面接のクオリティは下調べで上がる!入社したいと思わせる面接の極意

シングラー株式会社
代表取締役CEO/Founder
熊谷 豪 氏
くまがい・ごう/明治大学卒業後、ベンチャーのモバイル広告代理店に入社し人事採用業務に従事。2011年に人事採用の上流戦略を提案するHRディレクションカンパニーを立ち上げ、採用チーム立ち上げ・再建を中心とした採用コンサルティング全般に携る。2016年11月、シングラー株式会社を設立。クラウド型人材分析ツール「HRアナリスト」で『B Dash Camp 2017 Summer in Sapporo』ピッチアリーナ準優勝、2018年よりパーソルグループに参画。

採用の現場で「採用CX」という言葉が注目され始めて久しい。「採用CX」とは「候補者体験」、つまり求職者が企業を認知してから選考を終えるまでの体験ひとつひとつに価値を提供し、採用成功やファンの獲得に繋げようとする考え方だ。しかし、採用CXの大切さは分かっていても結果に繋げられず悩んでいる企業も多い。

CXの高い面接を行うためにはどうすればいいのか。今回はシングラー株式会社の代表取締役CEOである熊谷氏に、採用が上手くいかない企業の面接の特徴とその原因、解決策について話を伺った。

「スタンダードな面接」がもう古いことに気付いていない

熊谷氏は新卒で人事の業務につき、その後HRディレクション株式会社を立ち上げて採用コンサルティングに携わってきた人事のエキスパートだ。コンサルティングの一環として面接に同行すると、その企業の課題が見えてくるという。

「『採用がうまくいかない』という企業は、面接がうまくできていないところが少なくありません。実際に面接に同行させていただいた企業の中には、ひたすら相手を見定める質問を続ける企業、自社の自慢話をして終わる企業、終始興味がなさそうに面接をしている企業。中には集団面接で面接官が寝ているという例もありました。

面接で不快な思いをしてもなお、その企業で働きたいと思う人は稀です。目の前の人がどんなコミュニケーションをとるかで会社を選ぶ人は多いもの。実際に社会に出て働いたことのない新卒は、さらにその傾向が強くなります」

しかし、当事者である企業側は自社の面接のやり方に問題があるとはなかなか気付けない。その理由は採用の構造にあると熊谷氏は述べる。

「見極め」の面接から「魅力付け」の面接へアップデートできていない

「まず、面接のスタンダードが30年ほど変わっていないという点が挙げられます。新卒採用であれば『志望動機』『学生時代に頑張ったこと』『自分の強み』、この3つが質問3点セットのように扱われていますよね。この3つを質問するだけの、紋切り型の面接を行っている企業も未だに多いと思います。

実際、20~30年前にはそのような面接でも採用できました。労働人口が今より多く、求人広告を出せば人が集まる時代だったからです。

しかし今では労働人口が減り、求人広告を2倍にしても2倍の人が集まる時代ではなくなっている。求職者が少ない分、集まってくれた人たちに内定を承諾してもらえるようグリップしなければなりません。候補者から選ばれる企業になるために、今や面接フェーズでは候補者の見極めよりも魅力付けの方が重要になってきています。それなのに面接のやり方はアップデート出来ていないのが問題なんです」

企業が大きくなると人事が面接現場を直接見られない

また「一定以上の規模の会社では人事が直接面接をしなくなる」のも面接の問題に気付けない要因のひとつだ。

「採用人数が多くなると、人事以外のメンバーが面接官を担当することが増えます。すると人事にとって、現場の面接の様子が完全にブラックボックスになってしまうんです。面接官から『今回の候補者はこんな人でした』という報告はあっても、『このようなことを聞いて相手の反応はこうでした』という報告がされることはほとんどありません。現場で不適切な面接が行われていても人事は気付けなくなってしまいます。

人事が直接面接に立ち会うことができなかったとしても、面接官一人ひとりに対して面接研修が十分に行われていれば、そのような事態は回避できます。しかし面接官研修の実態としては、NG質問や面接の流れなど表面的なテクニックは教えても、相手の考えを傾聴する手法などの深いトレーニングができないまま面接を担当させている企業が多いのです」

面接は営業に通ず 下調べが重要

求職者が企業選びをする上で、面接での印象が判断材料になることは多い。だからこそ面接が適切にできていない企業は改善の必要があるのだ。熊谷氏いわく「面接を営業に置き換えて考えてみると、アップデートが上手くいく」という。

「営業活動するときには普通、お客さんがどんなニーズ・好みを持っていて、どんな意思決定プロセスで発注しようとしているのかを事前にヒアリングしますよね。それはお客さんを理解しないまま提案するよりも受注確度が上がるからです。

