人材業界の人なら知っておくべき職業安定法改正Q&Aを解説!【前編】

職業安定法が改正され、2020年10月1日より施行されました。改正内容を知らないまま事業運営を続けていると、意図せず違反してしまう可能性もあります。そうならないために、人材業界の人は必ずチェックしておきましょう。

今回は厚生労働省がまとめている改正に関するQ&Aから、「募集情報等提供」「特定募集情報等提供」「的確表示」についての要点を抜粋し、分かりやすく解説していきます。

目次

募集情報等提供について

今回の法改正では、「募集情報等提供」にあてはまるサービスの種類が拡大されます。まずは「募集情報等提供」どんなサービスが当てはまるのかなどを確認しましょう。

「募集情報等提供」にはどんなサービスが当てはまる?

「募集情報等提供」に該当する行為は次の4つに分類されます。

  • 企業や職業紹介事業者などから依頼を受けて、求職者や他の職業紹介事業者などに対して求人情報を提供すること
    (例:求人サイト、求人情報誌、求人情報を投稿するSNS
  • 求職者の仕事選びを容易にすることを目的として、求人情報を求職者や他の職業紹介事業者などに提供すること
    (例:クローリング型求人サイト
  • 求職者からの依頼を受けて、求職者情報を企業や他の職業紹介事業者などに提供すること
    (例:人材データベース、求職者情報を登録・投稿するSNS
  • 企業の労働力確保を容易にすることを目的として、求職者情報を企業や他の職業紹介事業者などに提供すること
    クローリング型人材データベース

「事業」であるかどうかの基準は?

自社の行っている募集情報等提供が「事業」かどうかの基準は、募集情報等提供を業として行っているといえるかどうかによって判断されます。細かくはケースバイケースになりますが、判定においては以下の要素が重要になります。

  • 一定の目的と計画に基づいて行われるものか
  • 反復継続的に行う意思があるか
  • 受動的、偶発的行為ではないか
  • 営利を目的としているか

取り扱っているネット広告で求人が表示される場合は募集情報等提供事業に該当する?

自社でネット広告を取り扱っている場合、閲覧者の属性によっては求人広告が複数回表示されることがあります。このような場合、ネット広告は「募集情報等提供事業」に該当しません

様々な種類の広告が取り扱われる中の1つとして表示された結果であり、広告元のサイトや広告を取り扱っている事業者に反復継続の意思がない場合は該当しないと判断されるようです。

職業紹介事業者や派遣元事業主が、紹介求人(派遣求人)を自社サイトなどに掲載してる場合は募集情報等提供に該当する?

職業紹介・派遣事業の一環として単にサイトに求人を掲載するのみであれば該当しません。ただし職業紹介事業者において、そのサイトを利用すれば企業と求職者が直接連絡をとれるようにしている場合などには、職業紹介事業とは別途で募集情報等提供事業を行っていると見なされ、該当することがあります。

特定募集情報等提供について

今回、新たに「特定募集情報等提供」という枠組みがつくられ、該当の事業者は届出が必要になります。「特定募集情報等提供」にはどんなものが当てはまるのか、確認しましょう。

特定募集情報等提供とはどんな行為?

特定募集情報等提供とは、募集情報等提供のうち求職者に関する情報を収集して行うものをさします。

求職者に関する情報とはどんな情報?

求職者個人を識別できる情報に加え、個人の経歴やメールアドレス、サイトの閲覧履歴、位置情報などが求職者に関する情報にあたります。

ただし、求職者に関する情報を収集していたとしても、募集情報等提供に用いていない場合は特定募集情報等提供には該当しません。その他、取得方法や利用方法によりケースバイケースですので、詳細は個別に厚労省に確認してください。

求職者のメールアドレスを収集し、合同説明会などの一般的なお知らせのみを配信している場合も該当する?

