新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済の停滞によって急速に冷え込んだ企業の求人ニーズ。多くの人材系企業が、この急激なマーケットの変化を前に苦境に立たされています。そんな状況の中で「人材業界の一歩先を照らすメディア」として何かできることはないか、そんな思いで本特集を企画しました。本特集の情報が、少しでも人材系企業の業績回復のヒントになればと思います。
HRog編集部の独自調査から、1月時点での掲載数TOP100社のうち約90%の企業が4月末時点での求人掲載を減らしていることが分かった。緊急事態宣言の発令を受け、多くの企業が一時的に採用をストップさせる中、求人掲載を止めること無く採用を維持し続けた企業も一定数存在している。今回はコロナ禍でも採用意欲の高い企業2社から、コロナ禍での採用活動について話を伺った。
1.株式会社日立システムズ
株式会社日立システムズ
人事総務本部 人財戦略部 タレントマネジメントグループ
部長代理
小寺 克和 氏
2002年 株式会社日立情報システムズ(現・日立システムズ)に入社し、勤務・処遇・教育等人事関連業務に従事。2016年4月、経営戦略本部へ異動し、事業構造改革を推進。2020年4月に現職へ異動し、採用関連業務に従事
新型コロナによる採用活動への影響
日立システムズも他の多くの企業と同様、コロナの影響を受け一時は採用活動をストップしていた。しかし4月中旬には採用活動を再開し、現在は計画通りに進捗しているという。
「弊社では、主体的にお客さまと歩み寄り、お客さまと『共に創る』。そんな想いを抱くことができる人財を新卒も経験者も求めています。新卒採用については3月初旬から、説明会はWEBを中心に実施していました。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止への対応として、3月下旬より全従業員が原則、在宅勤務を実施することとなりました。既存のやり方で採用活動を進めることが困難になったため、選考についても一時的にストップせざるを得ない状況となったのです」
「そうした状況の中、採用活動の早期再開に向けて改めて採用フローを見直し、説明会に加え、すべての面接をオンラインに移行することで4月中旬頃から採用活動を再開させることができました。実質3週間程度の遅れが発生しましたが、以前から遠方の方向けにWeb説明会を実施してきた経験が生きたと思っています。全くの初めてだったら、もっと時間がかかっていたかもしれません」
WEBへの移行で起こった変化
採用活動がオンライン中心になったことで、遠方からも気軽に選考に参加することが可能になるといったメリットがあるという。一方で、コミュニケーション上の課題は存在すると小寺氏は語る。
「画面越しではお互いの所作や雰囲気が伝わりにくい部分があります。徐々に慣れながら、最適なコミュニケーション方法を模索している最中です。また、内定者との交流に関しても、そのままオンライン化してもなかなかうまくいかない部分がありました。例えば、多くの人が参加しているオンライン会議では周りの状況が読みにくく、自ら発言しにくかったりしますよね。そういった場合でも意見を出しやすいような環境を整えていく必要があると考えています」
「時代の流れに対して如何に順応していくかが今後の採用活動で重要なポイントだと考えています。コミュニケーションの質が変わったことによって、辞退率がどのように変化するかなどはまだ測りきれていません。今年の結果を踏まえて、より良い採用活動が実施できるよう改善を進めていきます」
2.株式会社Works Human Intelligence
株式会社Works Human Intelligence
人事Dept Department Manager
笠間 久智 氏
慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社インクスを経て、ワークスアプリケーションズ入社。コンサル部門に配属され、大規模導入案件および重点顧客の保守サポートを手がけたのち、新卒・中途採用責任者に就任。現在はWorks Human Intelligenceの人事部門責任者として、採用・育成・異動(最適配置)などの人財活用をデータドリブンで実現すべく、人員計画・人事施策の企画運営を指揮。
非言語の情報が見えづらくなる
笠間氏によると、日立システムズと同様に緊急事態宣言以降の採用活動はすべてWEBに移行しているという。WEB移行で最も実感していることが『非言語の情報が見えづらくなる』点で、これにはメリットとデメリットの両面があると笠間氏は語る。
「対面で感じ取れた情報が削がれてしまうのは選考上の課題ではあります。一方で『バイアスがなくなる』メリットもあると考えています。弊社の新卒採用では面接だけでなく、能力・スキルへのフォーカスを目的としたワーク形式での選考を実施しています。対面だと話し方や雰囲気が選考判断にバイアスがかかる可能性があるのですが、WEBになることで非言語の要素は見えなくなるため、ワークのアウトプットや能力に集中出来るようになったのはメリットですね」
一方で候補者との関係構築に関してはまだまだ課題もあるという。
「最終的に候補者の方に意思決定をして頂く際に、関係構築をしながら最後にひと押し、といったことが出来たんですが、オンラインで完結するとそういった踏み込んだ関係構築が難しくなるため、デメリットとして挙げられるかもしれません」
なぜコロナ禍で採用を加速させたのか
多くの企業がコロナ禍で選考を止めた理由は大きく2つある。ひとつが経済的な見通しが立たないため。ふたつめがスムーズにWEBへ移行出来ないため。この2点をクリアしていたため、Works Human Intelligenceは採用を維持することが出来た。
「経済的な見通しについては、弊社の業績がコロナによって大きなダメージを受けなかったことが功を奏しました。弊社のサービス『COMPANY』は特に大手企業様でご利用頂いており、社会インフラのような存在となっています。こちらの保守・運用が売上の多くを占めており、コロナの影響によって需要が変化することがなかったため、影響をあまり受けず採用を継続するとが出来ました」
「WEB移行については、コロナ前からオンラインでの会社説明会や面談を実施していたため、3月中には完全にWEBへ移行させることが出来ました。内定者向けのインターンシップなどについては、テーマは変更せずオンライン向けにチューニングを施しました。ツールの選定やフレームワークの用意、社内での事前テストでエラーがないかのチェックなど、事前準備はかなり綿密に行いましたね」
多くの企業が選考をストップさせる中、採用を継続できる同社にとってこの状況は攻めどきだと判断し、更に採用活動を加速させた。その結果、目標を大きく上回る数の応募が集まった。
「応募者の中には競合の企業がない方が多数いらっしゃったので、クロージングも比較的スムーズに進みましたね。またコロナの影響で働き方の変化に対して注目が高まったことを背景に、弊社に興味をもっていただく方も多くいらっしゃいました」
両社ともに指摘しているのが、採用活動がWEBに移行したことにより、求職者とのコミュニケーション方法が改めて問われているという点だ。コロナ前後で人々の働き方や社会との関わり方が大きく変化する中、その変化にどれだけ柔軟に対応出来るかどうかが今後の採用活動を成功に導く鍵となりそうだ。