【スポットワーク特集#02】アルバイト全員スポットワーカーの居酒屋「THE 赤提灯」飲食店の人手不足を救う新・採用/育成モデルとは

株式会社タイミー
BX部PRチーム
松本 知世 氏
まつもと・ともよ/1987年生まれ。兵庫県出身。大学卒業後、PR会社、フリーランスのPR活動、マンガアプリや急速冷凍機の事業会社広報を経て、2023年1月に株式会社タイミーへ入社。タイミーのブランディング、PR、オウンドメディアを担うBX部のPRチームに所属し、タイミーのPR全般に従事。

株式会社ミナデイン 
「THE 赤提灯」店⻑
上野 翔 氏
うえの・しょう/1991年生まれ。埼玉県出身。大学卒業後、人材系の営業会社、2015年より飲食企業の人事部のマネージャー、同社での現場エリアマネージャー経験を経て2023年に株式会社ミナデインへ入社。同年2023年5月にオープンした「新橋銀座口ガード下 THE 赤提灯」店⻑として業務にあたる。

急成長中の新市場 スポットワーク特集

近年好調に拡大しているスポットワーク市場。スマホで簡単に仕事探しができ、働きたいときに気軽に働けるとして若年層を中心に人気が出ている。その背景には、求職者・採用企業・サービス提供者のどんな思いや戦略があるのか。今回の特集では、市場を代表する企業へのインタビューや市場データの分析など、様々な面から急成長の理由を探る。

年々採用難が深刻化している飲食業界。この人手不足を解消するには、業界そのものの魅力を感じてもらうとともに、業界未経験の人が無理なくスキルアップできる環境を整えることが必須だ。2023年5月、タイミーは飲食店経営を展開するミナデインとともに「全アルバイトがスポットワーカー」がコンセプトの居酒屋「新橋銀座口ガード下 THE 赤提灯」をオープンした。今回はTHE 赤提灯店⻑の上野氏とタイミー広報の松本氏に、プロジェクト立ち上げの背景と、飲食業界初心者でも活躍できる採用・育成の仕組みを伺った。

飲食店の人手不足解消を目指し、「はじめての人でも働きやすい」を追求

東京・新橋にあるTHE 赤提灯は、スキマバイトサービスを提供するタイミーと飲食店事業を展開するミナデインの協業によって生まれた居酒屋だ。「タイミー教育協力店舗」として、はじめての人でも働きやすいことを追求した同店舗の運営には、両社の人材採用・研修の知見がふんだんに盛り込まれている。

同店舗が生まれた背景には「飲食業界の人手不足解消には、飲食業の魅力を感じてもらえるお店で働くことと、飲食店で働くスキルを習得・育成する環境や仕組みが必要だ」という想いがあるという。

松本氏「タイミーには飲食店の求人が非常に多く掲載されていますが、中には『飲食の経験がないと働けないのでは』『初心者はなかなか活躍できないのでは』と不安に感じて応募をためらわれる方もいらっしゃいます。そこでTHE 赤提灯では未経験者でも安心して働けることをコンセプトに掲げ、未経験者の方でも安心して飲食の仕事に一歩踏み出せるような育成の仕組みを構築しています」

同社が開店半年後に行ったワーカーへのアンケート調査によると、THE 赤提灯で働いたことのあるワーカーの約半数が初心者・未経験者だった。さらにTHE 赤提灯を通じてはじめて飲食業を経験したワーカーは17%で、そのうちの60%以上が同店舗で身につけたスキルを活かして他の店舗でも仕事するようになったという。

出典:タイミー

上野氏「飲食業界の人事や店長の経験を経て、飲食店は慢性的に採用に苦しんでいることを実感しています。このTHE 赤提灯の取り組みを通じて、より多くの人に飲食店で働く面白さややりがいを感じてもらい、飲食業界で働く人を増やしたいです」

今まで約250名以上のワーカーと働いてきた上野氏は「飲食業界自体は未経験だったとしても、過去に顧客対応や接客の経験があり、人とコミュニケーションを取るのが得意なワーカーさんも多くいる」と語る。

上野氏「飲食店がタイミーを活用するメリットは、ワーカーさんと一緒に働きながら面接や長期雇用のお声がけができる点。スポットワークという仕組みだからこそ採用のミスマッチのリスクを抑えられるので、未経験の方でも比較的受け入れやすいと思います。さらにTHE 赤提灯のような採用・育成の仕組みを導入できれば、基本的にはどんなお店でも未経験者が活躍できる環境が整うのではないでしょうか」

はじめての接客業務をサポートする THE 赤提灯の工夫

THE 赤提灯は上野氏を含む3名の社員と、営業日や予約状況によってスポットワーカー3〜5名が常時入れ替わりながら営業している。長期雇用のアルバイトはおらず、社員以外の働き手は全員タイミーのワーカーによって賄っている。

