社員の半数が元フリーランス。LITAが語る「フリーランス女性の秘める可能性」

株式会社LITA
代表取締役・PRプロデューサー
笹木 郁乃 氏
ささき・いくの/寝具メーカーエアウィーヴに社員1人目として入社し、5年で売上1億から115億へ伸ばす急成長に貢献。また、愛知ドビーで看板商品を12ヶ月待ちの人気商品へとPRの力で押し上げに貢献。独立後、7年で8,000名以上の起業家、PR担当者を育てるPR塾やセミナーを開講。現在はPR会社を経営し、女性活躍支援のスクールを新たに開講。

働き方の多様化が進み、昨今注目が集まるフリーランス市場。ライフイベントなどを機にフリーランスへの転身を考える女性も多いが、本心では会社員として働きたいと考えている人も一定数いるのだという。今回はオンラインキャリア学習サービス「I’me(アイミー)」を運営する株式会社LITA代表の笹木氏に、女性のキャリアとフリーランスという働き方の関係、そしてフリーランスを正社員として採用するという選択肢について話を伺う。

出産、介護…やむを得ずフリーランスを選ぶ女性たち

フリーランスという仕事の形態が一般的になり、自由で自立した働き方というポジティブなイメージとともに語られることが多くなった。一方で、フリーランス女性の中には消去法的にフリーランスを選ばざるを得なかった人も多いという。

「フリーランスは個人事業主のようなものですので、『独立して自分の力で社会を変えたい』、『こんなサービスを展開したい』という野心的な意気込みを持って選択しているイメージがあるかもしれません。しかし実際には、家庭の事情によりやむを得ずフリーランスになった女性が多いのです。妊娠・出産や介護、配偶者の単身赴任、不妊治療のために安静にしなければならないなど、様々な理由で退職を迫られる機会が女性にはあります。そうした方がいざ復帰しようとしても、ブランクが長く年齢のせいで雇ってもらえなかったり、育児や介護との両立が難しかったりと正社員としての再就職を断念せざるを得ません。こうしてキャリアに不安を抱えたままフリーランスの道を選ぶんですね。

私自身、はじめにフリーランスとして独立したきっかけは出産でした。育児休暇から会社に復帰して、子育てと仕事の両立の難しさを感じました。当時は在宅勤務や短時間正社員などの選択肢がなかったため、朝から定時までフルで働いて帰宅する生活でしたが、それでは子どもとゆっくり関わることができません。

子どもとの時間も大切にしたいけど、仕事もおろそかにしたくない。かといってパートタイマーでは自分がやりたいと思う、チームの中心でプロジェクトを動かすような、やりがいのある仕事はできない状況だったんです。仕事と子育て、どちらも大事にするためにはどうすればいいのかを考えた結果、仕方なく選択したのがフリーランスという働き方です。

こうした自身の経験や、多くの女性から自身のキャリアや生き方についての相談を受けたことから、女性の生活とキャリアの両立はとても難しいなと感じていました」

再就職に悩む女性のために「I’me(アイミー)」を発足

独立した当初は、社会の役に立ちながら子育ての時間も大切にできる働き方を模索していた笹木氏。PR業務をサポートするコンサルタントを行っているうちに、広報を教えてほしいというニーズを持つ経営者や広報担当者が多く集まり、2016年に「PR塾」を開校する。しかし、PRだけに捉われず、さまざまな選択肢の中で女性の活躍を支援したいとの思いから、2022年に「I’me(アイミー)」を発足した。

「I’meは、再就職や自身のこれからの生き方について悩む女性が多く受講しています。特に30代から50代の女性は、『会社員としての再就職は自身の年齢や子どもが小さいことを考えると難しい』、『子どもが自立し、自分の時間ができたけど何をしよう』と頑張りたいのに自信がなく足踏みしている方が多いですね。I’meでは、そういった悩みを持つ女性に、自分のやりたいことを見つけて自信をつけてもらうためのサポートを行っています」

I’meでは、20種類以上の講座が設けられている。在宅でできる仕事をメインに、Instagramの運用代行やTikTokプロデューサー、ウェブデザイン、資料作成などの仕事に直結するものから、セルフプランニングや話し方の講座など、自身で起業しフリーランスとして働く上で必要な力が身につけられる講座まで用意されているという。

「講座は『地に足をつけてしっかりと稼げる力を』というテーマで選んでいます。I’meに来てくれる方は、『なんとなくやってみようかな』という興味本位の方ではなく、『自分の人生を変えたい!』と本気で思っている方ばかりなので即戦力になれる内容を重視しています」

フリーランス人材を正社員として採用する理由やメリットとは?