メールアドレスを合同説明会などの一般的なお知らせや当日の入場管理のみに使用し、求職者に求人情報を提供したり、合同説明会の参加企業に当該メールアドレスを提供したりしていない場合には特定募集情報等提供には該当しません。

特定募集情報等提供事業に該当しない場合、義務規定は適用される?

特定募集情報等提供事業に該当しない場合、以下のような特定募集情報等提供事業を対象とした規定は適応されません。

  • 求職者等の個人情報の取り扱い(法第5条の5)
  • 事業開始の届出(第43条第1項)
  • 事業概況報告書の提出(法第43条の5)など

一方で、募集情報等提供事業にかかる一般的な義務については適応されます。

  • 求人等に関する情報の的確な表示(法第5条の4第1項及び第3項)
  • 事業情報公開の努力義務(法第43条の6)
  • 苦情の処理(法第43条の7)など

特定募集情報等提供事業の届出はいつまでに出せばいい?

現時点で特定募集情報等提供事業をおこなっている事業者は、2022年10月1日~2022年12月31日までの間に届出をしてください。

届出内容に変更があった場合、変更手続きが必要?

変更手続きが必要なのは以下の項目に変更があったときのみです。

  • 氏名または名称
  • 住所
  • 電話番号
  • (職業紹介事業者・派遣元事業主の場合)許可番号又は届出受理番号

その他、サービス名称やサイトURLなどが変わった場合には届出は必要ありません。

職業紹介事業者(派遣元事業主)なんだけど、特定募集情報等提供事業の届出も必要?

職業紹介事業(労働者派遣事業)の許可を取得している場合でも、特定募集情報等提供事業をおこなっているならば届出が必要です。

事業廃止の届出はどんな場合に必要?いつまでに出せばいい?

募集情報等提供事業者がその事業を継続する見込みがなくなった場合には、そのときから10日以内に事業廃止の届出を出す必要があります。

しかし、一定期間をあけて事業を再開する可能性がある場合や、シーズン的な事業などで一年の一定期間のみ運営している場合、その都度の届出は必要ありません。

的確表示について

各事業者は求人等に関する以下の情報について的確な表示が義務付けられます。

  1. 求人情報
  2. 求職者情報
  3. 求人企業に関する情報
  4. 自社に関する情報
  5. 事業の実績に関する情報

的確な表示とは具体的にどのようなものを指すのか、確認しましょう。

「虚偽の表示」とはどんなもの?

例えば、意図的に実際の労働条件とは異なる求人情報を提供した場合や、受理していない求人を広告した場合などは虚偽に該当します。

  • 実際に求人を行う企業と別の企業の名前で求人を出している
  • 「正社員」と謳いながら、実際には「アルバイト・パート」の募集をしている
  • 基本給〇万円と表示しながら実際にはその金額よりも低額の賃金を予定している
  • 実際には採用予定のない求人を出している

当事者の合意に基づいて、求人情報から実際の労働条件を変更した場合は虚偽に該当しません。

また、虚偽の表示に該当するかどうかの判断は、故意か否かが重要な基準になります。サイト側が求人情報が虚偽であることを知り得ずに掲載していた場合はただちに法律違反になるわけではありませんが、求人内容を改変するなど積極的に虚偽の情報を掲載している場合は違反となります。

「誤解を生じさせる表示」とはどんなもの?

虚偽でなくとも、客観的に見て誤解を生じさせるような表示をしてはいけません。以下のような例は「誤解を生じさせる表示」に該当します。

  • 実際に雇用する予定の企業と関係会社・グループ企業が混同されるような表示をする。
    (例:有名グループ会社の実績を大きく記載し、あたかもその求人企業の実績であるかのように表示する) 
  • 雇用契約を前提とした労働者の募集と、フリーランスなどの請負契約の受注者の募集が混同されるような表示をする。 
    (例:請負契約の案件であることを明示せず、労働者の募集と同じ表示をする)
  • 基本給や手当、昇給、固定残業代などについて、実際よりも高額であるかのように表示する。
    (例:給与の高い社員の基本給を例示し、全ての労働者の基本給であるかのように表示する。 固定残業代について基礎となる労働時間数などを明示せず、基本給に含めて表示する)
  • 職種や業種について、実際の業務の内容と大きく異なる名称を用いる。
    (例:営業職が中心の業務を事務職と表示する)

なお、求人情報が誤解を生じさせる表示であることを知り得ずに掲載していた場合はただちに法律違反になるわけではありませんが、掲載中止・訂正の依頼などがあった後にも対応せず掲載し続けると違反になる可能性があります。

「モデル収入例」や「〇万円~〇万円」などの表示はOK?

