株式会社ドラEVER
代表取締役会長
岡野 照彦 氏
おかの・てるひこ/2002年に照栄物流株式会社設立後、食品を中心とした物流事業に参入。その後、流通加工事業、トラック整備・修理事業、中古トラック買取・販売事業の立ち上げを行う。2015年、物流業界の人手不足を解決するために株式会社ドラEVERを設立、トラックドライバー特化型求人サイト「ドラEVER」を立ち上げ。物流事業者の抱える人・仕事・車の課題を広くサポートしている。
コロナ禍で一度は大きく下がった求人ニーズも、6月に入ってから徐々に回復傾向にある。特に物流系職種の求人は、正社員での募集が前年比73%で建設系・エンジニア・クリエイティブ職に続き4番目(12職種中)の水準、アルバイトでの募集でも前年比63%で医療福祉系・教育系に続く3番目(10職種中)の水準で回復しており、戻りが早いことがうかがえる。
そこで今回は物流系職種の中でもトラックドライバーに特化した求人サイト「ドラEVER」を運営する岡野氏にインタビューを行った。「ドラEVERを広く知ってもらうことで運送会社の地位向上を図りたい」と語る同氏に、運送会社の採用のあり方と組織作りについて話を聞いた。
運送会社経営時の思いがサイト立ち上げのきっかけ
1999年に運送会社照栄物流(現:照栄グループ)を立ち上げた岡野氏。運送会社がドライバーに特化した求人サイトを立ち上げたきっかけは何だったのだろうか。
「もともとは運送会社として事業をスタートさせたのですが、運送会社を経営する中でお得意様の荷主から『神奈川から千葉までの輸送をお願いするから、途中で通る東京宛ての荷物は無料でやってほしい』と言われて無料の輸送を断れなかったり、トラックの修理費用がかさんで経営を圧迫したりなど、さまざまな課題にぶつかってきました。そして課題にぶつかるたびに、その課題を解決するビジネスを立ち上げて組織の規模を拡大していったんです」
現在照栄グループにはドライバー特化の人材サービス事業のほかに、青果物の流通加工事業、トラック整備事業、中古トラックの買取・販売事業など、運送会社が抱えがちなさまざまな課題をサポートするサービスがある。
また岡野氏が「ドラEVER」を立ち上げたきっかけには、運送会社を経営していたときに感じていた「運送会社・ドライバーの地位の低さを解消したい」という思いがあった。
「ドライバーは荷積み・荷下ろしなど体力勝負なイメージもあることから、敬遠されることも多い仕事です。しかし今は荷積みを自動でやってくれる機械も登場し、ドライバーが運転に集中できる環境がどんどん整いつつあります。また運送会社の組織に関しても『柄の悪い人が多く働いているのではないか』と誤解を受けがちですが、実際はおとなしい人でもドライバーとして活躍されている方は多いです」
岡野氏は求人サイトを通して運送会社・ドライバーの本当の働き方を世の中に広く知ってもらうことで、ドライバーの地位向上を図っていくことを目指している。
「一人で仕事が完結する」のがドライバーの仕事の魅力
岡野氏はドライバーの仕事について、「一人で仕事が完結するのが最大の魅力」と語る。
「ホワイトカラーやとび職などの職人仕事は、仕事のプロセスが組織化・細分化されているため、他のメンバーと協力して仕事を進めていく必要があります。なので協調性やチームワークが重要になってくるのですが、ドライバーの仕事はものをあるところから別のところへ運ぶというとてもシンプルなもの。なので一人で淡々と仕事がしたかったり、人づきあいが苦手だったりする人にこそお勧めできる職種だと考えています。またそのような仕事の特性もあり、運送会社の社長に話を聞いてみるとおとなしい方が多いのも特徴です」
実際に岡野氏が電車のつり革広告にドラEVERの広告を出稿したところ、意外にも反響があったという。通勤時の満員電車や仕事への不満を抱えているビジネスマンにとって、ドライバー求人は魅力的に映るようだ。
「よく求人広告のメッセージとして『アットホームな職場』というものがあると思うのですが、みんながみんなアットホームな職場を求めているわけではないと思っていて。その点運送会社なら、朝出勤してから外に出て、誰とも会わずに悠々と仕事をするという働き方ができる。もちろんアットホームな会社もありますが、そのような働き方も選択できるのが運送会社に就職するメリットだと思います」
また未経験者採用の場合、運転以外の仕事内容がイメージしづらく不安に思う求職者も多い。
「そのような求職者の方の不安を解消するために、仕事内容を紹介する動画をドラEVERの中で制作・発信しています。荷物ごとの適切な荷積みの仕方など、かなり具体的なノウハウに触れることで、未経験者の方でもドライバーとして働くときに気を付けるポイントをイメージできるようにしています」
ドライバーの市場価値を測る指標を作りたい
他の職種にはない独自の魅力があるドライバー職種。しかし一方で、キャリアアップの面で構造的な課題を抱えているという。
「一般的な職種では、その人自身のスキルや生産性に合わせて給料がアップしていきます。しかしドライバーの場合、生産性を決めるのはその人のスキルではなくトラックのスペックです。そのトラックがどれくらい荷物がつめるか、どれくらい燃費がいいかというのが重要で、その人がどれだけ道路選びでミスをしなかったか、事故を起こさなかったのかというドライバーの能力ははまだまだ評価対象として見なされていません。なのでキャリアアップが見込みづらく、離職率も比較的高いという課題があります」
一方で事故率が低いドライバーは、トラックの修理や輸送物の弁償などといった潜在的なリスクを軽減できるという点で市場価値が高いととらえることもできる。今後ドライバーの地位向上を図るうえで、これらの能力を適切に評価しキャリア構築につなげる仕組みは必須となりそうだ。
「今までになかった評価軸でドライバーを評価する仕組みとして、ドラEVERのプレミアムスカウト機能を考えています。一定以上の経験年数がある、ゴールド免許を持っているなど、一定条件を満たしているドライバーを能力の高いドライバーとして評価し、一定水準以上の給与を保証されたスカウトがもらえる機能を開発中です」
「とはいえ、ドラEVERの業界への影響力はまだまだ微々たるものです。だからこそ既存の求人広告代理店さんとも協力しながら、このようなドライバー採用のありかたを求職者・企業に知ってもらうことで、双方がドライバーの能力を適切に評価できる土壌をつくりたいです。そしてドライバーという職種のキャリアプランを見通しやすくし、離職の防止につなげたいと考えています」
仕事内容や待遇で他社と差別化するのが難しいからこそ、業界内での転職になかなか歯止めがかからない運送業界。「ドライバー評価」は業界の構造を変える一手となるのか、今後も注目していきたい。