【anのその後#6】パーソルプロセス&テクノロジー「x:eee」責任者 陳氏が語るアルバイト領域の営業の介在価値とは

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社
SEEDS COMPANY カンパニー長
陳 シェン 氏
ちぇん・しぇん/パーソルキャリア株式会社(旧インテリジェンス)に入社、求人広告領域にてリテールと大手向けセールスの個人・チーム全国一位を獲得し、サービス企画部門の経験を経て最年少ゼネラルマネジャーへ昇格。2015年10月、社内ベンチャーSEEDS COMPANYを立ち上げ、COMPANY長となる。2019年にパーソルプロセス&テクノロジーへ、10月に採用支援ツール「x:eee(エクシー)」をリリース。

an終了の衝撃。その後を追う

2019年11月に、惜しまれながら50年以上の歴史に幕を下ろすことになったアルバイト求人情報サイト「an」。アルバイト領域の老舗である同サイトの終了に驚いた人も多いのではないだろうか。今回の特集では「an」とその関係者にスポットを当て、激変するアルバイト求人市場の最前線を追う。

今回はパーソルプロセス&テクノロジー株式会社で社内ベンチャーSEEDS CANPANYを率いる陳氏に話をうかがった。パーソルキャリア株式会社(旧インテリジェンス)に入社後anの営業を経験、現在は『HITO-Manager』『x:eee(エクシ―)』などアルバイト領域の採用支援ツールの開発を行っている同氏に、アルバイト市場の現状とアルバイト領域に携わる営業に今後求められるスキルについて話を聞いた。

「求人媒体一強時代」が50年続いたアルバイト領域

直近のアルバイト市場について、「アルバイト領域はこの50年間で大きな変化がなく、求人媒体一強の構造がずっと続いている」と話す陳氏。求人媒体一強の構造が続いている理由について、求職者のニーズ、求人企業の採用手法、人材サービスの3つの観点から教えてくれた。

「まず求職者の観点から見ると、求職者の働くニーズはどんどん多様化しています。1日限定バイトやスキマ時間だけのバイトといった働く時間の柔軟さを求める人もいれば、いますぐ給料が欲しいという給与前払いのニーズ、学生だったら自分の将来のスキルにつながる経験がしたい等、様々なニーズが存在します。

一方で慢性的な人手不足が続いている募集をする企業側は、まだまだ求職者のニーズに応えられていないケースが多いです。そもそもそういうニーズがあることを十分に理解していない企業様もいますし、知っていたとしてもそのニーズに応えられる体制を構築できているところは少ないです。ここが求職者とのアンマッチの原因になっています。

そして採用手法においても、大手はオウンドメディアを始めとする様々な手段を取り入れ始めているところもあるものの、中小企業や個人経営の店舗が人材募集をするとき第一想起されるのは未だに求人媒体です」

そしてこの構造が続いている理由を「人材サービスの提供企業が、求職者のニーズを汲んだサービスを求人企業にきちんと届けられていないから」と続ける。

「パーソルグループでも先ほど挙げたような求職者の多様なニーズに応える様々な新しいHRサービスをリリースしています。ですが、どれも求人企業に広く浸透するというところまでは、まだたどり着いていません。それは、このようなHRサービスを提供する営業の人数が少ないことも要因の一つだと考えます」

新しいHRサービスが市場に広く受け入れられるためには、企業人事や店長にそのサービスの存在はもちろん、そのサービスで集まる求職者の属性やニーズ、サービスを活用した採用ノウハウなど、そのサービスの仕組みを包括的に知ってもらう必要があるという。

「しかし、新しいサービスで営業の数も潤沢でないとなると、どうしても利用企業の絶対数が少なくなり、採用ノウハウもたまりづらいです。一方で求人媒体は昔からのノウハウがたくさんたまっており、また営業マンの人数も他のHRサービスに比べると圧倒的に多いです。

そして求人媒体の営業マンは一人で何十社もの案件を持っており、媒体以外のHRサービスを学ぶ時間がとれないのが現状です。なので募集をする企業には求人媒体の情報がメインで届き続けています。他にも要因はありますが、アルバイト領域は未だに求人媒体一強という状況が続いている背景にはそのような事情があります」

求人ニーズを伝えれば最適なHRサービスを教えてくれる

世の中には求職者のニーズに応える新しいサービスがどんどん増えていく中、そのサービスを正しく理解して、募集をする企業側に届ける営業はあまりにも少ない。そんなアルバイト市場の課題を解決するサービスが、陳氏が開発するスマホ特化型の採用支援ツール『x:eee』だ。

