選考通過は300社中1社…シニア就活の現実 シニア採用に企業はどう向き合うべき?

株式会社シニアジョブ
代表取締役
中島 康恵 氏
なかじま・やすよし/1991年生まれ。少年〜学生時代はサッカーに打ち込み、J1のユースチームで活躍。大学在学中に仲間を募り、当初はIT会社を設立したが、シニア転職の難しさを目の当たりにし、2016年にシニア専門の人材紹介と人材派遣を提供開始。2022年に求人企業が低価格で使えるシニア専門求人メディアをオープン。

少子高齢化に歯止めがかからない日本では、今後シニア人材の活用が不可欠になっていくと予想される。その一方で労災の発生や低賃金などの問題も発生しており、社会はシニア人材が安心して就労できる環境づくりを進めていく必要があるだろう。今回はシニア特化の転職支援サービスを提供する株式会社シニアジョブにインタビューし、シニア世代が実際に感じている課題や対策について伺う。

自分には市場価値がない、職場に馴染めない……。シニア人材が抱える不安とは

厚生労働省の調査によると、国内における65歳以上の高齢就業者の数は18年連続で増加、2021年には909万人と過去最高を記録した。深刻な人手不足を背景に、働く意欲のあるシニア人材を積極的に活用する動きが広がっている。だが中島氏によると、シニア人材が満足する待遇や、働きやすい環境を整えている企業はまだまだ少ないという。

「現在のシニア人材市場では、会計事務所のスタッフや自動車整備士・施工管理といった専門職から、清掃員・飲食店・旅館スタッフまで、様々な職種で求人ニーズが高まっています。しかし給与を見てみると、60歳以上で再就職・転職する場合に提示される給与相場は、60歳以前にもらえていた給与の60〜70%に留まっていることが多いです」

近年は晩婚化が進んだ影響で、60歳になっても子どもの養育費のために働く人が増えている。さらに、今後もらえる年金が実質的に減っていくことが予想される中、「年金頼りの生活はできない」との考えで働いているシニアも多いという。ほとんどのシニア人材が再就職後も年収をなるべく維持したいと考えているが、理想の給与と実際に支払われている額の間には大きなギャップがあるのが現状だ。

また「シニア人材は就職活動から実際の就労に至るまでに、様々な不安を抱えながら過ごしている」と中島氏は続ける。

「シニア人材は年齢を理由に不採用になるケースが度々あります。過去には300社ほど応募して、1社しか面接まで進めなかったという方もいらっしゃいました。シニア人材を受け入れる会社になかなか出会えず『高齢な自分には市場価値がないのではないか』と心が折れて、転職を諦める方が非常に多いのです」

高いハードルを乗り越えて就職した後も、「歳の離れた社員もいる職場に馴染めないのでは」「今から新しい知識やスキルを身につけられるか心配」などといった思いを抱えながら働くシニアは多い。

近年では、人手不足解消のために採用する年齢層をシニアまで広げる企業も増えている。しかしその多くは「若手かシニアかであれば、若手の方を採用したい」と考えており、「シニアだから積極的に採用したい」という求人は少ない。

「シニア人材の就職のハードルが高い上に、受け入れのための環境整備が進まないのは、こうした『シニアに特化したマッチングの場』がないことが背景にあります」

サービス利用のハードルを徹底的に下げることで、シニア雇用を促進

「シニアジョブ」は上記の課題を解決するべく生まれた、シニア特化の求人マッチングプラットフォームだ。

シニアジョブの特徴は、50歳以上の求職者と、50歳以上を採用したい企業をメインにマッチングしている点だ。求人を出しているのは「自社にマッチする人材であれば、年齢に関係なく採用する」と決めている企業のみなので、求職者は年齢による不採用を心配せず、安心して応募ができる。

「求職者の方からは、『1ヶ月求人を探しても面接まで辿り着けなかったのに、シニアジョブに登録したらその日のうちに企業からのスカウトがきた』という声もたくさんいただいています。50代~70代向けに特化しているからこそ実現できる、就職決定のスピードの早さに驚かれる方が多いです」

シニアジョブは、シニア人材が就職する上で気にしてるポイントをまとめて掲載している。

  • 50歳以上の勤務状況
  • 50歳以上の勤続年数
  • 定年・再雇用上限年齢
  • 平均年齢
  • 最高齢
  • 代表者年齢

など、他の求人サイトではなかなか掲載されない情報を提供している。

「若手〜中堅層の就職とは異なり、シニア人材が応募を検討する際には上記の情報が必要ですが、こういった情報を詳細に掲載しているサイトはほとんどありません。『最年長で働いている人は何歳なのか』などが分かれば、自分がそこで働くイメージがつきますよね。シニア人材の方が安心して働けるかどうか判断するための情報を載せているのも、シニアジョブならではです」

