LAPRAS株式会社 プロダクトマーケティングマネージャー
染谷 健太郎 氏
そめや・けんたろう/東京大学文学部を卒業し、2009年に株式会社リクルートジョブズに入社、主に新規事業開発を担当。飲食店向けシフト管理や適性検査などのSaaSサービス、採用応募者対応のBPOサービスなど複数の事業にて、プロジェクトリーダーなど様々な役割で関わる。2018年2月より株式会社scouty(現LAPRAS株式会社)のプロダクトマーケティングマネージャーとしてジョイン。
スカウトメールは企業にとっても候補者にとっても無駄が多い
ーーーーー「スカウトメールを書くことに苦労している」
人材不足に悩む採用担当の中には、そう感じている人も多いのではないだろうか?
売り手市場といわれる昨今、待っていても望む人材から企業に声がかかることはほとんどない。そのため企業から候補者へ働きかけるダイレクトリクルーティングが重要になっている。スカウトメールはダイレクトリクルーティングの手法として最も一般的だが、人事の大きな悩みにもなっている。
「ダイレクトリクルーティングは本来、自社が本当に強く必要とする魅力のある人材を口説くための手段だったはず。でも今では目標の採用人数に追われ、採用人数を追うためにスカウト送信数に追われ、自社が本当に必要とするかもわからない人材に向けたスカウトメールの作成に苦心しているところも多い。これでは、本末転倒です」
染谷氏は、スカウトメールによって困惑を覚えているのは、企業側だけではないと話す。
「転職意欲が高い方にタイミングよくスカウトメールが届けばいいですが、転職意欲がそこまで高くない方に届いた場合は、メールの品質が低いと『なんだ、このバラマキメールは?』と反感を持たれたり、転職が前提になるが故に『この会社に興味がないわけではないんだけど、今すぐ転職は考えていない』、場合によっては『副業とか業務委託だったら喜んで手伝いたいけど……』と思いながらそのメールをスルーしてしまいます」
このように、スカウトメールを通じたコミュニケーションは、企業・候補者ともにミスマッチを抱えている。
「ダイレクトリクルーティングは約10年前の登場以来採用手段の主流になりましたが、埋めきれないミスマッチがずっと残り続けて進化していないのです」
スカウトメールの課題はどこにある?
「ダイレクトリクルーティングは、一言で言えば企業から候補者へ能動的にアプローチする採用手段です。広義では、本来、イベントリクルーティングやリファラル採用もダイレクトリクルーティングの一種と言えます」
しかし「ダイレクトリクルーティングは、いつの間にかスカウトメールを通じた採用を指すようになってしまった」と染谷氏は話す。
「そして、ダイレクトリクルーティングや『攻めの採用』の名の下に、やみくもに大量のスカウトメールがばら撒かれる状態になっています。これでは、採用する企業は疲弊し、候補者はどんなに本気のスカウトメールが来ても自身が求められているとは感じず、この企業ただ単に採用の頭数が欲しいのだろうなと冷めて受け取るようになっています」
スカウトメールの課題はどこにあるのだろうか。染谷氏は現在のスカウトメールの課題を下記のように分析する。
このように、企業・候補者双方に問題を抱えているのがスカウトメール全盛の現在におけるダイレクトリクルーティングの実態だという。
「特に企業側の疲弊は深刻です。企業側が優秀層を採用をするには、同じ文章スカウトメールをばらまくのではなく、候補者に合わせた1 to 1の質の高いスカウトメールを作成する必要があります。
それでも一般的なダイレクトリクルーティングサービスの返信率は数%から数十%にとどまることが一般的です。仮に一通のスカウトメールの作成に20分かかるとして、返信率が10%だとすると1通の返信を得るために、200分(3時間20分)もの時間をかけていることになります」
スカウトメールによるダイレクトリクルーティングは過渡期にさしかかっているのかもしれない。とはいえ、受け身では応募が来ず採用が充足しないので、企業はダイレクトリクルーティングを選択せざるを得ないのが現状だ。そこには採用担当者のジレンマが見てとれる。
「採用マーケティング」の時代に求められる双方向性
「近年の採用におけるトレンドワードの一つは『採用マーケティング』です。この採用マーケティングの時代になって変わってきたことは、企業が将来の採用候補者に向けて、積極的に情報を発信するようになったことです」
例えば採用マーケティングに用いられるwebの媒体として、テックブログや自社のオウンドメディア、Wantedly Feedなどがあります。また、SNS上での従業員の発信も企業の印象やブランドを形作っています。また、企業がどのようなサービスを提供しているのか、評判はどうなのかなど情報も簡単に集めることができます」
