株式会社エッジコネクション
代表取締役社長
大村 康雄 氏
おおむら・やすお/慶應義塾大学経済学部を卒業後、新卒で米系金融機関のシティバンク銀行に入行。営業職として同期入社で唯一16ヶ月連続売上目標を達成する。2007年に株式会社エッジコネクションを創業。営業支援・コンサルティング事業にて1400社以上支援し、90%以上の現場にて売上アップや残業削減の実績を上げる。創業前・創業1年未満の企業支援では80%以上が初年度黒字を達成。東京都中小企業振興公社や宮崎県延岡市商工会議所など各地で講師経験多数。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年以降、ビジネスの場でもオンラインでのやり取りが急速に増えた。営業の仕事もオンライン化が進み、訪問する時間がカットできたり、遠方の企業にも営業できるようになったりと好影響もみられた。その一方で「オンラインでは雑談が盛り上がらず、人間関係の構築が難しい」など、これまでとは違うスタイルでの仕事にやりづらさや戸惑いを感じている営業担当も多いようだ。
他業種よりもオンライン化のあおりを強く受けているという人材業界。今回は営業マーケティングの総合支援を行う株式会社エッジコネクションの代表取締役社長である大村氏に、営業のオンライン化によって人材業界が受けている影響と、オンラインで顧客と良好な関係を構築するコツについて話を伺った。
オンライン営業が主流の今、人間関係が築きにくくなっている
オンライン営業の難しさは間の取り方が難しいことにある。画面越しでは相手の呼吸を読みづらいことに加えて、通信環境によっては音声が伝わるまでにタイムラグが生じるからだ。「自分が話そうとしたタイミングで相手も話してしまい、互いに音声が聞き取れなかった」ということがオンライン会議ではよく起こる。
このような「喋りにくさ」を避けるため、オンラインの場では「本題以外の余計なことは言わないでおこう」と考える人が多い。一方で営業において、雑談は仕事とは関係ない話題から自分の内面を知ってもらい、顧客との距離を縮める足がかりとなる。「雑談のしにくいオンライン営業では人間関係の構築が難しい」と感じる営業担当も多いようだ。
オンライン営業の難しさはどの業種でも共通だが、大村氏によると特に人材業界の営業は変化の煽りを受けやすいという。なぜなら人材業界の営業では、他業種よりも人間的なつながりが重要になるからだ。
「実は人材サービスというのは顧客満足度を高めるのが大変な商材です。人材業界では『採用できるか、できないか』が顧客満足度に直結します。例えば有形のモノを売るならば、その商品を渡せば顧客は満足します。コンサルや研修は一通り受ければ満足感がありますし、仮に失敗したとしても次回に生かせる知見は残ります。
しかし採用に関しては、たとえ知見が高まったとしても目の前の人手不足が解消されなければ意味がない。100%確実に顧客が望む人材を採用できるとは限らない上に、採用できない限り顧客満足度が上がらないというのが人材業界の営業の難しいところです。
加えて、採用のニーズは短期間で変化します。人が辞めたので急遽その部署の人員を補充したい、もともと事務職を募集していたけれど経営状況が変化したので他のポジションの求人に切り替えたい、など1か月単位で要望が変化することも珍しくありません。
定期的な連絡が不快にならない間柄の営業担当者でなければ、細かいニーズの変化を教えてもらえないでしょう。ニーズの変化に気付けなければ採用できず、顧客満足度は上がりません。人材業界の営業において、人間関係の構築は非常に重要な要素なんです」
信頼を勝ち取るために営業マインドは捨てる
では雑談などのラフなコミュニケーションが取りにくいオンライン営業において、何に気を付ければ顧客との良好な関係を築けるのだろうか。ポイントは「営業色を消す」ことだという。
「オンラインでの商談だと雑談などがしにくく、要件に特化した会話になります。ただこの要件というのが営業側と顧客で微妙に違うんです。営業側の要件は『自社サービスを売ること』、顧客側の要件は『人を採用すること』ですよね。この要件のズレがあからさまだと、顧客が不快に感じてしまう可能性があります。
だからこそ、顧客と良好な関係を築くには『売りたい』という営業色を消すことが大切です。営業側の要件を捨てて顧客の『採用したい』という要件に寄り添うことで、顧客に『ちゃんと自分の悩みに合わせてくれる営業さん』という好印象を与えられます」
