【HR Tech特集】キャリア形成を会社に委ねている状況は危険。退職者を「会社との絆を保ち続ける」存在にするために人事ができること

HR Techの正体にせまる!今話題のHR Techサービス特集

ここ数年ですっかりなじみの言葉となりつつあるHR Tech。「言葉は知っているけれど、その本質は今いち、よく分かっていない…」「日々登場し続けるさまざまなサービスを把握するのは一苦労…」 この記事ではそんな人に向けて、今話題のHR Techサービスを掘り下げてご紹介します!

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株式会社ハッカズーク
代表取締役CEO
鈴木 仁志氏

すずき・ひとし/カナダのマニトバ州立大学経営学部卒業後帰国し、アルパイン株式会社を経て、T&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任。帰国後は、人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダに入社。採用プロジェクト責任者を歴任した後、海外事業立ち上げ責任者としてシンガポール法人設立、中国オフショア拠点設立、フィリピン開発拠点開拓等に従事。シンガポール法人では、人事・採用コンサルティングとソフトウェアを提供し、ビジネスを展開した。2017年、ハッカズーク・グループを設立し現職。自身がアルムナイとなったレジェンダにおいてもフェローとなる。HR Techについての知見も多く、寄稿や講演なども行っている。

HR業界注目のワード「アルムナイ」。退職した元社員を指す言葉だ。人事はこれまで自社に所属する社員とこれから採用する候補者に目を向けていればよかったが、雇用が流動化して行く今後は、このアルムナイについても考える必要がある。

アルムナイとの関係性を保つために、人事は何ができるのだろうか。アルムナイとの関係を築くプラットフォーム『Official-Alumni.com』と、アルムナイに特化したメディア『アルムナビ』を運営する、株式会社ハッカズークの代表取締役CEO・鈴木仁志氏に聞いた。

世の中の流れを踏まえた上で、人事は社員のキャリアを考えるべき

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アルムナイとの良好な関係性「アルムナイ・リレーション」を実現するためには、前提として「辞める前から関係性を築いておくことが必須」と鈴木氏は話す。

「そもそも在籍中にエンゲージメント(個人と組織が共に成長する関係)を高める必要があります。『アルムナイを利用すると売上が上がるの?』という言い方をする方もいますが、その時点で相手のことを考えていないし、全く個人への愛情も感じないですよね。そんな状態でアルムナイ・リレーションを築こうと思っても全然ダメです」

アルムナイ・リレーションを実現するためには、その土台に会社と個人の信頼関係が不可欠だ。退職後も関係性を維持するために、人事は退職前から社員とのコミュニケーションを見直す必要がある。 一方、個人側の問題点は「個人のキャリア形成を会社に委ねている状況」と鈴木氏は警鐘を鳴らす。

「シンガポールとグアムにいた時、『海外に来る気は全くなかったけど駐在に送られた』という人がいてびっくりしたんです。危ないと思うんですよ。自分のキャリアを自分で考えられていないことも、人事がキャリア形成を本人と一緒になって考えていないこともありえない。そこを一緒に考えて、人事は自社で掴めるチャンスや得られる経験、またその逆のできないことも含めて、社員とオープンに話せる関係を築くことが重要です。」

「会社がやらせたいことばかりを考えて、社員の市場価値がどんどん下がるようなことをさせていたりするんですよね。『今後この業界はこう変化していって、その時に会社のあり方はこうなっていく。だから今こういう仕事や学習をして、このスキルを身につけよう』。そんなサポートを会社がするのが本来あるべき姿です。例えば今後、テクノロジーが進化して仕事がなくなることが分かっているなら、その状況をオープンにして選択肢を示す。仕事をしながら本人が希望する道に進むために必要なスキルを身につけられるよう、副業の許可を出す。もし独立したいなら、その時に仕事を依頼することを想定して業務を任せる。こういう考え方をしてくれたら、社員の会社への信頼感は増すし、何より会社のことが大好きになると思いませんか?」

アルムナイ・リレーションのポイントは”辞めさせ方”

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「これからの人事に求められる役割のイメージは”プロジェクトマネジャー”」と鈴木氏は語る。退職者が出たときにリプレイスで同じ職種をただ採用するのではなく、仕事を細分化して捉えることが人事には求められるという。