「モデル収入例」の併記や、「〇万円~〇万円」などのような幅を持った賃金の表示自体はOKです。ただし、モデル収入例を必ず支払われる基本給かのように表示することや、実際よりも高い上限を表示した場合は「誤解を生じさせる表示」に該当します。

事業の実績に関する「虚偽の表示または誤解を生じさせる表示」とはどんなもの?

就職実績や掲載求人件数などについて、意図的に事実と異なる表示をした場合には虚偽の表示に該当します。

  • 実際の取り扱い求人件数は1000件程度なのに、1万件程度と表示する
  • 実際の登録求職者数は1000人程度なのに、1万人程度と表示する
  • 実際には掲載されたことのない企業を広告に表示する

また虚偽に該当しなくても、以下のような場合には誤解を生じさせる表示に該当する可能性があります。

  • 全く根拠なく顧客満足度が高いと表示する
  • 就職決定率を算出・表示する上で用いた様々な仮定を表示しない、もしくは見えにくい状態にしている

「遅滞なく対応」ってどれくらい早く対応すればいい?

虚偽・誤解を生じさせる表示について掲載の中止や訂正の依頼があった場合、募集情報等提供事業者は遅滞なく対応する必要があります。

この場合の遅滞なくとは「可能な限り早く」の意であり、例えば直近でサイトを更新する時点などでの対応が求められます。合理的なタイミングで対応せず、漫然と掲載を続けた場合には「遅滞なく対応」していないとみなされます。

紙媒体は掲載中止・訂正の対応が難しいけれど、どうすればいい?

紙媒体の場合、一度発行されたものについては発行後に回収や再配布等を行う必要はありません。定期的に発行されるものや増刷されるものについては、次に発行する機会に情報を更新すれば大丈夫です。

情報を最新に保つための確認はどのくらいの頻度で行えばいい?

特に決まっていませんが、求人内容に変更があったにもかかわらず更新されないことがないよう、一定の期間を設けて確認を行いましょう。

「情報の時点を明らかにする措置」を取る場合、どの日付を記載すればいい?

求人または求職の申込みを受理した日、または求人情報・求職者情報を収集した日を記載すればよいです。その他にも、情報の内容を変更した場合や、情報が最新であることを確認できた場合にその時点を示すことも可能です。

なお、具体的な日付だけでなく、「〇日前」「〇週間前」などの表記も可能です。これらの情報はなるべく求職者がわかりやすい場所に記載しましょう。

知らずに正確かつ最新でない情報を掲載してしまったら違反になる?

求人企業や求職者から訂正の依頼をされず、自らが確認する余地もなく、正確かつ最新でない情報を掲載してしまった場合には義務違反になりません。また、正確かつ最新でない情報をクローリングし掲載してしまった場合にも違反にはなりません。

なお、正確かつ最新でないことを確認した場合には遅滞なく当該情報の提供を中止する必要があります。

まとめ

今回は「募集情報等提供」「特定募集情報等提供」「的確表示」のQ&Aについて紹介しました。自社サービスが規制対象になっていないか確認し、すみやかに対応を行いましょう。詳しくは厚生労働省HPのQ&Aを確認してください。

後編では「個人情報」「事業の情報公開」「苦情の処理」「指導監督」「職業紹介と募集情報等の区分」について解説します。

【参考URL】厚生労働省「令和4年職業安定法の改正について