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法定雇用率2.7%時代、大事なのは「数」だけじゃない。企業に問われる障がい者雇用の「質」への責任とは

株式会社マイナビパートナーズ
DEIソリューション事業部 事業戦略部 部長
大塚 昭宏 氏
おおつか・あきひろ/広告・出版業界にて記者、編集、営業を経て、新規事業の立ち上げを手がけた後、2014年に株式会社マイナビに中途入社。オンライン企業説明会の企画担当として、計1万回以上の開催をサポート。現在は株式会社マイナビパートナーズにてマーケティングを担うほか、12ヶ月間の有給プログラム「Career Create Program」の企画運営を担当する。

長らく周知されてきた法定雇用率引き上げが、この7月に施行となった。民間企業の法定雇用率は2.5%から2.7%に上昇し、公的機関も同時に引き上げとなる。

障がいのある方の雇用義務に関しては、従業員40人以上の企業から37.5人以上の企業へと対象範囲が拡大。雇用率が未達成の企業に対する納付金算定や、雇用率を満たしているかどうかの判定も、今後は引き上げ後の基準に基づいて行われることとなる。

「障がい者雇用」がより多くの企業に関連性のあるトピックになりつつあるが、国内の障がい者雇用はこれからどう変わっていくのか。

今回は、「戦力としての障がい者雇用」を掲げる株式会社マイナビパートナーズのDEIソリューション事業部・大塚氏に話を伺った。

ついに法定雇用率2.5%→2.7%へ。雇用数の拡大が優先されがちな現状

全社員の7割以上が障がいのある社員であるマイナビパートナーズは、マイナビグループの特例子会社だ。社内で蓄積されたノウハウを活かし、対外的には障がいのある方に特化した人材紹介サービスをはじめ、障がい者雇用に関する様々な個別のコンサルティング業務を行っている。

大塚氏「当社は『戦力としての障がい者雇用』を掲げ、障がいのある方が戦力として活躍できる会社を目指しています。法定雇用率の達成だけを目的として障がい者雇用を行っているわけではありませんが、現状マイナビグループ全体で雇用率は3%を超える水準となっています(2026年6月現在)」

そんな同社には、連日多くの企業から相談が集まっている。

7月からの変化は、表面的には非常にシンプルだ。法定雇用率が引き上げられ、雇用義務の対象が広がる。その結果として「より多くの企業が障がい者雇用に取り組む」「より多くの障がいのある方を雇用する」といった、「数」の拡大を求めるメッセージとも受け取れる。

大塚氏「7月に何が変わるか、ということだけにフォーカスすると、『障がい者雇用をさらに拡大しなければならない』という、雇用数のテーマだけで受け取られかねないと思います。実際、弊社にお問合せいただく企業からも、『7月以降は採用人数を増やす必要があるため、今のうちから数を確保したい』といったご相談が増えています。制度が雇用率という数値で示される以上、企業としてはまず達成に向けた行動をとることが自然で、結果的に数に焦点が当たりやすい構造になっています。

そのため、私自身も企業向けセミナーなどで、分かりやすく印象に残りやすい『雇用率の引き上げ』というテーマのみを切り取って、障がい者雇用を『数』の観点から促してしまう場面があります」

労働力人口の減少対策や多様性の推進、ノーマライゼーションを掲げる国内において、数の確保が結果的に障がい者雇用の促進に繋がるのであれば悪いことではないようにも思える。ただ、大塚氏は国の狙いについて次のように述べる。

大塚氏「厚生労働省は障害者雇用促進法の見直しにあたり、雇用の『数』だけではなく、『質』についても言及してきました。今回の雇用率引き上げについて記載された令和6年発表の障害者雇用対策においても、『障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進』というキーワードで『質』に紐づく対策に触れています」

実際、厚生労働省は障がい者雇用の「質」と「数」の双方をケアしながら環境整備を進めている。

大塚氏「ここ2年間の質に関する取り組みとしては、まず2024年に導入された就労アセスメント・就労選択支援が挙げられます。障がいのある求職者の能力や適性、希望などを評価するアセスメントに基づいて職業選択を行う仕組みで、マッチングの質向上を目的としたものです。

