優しすぎる会社は嫌われる? 若手社員の定着率が向上する「推せる職場」づくり

株式会社NEWONE
代表取締役
上林 周平 氏
かんばやし・しゅうへい/大阪大学人間科学部卒業後、アクセンチュアに入社。2002年、シェイク入社。2015年、代表取締役に就任。前年含め3年連続過去最高売上・最高益を達成。2017年、これからの働き方をリードすることを目的に、エンゲージメントを高める支援を行う㈱NEWONE設立。2022年、「人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書」発刊。米国CCE.Inc.認定キャリアカウンセラー。

近年、働き方改革やコロナ禍をきっかけに多様な働き方が広がり、企業にも浸透している。一方、職場環境が良好にもかかわらず、「今の働き方が優しすぎる」という不安から退職する若手社員が増えているという。その中で株式会社NEWONEは、成長実感と貢献実感を感じることができる =「推せる」職場作りを社内で実現し、若手社員の3年目定着率9割越えという成果を成し遂げた。ここでは同社代表の上林氏に「優しすぎる職場」が社員に敬遠される理由と、高い定着率を実現する取り組みについて伺う。

キャリアにつながる経験を積めない「優しすぎる職場」は敬遠される傾向に

2023年3月期決算以降、大手企業を中心に人的資本の情報開示が義務化され、離職率の開示が求められるようになった。また2022年にはパワハラ防止法が施行、職場のパワーハラスメント防止措置が義務化されるなど、働きやすい職場づくりを推進するための法改正が次々と行われている。

このように日本企業の職場環境は劇的に改善してきているが、エンゲージメント向上のための人事サービスを提供するNEWONE・上林氏によると「働きやすい環境を整えているにもかかわらず、優秀な人材の離職が止まらない企業も増加している」という。

「離職が続く原因のひとつとして、働きやすさを追求した結果『優しすぎる職場』になっていることが挙げられます。若手の中でも優秀で成長意欲の高い人材ほど『今は働きやすいけれど、自分の将来を考えると不安』『仕事に主体的に取り組めている感覚がない』といった理由で敬遠されてしまうのです」

終身雇用が当たり前だった時代は、一度企業に就職してしまえば「ここで頑張れば安定した人生が送れる」という安心感のもとで働くことができた。

しかし雇用流動性が高まっている現代、社員は「その会社で働き続けられること」ではなく「他社でも通用する、希少価値の高い人材になれること」を求めるようになった。そしてキャリアにつながる経験を積めない「優しすぎる職場」に不満を抱え、離職してしまうのだという。

「優しすぎる職場」を見極めるポイントとして、上林氏は以下の3つを挙げた。

優しすぎる職場の見極め方①|先輩社員が働きがいを持って仕事していない

「NEWONEでは『成長実感』と『貢献実感』、この2つの感情を満たした職場を働きがいのある職場と定義しています。先輩社員の働きぶりや実際の話を聞いたときに、この2つを感じながら働いているかを見極めると良いでしょう」

優しすぎる職場の見極め方②|人事施策に「従業員のキャリア開発」のための取り組みがない

「例えば、新卒採用や新入社員研修のときに『自分でキャリアをデザインすることが大切』『会社として主体的なキャリア開発を応援する』というメッセージを発信しているにもかかわらず、具体的な制度を用意していない企業があります。

公募制度や異動願といったチャンスがない状態でそれらのメッセージを発信しても、口ばかりで一貫性がありません。個人の将来的なキャリア選択の幅が広がるような人事施策がきちんと設計されてるかどうかも、『優しすぎる』会社かどうかを見極める一つのポイントです」

優しすぎる職場の見極め方③|メンバーの意見を意思決定に反映させてない

「職場単位で何かをするときに、メンバーが気軽に意見を話せるかどうかも重要です。目標は高すぎると現場に大きな負荷がかかりますが、低すぎてもモチベーションが上がりません。最終決定者はマネージャーや上長だとしても、会議などで『こんな方針で、こんなことをしようと思っているのだけど、どう思う?』と意見を聞いてくれる職場の方が『やらされている』という感情も生まれにくく、主体性を持ちながら働けます」

「優しすぎる職場」から「推せる職場」に変わるには?