そんなフリーランス女性のキャリア支援を行う株式会社LITAだが、その社員の約半数が元フリーランスで、PR塾やI’meを受講していた人々だ。彼女たちはなぜLITAで正社員になることを選んだのか。

「弊社のメンバーには家庭の事情からやむを得ずフリーランスを選択したものの、本当は正社員としての働き方に憧れていた方が多いです。その理由の一つが、チーム一丸となって働くことで生まれるモチベーション。フリーランスとして業務委託で受ける仕事は、会社の業務の一部分を切り取ったものが多いため、社会への貢献ややりがいを感じにくかったり、孤独に思えたりすることが多々あります。その点ではやはり正社員としてチームの一員になって働く方が、一人で仕事をするよりも社会を変える影響力や自分の存在意義を感じられるんですよね。

また、人前に立ってリーダシップを発揮するタイプなのか、人のサポートが得意なのかなどの仕事の適性は人それぞれです。やりがいを感じられる瞬間も、売上を上げることだったり周りの人を助けることだったりとさまざまですよね。フリーランスとして独立して初めて、自分はチームの中で働く方が向いているな、サポートが性に合ってるな、と自覚する人は少なくありません。特に女性にはサポートタイプの方が多い印象ですね。

そんな中で、LITAでは自分と同じ悩みを持つ女性を救うための仕事ができるということで、社会を変えたいという夢をもって入社してくれる方が多いです。フリーランスとして『今日はA社の資料作成、明日はB社のデザイン作成』と単発業務を受けるのと、LITAの一員として日本女性の活躍シーンを変えるためにデザインや資料を作るのとでは、そもそもの自分の存在意義が変わってくるのだと思います。

LITAには、社会を変えたいという大きなビジョン、最終目標があります。同じ業務でも、その先にビジョンが見えているのと見えていないのとでは仕事への想いが大きく変わりますよね。組織に所属して貢献し、ひいては社会全体に影響を与えられるところが、LITAの社員として働く最大の魅力として映っているのではないでしょうか」

そして、その選択を可能にしている土台にあるのが在宅勤務だ。毎日の出社が難しくて正社員を諦めているフリーランスも多いため、在宅勤務可能であることが入社のハードルを大きく下げている。しかしその一方で、子育てや両親の介護をしている場合、在宅勤務でずっと家にいると息苦しさを感じることもあるという。LITAでは在宅で仕事をしつつ、適度に出社してみんなとランチや会話をしながらコミュニケーションを取ることができる。出社頻度は役割によって月に1日、週に2日など様々だが、自分の状況に合わせて選択できる環境が働きやすいと好評だと笹木氏は語った。

自立していて即戦力になる、フリーランス人材の魅力

では、企業側から見てフリーランス人材を採用するメリットはあるのだろうか。

「フリーランス人材を採用する圧倒的なメリットは、即戦力となる人材であることです。フリーランス経験者は、作業して終わりではなく、自分で『これはこうした方が良かったな』と常に最善を目指して改善する習慣が身についています。もともと自分で稼いできている方々なので、すでに一定のスキルを持っていて即戦力になる上に、自分でPDCAを回してくれるところが、会社にとっても貴重ですね。

また、採用決定から就業までが非常にスムーズな点も魅力です。会社に所属していないので引き継ぎや退職手続きの必要もなく、『明日から働けます』というように非常に軽いフットワークで入社していただけます。さらに、いきなり社員になるのではなく、最初の数ヶ月は業務委託として働いてみて相性がよかったら社員になるという形で、お試し期間を設けられるのもフリーランスならではのメリットと言えます」

会社に属している人材を採用する場合、引き継ぎに最低でも数ヶ月かかることも少なくない。実際に働きだしてからミスマッチに気づき、離職してしまう可能性もあるだろう。フリーランス人材の場合、業務委託でお試し期間を設けることでリスクを最小限に抑えることができるのは、企業側にとっても求職者にとっても大きなメリットだ。

