株式会社ネオキャリア
執行役員 管理本部長 (CAO / CCO) パーパス・プロジェクト統括責任者
砂長 義和 氏
すなが・よしかず/これまでリクルートグループを中心に上場会社などで情報システム部や人事部の立ち上げを行い、IT戦略の策定・推進、組織人事の設計から人事評価システム、リストラクチャリングまで経営管理全般に携わる。事業を加速させる上で、その求心力となる理念・ビジョンの重要性を強く認識しており、インターナルブランディングをテコに当社グループ会社の建て直しを牽引、業績回復に貢献した。
2000年に中途採用支援・広告代理事業で設立された株式会社ネオキャリア。現在ではHR Techサービスやメディアなど事業領域を拡大し、企業として大きな成長を遂げている。急成長の裏側には、どのような革新の歴史があったのか。組織変革の裏側に迫る。
ネオキャリアの一部門であったHRTech事業のクラウドサービス「jinjer(ジンジャー)」を2021年に分社化し、2022年からを「第三変革期」と位置づけ、新たにパーパスを策定するなど、今なお組織変革を続けているネオキャリア。今回は、新パーパス策定にあたる苦労やプロセス、込めた思いなどについて、プロジェクト統括責任者である砂長氏に話を伺った。
変革期において、今後全員が目指す指針としてパーパスを策定
今年で創業23年目を迎えるネオキャリアは、Tech領域であるjinjer分社化のタイミングで、改めて自社の目指す方向性を見つめ直すべく、新パーパスの策定に踏み切ったという。企業の存在意義とされるパーパスの策定に至った背景について詳しく話を伺った。
「ネオキャリアは、これまで若さと強い営業力を強みに売り上げを伸ばしてきましたが、新型コロナウイルスの影響もあり、既存事業が伸び悩み始めていました。これまでのビジネスモデルのままでは売上が上がらないという認識が徐々に広がりつつある中で、Tech領域の中心であるjinjerの分社化が決定。これを機に、改めてHR領域に原点回帰しようという意思を固めたのが、パーパス策定プロジェクトが始まった背景です。
新たな事業展開を求められるフェーズに突入し、ネオキャリアの新章を作る必要性がある。そのためには、まず自分たちがどこへ向かうのかという方向性を改めて定めようということで、パーパスの策定に取り掛かりました。今まではフィロソフィーとして『成長し続ける』という言葉を会社の軸に据え、『自分たちが成長してこそ、初めてお客様に価値提供ができる』という想いのもと事業を伸ばしてきました。しかし、いつしか言葉だけが一人歩きをしてしまい内向きな矢印というイメージが強くなってしまっていました。そのため、改めて矢印を外に向け、社会とのつながりを意識した事業展開をしていかなければならない段階にきている、と考え始めました」
パーパス策定では全社員の声を聞くアンケートからスタート
パーパスの策定にあたり、まずは全社員の声を聞くアンケートから始めた。これは目指すべき方向性を示すパーパスを、社員一人ひとりが心の底から向き合える言葉にすることが目的だったという。
「アンケートの目的は大きく二つあって、一つが『ネオキャリアをこれからどんな会社にしていきたいのか』という社員みんなの想いや、その方向性を知ること。二つ目が、今のネオキャリアに対して感じている強みや不安、不満など、社員の生の声を集めることでした。アンケートは匿名で、15分ほどで回答できるものでしたが、社員の90%以上が回答してくれました。非常に率直な意見がもらえましたね。実施前は匿名ゆえにネガティブなコメントも多いだろうと想定していたのですが、総じて言うならば、みんなネオキャリアのことが大好きだと分かって嬉しかったです。
もちろん、中にはネオキャリアの文化に対する否定的な言葉もありましたが、その中には『ここをしっかり直して生まれ変わってほしい』という期待が見て取れました。不満があれば、しっかりぶつけてくれる組織なんだなというのも分かりましたし、期待感があるからこそ要望がある、と前向きに捉えました。
アンケートで集まった良い言葉も悪い言葉も全部含めて、新しいパーパスで改善できるところはどこだろう、とプロジェクトメンバーが立ち返るための道しるべとしました。アンケートによって課題を整理し、プロジェクトの方向性が定められたことで、みんなが同じ方向を向いていいスタートが切れました」
アンケートに続いて、プロジェクトチームでこれから作るパーパスの位置付けや、これまで社内に浸透してきた言葉との関係性についても話し合いを行った。さらに、幹部だけでのセッションも6回ほど実施し、徐々にアイデアを固めていったという。
「最終的には、経営陣との話し合いを行い、パーパスとなる言葉を作りました。パーパス策定では『みんなでこの言葉を作りあげた』という一体感を何よりも大切にしていて、いかに多くの人たちを巻き込みながら進められるかというプロセスの調整は、プロジェクトを運営していく上でとても難しかったです」