マッチングという観点では、同年から短時間労働についても算定が可能となり、より多様な働き方や雇用機会の広がりにつながっています。企業にとって採用の選択肢が広がることで、雇用機会の拡大にもつながる上に、短時間でも働きたいという意思をもつ人が就労できるようになり、より多様な働き方が制度上も認められるようになってきています。結果としてミスマッチの減少や早期離職の防止といった、マッチングの質の向上にも寄与すると考えられるでしょう。

また、2024年に施行された障害者雇用相談援助事業も、障がい者雇用の質の向上に向けた取り組みの一つです。弊社も事業者として厚生労働省から認定されています。

雇用率の引き上げに伴い、雇用義務対象企業が拡大することで、中小企業の障がい者雇用においては『雇用の質』や『定着・活躍』といった観点で課題が生じる可能性もあります。同事業ではそうした企業に対して外部の専門事業者が支援を行い、障がい者雇用の質の向上を図っています」

しかし直近では、雇用率の引き上げ、すなわち「数」の拡大にばかり焦点が当たり、本来重視されるべき本質的な部分が見落とされがちになっている。大塚氏は「質と数に関する対策は段階的に実施されてきましたが、直感的に理解されやすいため、どうしても数に注意が向きやすいのかもしれません」と指摘する。

明るみになりつつある、「数」だけを追うことによる弊害

そんな問題を象徴するニュースが先日発生し、障がい者雇用の分野に大きな衝撃を与えた。外部事業者のサポートを活用して、形式上は障がいのある方を雇用しているものの、実態としては当事者に十分な業務を与えていない企業が複数露見したのだ。このニュースを機に、就労の実態が乏しいまま雇用管理を担う仕組み自体が問題視されることとなった。

この仕組みを利用した企業は形式上の雇用率を達成することはできるが、その雇用には実際の職務や役割が伴っていない。さらに、在宅勤務を中心とした環境では企業との接点が乏しく、障がいのある方が孤立した状態に置かれている実態も指摘されている。こうした構造はまさに雇用の数だけを追い、質や企業としての責任が伴っていないという点で、「障がい者雇用における質のあり方」を問い直すものとなった。

大塚氏「こういったケースは、氷山の一角に過ぎないのかもしれません。雇用率が引き上げられたとしても、本質的ではない形で『数合わせの採用』を続けていけば、必ずいつかは破綻すると思います。

そして何より、数合わせの採用が就労を希望する障がいのある方のためになっているとは思えません。実際に今回の事例も、発端となったのは障がい当事者の方からの声でした。障がい者雇用を始めるきっかけは制度への対応といった側面であっても構わないと思いますが、外部に任せきりにするのではなく、自社として『どのように障がいのある方の活躍を実現するのか』について、まずは真剣に考えていただきたいと思います

雇用することがゴールではない社会実現に向けて

今後も法定雇用率の見直しが定期的に検討されることは、既に明言されている。労働力人口の減少が続く中、日本の制度設計の参考とされてきたドイツの5%や、端数を整理した3%といった水準への移行も、決して非現実的なものではないのかもしれない。こうした動向について、大塚氏は次のように語る。

大塚氏「ここ十数年は、準備期間を設けながら段階的に雇用率が引き上げられてきました。その結果、各企業にとって障がい者雇用が常に意識される状態が生まれ、促進という意味では副次的に良い流れができていると感じています。ただ、これからも法定雇用率が引き上げになっていくとすれば、数合わせの雇用という課題が付きまとう可能性は否定できません。

私たちとしては、外部に任せるのではなく自社雇用を前提に、現場での関与を大切にしながら、障がい者雇用の質の向上に向けた支援を続けていきます。障がい種別の中で最も労働人口の比率が高い精神・発達障がいの方の雇用促進や、現場での職域開拓、さらには健康管理アプリの活用による定着率の向上などを実現したいと思います。

今回の報道で声をあげたのが雇用する企業側ではなく、障がいのある当事者の方だったことは非常に残念であり、重く受け止めています。企業として適切な関与や支援が行われていれば、状況は違っていたのではないかと感じる場面もありました。

今後こうした事例が繰り返されないよう、HR領域に携わる企業がタッグを組む必要があると考えています。そして、法定雇用率を満たすための『数合わせの障がい者雇用』ではなく、当事者が実際に力を発揮できる『戦力としての障がい者雇用』の在り方を議論していきたいです」

(寄稿・株式会社マイナビパートナーズ)