ただ、同時にフリーランス人材ならではの採用の難しさもある。LITAでは、フリーランス人材を採用する際に大事にしている取り組みがあると笹木氏は教えてくれた。

「弊社はこれまで多くのフリーランス人材を正社員として採用してきましたが、最初の頃は入ったメンバーがすぐに辞めていってしまうなど苦労もありました。それまで全て自分で決めてやってきたフリーランスの方にとっては、会社のルールが窮屈に感じたり、自分のやり方を曲げなければならないことが煩わしかったりするんですね。中には無理にでも自分流を貫き通したり、受ける仕事を選ぼうとしたりする方もいてマネジメントが難しい側面もあります。これは一般的に言われている中途採用の難しさにも通じる特徴だと思うのですが、フリーランス人材はさらにその傾向が強いです。

もちろんそれではチームとして上手くいかないので、今は採用時に『LITAには、一人ではなく、みんなで未来に向かっていくためのルールがあります』と最初に説明し、納得できる人だけに入社していただいています。もちろん入社に至らなかった方もいますが、その後も機会があれば業務委託でお付き合いしていただいています」

さらに、LITAでは採用した後も長く継続して働いてもらえるよう、月曜日の朝会でLITAの描く未来をメンバーに再確認し、イメージしてもらう取り組みを行っている。

「入社前にルールを説明して士気を合わせても、社員として働いていく中で初心を見失ったり、仕事がしんどく感じることは少なからずあります。フリーランスでも会社員でも、大変なことはある。じゃあ会社としてメンバーのためにすべきことは何かと考えると、メンバーが落ち込んだり不安になったりしないよう、みんなに未来を鮮明にイメージしてもらうことが大事だと私は考えています。例えば、『今月は売り上げが落ち込んでいるけど、それは私たちの夢を実現するために必要な失敗で今は成長段階だよ』と伝えることで、みんながLITAの中でどういう世界や物語を作っているのかを再確認してもらう時間を、毎週月曜の朝会で設けています。私が見ているLITAの現状や未来をシェアした後に、それを聞いて自分がどう感じたかをメンバー同士でディスカッションすることで、意識のズレや意思疎通のエラーを減らしています」

30代からの女性が当たり前に活躍できる社会に

自社での支援実績や採用実績から、笹木氏は『世の中の企業は30~50代の女性の可能性についていま一度着目してみてほしい』と話す。

「在宅勤務が浸透したのもあり、以前より女性が働きやすい環境になってきた一方で、いまだ若手や男性を採用したがる企業が多いのが実情です。ですが、今一度30代から50代女性の採用も視野に入れてほしいと強く思います。そうした層の女性は色々な経験を積んでおり自分でPDCAも回せるだけでなく、現状ではなかなか再就職が難しいということで、一度採用されれば長く働いてくれる傾向にあります。

また、マインドの面でも非常に魅力的です。私自身、出産を経てキャリアに悩んで会社を辞めた経験がありますが、それは仕事が嫌いだからではなく、両立が難しくて仕事に思うようにコミットできず中途半端な自分が許せなかったから。私と同じように、中途半端に働くことを許せなくてフリーランスや専業主婦になった方はすごく多いと思います。とはいえ、企業から離れていた方がもう一度正社員として働こうとスキルを身につけることは、並大抵の努力ではできませんよね。仕事に対する真摯な姿勢と、努力できるマインドの強さは素敵な資質と言えるでしょう。

少子化や人材の流出などで人手不足で悩んでいる日本社会において、企業が30代以上の女性を採用するメリットは十分あります。若手や男性にこだわって人が足りないと嘆くのではなく、30代以降の女性の可能性をぜひ信じて、彼女たちの力も借りながら皆さんの会社を成長させていただきたいなと思います」

笹木氏が目指すのは「女性活躍」という言葉のない世界だ。女性が活躍するのが当たり前の世の中にしていきたい、そんな思いで女性のキャリアアップやチャレンジに携わっている。

「I’meは『I am me(私は私)』からなる造語です。『自分らしく、なりたい私に向かって活躍するためのスキルを身につけられる場所』という意味を込めたサービス名の通り、まず自分が『何者になりたいのか』をメンター講師と共に考えて方向性を決めるところから始めます。そして方向性が決まったらI’meで必要なスキルを確実に身に着けていく。I’meを通して、自信をもって社会で活躍できる女性を増やしていきたいと思います」