「働かないおじさん」は「働きたいおじさん」 ミドルシニアのキャリア自律をどう支える?

株式会社ブルーブレイズ(2023年4月24日より株式会社ライフシフトラボに社名変更)
代表取締役
都築 辰弥 氏
つづき・たつや/1993年生まれ。開成高校、東京大学工学部システム創成学科卒。学生時代は、国際学生NPOアイセックで活動した後、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニーに入社し、スマートフォンXperiaの商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」などをプロデュース。その後、2019年8月に株式会社ブルーブレイズを創業。フルスタックエンジニア。国家資格キャリアコンサルタント。

昨今にわかに注目を浴びている「働かないおじさん問題」。その背景には急速な世の中の変化と、それについていけない中高年層の葛藤がある。今回は45歳からの実践型キャリア自律スクール「ライフシフトラボ」を運営する株式会社ブルーブレイズ(現・株式会社ライフシフトラボ)の都築氏に、ミドルシニアのセカンドキャリアをめぐる現状と解決策について話を伺った。

変化についていけない…「働かない」と言われてしまうわけ

「まず認識合わせとしてお伝えしておきたいのが、いわゆる『働かないおじさん問題』と呼ばれる問題は、決して仕事をサボっているおじさんが沢山いるという話ではないことです。むしろほとんどのミドルシニアの方々は、真面目にしっかりと仕事をしています。ではなぜ世の中で『働かないおじさん問題』が紛糾しているのかというと、社会の変化が原因となっています。

現在は『VUCAの時代』と言われ、世の中がこれまでにないスピードで変化しています。ありとあらゆる産業で産業構造の変革やデジタル化が起きていて、企業としてもこれまでと同じ仕事をしていては世の中についていけないという危機感を覚え始めているんですね。すると当然、社員に求められる仕事も変わってきます。

こうした際に、20~30年の蓄積された経験やしっかりしたキャリアがあるがゆえに、急な変化に対応できない、あるいはどう変わればいいのか分からないミドルシニアの方々が浮き彫りになってきたというのが、『働かないおじさん問題』の本質だと考えています」

加えてミドルシニア層の全体に占める割合が大きいことも、近年この問題が注目されている背景にある。総務省によると、2021年時点で45歳以上の労働人口は2,853万人であり、これは全労働人口の41%にあたる。これまでの年功序列賃金制の影響もあり、ミドルシニア層が人件費の大きなウェイトを占めている以上、企業側としてはしっかりと変化についていってもらい競争力を維持したいと考えるのは当然の流れだ。定年後の再雇用なども進められている現在、その切実さは増してきている。

「この問題に関して企業も様々な取り組みを行っています。具体的には、時代の変化についていけるようなスキルを身につけてもらうリスキリングや、これまでの知見を生かせる部署に異動してもらう配置転換。それから転籍出向や越境体験と言われる、一度社外で自分のスキルを生かすことで自分の価値を見つめ直して、それを自社に還元してもらう取り組みを行っている企業などはたくさんあります。最近では副業解禁を受けて、ミドルシニアの複業を推進することでミドルシニアの方々の活性化をはかったり、世の中の変化をキャッチアップしてもらおうとしている企業も出てきていますね。

しかし、やはりミドルシニアの方の数が多いので施策が行き届いていません。複業先や越境先、異動先も数に限りがあるため、約2,800万人全員に最適な仕事を配分することは難しい現状があります」

現状にミドルシニア本人が一番悩んでいる

この現状に対して、当事者たちはどう感じているのだろうか。

「やはり不安や不完全燃焼感を抱えていらっしゃる方が多くいます。『仕事しなくていいや、ラッキー』だなんて断じて思っていないんです。本人としてはもっと活躍したいと思っているけれども、その火の燃やし先といいますか、活躍できる場所が会社では少なくなってきて歯がゆさを感じています。

