建設業界の人手不足を変えろ 慣習の壁を越える助太刀の斬新な取り組み

株式会社助太刀
執行役員VPoS
林 素明 氏
はやし・もとあき/2000年、アクセンチュア株式会社に入社。テクノロジーグループ、戦略グループ、製造・流通本部を経て、デジタルコンサルティング本部の立ち上げから拡大に従事。2015年よりアナリティクスグループのマネジングディレクターを務める。2021年5月より助太刀に参画。

労働人口の減少により各業界で人手不足が叫ばれる現代、特にその傾向が顕著になっているのが建設業界だ。今回は、建設業に従事する労働者と雇用主をマッチングするアプリ「助太刀」を開発した、株式会社助太刀の林氏に建設業界の人手不足の現状と今後の展望を伺った。

建設業界の人手不足 背景にある「IT化の遅れ」と「業界慣習」

建設業界の人手不足は、若者の新規就業者数が少ない上、離職率が高いことが原因と言われている。その要因の一つと考えられるのが、労働環境の悪さだ。

「建設業界は他産業と比べて労働時間が長い上に、賃金が低いというデータがあります。週休2日が確保されていないことも多く、キツい・汚い・危険のいわゆる『3K』に該当する仕事というイメージもあることから、若者の就業者数が少なくなっています」

加えて、繁忙期と閑散期で収入に大きな差があるため、安定した家計やキャリアプランが立てにくいことも理由の一つとしてある。なぜ繁忙期と閑散期に大きな差が生まれてしまうのか。そこには業界の慣習が関係している。

「建設業の工事現場ではIT化が進んでいて、図面の電子化や施工管理ツールの導入、重機の遠隔操作などが行われています。一方で、職人さん手配ではまったくIT化が進んでいないのが現状です。職人さんたちの間では、知り合いに電話で仕事を紹介してもらう『ツテの文化』がいまだ主流です。知り合いのツテ以外に仕事をもらえる方法がないため、閑散期の仕事探しにも限界があります。

また、建設業界では親方のもとに職人さんたちがつく『徒弟制度』的な組織体制が一般的なため、自分の親方以外の人と仕事をするハードルが高く、職人さんが仕事の機会を広げるチャンスが少ないというのも一因です。特に高齢の親方の元ではその慣習が根強く、職人さんは他の親方と仕事をしたい場合でも探しに行くことが困難です。こうしたIT化の遅れや業界特有の慣習によって、元請を超えたつながりが生まれなくなっているのです」

建設業者と職人が出会えるアプリ「助太刀」を開発

こうした問題を解決するため、株式会社助太刀は建設業界特化のマッチングアプリ「助太刀」を開発した。職人は希望するエリアや職種、持っているスキル、社会保険や労災の有無などの基本的な情報を入力することで仕事を募集し、仕事を発注したい企業や親方と直接メッセージをやり取りできる。

この仕組みは人手不足を解消するだけでなく、様々な観点から建設業界に貢献できるという。

「1つ目は、建設業界における職人さんの仕事の選択肢を増やして、今の多様な働き方に対応できる仕組みづくりです。昔は『どんなに大変でも、5年~10年一人の親方についていって独り立ちできるまで頑張る』という考え方が一般的でした。そのため親方の元で職人さんが囲い込まれることもありましたが、今の若い人たちは自らキャリアを設計したいという気持ちが強く、従来の形での働き方はだんだん時代にそぐわなくなってきています。

時代の変化もあり、今の若い世代の職人さんはもう少し自由に、自分のやりたい方法で仕事をしたいと考えているんですね。助太刀は色んな方や職場と出会う機会を生み出し、職人さんに仕事の選択肢を与えられる存在だと考えています。

2つ目は待遇の改善です。建設業では、元請けから下請けへと仕事が発注される重層下請構造という形態が一般的です。たとえば100万円の仕事があった場合、元請けが利益を取って80万円になり、その下請けが利益を取って60万になり、またその下請けが…という形で、下に行けば行くほど利益が減っていく仕組みとなっており、これが低賃金の要因となっています。助太刀を使うことでこの重層下請け構造の階層が減れば、職人さんたちの賃金を底上げできます」

「そして3つ目は、事業拡大の支援です。先ほど述べた慣習もあって、新しい地域に事業展開したくても、知り合いがいないとなかなか人を集められません。そこで、立ち上げ期に助太刀を使って人を集め、そこでの出会いを足がかりに人脈を広げて新しい地域での地盤固めを行うという形で活用していただいています」

