2019年に創業したITスタートアップ企業の株式会社Quickwork。同社は1期目にして黒字化を達成し、組織も1年半で50名を急成長、今も組織を拡大し続けている。今回HRog編集部は同社の採用・人事にスポットを当て、変化の激しいスタートアップで必要な組織作りのエッセンスについて話を聞いた。
株式会社Quickwork
代表取締役社長
村岡 功規
むらおか・あつのり/学生時代にデータ分析の研究員の傍ら、Webサービスを起業。大手IT人材企業レバレジーズで新規事業立ち上げと営業マネージャーに従事し、株式会社QuickWorkを共同創業。
IoT、FinTech、医療の領域で、AIやデータサイエンスなどのテクノロジーを活用したビジネスを展開するスタートアップが増えている。大きな成功を遂げる企業もある一方で、夢半ばで事業をクローズしてしまう企業も多くある。株式会社QuickWork代表取締役の村岡氏は「両者を分ける要因の一つに、志を同じくして前に進んでいく仲間を集めることに成功したかどうかがある」と語る。今回は同氏に組織拡大のノウハウについて話を聞いた。
外部委託の失敗からわかったオールインハウス経営の重要性
株式会社QuickWorkはアポ獲得のためのリスト作成サービス「SalesNow Targeting」を提供している。2019年8月に村岡氏と現COOの粂氏の2人で立ち上げたのち、1年半で50名規模の組織にまで成長させた同社は現在「外部のパートナー企業に頼るのは最低限、人的リソースは採用により賄う」というオールインハウス経営の体制にこだわっているらしい。その理由は何なのだろうか。
「オールインハウス経営にこだわっているのは、過去に外部に委託した結果、自社の課題が不明確になり、成長スピードが落ちてしまった経験があるからです。
創業期は開発、マーケティング、バックオフィス、セールスなど全ての業務を私と粂の2名で行っていました。しかし徐々にお問い合わせが増え、2人で業務を進めることに限界を感じはじめていたので、営業代行の企業にお声がけし、営業の機能を外部においたことがありました」
しかし、外部委託はうまく行かず、なかなか売上につなげることができなかったという。
「特に困ったことは、『なぜ、うまくいっていないのか』情報が全く入ってこないことでした。特にローンチしたばかりのサービスが市場に受け入れられるようになるためには、お客様の声を聞きながら課題を特定し、開発やマーケティング、セールスの方向性をチューニングするというプロセスが必要不可欠です。しかし営業の機能を外部に移管してしまったために、明確な課題も見えず、有効な打ち手を選択できない状況に陥っていました」
スピード感をもってPDCAを回すためには、すべての行動を自分たちで把握する必要がある。この経験をきっかけに、採用も含めたすべての業務をインハウスで行うという組織方針が生まれた。
「セールス業務の平準化」で採用難易度が下がった
外部委託の経験を経て、営業チームの内製化に大きく舵をきったQuickwork。しかし次に立ちはだかったのが、キャッシュフローの壁だったという。
「引き続きマーケティングはうまくいき、インバウンドでのお問合せが増えていく一方で、それらのリードを受注にまで導くインサイドセールス、フィールドセールス両方の数が不足していました。しかし当時はまだまだ資金も潤沢ではなかったため、ビジネススキルの高い中途のセールスパーソンを採用できるフェーズではありませんでした」
そこで同社が行ったのは「インターン生中心のセールスチーム立ち上げ」だった。
「インターン生であれば採用のハードルもそこまで高くはありませんし、中途の正社員と比較して月額でかかる固定費を抑えることが可能です。Wantedlyを活用しながら、スタートアップでのビジネスに興味があるインターン生の採用を始めました。Wantedlyは月額4、5万のコストで運用できるため、スタートアップ企業にとっても手を出しやすいおすすめの採用ツールです」
しかし一方で、社会人を経験していないインターン生にBtoBセールスを任せるとなると、成果を出すまでの教育コストが大きくかかるというデメリットもある。
「そのデメリットを極限まで小さくするために行ったのが、人のリソースを極力介在さないテックタッチ・セールスオペレーションの構築です。具体的には問い合わせから荷電に至るまでに、下記のフローを構築しています」
① 広告運用
② 顧客からサービスLPへ問い合わせ
③ salesforce・Gmailへのリード情報の自動追加とサンクスメールの自動送信
④ Slackへの自動通知
⑤ インサイドセールス担当が架電、商談化
「このフローの中でも②〜④の部分は人の工数をかけず、すべて自動での対応を実現しています。まだキャッシュが不足しているスタートアップにおいて、ビジネススキルが低い人でも安定して受注できるフローを構築するのは、経営戦略において非常に重要なことだと思います」
営業のテックタッチ・セールスオペレーション化とインターン生の採用を同時に行った結果、1人目のインターン生がジョインしてからわずか2週間でスピード受注を達成した。その後もインターン生主体でセールスチームを運用し、現在の組織体制の基礎を構築したらしい。
「受注までのセールスの流れを確立できたことで、多くの問合せを捌ける体制を作れるようになりました。そのタイミングで新型コロナウイルスが流行、従来のテレアポや訪問営業ができなくなったため、新たな営業手法を求める問い合わせが増えました。こうなると全く人が足りなくなり、追加で採用を決定。2020年3月には、メンバーは11名(村岡+粂+Marketer1名+Sales7名+Engineer1名)にまで拡大していました」
組織に足りない知見は「複業人材」を頼る
セールスフローを構築し、営業業務をインターン生に任せられる体制を整えることでさらに成長を加速させた同社。営業組織が成長していく中で、ボトルネックはクロージング~受注後のフォローへ移っていったらしい。
「そこで、受注率の向上とアップセルやクロスセルの増加を目的として、法人営業経験が5年以上のベテランセールスの採用に乗り出しました。最終的に3名のメンバーを、正社員ではなく複業社員という形で業務委託契約しました」
村岡氏によると、複業人材を採用するメリットは3つあるという。
①即戦力として活躍してくれる
②教育コストもほとんどかからない
③固定費を抑えることができる
「多くのスタートアップは初期段階にはキャッシュフローの問題に直面します。しかし、そんなときでもパフォーマンスを高めていかないといけない。そんなパラドックスを解消するためにも、複業人材の採用をおすすめします」
だが複業人材採用や業務委託での採用では、人材が複数の企業で働いているのが一般的なため、コミュニケーションの方法や時間帯に制限があり、マネジメントが難しいという課題もある。この課題に対し、同社ではあえて「自由度の高い労働環境をつくる」ことで一人ひとりの自律を促しているという。
「QuickWorkでは、5つのValueを設定して浸透させるとともに、フルリモート・フルフレックスの制度を取り入れています。それは『どの場所でいつ働けば、一番生産性が高いのか』という、人によって違う項目を、メンバー自身が選べることを大事にしたいと考えているからです。実際、現メンバーの居住地は全国バラバラで、都心に住んでいる方は半数に満たない形となっています。
実は前職では働き方が自由に選べる環境ではなく、エンゲージメントも低かったため、以前からそこに対する課題観を持っていました。だからこそリモートワークを含めた自由度の高い労働環境をつくったうえで、メンバー自身を信じて任せることを大切にしていきたいと思ったのです。そのおかげかメンバーの会社に対するエンゲージメントも高く、働き方や仕事の内容での離職もまだありません。今後も引き続き、人を信じる組織づくりを続けていきたいなと考えています」
50名の組織になってもあまり縛りを設けずに、自由な組織運営を行う裏側には、「メンバーを信じて任せる」という価値観があることが分かった。次回はさらに深くスタートアップの組織づくりの裏側に迫っていきたい。