なぜ活躍の場が減ってしまっているかというと、企業が変化についていかなければと考えた時に、相対的にみて変化耐性が強いであろうと思われている方、つまり若手社員に新たな仕事をアサインしたり、若手にポストを譲っていくような人事制度にしたりすることが多いんですね。あるいは即戦力人材を中途採用で雇った方が早いと考える企業も多いです。こうして活躍するチャンスの行き先が、これまで会社を支えてきたミドルシニア層以外へ移っていくという構造があります。

すると本人にやる気があっても仕事がないので、若手からは『おじさんたちは仕事してない』と見えてしまい、『働かないおじさん』と揶揄されてしまうのです」

こうした状況に対し、複業や転職、シニア起業などの選択肢を模索する人はどんどん増えてきているという。実際にミドルシニアの転職市場は、近年非常に活況だ。

その一方で、ミドルシニアが選択する道としては「今いる会社に残る」という人が最も多い。背景には、キャリア自律に関する世間の考え方の変化があると都築氏は言う。

「これまでは、自分の任されたことをしっかりと果たしていくことがビジネスパーソンとしての優秀さであり、評価される世の中でした。そして新卒で入った会社で定年まで勤め上げることが理想とされる価値観の中で働いてきたわけです。それなのにいきなり『これからは与えられた仕事をやるだけでは駄目です。自分の頭で考えて、自律的にキャリア形成してください』と真逆のことを求められるようになりました。この大きなパラダイムシフトに困惑して、なかなか他の選択肢をとれない方は多いでしょう」

ミドルシニアの方を向いた支援サービスがなかった

では現在、ミドルシニア層のキャリア支援市場はどうなっているのか。この市場は転職支援、再就職支援、研修の3カテゴリーに大きく分けられるという。

「転職支援はいわゆるエージェントなどのサービスです。ミドルシニア特化型の人材紹介事業者が存在します。再就職支援会社は、企業が早期退職募集を行う際などに早期退職希望者に対して、次の就職先の斡旋やコンサルティング、サポートを行う会社です。研修会社というのは、ミドルシニアの方へのセカンドキャリア研修やキャリア自律研修などを企業から請け負って提供していく会社です。再就職支援会社が兼ねていることも多いですね。

ポイントは今挙げた3つが、全てBtoBのビジネスモデルであるということです。

BtoBだと当然お客さんは会社であり、ミドルシニアご本人ではありません。企業は何かしらの意図があってキャリア研修や再就職支援を頼むわけで、中には『クビにはできないので円満に退職してもらいたい』という裏の目的を持っている企業などもあるんですね。しかしそれでは、当事者たるミドルシニア層のためのサービスとは言えません。ご本人が抱えている課題と企業からの支援がかみ合わないこともあるでしょう。

『働かないおじさん問題』やミドルシニアのキャリア自律という文脈で、誰が一番困っているかというと、ご本人なんですよね。サービスの本質とは、課題を持っている人がその課題を解決するためにお金を払ってサービスを受けることです。ミドルシニアの方ご本人が現状に課題感を持ち、まだまだ元気で活躍していきたいと思っているものの、その課題を自分自身で解決するBtoC型のサービス提供者がいないことが、人材業界としての問題だったと考えています」

ミドルシニアが主体的にキャリアを学べる場を提供する

こうした現状を踏まえて、同社が2022年3月にリリースしたのが45歳からの実践型キャリア自律スクール「ライフシフトラボ」だ。同サービスはミドルシニア層を対象としたパーソナルトレーニングサービスであり、BtoCサービスとしてキャリア自律の伴走支援を行う。

キャリア自律を望むミドルシニア自身が申込み受講するスタイルであるため、非常に前向きな参加者が多いと都築氏は語る。

「なんとかしたいという気持ちはあるけれどなかなか一歩を踏み出せない方、たまたま周りにロールモデルがいなくて参考にできないという方々に徹底的に伴走し、その気持ちを応援するようなサービスはこれまでにないとのことで、受講生の方からも評価していただいています」

