2024年5月21日、ディップ株式会社は新サービス「dip AI エージェント」のリリースを発表した。OpenAI社の「ChatGPT」登場以降、人材業界においても急速に進んできたAI活用の流れに満を持してディップが乗り込む。今回は、同社が開催したサービス説明会のレポートをお届けする。(以下、発言は要約)
インターネットでの仕事探しを切り拓いてきた、人材業界の先駆者として
まず初めに、代表取締役社長 兼 CEOの冨田氏がサービスリリースの経緯を説明した。
冨田氏「求人媒体の歴史は時代の変化と共に進化してきました。古くは新聞広告に求人を掲載していましたが、やがて求人誌やフリーペーパーが登場しました。そのような中、1998年、ディップはインターネットを使ったお仕事情報検索サービスを提供開始しました。
その後も職場紹介動画など、ディップは常にインターネットでの仕事探しの新時代を切り拓いてきました。一方で、この求人情報サービスがこのモデルのままずっと続いていくとは考えにくく、さらにサービスを進化させていかなければならないと思っています。今後AIがサービスの主流になっていくのは間違いありません。AIをいかに早く、いかに使いこなすか。その点において、我々は日本で一番最初にLLM(大規模言語モデル)を活用した大規模な対話型求人サービスとして『dip AI エージェント』をリリースする形となります。
アルバイトをする方と言えば、今までは大学生や高校生が主流でした。しかし昨今の人手不足の影響もあり、今後はシルバーの方、正社員として働きながら空き時間を有効活用したい方など、様々なニーズを持った方が働くようになるでしょう。そうした仕事探しに慣れていない方に対しても、会話を通してその人に合った仕事を提案できる。『dip AI エージェント』はそんな未来のサービスであると自負しております」
dip AI エージェントとは
続いて、AIエージェント事業本部長の志立氏よりサービスの説明があった。
「大量の求人情報から自分で検索して探す時代から、対話を通じて最適な仕事に出会う。そんな新時代へのイノベーションを起こすサービスとして『dip AI エージェント』は開発されました。
求職者に寄り添って適職を探すサービスは、これまで人材紹介業によって提供されてきました。しかし人材紹介は労働集約的なビジネスモデルであり、どうしても単価の高いエグゼクティブ層に向けたサービス展開になりがちな一面があります。そこで人工知能を活用し、より幅広い求職者が自然言語を用いて適職を探せるようにしたのが『dip AI エージェント』です。
高校生や大学生といった仕事経験のない方や、世の中にどんな仕事があるのかすら知らない方にとって、従来の求人サイトは検索のハードルが高いものでした。そのような方でも『dip AI エージェント』と使えば、AIとの対話を通じて『自分が探していたのはこの仕事だったんだ』『こんな仕事もあるんだ』と自身の要望を明確にできます。
求人サイトを訪れた人が採用に至る割合は一般的に1〜2%程度と言われており、またその職場が本当に最適だったのかどうかも検索した本人の自己責任となっています。そこで我々はAIエージェントによって、求職者の方がよりご自身に合った仕事に出会い働ける『幸せマッチング』を実現したいと考えました」
志立氏「この図の右側にあるように、求人企業側の情報が正確でなければマッチングしても本当に自分に合う求人かは分かりません。また、職場のリアルな情報が収集できていなければ、本当は自分にぴったりなはずの求人とマッチングできない可能性があります。
そこで重要になるのが、ディップの営業力です。我々にはお客様のもとへ出向いて直接情報を集める力があります。今年は『見る・聞く・話す』をスローガンに、採用コンサルタントがリアルな職場の環境や雰囲気、活躍状況を取材し、AIエージェントに反映させています。最新のテクノロジーと質の高い情報、この2つを揃えられるのはディップならではの強みだと言えます」
続いて志立氏は、今後の展望について下記の通り説明した。
レベル1:基本案内型ユーザーの入力に基づいた初歩的な提案
レベル2:対話支援型対話を通じニーズを理解した具体的な提案
レベル3:深層理解型潜在的なニーズを理解し個別化された提案
レベル4:人間同等型人間のエージェント同等の理解力で適切な提案
レベル5:人間超越型高度にカスタマイズされた提案
