株式会社リジョブ
代表取締役社長
鈴木 一平 氏
すずき・いっぺい/20歳で起業し、2社の創業期を支える。その後2011年に株式会社じげんに入社。経営企画室、求人事業部長を歴任する。リジョブのじげんグループ化に伴い、2014年にリジョブ代表取締役社長に就任。ソーシャルビジネスと社会課題の解決をリンクさせるCSV経営を通し、美容・ヘルスケア・介護業界の人材不足の解消や働き方改革に取り組む。また、事業とともに人とのご縁を価値とするソーシャルコミュニティの推進を通して、心の豊かさあふれる社会づくりに向き合っている。
株式会社リジョブ
CHO
窪田 みどり 氏
くぼた・みどり/大学卒業後、組織コンサルティング会社・ITベンチャーにて組織創りやコーポレートブランディングに携わる。2013年、株式会社リジョブに入社。2014年のM&Aを機に、経営層とともに新旧メンバーを一枚岩にすべく「新生リジョブのビジョン・カルチャー」を策定。「自分の力を誰かの為に活かしたい」と思う人材が集うリジョブの組織創りに、日々CHOとして深く関わっている。
美容・ヘルスケア・介護業界特化型の求人メディア事業をはじめとし、ソーシャルビジネスを推進している株式会社リジョブ。同社は、関わる業界を一気通貫で支援する独自の「SPA構想」を掲げて事業を展開している。その根底にあるのは事業を通じた業界課題解決、社会貢献へのこだわりだ。今回はリジョブが事業を通して目指す社会や、それを実現するための戦略・組織づくりについて話を伺う。
長時間労働・低賃金……。美容業界の構造的課題の解決に挑む
ホットペッパービューティーアカデミーによると、日本には2023年時点で約26万店舗の美容室が存在しており、その数は毎年5,000〜6,000店舗ずつ増え続けている。一方で、日本の人口は2008年のピークを期に減少に転じており、美容室の利用客数は頭打ちとなっているのが現状だ。需給バランスが崩れているいま、「美容室はお客様の取り合いで疲弊してしまっている」と鈴木氏は語る。
鈴木氏「多くの美容室がクーポンサイトを活用し『他の店舗より安い金額で施術できる』と宣伝して集客しているため、業界全体として価格を上げづらくなっています。その結果売上も伸び悩み、店舗あたりの生産性がなかなか上がりにくいのです」
美容室の構造的課題は、働く美容師の待遇にも影響を及ぼしている。一般的なオフィスワーカーの年間休日は平均120日前後である一方、美容師の年間休日数は90日ほど。さらに、厚生労働省の調査によると平均年収は約380万円で、他の業界と比較しても低くなっている。
鈴木氏「美容師の離職率は非常に高く、入職1年で3割、3年で6割が離職するというデータもあります。美容師という職業は小学生向けの『将来なりたい職業ランキング』で上位に入る職業で、憧れや夢を持って飛び込んでくれる人が多くいます。しかし『休みが少なく、低賃金』という現実を知り、残念ながら辞めてしまう方が後を立ちません」
個人経営のサロンも多いため、人件費や水道光熱費・賃料を払うのに精一杯で採用費をかけられないことが多い。「生産性が上がらないから、美容師の待遇を上げられない」「離職が止まらないのに、採用に力を入れられない」という悪循環が起こっているのだ。
さらに鈴木氏は美容業界の組織課題として「美容師の職務経歴や実績を正当に評価する仕組みがない」ことを指摘する。
鈴木氏「美容師の皆さんは日々お客様に施術をしていますが、その技術や実績を第三者が公正に評価して、人事に組み込んでいるところは多くありません。また、指名率やリピート率など店舗の売上に貢献するような成果を自身で可視化する慣習もないため、その人のスキルが給与やその後のキャリアに反映されにくいのです」
こうした状況を踏まえて鈴木氏は「人材サービス事業を通して雇用支援に携わる私たちには、関わる業界の持続可能な発展に向き合う責任がある」と続ける。
鈴木氏「日本全体の就労人口が減少する中、企業間で『人材』という限られたパイを奪い合うだけではなく、それ以外の付加価値を作ることが、人材業界で働く私たちがやるべきことだと考えています。