顧客の要望に真に寄り添って考えると、時には自社サービスよりも他社のサービスの方が顧客のニーズに合う場合もある。そのようなときにも無理に自社に誘導せず、他社を薦めるような真摯な姿勢が重要だ。
自分の要望に柔軟な対応をしてくれた営業に対して顧客は信頼を抱き、その後採用ニーズが変わった際に「またあの営業さんに相談してみよう」と考える。さらに高いレベルで信頼関係が築ければ、採用の要件定義の段階から相談してもらえる可能性もあるのだ。
「商談は狩りではなく農業だ、というイメージが大切です。狩りのような商談とは、一つ一つの商談に『ここで仕留める』というスタンスで望むこと。このスタンスでは無理やり自社に誘導することになり、相手の印象を悪くします。完全に逃げられてしまえば、もう二度とその企業と連絡が取れなくなることもあり得ます。
では農業的な営業とはどういうものかというと、一度でも商談したすべての方と必ず定期連絡を取るというものです。名刺交換が種まきなら、定期連絡は水やり。すぐには収穫できなくても、水やりのタイミングを間違えなければいつか相手のニーズが変わって花が咲く、つまり契約が取れるタイミングが来ると思います」
たとえその場での成約には至らなかったとしても、相手の信頼を得ることで中長期的な見込み顧客をつくっていく。そうすることで、次第に無理やりクロージングしなくても売上が上がる仕組みができてくるのだという。
農業的な営業を成功させるためには定期的な連絡が必須だ。この連絡をするタイミングが関係の構築に重要なのだと大村氏は語る。
「ポイントは2つあります。1つ目は、必ずこちらから連絡すること。つい『何かありましたらご連絡ください』と言ってしまいがちですが、どちらから連絡するのか曖昧な状態で終わるとうやむやになったまま連絡が途絶える可能性が高いです。
2つ目は商談の最後に必ず次の連絡時期の約束を取り付け、そのタイミング以外では連絡しないこと。相手が指定したタイミングであれば迷惑がられることもありませんし、営業側もいつ連絡しようかなと無駄に悩む必要がなくなります。タイミングの指定は相手から、アクションはこちらからを徹底すれば、両者が気持ちよく連絡を取り続けられます」
オンライン営業で「優秀な営業担当者」像が変わる
オンライン化によって営業の考え方に変化を求められているのは個人だけではない。組織全体でオンライン営業を成功させていくために、企業単位でも営業手法のアップデートが必要になっている。重要なのは「組織全体でのノウハウの共有」だ。
「商談以外の会話が減るということは、営業の個性が相手に伝わりづらくなるということでもあります。声の大きさや親しみやすい雰囲気など、個人の魅力を活かした営業が難しくなっているんですね。だからこそトークの組み立て方や資料を見せる順番など、これまで属人化していたノウハウを上手く統合して組織全体の知見にしていくことが、企業全体で売上を伸ばすことにつながると思います」
実際に、営業の仕方を組織全体で統一する傾向は強まっているという。営業全体のサポートを行っているエッジコネクションではコールセンターも運営しているが、テレアポ外注を行う人材業界の企業が増えている。このことについて大村氏は、会社全体で営業に取り組もうというスタンスの表れだとみている。
個人がそれぞれ電話をかけてアポイントを取ると、テレアポスキルの差によってたくさん取れる人と少ししか取れない人が出る。しかし個性を活かした営業がしづらいオンライン営業では、一人の営業が大量の商談を抱えるよりも、ノウハウを共有した大人数で対応した方が効率がいい。アポイントを外注することでその先の営業の機会をベテランにも新人にも平準化して割り振ることができ、総力戦の営業ができるということだ。
そしてこの流れはある意味で、多くの営業担当にとってはチャンスであるともいえる。
「今までは『個性で売る時代』で、個性のある一部の人が売上を作ってきました。しかしこれからは個性を発揮する機会が減り、組織全体で営業の仕方を考えていくことになる。売り方に関しても、グイグイ営業するのではなく顧客のことを考えられる人が成果を出せる環境になっているんです。
つまり、これまでの人材業界で活躍していた営業の方とは真逆のパーソナリティを持つ人が成功しやすいのがオンライン営業なんですね。これまで平凡だと思われていた営業担当の方が急に頭角を表す…ということも十分あり得ると思っています。営業の方は今までの自社のエースの立ち振る舞いを一旦忘れて、オンラインで自分はどう営業をしていくべきかをじっくり考えてみてください」