「目指す世界観は、採用担当者は面接までのステップを気にしなくてもいい世界。募集をする企業の採用ニーズに合わせて適切な採用ツールをレコメンドしてくれるサービスを目指すのが『x:eee』です。将来的には、例えば明日の13時から3時間、1人足りないというニーズを伝えると、そのニーズを最も充足させやすいサービスを教えてくれる機能を実装予定です。採用要件をヒアリングしそれをもとにサービスを提供する、いわゆる求人媒体の営業の代わりになる存在を目指しています」

『x:eee』のターゲットは営業の手厚いフォローを受けづらい中小企業や個人経営の店舗。現在は求人媒体を中心に提携を進めているが、今後は他のHRサービスとも提携を進めていく方針だ。

「実際にパーソルグループには求職者のニーズを満たす様々なサービスがありますし、他社にも素晴らしいサービスはたくさんあります。そういうサービスとのマッチングプラットフォームとなって、求人ニーズに合せて適切なHRサービスが選ばれる世界にしていきます。」

「Techでは埋まらないラスト1マイルがある」媒体営業の価値とは

「将来的には『x:eee』があればサービス選定から原稿作成までできて、営業担当がいなくても採用が完結するような世界を実現したいです。 実際に、現在『x:eee』には原稿作成機能もあります。求人ニーズが定まれば採用ターゲットが決まるため、採用ターゲットに合わせた原稿を『x:eee』が作ってくれるのです。現状はターゲット別の原稿作成に留まっているのですが、そのパターンを増やすのはもちろん、将来的にはデータを元に原稿の改善提案も『x:eee』で行っていきたいと思っています」

『x:eee』のようなサービス選定から原稿作成までを担うサービスが現れることで、アルバイト領域の媒体営業の価値があらためて問われることになるだろうと陳氏は続ける。

「このエリア・職種の求人募集だったら、この媒体のこのプランで平均応募率がこれくらいなので、このくらいの人数が採用できる見込みです、という媒体の説明をするだけの営業スタイルでは、テクノロジーに代替されてしまいます。営業マンが自らの市場価値を上げるためには、テクノロジーではカバーできない領域の価値提供の形を考えていく必要があるでしょう」

それでは、今後アルバイト領域で働く営業はどのようにして自らの市場価値を高めていけばいいのだろうか。

「まずはIndeedを始めとするアグリゲートサイトやSEM・オウンドメディアなど、世の中の採用トレンドやテクノロジーをキャッチアップすることです。アルバイト領域はテクノロジーに疎い人が多く、レガシーな部分も多いです。だからこそ、求職者の動きや市場がどういう方向へ動いているかの知識を持っていることで差別化できます」

「また、お客様ときちんと向き合っていくことも大切です。実際に店舗まで足を運んでみて、人の目で見ないと分からない企業の強みや魅力を言語化してあげることが営業の介在価値になると思います。アルバイト採用の領域は機械やテクノロジーで効率化できる部分がたくさんありますが、テクノロジーでは埋められないラスト1マイルがあります」

求人原稿のキーワード選定一つとっても、どのようなキーワードが検索されているかをデータ化するのはテクノロジーのほうが優れている。しかし求人企業自身も気づいていない魅力を引き出すのは、人間である営業にしかできない仕事だ。

「ある居酒屋が求人募集したときの話なのですが、実際に店舗に行った営業がメニューを見たときに、この居酒屋はメニューの品数が少ないということに気づいたんです。普通居酒屋ってたくさんメニューがあって、覚えるのが面倒くさかったりオーダーを取るのが手間だったりします。でもこのお店はメニューを覚えたり注文取ったりするも簡単だし、比較的忙しくないよ、という内容を原稿に盛り込んだだけでたくさん応募が来たらしいです。これはテクノロジーではできないことですよね」

実際に現場に出向く以外でも、お客様に寄り添うことでテクノロジーでは代替できない価値を提供できると陳氏は続ける。

「そもそもの採用戦略の部分から一緒に策定していったり、HRサービスの範疇外にあるSNSの運用や食べログの文言まで提案したり、お客様の売上最大化に通ずる採用成功のために求人媒体の営業ができることはたくさんあります。そのように寄り添ってあげられる営業は、今後テクノロジーが発達しても生き残るのではないかと思います」

「どんどん効率化が進みオペレーションが統一していく傾向にある転職領域に比べて、アルバイト領域の営業はまだまだ自分で企画・提案する余地がたくさんあるポジションです。だからこそ本気で向き合えば楽しいですし、自分自身を大きく成長させることができるので、ぜひ挑戦してほしいなと思います」