パーソル発のスピンオフベンチャーMyRefer(現:TalentX)・鈴木氏に聞く、人材業界の営業に必要な心構え

株式会社MyRefer(2023/2/1より株式会社TalentXへ商号変更)
代表取締役 CEO
鈴木 貴史氏

すずき・たかふみ/2012年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。
IT・ネット業界を中心に500社以上の企業の中途採用を支援した後、サービス開発部にて新規事業企画に従事。2014年にグループ歴代最年少で社内ベンチャー制度「0to1」を通過。1億円の社内出資の元、国内初のリファラルリクルーティング事業 MyReferを立ち上げ、日本にリファラル採用の概念を提唱。社内ベンチャーカンパニーCEO 兼 新規事業開発部ゼネラルマネジャーとして新規事業拡大を牽引。2018年、事業譲渡によりMBOを経て完全独立。パーソルグループ初となるスピンオフベンチャー株式会社MyReferを設立、代表取締役社長 CEOに就任。

2018年5月、サイバーエージェント以来初となるパーソルからのスピンオフベンチャーが誕生した。リファラル採用に特化したHR Techサービスを運営する、株式会社MyReferだ。代表取締役社長CEOの鈴木貴史氏は元インテリジェンス(現パーソルキャリア)の新規事業プロデューサーとして500社以上の企業の採用支援をしてきた経験を持つ。「人材業界はもっと頑張らないといけない」と話す鈴木氏は、これからの人材業界の未来をどのように見据えているのだろう。リファラル採用は、既存の転職サイトや人材紹介の競合になるのだろうか。

※株式会社MyReferは、2023年2月に株式会社TalentXに商号変更しました。この記事の情報は取材当時のものです。

入社3年目で立ち上げた社内ベンチャーへのジレンマ

鈴木氏がパーソルキャリアに新卒入社したのは2012年。「USEN-NEXT HOLDINGS(旧インテリジェンス創業者)の宇野さんやサイバーエージェントの藤田晋さんのような新たな概念を生み出す経営者になりたい」という想いで、卒業する前提で数々の起業家を輩出している経営者輩出企業の株式会社インテリジェンスに新卒入社した。

「起業してインフラとなるサービスを創りたいとなんとなく考え始めたのは高校生のころ。世の中に爪痕を残したいと思って、元々バンドボーカルをやっていたこともあり実は大学生の時にEXILEのボーカルオーディションを受けたこともあるんですよ。この道は違うと思って起業を現実的に考え始めたわけですが(笑)、ビジネスの領域は、人が求めるものを創つくることができれば、すぐに形に現れ、それは確実に世の中に残りますよね。芸術や音楽のようなアーティストの領域もそうかもしれませんが、世の中に価値として認められるまでタイムラグがあり、必ずしも『今いいコンテンツ』がリアルタイムにヒットするわけではなかったりします。また、コンテンツの本質が何なのかが時流に左右され極めて見えにくかったりします。シンプルに誰もがいいと思うコンテンツがヒットする、かつ、長きに渡り世の中に価値を残し続けられるのがビジネスであり、それこそが世の中への爪痕だと考えていました」

パーソルではリクルーティングコンサルタントとして1年目に新人賞、2年目には各種MVPを網羅した。2年目の後半からマネジメントを経験し、順調なスタートを切った。『MyRefer』が生まれたのは、入社3年目に社内の新規事業創出プログラム『0to1』に応募したことがきっかけだ。

「数百の事業案の中から事業化が決定しました。社内ベンチャーでやるか、自分で独立するか、最初は悩んだんですよ。でも結局は前者を選択しました。当時リファラル採用という言葉は全く知られていなくて、事業をやるにはそもそもの採用の概念を変える必要があったんです。採用の現場にいる人事の考え方を変えるには、すでに人事とのパイプを持っている社内リソースを使った方が有利。それで社内ベンチャーでやろうと決めました」

事業立ち上げ後の壁

「社内ベンチャーとはいえ、リファラル採用という概念が全く市場になく、人事も社員の人脈を介して採用するという思想がなかったため、その新しい採用の概念浸透は大変難しいものでした」

「日本には縁故採用という採用手法はあったものの、戦略的に自社社員を巻き込み、その人脈による採用を加速させるリファラル採用の概念はなく、社員紹介採用制度を構築している企業も『MyRefer』スタート時には日本の企業の10%という状況でした。『MyRefer』は国内初のリファラル採用を仕組化・活性化させるクラウドサービスとして2015年にスタートして、新しい採用手法ということもあり問い合わせは多数いただきました。しかし、人事からしてみると、これまでエージェントや求人広告のような待ち型の採用手法がメインであったことに加え、社員を巻き込んで進んで採用業務をお願いするということに抵抗感があり、業務工数に加え精神的負荷もかかる状況でした」