こうして作られた新パーパスが『人と本気で向き合い、未来を切り拓く。』だ。
「創業以来掲げ続けてきた『成長し続ける』という言葉は、ネオキャリアの全社員が軸としてきた言葉であり、この22年間の中で一番大切にしてきた言葉と言っても過言ではありません。代表の西澤はじめ経営陣を中心に作ってきた言葉ですし、もちろんこだわりもありました。
ですが、この言葉に対して賛否両論あったのも事実です。『成長し続ける』という言葉はある意味で内向き・利己的な言葉とも捉えられ、特に中途メンバーからは会社の第一義として『自分たちが成長し、自社の売り上げが伸びること』にフォーカスが当たってしまうのではという危機感や違和感を持たれていた言葉でもあったんです。そこで思い切って、これまでの言葉を捨てる決断をしました」
併せて、パーパスの下に7GOALSという7つのゴールを設定した。これは、2030年までに自分たちがどうありたいのかを、ESGやSDGsといった世の中にある言葉と照らし合わせながら言葉にしたものだ。現在はパーパスと7GOALSをベースに、各事業部ごとのビジョンと、大切にしていく価値観であるバリューを作っている段階だという。
多くの社員が本気で関わり自分たちの言葉づくりを行う
多くの人を巻き込み、議論を重ねて完成した新パーパスには、どのような想いが込められているのだろうか。
「パーパスを作るにあたって意識したのは、自分たちが心底納得できるものにすることです。ありきたりな言葉を並べるだけの、お飾りのパーパスにはしたくなかったですし、みんなが目指す方向として輝く言葉作りをしたいという想いで、一語一句にこだわりました。特に意識したのは、これまでのネオキャリアの価値観だけではなく、ありたい姿・あるべき姿も含めた言葉選びをすることです。数ある人材会社の中でも、ネオキャリアらしい『これから』を形にするにはどうしたらいいのかを意識した結果、『人と本気で向き合い、未来を切り拓く。』という言葉が出来上がりました。
私たちはHR事業を中心に、介護、保育、グローバル人材など人が関わる事業を展開しています。全ての事業に共通するのは、最終的にフォーカスしているのは『人』だということです。では『人』に対するネオキャリアのスタンスをどう表現するか、考え抜いた末に『本気』という言葉を選びました。この言葉は若くて勢いがあるネオキャリアらしさを表しており、引き続きこれからのネオキャリアにも必要なスタンスだと感じています。
次に、人と本気で向き合って何をするのかを考えました。事業領域が広いことを踏まえ、どこかの領域に限った話をするのではなく、『私たちがこれまでにない新たな未来を拓いていくんだ』という志を推すことにしました。その上で、少しエッジを利かせてネオキャリアらしさを出そうと選んだのが『切り拓く』という言葉です。人と未来に対して、本気で向き合って切り拓くんだ、という確固たる意志を込めています」
綺麗な言葉を並べただけの装飾的なパーパスなら作る必要はないと砂長氏は言う。単なるパーパスという言葉だけに留まらない「ネオキャリアの言葉」として位置付けたパーパスには、濃縮されたネオキャリアらしさが確かに感じられる。
社員が誇れる会社となり、社会に求められる存在へ
新パーパスは、2022年3月、お披露目イベントにて全社員に向け発表された。社員の反応はどうだったのか。
「イベントの後にみんなにアンケートをとったところ、7割~9割くらいのメンバーはポジティブに受け止めてくれているようでした。特に、『これからどうしていこう』『変わらないといけない』という危機感を本気で持っている人ほど、この言葉を良く受け入れてくれている印象です。もちろん、3,000人の社員全員が自分事として捉え、自分の仕事とパーパスをつなげられるところまでは到達できていませんが、この言葉をもって自分たちはこれからどうしていくかを真剣に考えてくれている人が、想像以上に多かった実感はあります」
作り上げた言葉を、社内の文化や風土、業務などにつなげていくフェーズに入ったネオキャリア。パーパスを浸透させるためにも、これからさまざまな取り組みをしていく予定だという。最後に、パーパスをもってネオキャリアが目指す姿を伺った。
「これまでのネオキャリアらしさも大切にしつつ、新たなネオキャリアをみんなで本気で作っていきます。『人と本気で向き合い、未来を切り拓く。』という言葉を中心に、社会のため・人のために貢献できて、本質的に世の中から求められる会社を目指したい。
そのためにも、まずは目の前の人や仲間と本気で向き合うことを大切にする風土や文化を作り、基盤とするのが第一歩だと感じています。これから作るバリューや人事制度、あらゆる事業運営にパーパスを埋め込みながら、社員みんなが誇れるネオキャリアを作っていこうと思っています」