「ヒューマン・リソース・マネジメント(HRM)はもう古いと思っていて、僕が勝手に言っているのは” オール・リソース・オプティマイゼーション(ARO)”。人事が企業や事業部をきちんと理解し、状況に合わせてリソースを調達することが重要になってくると思います。退職する前から個人の業務を細分化して、やらなくていい仕事、自動化できる仕事、誰でもできる仕事といったように精査していくと、『どうしてもこの人にやってほしい』という仕事が出てくる。そうしたら退職する人にその部分だけを引き続きお願いしたっていいわけです」

それこそが理想のアルムナイ・リレーションだろう。そんな関係性を実現させるために重要なのが、“辞めさせ方”だ。

「企業は辞めさせ方をひっくるめて、どうすれば個人の価値が最大化できるのかを考える。市場全体で見たタレントマネジメントですよね。その上でいいと思えば送り出してあげればいいし、もっと残って経験を積んだ方がいいと本当に思うなら止めればいい。人事が社員のキャリアをきちんと考えていれば、冷静に『あと1年続けてこのスキルを身につけた方がいい』という話もできるはずです。現状は退職率がマネジメントの評価に影響を与えるケースもあり、人事がそこまでやれていない場合も多いですね」

この退職時のコミュニケーション次第で、その後の関係性は大きく左右される。

「辞める前は会社へのエンゲージメントが落ちてしまうことがほとんどです。そんな状態でさらに退職交渉時に悪く言ったり変な引き止め方をしてしまうと、そこから関係性を回復させるのは至難の技です。些細なことですが、例えば退職日の最後にエレベーターまで見送らないと、退職者の会社への印象はガクンと下がるんですよ。相手の味方であるという意識で、背中を押して送り出してあげる姿勢が大事です」

ワーキングマザーが当たり前になったように、退職者への意識も変わっていく

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とはいえ、退職交渉時は感情的になりがちだ。「ずっと働いてくれるだろう」という暗黙の了解があるゆえに、社員が辞めるとなるとついカッとなってしまう。鈴木氏も過去には退職を考えるメンバーを頭ごなしに責めてしまったこともあるという。

「ただ、会社に束縛してもプラスはないんですよね。退職者を出してはいけないという人事や上司の事情はあるものの、無理に辞めさせないようにしてエンゲージメントを下げるくらいなら、退職後に少し手伝ってもらって高いパフォーマンスを出してくれた方がいい。こういう考え方ができれば、イノベーティブな会社としてブランディングができて、いい人を採用しやすい循環もできます。簡単でないことはよく分かりますが、すでに取り組んでいる会社もある以上、考え方を切り替えてほしいなと思います」

転職が珍しいことではなくなり、パラレルワークやアルムナイ・リレーションが注目されていることから導き出されるのは、個人が1社に依存することが当たり前ではなくなるという事実だろう。だが、それが全員に当てはまるわけではない。こうした働き方を選ぶのは、自分でキャリア形成ができる一部の個人だ。企業からすれば、そんな社員こそ手放したくはない。このジレンマを解消する鍵も、アルムナイにある。

「自発的に動ける社員が転職や独立を考えているときに『残ってくれ』といくら懇願しても、彼らは自分でキャリアを決められる人だから、考えを変えることはまずないんです。そういう時に頭を切り替えて、退職した彼らとどうやってリレーションを築いていくのかに考えを向ける。会社を去る社員にそんなアプローチをすることができれば、会社と個人の付き合い方は随分と変わってくるはずです」

一部の積極的な企業を除き、アルムナイの話に対してのリアクションは「半数はネガティブで、もう半数は理解はできるけど、どうしていいか分からないから取り組まない」だという。だからこそ、アルムナイ・リレーションに目を向けるメリットは大きい。

「アルムナイはHRの中でタッチされていない、ラストリゾートなんですよ。1億総活躍大臣の誕生が2015年、働き方改革のスタートが2016年、人生100年時代構想会議の発足が2017年。これらは今やすっかり浸透しました。よく考えてみれば今の雇用慣習は戦後からの短い期間でつくられたもの。以前は妊娠すれば『だから女はダメなんだ』と言われていたけど、ライフイベントのチョイスとして今では当たり前になりましたよね。個人がキャリアを考えた時に別の会社に行きたい思うことも、同じだと思うんです。それがタブー視されている今の状況がおかしいという意識に変わって、アルムナイも近い将来受け入れられるようになるんじゃないかと思っています」

◆アルムナイ・リレーション・プラットフォーム『Official-Alumni.com』概要はコチラ

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(文・撮影/天野 夏海)