採用マーケティングがトレンドになってきたことで、候補者は採用活動を始める前から情報に接している企業に対して、より具体的なイメージを持つようになってきているという。
「つまり、今の時代においてはスカウトメールなど企業からのアプローチを受ける以前から、『ここは働きやすそう』『ここは自分には合わなそう』など企業に対して興味やイメージをもっているのです」
また染谷氏は、採用マーケティングの活用に、スカウトメールで疲弊した採用活動を打破する鍵があると話す。
「これまでのスカウトメールのように、たった一つのメールによって候補者を口説いて自社への応募意向を作ろうとするのではなく、採用マーケティングを通じて候補者が自社に対して好悪の感情を持っている前提で、自社に対してどのような印象を持っているか確認することが重要です。
自社に対して、好意的な印象を持っているのであれば積極的にカジュアル面談等に呼び込んでより好意をもってもらえばいいですし、自社に対して興味のない候補者に関してはアプローチを控えるようにしていけば、返信率も高まります。全員に全力のスカウトメールを作成する必要もありません。また、そもそもスカウトメールの文面で口説く必要もないのです。
つまり、採用担当者が疲弊するような無駄なアプローチも減らすことができます」
LAPRAS SCOUTが実現するこれからのダイレクトリクルーティング
「LAPRASが提供するLAPRAS SCOUTでも、このような考え方の下、候補者へのスカウトメール以外のアプローチ方法として興味通知機能というものを提供し、無駄なアプローチの削減に効果が出ています。興味通知機能では、スカウトメールが送信される前に候補者に対して興味通知を送ります」
①アプローチしたい候補者をタレントプール(自社が採用したい候補者プール)に追加
「プロフィールを見て、会ってみたいと思った候補者をタレントプール(興味のある候補者リスト)に追加します」
②候補者画面に企業からの興味が表示され、1クリックでリアクション可能
「タレントプールに追加された候補者側の画面に自分に興味関心を持っている企業が表示されます」
③候補者が反応すると企業に伝わる
「このように、スカウトメールを作成・送信する前に、前もって候補者の興味を確認することができます」
自社に『興味あり』を押している候補者に対しては今までのように情報を詰め込んだ渾身のスカウトメールではなく、もっとカジュアル面談へのシンプルな誘いを送ることで、約50%の返信率という実績が出ているという。
「1面談獲得にかかる時間を通常のスカウトメールと比較してみるとその差は歴然です。時間の違いだけでなく、自社に興味のある候補者にシンプルなメールを送れば良いのは、採用担当者の精神的な負荷も大きく違います」
「また、興味通知機能は『ストック型』であるというのも特徴的です。従来のスカウトメールの多くはその瞬間のもの、返信期限が定められている『フロー型』が多かったのに対して、この興味通知は企業からオフにするまでずっとその候補者へ興味を伝えてくれます」
本来、候補者への興味はその採用枠が埋まるまで、あるいはその採用枠が埋まっても採用したいなど、持続的なものだ。しかし、従来のスカウトメールでは興味を伝えられたのはスカウトメールが届いたその一瞬でしかない。興味通知機能は、そのような候補者との長期的なマッチングを促す。
「このように、これまでスカウトメールを一方的に送りつけるようなダイレクトリクルーティングが主流であり、それ以外の手法はほぼ存在していませんでした。しかし、採用マーケティングが重要視されるこれからの時代は、興味通知機能のように候補者の興味や意思を確認した上でコミニュケーションをするような双方向性が重要かつ主流になってくると考えています」
また企業と候補者のミスマッチを減らすためには、今回紹介したLAPRAS SCOUTの興味通知の例以外にも、様々なソリューションが考えられると染谷氏は話す。
「webマーケティング領域のように、候補者が自社のブログ記事を見た、コーポレートサイトを訪問した等の履歴をトラッキングして興味度合いを測るようなことも可能です。すでに海外のスタートアップには類似のサービスを展開している企業もあります」
これからのダイレクトリクルーティングは効率性が求められる
「従来のダイレクトリクルーティングがあまりにも無駄が多すぎます。これからの採用においては従来のようにやみくもにスカウトメールを送るようなダイレクトリクルーティングではなく、より効率の良いダイレクトリクルーティングが主流になってきます。現段階でそれを実現する選択肢は少ないですが、これから多くのサービスが世に出てくるでしょう。
そうなると、採用担当が疲弊せず、候補者も企業からの誘いをもっと真剣に受け止められる、今よりずっと良い採用市場になると考えています。そのためにも、いち早く新しい手段にトライして自社の採用業務改革に着手してみると良いのではないでしょうか?」
(HRog編集部)