今でこそリファラル採用の概念は採用市場のスタンダードのようになりつつあるが、当時の鈴木氏たちは月2回くらいのペースでひたすらこの概念を啓蒙するためのセミナーを開催していたのだ。
社内ベンチャーは開始から1年後の単月黒字がマストであり、なかなか積極利用ユーザーが増えない現状に、1年を待たずプロジェクトの継続に疑義を投げかけられることもあったのだという。

「終身雇用が前提、そして転職はクローズドに行う文化が根強く残る日本の転職・採用市場において、自社の社員を戦略的に採用に活用する、友人経由で転職する、という概念はまだ早いのかもしれない、このアイデアは浸透しないのかもしれない、と自信を失いかけたときもありました」

「そんな時、競合他社も続々と『MyRefer』と同様のビジネスモデルを開始しはじめ、市場が暖まりだした兆しも感じていました。周囲のネガティブな声を『絶対に成功してみせる』というモチベーションに変えて、ビジネスモデルとターゲット、ユーザーインターフェースを改めてアーリーアダプターにフォーカスして、Saas型の課金モデルで大手企業向けにコンサルティングの提供と同時に行うようにしました」

ビジネスは本格的に軌道に乗り、1年で単月黒字、2年目で通期黒字を実現した。

社内ベンチャーを通しての壁

こうして2014年に『MyRefer』の事業がスタートし、2015年にリリース。売上は順調だったが、「社内ベンチャーのジレンマがあった」と鈴木氏は当時を振り返る。

「どこの会社の社内ベンチャーも、コアビジネスを保有する会社に属している組織ですので、早期に売上を上げることが求められます。これは至極真っ当で、そうあるべきだと思っています。
ただし、目先の売上にフォーカスしてしまうと健全にプロダクトを成長させてPMFさせるということが難しくなります。
管理費を抑えてプロダクトの価値以上の価格で売れば利益はでるし、営業力があればそういう売り方もできてしまう。スタートアップビジネスをスケールさせるシナリオと逆のことを実行する必要があり、プロダクトの価値やインサイトがわからなくなりがちです。
そんな中、社内ベンチャーの事業を生み出す『事業家』としてイノベーションのジレンマの中サービスを伸ばすのではなく、新たな概念を主体者として創っていく『起業家』として、スタートアップエコシステムの中で事業を急拡大したいと考え、スピンオフすることを決意しました。」

徐々にスピンオフを考え始めるようになったが、パーソルグループとしてスピンオフは前例がない。そんな中親元のパーソルから応援される形でスピンオフしたMyReferは極めて稀有な事例だろう。

「インテリジェンスとして社内で出資をしてスピンオフを実施した実績は20年前にさかのぼり、サイバーエージェントのみです。2017年7月からインテリジェンスはパーソルグループとなっておりますが、今の時代、大企業にはインキュベーション(新規事業創出)とオープンイノベーション(アライアンスや外部からの風)が不可欠です。それも踏まえ、パーソルの経営陣にMyReferをスピンオフすることを相談しました」

「インテリジェンス(パーソル)出身者がやっているHR系のプロダクトはたくさんあるけれど、現状はお互い完全に独立して事業を運営しているので、もっと違う形があるんじゃないかという考えもあり、MyReferのスピンオフの支援が検討され始めました」

「スピンオフを検討する中で、インテリジェンス創業者の宇野康秀社長にもご相談させていただきました。余談ですが、実は宇野さんについては僕が勝手にリスペクトしていただけで面識は全くなかったんですが、熱い想いをメッセージで勝手に送り付け、二つ返事でご提案のお時間をいただけました」

こうして、パーソルグループとしては初、インテリジェンスとしてはサイバーエージェント以来20年ぶりのスピンオフベンチャー「株式会社MyRefer」は立ち上がったのだ。

リファラル採用は人材紹介や転職サイトの競合ではない

こうして2018年5月にパーソルから独立し、株式会社MyReferが誕生した。「雇用の最適化・流動化」をビジョンに掲げ、「新しい概念やインフラをつくること」を目指すという。

「転職サイトや人材紹介は転職を考えたときに登録をするものですが、リファラル採用は自社社員を通じて潜在層へアプローチができます。個人のポジティブな転職を支援して、本質的なマッチングを目指す。これがMyReferを通じてやりたいことです」