同店舗では、はじめて働くスポットワーカーでもすぐに活躍するための工夫として下記の3点を実施しているという。

①採用・募集の工夫:求人内でマニュアルを公開し、仕事のやり方を案内

上野氏「初心者・未経験者限定の求人の中に、タイミーにご協力いただきながら制作したマニュアルを掲載しています。名札の付け方から店舗の座席や設備の場所、接客のやり方を学べる研修動画まで、かなり詳しく仕事のやり方を盛り込んだマニュアルです。事前にこれらに目を通してもらい、はじめて仕事に入る方でも情報がインプットされた状態を目指しています。

実際にワーカーさんとお会いしてみると、未経験の人の方ほどマニュアルをしっかり読み込んでから働きにきてくれる方が多いです。マニュアルで事前に仕事内容を理解できるので、仕事面での不安解消をしていただけるとともに、お仕事に慣れていただくスピードも速い印象です」

②店舗・ツール設計の工夫:初心者でもすぐに接客できるようにオペレーションを設計

上野氏「飲食店の未経験者の方を受け入れる上で試行錯誤したのが、本来であれば長期勤務の中で少しずつ覚えていく知識をどうキャッチアップしていただくかという点でした。

『テーブルナンバーがなかなか覚えられない』『お客様に聞かれたときに、メニューの説明が上手くできない』など、はじめてだからこそつまづく接客業務上の課題は多くあります。そこでテーブルの足元に卓番のシークレットサインを用意したり、おすすめメニューやよくある質問の『はじめてのカンペ』をお渡ししたりなど工夫をし、接客業務をサポートしています」

出典:タイミー

松本氏「はじめて飲食店のホールスタッフとして働いたワーカーさんへ実施したアンケートによると、THE 赤提灯の働きやすさについて91%の方に4段階評価で最高評価をいただきました。このように、タイミー教育協力店舗として安心して働ける環境である点を評価いただけています」

③コミュニケーションの工夫:「阿吽の呼吸」を極力なくし、誰もがわかる伝え方を

上野氏「THE 赤提灯では経験・未経験を問わず、初回のお仕事の際にお店のコンセプトやおすすめの商品をしっかり説明し、お店のことを理解いただいてから業務に入っていただきます。

業務中のコミュニケーションでも、具体的に伝えることを大切にしています。長期雇用のアルバイトさんだったら『この料理を1階に運んで』で伝わることも、オペレーションの全容を知らないスポットワーカーさんとってはよく分からない指示になってしまいます。『1階のキッチンの中に立っている女性社員の〇〇さんに、この料理を渡して』というように、ワーカーさんに伝わる言葉で伝えることを心がけていますね」

さらにTHE 赤提灯では初心者のワーカーでも働きやすいオペレーションを設計するだけでなく、スキルアップやエンゲージメント向上も含めた価値提供をワーカーへ向けて行っている。

上野氏「タイミー教育協力店舗ということもあり、教育やスキルアップを目的に応募いただくことが多いのもこのお店の特徴です。そこで希望者の方限定で、スキルチェックシートを元に接客スキルのフィードバックを行っています。振り返りによって飲食店で継続して働きたい方にスキルアップを実感いただくとともに、飲食店のやりがいを実感してもらえればと思っています」

松本氏「また2023年11月には、THE 赤提灯で一定数以上働いたことがあるワーカーさんを対象に感謝祭を実施しました。お店からワーカーさんへ感謝を示すイベントとして、お酒や人気メニューを楽しみながら、ワーカーさん同士の交流の場を設けています」

このようにワーカー視点で働きがいを作る取り組みを精力的に行っているからこそ「またここで働きたい」と感じてもらい、応募が集まりやすくなる好循環が起きているという。

「THE 赤提灯」を飲食店における採用/育成のモデルケースに

上野氏・松本氏の両名は、このTHE 赤提灯の取り組みをより多くの飲食店に知ってもらい、飲食業界をさらに盛り上げたいと意欲を語る。

松本氏「飲食業界では、『働き手が集まらないから拡大や新店舗の出店ができない』との話も耳にします。今回の取り組みで『スポットワーカーだけでも店舗が運営できた』という実績を作れたのは、飲食業界にとっても新しい一歩です。人材確保のモデルケースになり、飲食業界の活性化にも貢献できたらと思います」

また、将来的には両社がそこに介在し、色々な飲食店に採用・育成ノウハウを提供することもできるだろう。

上野氏「まずは『タイミーワーカーさんと社員だけで飲食店が運営できるんだ』と世の中の方にもっと知っていただきたいです。この取り組みが他の飲食店にも広がれば、飲食業界のやりがいや魅力が伝わり、中長期的には飲食業界から人が離れていくことを防げるのではないかと思います。今後もこの取り組みを通して、飲食業をさらに憧れの仕事にできれば嬉しいです」

9年飲食業界に携わってきた上野氏は「飲食店の採用手法は今大きな転換点を迎えている」と語る。

上野氏「5年前は、求人広告で採用して、 教育して、店舗を運営するのが当たり前でした。しかしタイミーで募集をかけると、新橋という採用が難しいエリアにもかかわらず、半日で向こう2週間の求人がほぼ全て埋まるような状況です。採用のあり方がここ数年でガラッと変わっているのは間違いないと個人的にも体感しているので、飲食店の経営者の方は今までの型に囚われずに、色々な採用手法にチャレンジしていってほしいですね」

(鈴木智華)