【HRog10周年特集】「人 with IT」の探求でより多く多様なマッチングを

株式会社リクルート
HR本部 HRエージェントDivision Division長
近藤 裕 氏
こんどう・ひろし/金融機関を経て大学院で労働経済学を学び、2005年株式会社リクルートエイブリック(現リクルート)入社。リクルーティングアドバイザー(法人営業)部門でマネジャーを務める。2017年から事業企画にて部長を経験、IT活用による事業進化を推進。2020年にリクルートキャリアのエージェント事業執行役員に就任。2021年の会社統合をきっかけにSaaS事業の立ち上げに携わる。2023年より現職。

HRog10周年特集

2023年11月6日、「HRog」は10周年を迎えます。「人材業界の一歩先を照らすメディア」として、anのサービス終了やIndeedの登場、コロナショックなど10年間人材業界の動向を追い続けてきたHRog。これからの10年はいったいどんな時代になるのでしょうか?今回はメディア・紹介・派遣・HRTechなど各領域の注目企業や人材業界の有識者にインタビュー。この10年間が業界や自社にとってどんな10年だったか、そしてこれからの10年間で何を成し遂げたいか伺います。

今回は株式会社リクルートで「リクルートエージェント」を統括する近藤氏に、リクルートの人材紹介事業の10年間についてお話を伺いました。

「人 with IT」で存在感のある事業に成長

10年前は株式会社リクルートキャリアとして人材紹介事業を提供していた同社。2021年には株式会社リクルートと事業会社7社が統合し組織の再編が完了しました。近藤氏はこの10年間を、「人材紹介事業がリクルート内外で存在感のある事業になった10年間」だと語ります。

「人材紹介事業が会社の柱の一つになれた大きな要因として、テクノロジー活用への挑戦を続けてきたことが挙げられます。それまで人材紹介では、全プロセスを人間が担当することを付加価値としていました。しかしそれだけではより多くの顧客の期待に応えられないと気づき、『人 with IT』を合言葉にテクノロジーの導入に取り組んだんです」

近藤氏いわく、特に苦労したのがマッチングアシストシステムの作成です。

「企業と求職者のマッチングは、もともとキャリアアドバイザーが自力で行っていました。これを補助できるように、マッチングを自動で提案してくれるシステムを作ったんです。初めのうちはITというよくわからないものへの拒否感もありましたし、精度が低いと不評でした。

そこで利用者の感想や不満を一つ一つ丁寧に読み解き、ロジックに反映させるPDCAを高速回転させました。結果、システムのクオリティは上昇し、実用レベルにまで引き上げられたんです。ITに懐疑的だった人たちも、マッチング難易度が高い求職者にぴったりな求人が提案されていく様子を実際に見て納得してくれましたね。それ以降、現場とIT部門が一緒にITプロダクトを作るようになりました。またこの時生まれたアジャイル的な開発スタイルは、今ではHRエージェントDivisionのプロダクト作りのスタンダードになっています。

ITの力はマッチングだけでなく、顧客のUI/UXの改善にも役立てられていると言います。

「人材紹介事業ではもともと企業向けのWebインタフェースがなく、エージェントと直接やり取りする仕組みでした。そこで中途採用向けのスカウトツール「RECRUIT AGENT CAST(現リクナビHRTech 転職スカウト)」をリリースしました。これは顧客企業が直接リクルートエージェントのデータベースを検索し、求職者にスカウトを送れるサービスです。

今やスカウトは一般的になっていますが、当時は時代を先取った大きなチャレンジでした。人材紹介事業において企業側のWebインタフェースの走りを作れたのは、思い出深いですね」

これらに代表される仕組みを作りしっかりと浸透させた結果、人材紹介事業は大きく成長。リクルートエージェントにとって飛躍の10年だったと、近藤氏は語りました。

時代の変化に対応するためのサポートを

「人 with IT」の探求は現在もまだ続いています。日本のGDPの停滞や少子高齢化による労働力人口の減少が進行すれば、今後は求職者の「やれる仕事」と求人企業の「やってほしい仕事」のズレが広がっていくだろうと近藤氏は指摘します。解決のためには、「人 with IT」をより進化させながら「自社が変化していく必要がある」と述べました。

「まずはミスマッチが起きる領域をしっかり分析して課題を把握する。そしてそのデータを元に、求職者と企業双方に時代の変化に対応するためのサポートができればと考えています。

例えば求職者側にリスキリングの機会を紹介したり、企業側には選ばれ続ける企業になるために、今の求職者の志向や市場トレンドを提供したりと、本来出会わないマッチングの総量を増やしていけるはずです。

また自分たちにも、今のサービスのままでいいのか常に問いかけ、変化していきたいと思います。より身近に使っていただけるモデルや、もっとこだわって使いこなせるモデルなど、サービスバラエティを課題に合わせて増やしていけると理想ですね。その結果、これまでマッチングが難しかった領域で雇用を創出し、機会を生み出すことに貢献できたらと思います」

そのために現在は、事業全体で事業目的について議論を深めていると言います。

「2030年に我々はどうなっているべきか、全国を回って現場の意見を聞きながら3つの軸で検討しています。3つの軸とは『なにを目指すか、組織をどうつくるか、ITをどう活用するか』です。ITの力でできることが増えれば、業務の効率化はもちろん雇用の総数を上げられますし、そのぶん人はより難しいマッチングの実現に時間を使えるはずです。ITをただ効率化のために導入するのではなく、これまで手が届いていなかった方々にまで求人をお届けし、就労の機会を広げていくために活用していこうと思います」

最後に近藤氏に、人材業界で働く方へのメッセージを伺いました。

「人材業界も成熟してきましたし、時代の波もあってこれから先は難しい局面が待っているかもしれません。人材業界の皆さん、一緒に日本の高難易度の労働市場を良いものにしていきましょう!」

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