点を同時にクリアする手段が海外でのM&Aです。

競合となる企業を買収して傘下に収めることで脅威をなくすとともに、グローバルでのシェアを拡大します。成功事例としてIndeed買収があげられます。

世界へ導く、Indeedの買収

単位:億円

2015年3月期
2Q累計
2016年3月期
2Q累計

増減
売上高 199 360 161(181%)

Indeedは求人サイト界のgoogleと呼ばれています。

Indeedは、求人サイトや企業が自社HPに出している求人情報を自動的に収集し、検索ワードに沿った結果を表示する検索エンジンです。Indeedにキーワードを入力して検索をすると、様々な求人サイトや企業のHP上の求人情報からキーワードにあった仕事情報が表示されます。利用者は、様々なサイトを探しまわらなくても情報を集めることが可能になります。

また、企業から見ると、お金を出して求人広告を出さなくても自社サイトに求人情報を掲載すればIndeedが情報を拾い上げてユーザーに提供してくれるということになるので、非常に有益なサービスです。

高い技術力に裏打ちされて、検索結果の精度も高く、非常に優れた検索エンジンなのですが、これまでは技術中心の企業であり、効率的な営業活動がなされていなかったため、売上は大きくはあがっていませんでした。

(検索結果と同時に表示される広告の掲載費用がIndeedの主な売上になります。)しかし、リクルートがIndeedを買収し、営業活動のテコ入れを行うことで売上を急拡大することに成功したのです。(Overview 40P)

Indeedの買収には、海外の求人メディア事業の拡大という意味だけではなく、リクルートにとって大きな意味がありました。リクルートにとって大きな脅威となる可能性のあるIndeedを買収することで、自社サービスにとってのリスクを防衛することに成功しました。

企業の自社サイト上の求人情報も検索して拾い上げるIndeedのビジネスモデルは、他の求人サイトにとっては脅威となりうるビジネスモデルです。Indeedの知名度があがり、利用者が増えると、Indeedで求人情報を探すことになるので、求人サイトの売上が激減する、という予想もなされていました。

もし、リクルートに敵対する企業がIndeedを買収し、大量の資本投下を行って日本での大々的なPR活動を行っていたら、リクルートの売上やサービスのシェアへの影響も少なくなかったかも知れません。(リクルートは、「リクナビ」の売上とシェアを守るため、日本ではIndeedの営業活動に力を入れず、海外に注力して売上を伸ばしているといわれています。)

このように分析していくと、日本国内では圧倒的No.1であるリクルートだからこそ立ち向かわなければならない「脅威」が見えてきます。

インターネットの発達とグローバル化に伴い、世界の強力な競合によって、ナンバーワン戦略が崩される可能性ができました。リクルートは「グローバルナンバーワン」を取るために、一刻も早く、海外での売上拡大を行わなければならなかったのです。

これが、営業利益率やEBITDA率が多少落ちてでも、積極的なM&Aを繰り返した理由だと思われます。2014年に株式上場を行ったのも、M&Aの資金を調達するため、と考えることもできます。

グローバルナンバーワンを目指し、積極的なM&Aで規模拡大を行うリクルート。

世界の競合をおさえて、日本発のグローバルナンバーワン企業となることができるのか、引き続き今後の展開から目が離せません。

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