採用にも同じことが言えます。前述の通り、今の面接は魅力付けが重要です。採用したい候補者の入社意欲を高め内定承諾を得るには、候補者がどういう人なのか面接前に知っておく必要があります」

論理的な話し方を好む人がいれば感覚的に話した方が心を開いてくれる人もいる。どの話題を深堀りすれば興味を引けるかは候補者によってさまざまだ。候補者ひとりひとりの性格に合わせた面接ができれば魅力付けしやすくなる。

また株式会社リクルートキャリアの調査によると、面接において志望度を左右する要素の1位は「面接官の話を聞く態度」である。「希望条件の確認」や「自分がアピールしたいことへの質問」などにも票が集まっており、候補者にとって「自分を理解してくれる企業」はそれだけで魅力的だといえる。

しかし相手がどのような人なのかを会話の中で掴むには時間がかかる。短い面接の時間内ではその余裕がないため、候補者理解よりも見極めを優先してしまう企業が多いだろう。

「だからこそ面接前の下調べが大切だ」と熊谷氏は続ける。シングラーが提供するサービス『HRアナリスト』はまさに候補者理解を補助するツールだ。

『HRアナリスト』ではまず事前アンケートで候補者のニーズや好み、意思決定プロセスなどをヒアリングする。それを解析し、候補者ひとりひとりに合った面接の進め方や効果的なアプローチの仕方などを出力してくれる。そのアドバイスをもとに面接することで、短時間でも候補者のことを深く理解し、また候補者が知りたい情報をしっかり伝える面接が可能になる。

「『HRアナリスト』には候補者と社員の相性をパーセンテージで表す機能もあります。もちろん相性のいい人を面接官にあてられればベストですが、2次面接・最終面接などはたとえ相性が悪くても上長が行わなければなりません。それならせめて相性が悪いことを理解したうえで臨んだ方がいい。相手の性格が分かっていれば意識的にケアできますよね」

また、事前準備と同等に重要なのが振り返りだ。

「社内での振り返りだけでなく、面接を受けた人からのフィードバックを受けながら、面接を改善していくとよいでしょう。選考中は本音を聞けない可能性が高いため、フィードバックをもらうのは面接の1か月後が理想です。選考結果に関わらず、面接を受けた候補者全員に聞きましょう。

『落とされた人がわざわざフィードバックなんてしてくれるのか?』と疑問に思われるかもしれませんが、面接で不快な思いをすると文句の一つでも言いたくなるものです。実際に候補者からのフィードバックを集めているGoogle社では、面接を受けた半数近くの人がフィードバックをしてくれているそうです」

ブラックボックスになりがちな面接現場の状況を、候補者から実際の感想をキャッチアップすることで明確化する。こうすることで、社内だけで戦略を練るよりも実態に即した対策が打てる。

採用CXの3つの段階、その真ん中を担うサービスを

採用CXは「面接前」「面接中」「面接後」と3つのフェーズに分けられるが、それぞれの段階で求職者が企業を評価するポイントは変わってくるという。

「面接前のCXは日程調整の手間や連絡の抜け漏れ、返信の速さなどで評価されます。これらはATS(採用管理システム)の導入で改善できる部分です。海外ではCXといえばまずATSが挙げられるほど、面接前の快適さが重視されて、テクノロジーによる最適化が進んでいます。

また面接後のCXは、内定者フォローや入社手続きなどで評価されます。就活サイトのクチコミでは研修の質なども重視されますし、オンボーディングをしっかり行うことでも面接後CXを高められます。実際オンボーディングに注力する企業は増えてきていますね。

面接中のCXは、ここまでで言及してきたような面接官の態度、質問内容などによって評価されます。しかし面接中のCX改善を助けるサービスは未だに少ないのが現状です。

候補者にスコアをつけて何点以下は不採用、というように『見極め』をある程度テクノロジーで代替することは可能です。しかし『この会社に入りたい』と思わせるのは実際にその企業で働く人間の言葉や態度です。『魅力付け』は人間にしかできないことなんですね。たしかにサービスとして手を出しづらい領域ではありますが、だからこそ我々が取り組む価値があると考えています」

社内で面接のシミュレーションを行ったとしても、実際の候補者は十人十色であり研修通りにやれば採用できるわけではない。研修後、ベテラン面接官が隣でサポートしながらOJT形式で面接のノウハウを学ぶのが理想だが、工数がかかるため実践は難しいだろう。『HRアナリスト』はそんな属人的なノウハウをデータでカバーするためのツールだ。

テクノロジーでは代替できない『魅力付け』要素が面接にはある。だから面接官に求職者のデータという武器を持たせよう、というのがシングラーの考え方だ。面接中のCXを高める取り組みが今後どのように進んでいくか、引き続き追っていきたい。