人材紹介や転職サイトを扱う古巣のパーソルと、リファラル採用を加速させるMyRefer。どちらも採用という分野でサービスを提供するが、「競合にはならない」と鈴木氏は語る。

「どの転職会社も数万人が登録していますが、採用が決定するのは数%。100%決定させているわけではないですから、求職者を取り合うことにはなりません。そもそも僕らのターゲットには積極的に転職を考えていない潜在層も含めるので、むしろ転職マーケットのパイを広げている部分もあるわけです。さらに言えば、年間300名採用している会社が全てをリファラル採用できるかというと、それは難しい。当社だってエージェントを使っていますしね。バッティングすることはあっても、ごく一部の話だと思います」

リファラル採用やダイレクトリクルーティングといった採用手法がメジャーになり、副業やフリーランスなど、個人の働き方の多様化が進む。これまでメインの採用手法であった転職サイトや人材紹介の今後を鈴木氏はどのように見据えているのだろう。

「当面は人材紹介も転職サイトも確実に残ります。今のところ、リクナビやdodaの売上がHRの新サービスによって損なわれている事実は全く見えていませんし、既存サービスの人材供給量を上回るものはなかなかないと思っています。ただ、労働人口が減って、さらに働き方が多様になっていった先の未来を考えると、話は変わる。ただ正社員を紹介して決定するというモデル自体が変わるでしょうし、何かしらの付加価値がなければ生き残るのは難しいのではないでしょうか」

人材業界の営業はクリエイティブで面白い。クライアントに目を向ければ、やれることはたくさんある

人材紹介も転職サイトも当面の需要はある。でも、その先は分からない。そんな中で、人材業界の営業パーソンはどのような心構えを持つべきなのか。

「前提として、採用マーケティングの視点やHR Techへの理解は不可欠だと思います。自分の営業ツールが転職サイトや人材紹介だったとしても、HR界隈のトレンドにアンテナを張って、世の中にどのようなサービスがあるのかを知る。担当企業の採用計画全体を見た上で、『この部分はエージェントで、この部分はリファラルで採用しましょう』という提案ができたら理想的ですよね。加えて顧客のビジネスに興味を持ち3Cで顧客の採用を語れることが理想です。
上司に信用されようとか、与えられたプロセスをそのまま達成しようとするのではなく、クライアントに目を向けることが重要だと思います」

「あらゆるニーズはクライアントから上がってくる」と鈴木氏は続ける。

「僕自身、担当企業の事業計画から採用のポートフォリオを分解して、各採用チャネルの割合を紐解いていったときに、IT業界で社員紹介が多いと気づいたことがリファラル採用の事業をやろうと思ったきっかけの一つでした。人材業界は組織づくりがめちゃくちゃ上手いから、つい内側に目が向いてしまって、閉じた世界で視野が狭くなりがち。でも意識的に外に目を向ければさまざまな発見があるはずです」

個人の働き方やキャリア形成のあり方が変化する中で、HR界隈も過渡期にある。そうした中で、人材業界にいるから分かること、できることがある。最後に鈴木氏はこう話した。

「会社が大きくなって商品力が付くにつれて、ただ数をこなせば数字が作れてしまうけれど、それってどうなんだろうと思うんです。人材業界の営業はクリエイティブで面白い仕事です。
人材業界ほど社会課題が山積みな領域はありません。
少子高齢化、グローバル人材の活用、女性の社会進出、生産性向上、パラレル・リモートワーク、数え切れません。課題が多いということはそれだけクリエイティブで面白いアイデアを発揮できるということです。

ただ表層のニーズを聞いてマッチングをするのではなく、事業計画や採用計画全体を見てしっかりインサイトを分析すれば、やれることはたくさんある。昨今HR Techのプロダクトもいろいろ出てきていますけど、意外に人材業界出身の人が手掛けているものは少ないんですよ。その業界にいて、年間数百社の企業と接点を持っていて、最もインサイトを捉えられて、検証の機会もいくらでもある。それなのにもったいないですよね。人材業界はもっとサービス開発ができるはずだし、頑張らなければいけないと感じています。今最前線で活躍している起業家の多くは人材業界出身なんですから、かつてのようにこの業界の出身者からどんどんイノベーションを起こしていきたいですね」

全社員採用を実現する国内初のリファラル採用活性化サービス『MyRefer』概要はコチラ

(文・撮影/HRog編集部)