美容業界においても、単に各店舗の美容師の採用人数を最大化する取り組みは限界に近付いています。そこで、例えばフルタイムでは難しくても、1週間に1日だけ、1日1時間だけでも働きたいと考え勤務してくれる美容師さんや、それを受け入れられる美容室が増えれば、美容業界全体の総就労時間も増えていきます。また、『カラーのスペシャリストになりたい』『力を付けて独立したい』など、ひとりひとりの仕事に対する価値観や夢も様々です。このように、業界従事者が実現したい価値観にマッチする雇用を増やすことと、自分らしく働き続けられる働き方の選択肢を広げることが、社会貢献につながるはずです」
美容業界を一気通貫で支援するリジョブのSPA構想
リジョブでは美容業界の持続可能な発展のために、業界従事者が生産性と働き方の多様性を両立し「長く、その人らしく」働き続けられるよう「SPA構想」を考案。メイン事業である求人メディアの運営に留まらず、さまざまなアプローチで美容業界の構造的課題に切り込んでいる。
鈴木氏「従来の美容業界の働き方を変えなければ、いずれ業界全体で人材確保が困難になるでしょう。リジョブは『多様な働き方の選択肢を広げる』『サロンと求職者の価値観がマッチする雇用機会を増やす』というアクションを通じて、業界の持続的な発展を支えたいです。
SPA構想の『雇用支援』事業を通じて自分らしく働き続ける人を増やし、『活躍支援』を通して業界応援Webマガジンやリジョブアワードのような取り組みで彼らの活躍を発信する。そうすることで『こんなふうに働きたい』と思う人をさらに増やし、次世代の育成につなげていく好循環を生み出せればと考えています」
リジョブではSPA構想に基づき「育成支援」「雇用支援」「活躍支援」という3つのアクションを行なっている。これらのサイクルを回し、美容業界の人材課題の解決を目指す。
鈴木氏「業界で将来的に活躍する人材の育成を目的に、美容専門学生対象の返済不要の給付型奨学金『リジョブ奨学金』の支給や、次世代のキャリア設計サポートを目的とした出張授業『リジョブカレッジ』の開催、卒業ヘアショーイベントへの協賛などを実施しています」
鈴木氏「雇用支援として、採用コストを抑えた美容・ヘルスケア業界特化の求人メディア『リジョブ』による雇用機会の創出を行なっています。業界最大級の求人メディアとして私たちが大切にしているのは、企業・求職者による価値観のマッチングです。条件だけでのマッチングが難しい業界だからこそ、一つひとつの求人に想いを込めていただけるように、求職者側・企業側双方に丁寧なニーズヒアリングを実施。ニーズに寄りそうプロダクト開発を通して、『想いを結ぶ雇用機会の創出』を実現します」
鈴木氏「サロン向けに『reservia』という自社集客・予約管理システムを提供し、美容師の指名やリピート客の獲得支援を行い、集客できるお店づくりを支えています。また、自分に適した働き方で活躍する美容師の取り組みを発信する業界応援Webマガジン『Moreリジョブ』や、業界従事者の想いを尊重し広める『リジョブアワード』を通して、雇用の先の活躍段階を支援しています」
リジョブではSPA構想を、社会課題の解決と収益を両立させる「ソーシャルビジネス」の中核に位置付けている。一方で、経済性でははかれない人とのご縁を価値とする「ソーシャルコミュニティ」領域での活動として、日本の美容技術やサービスを途上国の貧困地域の方々へ伝え、手に職をつけ経済的自立を促すプロジェクトなども行う。
「ビジネス」と「コミュニティ」の両輪を基軸に、心の豊かさあふれる社会創りに取り組む同社。その根幹にあるのは「人と人との『結び目』を大切にしたい」というリジョブの想いだ。
鈴木氏「オンライン化が進む中で人々の関係性が希薄になり、『関係性の貧困化』が進行していると感じています。だからこそ、想いを共有する人々が結ばれる機会を創出することは今後さらに価値ある取り組みとなるはずです。
