株式会社QuickWork
代表取締役社長
村岡 功規 氏
むらおか・あつのり/学生時代にデータ分析の研究員の傍ら、Webサービスを起業。大手IT人材企業レバレジーズで新規事業立ち上げと営業マネージャーに従事し、QuickWorkを共同創業。
50名の規模の組織になった後も自由な組織運営を行う株式会社QuickWork。2019年創業後、今も組織を拡大し続けている背景には、「メンバーを信じて任せる」という価値観があるようだ。今回HRog編集部は同社の組織づくりの裏側について、代表取締役の村岡氏に話を聞いた。
近年、労働力不足や即戦力志向の高まりから採用競争が激化しており、優秀な人材の獲得は多くの企業の課題となっている。しかし知名度も実績も少ないスタートアップ企業では、大手企業に競り勝つことはなかなか難しいのが事実だ。急成長しているスタートアップではどのような採用が行われているのか。
今回は村岡氏に、優秀人材を獲得する秘訣と採用における「マッチ」の大切さについて話を伺った。
組織のドライブに不可欠な優秀人材、獲得の秘訣は「情報の開示」
創業から1年半で利用企業6500社突破、日本の人事部「HRアワード入賞」など輝かしい実績を上げたQuickWork。この急成長には優秀な即戦力人材との出会いが不可欠だったと村岡氏は語る。
「スタートアップ企業の成長には、採用が本当に大事だと考えています。弊社も創業期にはスキルだけを見た採用をしていたのですが、スキルはあるけれど事業に対する貢献や成長への思いがないために、パフォーマンスが発揮できなかった方もいました。現在はスキルだけでなく、マインドが合うかどうかも重視して採用しています」
スキル面でのミスマッチ防止施策として、同社ではジョブディスクリプションを設定している。
職務の内容を詳しく記述した文書のこと。職務のポジション名、目的、責任、内容と範囲、求められるスキルや技能、資格などを記載する。特に職務内容と範囲については、どのような業務をどのように、どの範囲まで行うかまで明確にすることで、業務のあいまいさを排除できる。
「ジョブディスクリプションを作っている目的は、ミスマッチを減らすことです。中途の方は自分のスキルや専門性、またどんな環境だと活躍できるのかなどを自分ではっきりと認識できている方が多いので、役割や業務内容、求めるスキルなどを事前に示しておくことでミスマッチを大幅に減らせます。弊社では会社情報や会社のビジョン、事業内容をおよそ4000字程度、各職種ごとの説明を2000字程度の情報量にしてお伝えしています」
またマインド面においても情報の事前開示を大切にしている。会社資料を充実させたり、経営陣がnoteを書いたりすることで、「どのような考えで経営されている企業なのか」という情報を候補者に知ってもらえる環境を作っている。
「優秀な人材ほど引く手あまたなので、相当親和性が高い会社にしかエントリーしません。自社がどういう人材を求めていてどういう働きを期待しているのか、きちんと言語化しておく。そうして親和性の高さが事前に確認できないと、優秀層は逃げていってしまいます」
経営陣と社員の距離を埋めるためのコミュニケーション
また「相手に求めていることをきちんと言語化すること」は、採用以外の場面でも重要だという。
企業が成長するにつれて村岡氏自身が現場に立つことは減り、企業のPRや戦略構築など経営者としての業務がメインになっていった。メンバータスクを自分でやらずに人に任せることが増えていく中で、あいまいな指示から認識のズレが起こり、期待と違うアウトプットになってしまったこともある。それからは仕事の指示をする上でも、その人に何を期待しているのかを逐一言葉にして伝えるようにしている。
「最近は社員が増えて経営陣と現場のメンバーとの距離感が遠ざかってきているとも感じています。これは会社の規模が大きくなる上で避けられないことです。だからこそ社員との対話を大切にすべきなんですね。
経営者として各メンバーの心理的なケアを行うため、私自身が社員全員と毎月必ず1on1を行っています。ここでも感覚的に話すのではなく、期待している役割と目標、それに対して今はどんな状況なのか、その目標達成に向けて何をすべきかなどを因数分解して伝えるように意識しています」
QuickWorkの社員数は現在62名。一人で担当するには多い人数だと感じられるが、多いからこそ村岡氏は1on1を大切にしているという。
「加えて、自社のエンゲージメント可視化ツール『Visual』を利用したサーベイも行っています。上司・同僚・環境・待遇・会社・成長・事業・カルチャー・健康・評価という10個の評価軸があり、何か不満があればその部分のスコアが顕著に下がります。自由記述のコメントも回収できるので、スコアが低い時に具体的なコメントを見ることでアクションに繋げられるようになっています」
サーベイで社員の声を聞き、1on1で経営者の思いを伝える。こうした仕組みを整備することで、企業が大きくなるにつれ希薄になるコミュニケーションを意識的に構築している。
ビジョンを貫いて生産性の底上げを目指す
社員の調子を細かく気にかけつつも、QuickWorkでは基本的に仕事の進め方を個人に委ねている。
一般的には社員の裁量を大きくすればするほど仕事の確認・管理が難しくなるため、経営陣と現場とのズレが起こりやすい。それでも同社がこのスタンスを貫くのは、人から指示されたやり方よりも自分で意思決定をしたやり方の方が、社員のパフォーマンスが上がりやすいと考えているからだ。
社員を信頼しているからこそ打ち出せる方針だが、その信頼の土台には「ブレないビジョン」があるという。
「弊社のメンバーはQuickWorkのビジョンに共感し、熱量をもって集まってきてくれた人たちです。そのためビジョンが変わったり事業内容がビジョンから外れたりすると、モチベーションに影響します。逆にいえば、ビジョンが一貫していて自分の期待されていることが分かっていれば、やり方を個人に任せても適切に仕事ができるんです」
そんなQuickWorkが掲げるビジョンは「Be Productive 社会の生産性を底上げする」。データの保存や分析などをテクノロジーで効率化し、もっと人が「人にしかできない仕事」に向き合える環境づくりを目指している。
同社が2021年3月にローンチした「SalesNow DB」は、日本中の企業約500万社の企業情報を網羅したデータベースであり、「SalesNow」シリーズの他のサービスと連携して営業のDXを推進するものだ。まさにQuickWorkのビジョンを追及したサービスと言える。
実は、スタートアップ企業の95%が4年以内に倒産しているとも言われている。ここからの経営はビジョンの追及と同時に、組織を継続していくことが重要になるだろう。その点について村岡氏はこう語った。
「たしかにスタートアップということもあり、自由に使える資金が限られていたり意思決定に制約があったりはします。ただ、しっかりとビジョンを追及していく過程でお客さんに対して価値を提供できるものを作り、そこから得た資金でまたビジョンの追求に必要なものに投資をしていく。このサイクルができていれば組織は継続できると思っています」
ビジョンの追及と組織の継続は企業の両輪であり、どちらが止まっても前には進めない。海外進出も視野に入れ、QuickWorkはこれからもその両輪で加速し続ける。