志立氏「現時点の『dip AI エージェント』は、ほぼレベル2といった状態です。これから実際にユーザーに利用していただき、行動データを集めて、近日中に完全なレベル2へと仕上げていきたいと考えています。そして2027年2月期にはレベル3の深層理解型にまで到達したい、あるいはそれよりも早く実現できると想定しております」
その後、『dip AI エージェント』の共同研究を行っている松尾研究所の松尾氏との対談映像が上映された。対談では、生成AIの利用者が爆発的に増えていく直前のタイミングで『dip AI エージェント』がリリースされる優位性についてや、人材市場とAIの親和性について語られた。
友達のように気軽に相談できるエージェントへ
最後にディップ技術研究所所長の岡本氏が登壇し、デモンストレーションをおこなった。
まず希望の勤務地を入力すると、バイトルのキャラクター「バイチュー」が職種の希望を尋ねてきた。三択の選択肢から「わからない」を選択したところ、「じゃあまずは、どんなことが好きなのか教えてほしいな」と会話が続いた。「友達とトランプで遊ぶのが好き」などアルバイトとは直接関係ない回答から、「コミュニケーションをとるのが得意そうだね。接客はどうかな?」というように、合いそうな仕事を探しておすすめしてくれるのがこのサービスの特徴だ。
会話の中でユーザーから引き出したキーワードを元に、紹介する求人をチューニングしていく。生成AIを利用しているため、同じ返答をしても毎回違う返答が返って来るのも自然なコミュニケーションに近い印象だ。ユーザーが応募に迷っている場合は、疑問を払拭し背中を押すような返信も行う。
同サービスでは、OpenAI社より先日発表されたばかりの「GPT-4o」を利用しているという。
岡本氏「志立の話にもあった通り、2000名を超える採用コンサルタントが現場の課題感や店長の想いを直接聞いてきたことが我々の強みです。今後もデータを蓄積していき、求人票に書いてあること以上の情報量でマッチングをおこなっていきたいと考えています」
最後に、質疑応答より一部を抜粋して紹介する。
Q.企業への個別聞き取りによってマッチング精度が上がっていくという話だったが、どんな違いが出てくるのか?
岡本氏「例えば音楽好きの方が音楽に関わるアルバイトを探すときに、従来ならイベントスタッフや楽器店などが検索の対象になると思います。一方で『dip AI エージェント』を利用すると、音楽好きの集まるお店や、いい音楽をかけているバーなどを発見できる可能性があります」
Q.今後他の媒体と連携する予定はあるか?その場合、求人を探す場所としての媒体の立ち位置はどうなるのか?
志立氏「今後、はたらこねっとやバイトルNEXTなどバイトル以外の媒体とも連携していく予定です。データベースを同じくして、媒体の垣根をできるだけ意識しないで仕事選びをおこなっていただきたいと考えています。
また従来の媒体の立ち位置について、『dip AI エージェント』がリリースされたからと言って全ての求職者様がこのサービスを使うようになるとは考えていません。求職者様がご自身で明確な検索条件をお持ちの場合は、バイトルを今まで通りに使っていただきたいと思っております。その上で、今回新たに探し方の選択肢が増えましたので、ぜひ試してみて使い勝手の良い方を利用していただければと思います。
長い目で見れば、しだいにAIを利用したサービスを自然に使う世の中になっていくと考えていますが、『もう媒体への注力をやめる』ということは全くありません」
Q.今後の進化イメージについて聞きたい
志立氏「個人的なイメージになりますが、AIの進歩をみるに今後は画像や動画の分析ができるようになると考えています。職場を動画で撮影して、そこから雰囲気や人間関係を抽出することもできそうだと見ています。
また、AIとの音声対話も自然にできるようになってきました。音声でエージェントとやり取りしたり、逆に求職者へのインタビューによってその人の特性や適職を見つけたりといった可能性にもチャレンジしていきたいです」
岡本氏「音声でのやり取りが可能になれば、よりユーザーはAIエージェントに親しみを持って相談できるようになります。人材紹介をおこなうエージェントの方々は求職者との関係性づくりを非常に大事にしており、求職者も『この人が勧めてくれるなら信用できる』と受け止めていくものです。話をちゃんと聞き、共感し、理解した上で提案する。そのプロセスをAIエージェントができるようになれば、求職者にとってもプラスな進化になるのではと思います」
AIを活用して仕事探しの新たな領域を目指すディップ。今後の展開にも注目だ。