「推せる職場を作るために私たちが大切にしているのが、『自己決定感』と『参画機会』というキーワードです。自分で考えたり、決めたりする余地がないとやらされ感が強くなり、納得感を持って仕事に取り組むことができません。一方的に指示をするのではなく、双方向的なコミュニケーションをもとに行動してもらうことが推せる職場づくりの第一歩です」

では、社員にとって「推せる職場」になるためにはどんなアクションを取る必要があるのか。NEWONEの事例をもとに語ってもらった。

推せる職場づくりの取り組み①|情報をオープンにする

「現場のメンバーが意見を言いやすい職場にするには、会社のあらゆる情報をできるだけオープンにして前提条件を擦り合わせることが必要です。NEWONEでは給与情報などの社員のプライバシーに関わること以外のあらゆる情報を全社員が見れるようにしているほか、月に一度行われる全社会議の様子も共有しています。『情報を知らないから判断できない・動けない』という状態を極力なくしています」

推せる職場づくりの取り組み②|業務の進め方はメンバーと一緒に決める

「チーム単位や職場単位で業務に取り組む際に、目標設定や取り組み方を上司が一方的に決めて指示を出すのではなく、現場のメンバーと対話しながら決めるプロセスを徹底しています。こういった参画機会があることで自己決定感が生まれ、コミットメントが高くなります。

もちろん機会を作っても、一定の信頼関係がなければメンバーは本音で話してくれません。特に、リモートワーク下でメンバー間の対話の時間が少なくなると、心理的な距離感やコミュニケーションエラーが生まれやすくなります。日常の中で単なる雑談の場ではなく、相互理解が深まる場を意識的に作ることが重要です」

推せる職場づくりの取り組み③|「これからも良い職場であり続ける」ための発信

「『推せる職場』とは、他の人におすすめしたくなる職場のこと。そして『優しすぎる職場』と『推せる職場』の最大の違いは、3〜5年後の未来に考えたときにも『いい職場であり続けるだろう』と信じられるか否かにあります。そのための未来の計画を社員に伝えるのはもちろんのこと、情報をオープンにして、メンバーの参画機会を増やすことで『職場の未来をより良くする主体である』と実感してもらうことにつなげています」

上林氏によると、推せる職場を実現するには働く中で「ポジティブ感情」「自己決定感」「成長・貢献実感」を得ながらエンゲージメントを高めていく「エンゲージメントサイクル」を作る必要があるという。

出典元:株式会社NEWONE

「例えば会社や仕事、チームに対してポジティブな感情を持てないと、1on1制度を導入して自己決定感を促進しようとしても効果が出ません。一方で、会社や仕事が好きでも『やらされ仕事』になっていては自己決定感が損なわれ、目標への関与意識が低下します。また自分で物事を決めてもフィードバックがなければ、成長と貢献の実感も得られないでしょう。

会社や仕事に対してポジティブな感情を抱き続けてもらうには、『ポジティブ感情』『自己決定感』『成長・貢献実感』のサイクルを回すことが必須なのです」

「推せる職場」は採用・離職防止にも有利。社員のエンゲージメントを向上させよう

NEWONEでは自社で「推せる職場づくり」に取り組むだけではなく、従業員エンゲージメント向上を目的に様々な研修・コンサルティングサービスを展開している。具体的にどんな支援を行なっているのだろうか。

「新入社員の採用・育成施策の効果検証サービス『PANAIサーベイ』の他、オンボーディングプロセスの改善のための研修サービスも提供しています。『PANAIサーベイ』はキャリアや人間関係の満足度など、様々な観点から新入社員のデータを定期的に収集し、改善が必要なプロセス(採用・育成・配置・OJT等)と課題を可視化するサービスです。

人事施策実施後、新入社員の状態の変化を数値化することで離職防止や人事施策の改善につなげることができます。また研修では新入社員に対してだけではなく、その上司にも研修を実施し、双方が良好なコミュニケーションのもとで人間関係を構築できるような支援も行なっています。

さらに組織の対話を活性化するためのツール『Cocolabo(ココラボ)』も提供中です。組織内に存在する問題を『オバケ』として扱い、かわいいイラストで表現することで、上司を非難することなく職場の問題点を本音で言い合えるようになります。従業員一人ひとりの意見を引き出し、チームで課題に取り組む体制が整えば、定着率向上につながるはずです」

「推せる職場」を作る最大のメリットとして、上林氏はリファラル採用の活性化を挙げている。NEWONEの調査によると、働きがいがあり働きやすい職場では、58%の社員が自分の職場を“推せる”(推奨できる)という。また転職意向も非常に低いため、高い定着率が期待できるだろう。

「実際に、NEWONEの過去5年間のエンゲージメントサーベイの結果を分析すると、スコアが比較的高い時期には、リファラル採用も活発化する傾向が見られました。組織のエンゲージメント状況とリファラルの効果には相関関係があると考えられますので、『推せる職場』づくりを大事にし、リファラル採用が生まれやすい組織を実現してほしいですね」

(鈴木智華)