ライフシフトラボの特徴として、複業や社外越境からのチャレンジを勧めていることと、徹底的に実践的なプログラムであることが挙げられる。

「複業や社外越境であれば、会社を辞めずリスクなしで取り組むことができます。複業を足がかりにして転職につなげていくこともできますし、定年の後のセカンドキャリアにつなげることもできます。あるいは複業で成功すればそのまま起業する道もありますし、色々な出口を目指せるんです。誰でもハードル低くチャレンジできるということで、キャリア自律の第一歩として複業・社外越境を推奨しています。

また、これまでも資格学校や社会人MBAなどはありましたが、全ての方が必ずしも取った資格やMBAをすぐに仕事に生かせているわけではありませんでした。取ったもののどうすればいいか分からない方が一定数いるんですね。そのためライフシフトラボでは、とことん実践的であることを追求しています。実際に複業で案件を取った方や年収を上げた方も多く、『自分の強み・スキルがこんな風に生かせるなんて思ってもみなかった』という驚きの声もいただいています。

ミドルシニアの方々にはこれまで培ってきた20~30年分のキャリアがあるので、どなたも必ず他の場所で生かせる原石を持っているんですよ。しかし、会社の中にいるだけでは自分のスキルや経験が社外でどう生かせるか分かりません。人材マーケットに精通したキャリアコーチが、『あなたのスキルはこういう企業でニーズがあるんです』とか『この企業のこんな課題を解決するのに、あなたの経験を生かせます』と伝えることで、キャリア形成のヒントを提供することが重要だと考えています」

キャリア支援そのものをミドルシニアの活躍の場に

リリースから約4か月が経った現在、ライフシフトラボは今後どのような展開を考えているのだろうか。

「大きく2つ考えていることがあって、1つ目はミドルシニアのキャリア自律支援という取り組みそのものの展開を大きくしていこうと思っています。今構想しているのが、キャリアコーチの養成講座です。ミドルシニアの方々にコーチになっていただき、キャリア自律支援自体がひとつの活躍の場になっていけばいいですね。やはり経験者だからこそ語れることもあるはずですし、キャリア自律をアドバイスする存在としてミドルシニア以上に適切な人はいないんじゃないかと考えています。

2つ目に検討しているのがコース分けです。実はキャリアや複業についての相談だけでなく、今すぐ転職を考えているけれども転職サイトやエージェントではなかなか難しいと感じてライフシフトラボに来られる方もいます。他にも起業したいが踏み出し方が分からないとか、事業計画や事業内容を固めるのを手伝ってほしいとか、そんな声を常にいただいているんですね。

そこでライフシフトラボもコース分けをして、転職・起業などしたいことが決まっている方に対して、最適なコースを設置することを検討しています。それが可能になれば、ありとあらゆるキャリア自律の選択肢をライフシフトラボでサポートできるようになり、キャリア自律のために何かアクションを起こしたい、一歩踏み出したいというときに、まずライフシフトラボを頼れる体制が築けるのではないかと考え準備を進めています」

また、人材業界との連携も考えている。複業や社外越境を足がかりとして転職や起業につなげていくというコンセプトを持つ企業として、ミドルシニアの転職市場や複業市場を活性化していきたいという。

「今、弊社では求人を直接紹介する取り組みはしていませんが、そういう事業を提供している企業とアライアンスを組んで、トレーニングの先に就業先がある体制を作っていくことも今後の展開の一つとして考えています。

ミドルシニアの方々のキャリア自律に対する世間的な要請も、ご本人たちの活躍したいという気持ちもどんどん強くなっています。VUCAの時代はしばらく続きますし、高齢化もあってミドルシニアの方々に活躍してもらわないといけない状況下で、今後キャリア自律の必要性が小さくなることはまずないでしょう。

だからこそ、人材業界も各企業の人事もこの課題にどんどんアプローチを強めていかないといけません。ライフシフトラボはミドルシニアの方々のパートナーであり続けたいと思っていますし、人材業界や人事の方と連携しながら人生後半の活躍をサポートしていきたいですね」