またシニア人材の雇用を促進するため、企業の利用ハードルを極限まで下げる取り組みも行なっているという。

「企業がシニア人材を採用する上でハードルになっているのが、紹介・派遣手数料のコストや、採用できなかった場合にコストが回収できなくなるリスクです。そういった手数料やリスクを極限まで低くしないと、シニア雇用は促進されません。

そこでシニアジョブは、人材紹介の手数料相場と比較して10分の1ほどの金額でサービスを提供しています。金銭面でのハードルを取り払うことで、企業側がシニア採用を導入しやすい土壌を作れればと思っています」

企業はシニア人材に対するバイアスを取り払うべし

今後シニア人材のマッチングを促進するには、企業側がシニア人材に対する姿勢を変える必要がある。しかし、依然として「60歳以上を新入社員として受け入れた経験がない」という会社も多い。中島氏は、今後シニア人材を効果的に活用するためには「シニア人材に対するマイナスイメージを、企業は一度取り払うべき」と語る。

「話を聞くと『シニア人材は過去の経験に囚われがちで、あまり言うこと聞いてくれなさそう』というバイアスを持っている企業が多く、これがシ二ア雇用を妨げてる要因になっています。

しかし、いざ実際にシニア人材を取り入れてみると『会社に馴染む努力をしてくれる』『年下上司の意見も尊重して業務に反映してくれる』『ひょっとしたら、若い方よりも体力あるかも』とポジティブな声をいただくことも多いのです。年齢という基準だけで門前払いせずに、人となりや実際の取り組み姿勢を見ながら判断をする仕組みが整えば、シニア人材の活用可能性はもっと広がるはずです」

またシニア人材を受け入れる際には「シニアの体調に対する気遣い」と「特別扱いしすぎない姿勢」、両者のバランスを取りながらマネジメントすることも重要だという。

「シニア人材の中には、自身はすごくやる気を持って働いているのに、その気持ちに体力が追いついていない方もいらっしゃいます。シニア人材に長く活躍してもらうためにも、あえて業務を少し制限して、体力面で無理なく働ける環境作りをおすすめしています」

一方、それ以外の面ではこういった「特別扱い」は極力避け、他の社員との間に壁を作らないことが肝要だ。

「例えばITに不慣れな人でも、社内で使っているITツールを使ってコミュニケーションを取ってもらうなど、その会社のルールや仕組みにきちんと慣れてもらいましょう。そうすることで、結果的にシニア人材の方も長く活躍できる環境が作れます」

日本には、歳を重ねても柔軟に会社の環境に適応し、パフォーマンスを発揮できるシニア人材がまだまだ眠っている。シニア人材を受け入れる企業側の姿勢が変わり、シニア人材の活躍の場が広まれば、現在のシニアに対するバイアスもなくなっていくのではないだろうか。

シニアの「働けない」を無くし、世界に誇れる高齢化社会へ

「シニアの『働けない』を日本からなくす」を目標にしているという中島氏。そのための取り組みについて伺った。

「企業が労働力を確保できない問題は、今や日本経済を鈍化させる大きな要因の一つ。にもかかわらず、年齢が理由で働きたいのに働けない人材がいるのはすごくもったいないことです。シニア人材のマッチングの問題を解決するため、まずは『シニアの就職と言えばシニアジョブ』と思っていただけるようにユーザー数拡大に取り組んでいきたいです。また、人材紹介会社向けにシニア採用に特化した求人データベースを展開し、シニア転職の裾野を広げる取り組みも構想しています」

今後は他の人材会社も巻き込みながら、シニア就職が成功する体制を国内で作っていきたいと意気込みを語った。また中長期的には、就職の問題だけではなく、シニアの生活を豊かにするための様々なサービスを提供したいと考えているという。

「日本は今、世界で最も高齢者が多い国です。そこでシニアジョブでは、高齢者が抱える問題を解決し、世界に誇れるような高齢化社会を作っていくことを中長期的なビジョンとして掲げています。シニア向けの婚活サービス、シニア向けのオンライン教育サービスなど、幅広くシニア世代のサポートをする事業を展開していきたいですね」

(鈴木智華)