助太刀の建設業界の慣習を飛び越えた画期的なシステムは、関係者からの注目を集めている。建設業界のIT化が遅れていることから、開発当初は『スマホアプリは馴染みがなく、使われないのでは』という不安もあったが、シンプルなUI/UXが使いやすいと好評だ。その結果、サービス開始から5年足らずで17万事業者を突破するなど、建設業界で使われるサービスに急成長している。

また、助太刀は登録事業者の情報を活用した「助太刀社員」という求人サービスも提供している。人手不足に困っている企業は、協力会社探しは「助太刀法人プラン」で行い、社員探しは「助太刀社員」で行うことができる。

「大手の求人サイトは会員数が1,000万人を超えますが、その中で建設業向けの求人は数%に留まります。一方で助太刀の登録者数は、2022年6月現在で法人5万事業者、個人12万事業者で、個人事業主の中で4割程度の人が就職意欲を持っています。大手の求人サイト全体の会員数と比較すると当然少ないのですが、建設業界に絞ってみると助太刀がトップです。

事業拡大を目指す事業主の方から、『雇用したくてもできなかったところを助太刀に助けてもらいました』と感謝のお声も頂いていますね。建設業界に特化した求人媒体という点が特徴で、過去にいろいろな求人サイトや広告に求人掲載をしたものの、応募が少なく採用できずに困っていた方が、助太刀社員を利用したことで採用できたという例もあります。人材業界という枠の中でも建設業に特化しているところが助太刀の強みなので、『建設業なら助太刀』と一番に想起してもらえる存在でありたいですね」

国やゼネコンとも協働し『建設現場を魅力ある職場に』

現在助太刀は、建設業の慣習を取り払うとともに、国土交通省やゼネコンとも協働して業界全体の底上げにも取り組んでいる。

「建設業は日本で4番目に労働人口が多い業種であり、生活を下支えしている重要な業界ですから、国も人材不足問題を解決しようと動いています。例えば、国が発注元になる工事の場合、国がその工事の労務単価を毎年引き上げることで、ある一定の賃金水準を保つように努力しています。また、スーパーゼネコンに対して『下請けは3次受けまで』と指導することで、待遇の改善を進めています。

そうした動きの中で、国土交通省が主導している『建設キャリアアップシステム(CCUS)』との連携もさせてもらっています。CCUSとは、技能者である職人さんが、技能・経験に応じて適切に処遇される建設業を目指して、技能者の資格や現場での就業履歴等を登録・蓄積し、能力評価につなげる仕組みです。助太刀では、CCUSに登録している技能者のプロフィールにCCUSのバッジを表示することで、技能・経験の向上に積極的であることをアピールすることができるような仕組みを構築しています。

また、企業各社も従来のやり方から脱出し、変わろうとしています。志を同じくする者として、ゼネコンの大手各社さんなどにも非常に興味を持っていただけていますね。国土交通省・建設業振興基金・大手ゼネコン等と共に『建設DX推進と健全化に関する勉強会』を3月にも開催しています。助太刀のしていることは、ある意味これまでの建設業界からすれば前例のないことなのですが、そんな中でも国や業界の方々と非常に良い関係を築けていると思います」

人材からフィンテック・EC・教育まで幅広く取り組んでいきたい

こういった取り組みが評価され助太刀は、国土交通省が建設業界におけるDXが進んでいる企業を表彰する「i-Construction大賞」の国土交通大臣賞を受賞した。

とはいえ、斬新な助太刀のサービスに対して「本当に助太刀を使って採用できるのか」と不安を抱く事業者もまだまだ多い。まずは認知度を上げ、その不安を払しょくすることが当面の目標だと林氏は語る。

「助太刀があることで、これまでより少しでも良い仕事の選択肢ができたという声を聞くと嬉しいですね。この積み重ねが業界を良くしていくのだと信じています。現状では利用者が大都市に集中していたり、職種に偏りがあったりと、建設業をまんべんなく網羅できていない点もありますが、まずは助太刀を認知してもらい、使ってもらって浸透させていくことを今後も進めていきます」

当面は人材マッチング事業の拡大に注力するというが、同社はフィンテックやEC、教育に関する構想も立てている。様々な面から包括的に建設業界を支えていく予定だ。

「職人さんは、どうしても得られる情報が現場で会う人たちに限られてしまう傾向があり、そういった職人さんに向けた情報発信をする目的で『週刊助太刀』というメディアを運営しています。他の職人さんや資格に関する情報を発信することで、キャリアプランを立てにくいと悩む職人の方々にもリテラシーを身につけていただき、スキルアップやキャリアアップの助けになれればと考えています。

これらの構想はすべて、『建設現場を魅力ある職場に』という我々のミッションに通じています。助太刀の取り組みが建設業の人手不足解消、ひいては『魅力ある職場』に繋がると信じて、これからも進んでまいります」

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