「柔軟なキャリア」を目指す求職者が増加中! いまエージェントができる支援とは?

株式会社fruor 
代表取締役 CEO 
喜多村 若菜 氏
きたむら・わかな/2016年7月 アクセンチュア株式会社に新卒入社。ITコンサルティングに従事する。2017年8月 GOB Incubation Partners株式会社にて、教育関連事業の立ち上げを経験。育児中の方の採用・育成を担当する中で、キャリアとライフイベントの両立に課題を感じるようになる。2019年1月 25歳でライフステージに合わせたキャリア支援事業を行う株式会社fruor(フルオル)を起業。2019年11月 オンラインキャリアカウンセリング事業を行う「ミートキャリア」サービス開始。

新型コロナウイルスの影響で、人々の生活様式やキャリアに関する考え方が大きく変化してきた。リモートワークの普及などにより、働き方を見直す人が増えている。コロナウイルスによるキャリア観への具体的な変化や、エージェントに今後求められる支援について、個人向けのオンラインキャリアカウンセリング事業を行う、株式会社fruor 代表取締役 CEOの喜多村 若菜氏にインタビューを行った。

コロナをきっかけに働き方を見直す人が増加

「コロナをきっかけとして、働く人のキャリア観に3つの変化が起きました。1つ目は、『リモートワークか、リモートワーク以外の働き方か』という選択肢が生まれたことです。コロナ流行前は、リモートワークはエンジニアやライターなどの限られた人だけができるものでした。しかし、最近では様々な職種でリモートワークが可能になり、働き方を軸に仕事を変えたいと考える人が増えてきています。

2つ目は、『家庭の時間を大切にしたい』と考える人が多くなったことです。リモートワークによる柔軟な働き方が広がったことをきっかけに、男女問わず、『家庭も大切にできる』仕事・働き方を求める方が増えています。

3つ目は、自分のキャリアに不安を感じる人が増えたことです。コロナの影響を受けた企業に勤めていた人の中には、業績悪化のために解雇されてしまった人もいました。そんな状況を目の当たりにしたことで、勤め先がなくなった時に自分のスキルは社外でも役に立つのか、自分はどんなことをして生きていくのかなど、キャリアや生き方を見つめ直す人が増えています」

ライフイベント期の人でも「副業したい」「興味のある分野を学んでみたい」

こうした変化は出産・子育て・介護などのライフイベントへの対応が必要な時期(以下、ライフイベント期)の人にも起こっている。

コロナ禍以前はリモートワークがスタンダードではなかったため、ライフイベントを迎えると時短勤務をとり、一時的にキャリアステイせざるを得ない人が多かった。しかし、リモートワークの普及をきっかけに通勤時間がない分フルタイムに戻せる人も増え、ライフイベント期でもキャリア形成を諦めない人が増加しているらしい。

「また、今までのキャリアアップの方法は1社で留まって役職を上げることが主流でしたが、働き方の選択肢が増え、フリーランスで働く、副業を始めてスキルを身につけるなど、キャリア形成の方法が多様になってきました。だからこそ、忙しいライフイベント期であっても、副業をしてみたい、興味のある分野で勉強したいと意欲的な方がたくさんいらっしゃいます。ポジティブに次のキャリアを考えられるようになったと言えます」

柔軟な働き方にシフトできないハードルは自分のスキルの言語化

リモートワークへの移行や、1つの会社に留まらない働き方をする人が増えている一方で、柔軟な働き方へシフトするのにハードルを感じている人もまだまだ多いと喜多村氏は語る。

「柔軟な働き方にシフトする際のハードルの一つに、自分のスキルややりたいことの言語化ができていないことがあります。スキルを活かせる場所ややりたいことがうまく想像できないまま、漠然と『リモートで働きたい』『副業したい』と思っている方が多いのです。

例えばエンジニアのように、扱えるプログラミング言語や実際に開発したサービスなど、スキルや成果物がはっきりしている職種の方は転職のイメージがしやすく、またリモートワークや短時間勤務など柔軟な働き方を実現するイメージも持ちやすいです。

しかし、総合職で1社で長く勤務していた方や部署・職務異動を多く経た方は、自分のスキルややりたいことが言語化しづらく、またリモートワークや副業の形で自分が成果を出せるか不安になることも多いです。そのため、柔軟な働き方に移行することの難しさを感じやすくなっています」

求職者は転職すること以前の支援を求めている

「しかし、実際にキャリアカウンセリングを行うと、どなたも必ず何かのスキルをお持ちです。その人が第一にしている価値観や、経験の棚卸し、今後どのようなキャリアを築きたいかなど、様々な角度からカウンセリングを行うことで、強みを言語化し、やりたいことを設計できるようになります」

人材業界として、自身のキャリアや生き方を考え直す人にどんな支援ができるだろうか。

「ミートキャリアは転職エージェントではないため、求人紹介は行わず、その方の中長期のキャリアを考えたり、スキルややりたいことを言語化する支援を行っています。お悩みを聞くだけではなく、本人が納得できるよう、キャリアの選択肢を示すお手伝いをするイメージです。

様々な働き方が可能になったことで、逆に選択肢の多さに悩んでしまう人がよく見られます。今後のキャリアの設計自体が揺らいだまま転職活動をしてしまうと、その方の本当にやりたいことが実現できなくなってしまったり、新しい職に就いてもすぐに『転職したい』と思ったりしてしまいます。

そこで、私たちミートキャリアでは、自己分析や転職の軸づくりをお手伝いしています。今の仕事に対して違和感は感じているものの、今後のキャリアの選択肢が明確になっていないという方に対して、自分がこれまでやってきたことやスキル、大事にしている価値観、今後のキャリア観をもとに、その方がどうしていきたいかを言語化していきます。

相談の中で、今すぐの転職ではなく、現職に留まる選択肢もあるとわかった場合には、現職でどのようなキャリアを築けるか前向きにカウンセリングさせていただいています」

一人ひとりが自分に合ったキャリアを模索する時代のなかで、転職活動の前段階でのサポートの需要がより高まりそうだ。それは同時に、エージェントの生存戦略にも繋がってくると喜多村氏は考える。

「今はwebを活用すれば、ユーザーは簡単に求人を見つけられます。つまり、求職者と企業のマッチングをおこなうだけのエージェントは、価値が下がってきているのです。

しかし、求職者の方は転職以前の支援を必要としています。マッチングだけではなく、一人ひとりに合ったキャリア支援が、人材紹介会社の重要な付加価値になるとともに、真の求職者支援に繋がるでしょう」

働き方の多様化や求職者のキャリア志向、テクノロジーの発展など、求職者を取り巻く環境はコロナをきっかけに大きな変化を迎えている。エージェントはこれらの変化を見定めた上で、自社の介在価値を再度問い直す必要がありそうだ。