ソーシャルビジネスでは、事業を通じて業界課題を解決し、人と人とを結び付ける『結び目』を増やしながら、業界に持続可能性をもたらすため収益を上げていく。その収益を使ってさらなる結び目の創造に繋げられればと考えています。一方のソーシャルコミュニティでは人とのつながりに価値を置き、ご縁ある社会課題に向き合いながら想いを共有し合える人々が自由に結ばれる場を作っていきます。この両輪を回すことで、人と人との結び目の価値を高め、心豊かな社会をつくることを目指しています」
社会性のある事業推進を実現する、リジョブの組織作り
収益と社会貢献を両立する取り組みを実現するために、同社ではどんな組織作りをしているのか、リジョブのCHOである窪田氏に話を伺った。
窪田氏「美容業界は店舗経営も多く、企業規模によって人材コストがかけにくい業界であるので、サービス開始当初、従来のコストと比較して採用コストを1/3~1/2程度に抑えた料金プランを開発し、サービスを提供してきました。そして、このビジネスモデルを実現するために、社内ではチームを縦に分けることで顧客対応の効率化を図りました。お客様の希望される採用人数や許容コストを考え、適切な顧客対応に合わせて体制づくりを行い、営業コストの圧縮につなげています」
しかしチームを縦割り化すると、チーム間で意見の食い違いが生じがちになる。そこでリジョブでは「現場メンバーの一人ひとりが、経営者視点で全体最適を考える」ことに全社で向き合い続けている。
窪田氏「リジョブでは売上ではなく、あえて『採用数』と『応募数』を最も重要な数字としています。その理由は、これらの数字が業界貢献に直接結びついているから。そして、売上だと営業職以外の人は追いかけにくいですが、この2つの数字はすべてのチームにとっての共通の目標にできるからです。全社イベントのような節目となる機会では、鈴木自らが『採用数と応募数が大切』と伝え続けており、社員全員がその数字を意識し、目指す方向性を一致できるようにしていますね」
新入社員研修では、新卒社員が全部署を回り、さまざまな役割や職種の人と触れ合う機会を設けている。さらに四半期ごとの全社キックオフや、年に一度の周年イベント・運動会を行い、社員同士でのコミュニケーション・チームワークを深めているという。経営陣や事業責任者の考え方や目線に触れたり、自らが全社プロジェクトに主体的に携わる機会や他部署を知る機会を通して、会社や事業全体を俯瞰する「経営者視点」が育っていくというのが同社の考え方だ。
こうした方針のもとで、この「経営者視点」を表すキーワードとして「視座・視野・視点」という言葉が現場から生まれた。
窪田氏「視野は自分の当たり前を超えた思考の範囲、視座は物事を見る立場や位置の高さ、視点は物事の捉え方を指します。当時1年目の新入社員が未来に入社する後輩育成の為の研修を構築する際に、設定した定義なのですが、その後新卒研修だけではなく活用されるようになりました。
こうした会社の価値観を端的に表す言葉が、若手社員の口から自ずと出てくる。この事実こそが、リジョブのメンバー一人ひとりが会社全体をはじめ、業界課題や社会に対して当事者意識を持ってくれている証だと考えています」
より良い未来を描き、実現へ向けてともに歩もう
情熱を持ちながら美容業界の採用課題の根本解決に向き合うお二人に、人材業界で働く人たちへのメッセージを聞いた。
鈴木氏「人材業界で働いていると、成約数や採用数という目標にどうしてもとらわれてしまいます。しかし、私たちの本来の役割は、人と人が結ばれた先に何を生み出していきたいかを考え、実行することで関わる業界を豊かにしていくこと。求職者、企業、業界、社会の4つの視点から良い社会を描き、その実現へ向けて皆さんと共に取り組んでいきたいです。」
窪田氏「多くの求職者と関わる人材業界は、まさに時代の『いま』に触れることができる仕事。私自身も、採用活動を行う中で、社会の価値観が大きく変わりつつあることを実感しています。そしてその変化を捉えながら、未来をどう描くかを考えられることがこの仕事の醍醐味です。同じ人材業界で働く一人ひとりが未来を考え、行動に移せば、社会はより良いものになると信じています」
(鈴木智華)