oVice株式会社
人事責任者
宮代 隼弥 氏
みやしろ・しゅんや/新卒でIT企業のセールスを担当。その後友人と立ち上げたスタートアップ企業でビジネス部門の責任者兼HRを経験し、2020年11月に業務委託の人事担当としてoViceに関わり始めた。自らHRチームを立ち上げ、採用数やエンプロイーエクスペリエンス(従業員満足)の向上に貢献。2021年5月に正社員として入社し、現在は人事責任者を務める。
コロナ禍によりリモートワークが急速に普及し、業務や採用をオンラインで行う機会が大幅に増加した。しかし、リモートワークによって雑談の機会が減少するなどコミュニケーションの取りづらさが課題となっている。oVice株式会社は2020年、バーチャルオフィス「oVice(オヴィス)」をリリースした。そこで今回は「oVice」を活用し人事・採用に携わってきた宮代氏に、社内コミュニケーションやオンライン採用におけるバーチャルオフィスの活用方法や今後の可能性を伺った。
不便さがオンライン上にリアリティのある空間を作り出す
コロナ禍でオンライン会議などが当たり前になる中、バーチャルオフィス「oVice」は新たなプラットフォームとして生まれた。オンライン上にオフィス空間を作り出し、自身はアバターとして出社するサービスだが、まずはその特徴について伺った。
「自分のアバターを動かして移動し、他の人のアバターに近づくと声が聞こえるようになり、会話ができる仕組みとなっています。
また、現実のオフィスで仕事していると周りの人たちの会話が耳に入るように、oViceのバーチャルオフィス上でも自分のアバター近くにいる人たちの会話が聞こえてきます」
oVice上では画像のように、アバターに付いている矢印の方向に声が届きやすい仕組みとなっている。
バーチャルオフィスという空間があることで、オンライン会議サービスのように時間やアジェンダを決めなくても、気軽に雑談できる環境を実現した。またoViceは、オフラインのような空間を作り出すために、あえて不便さを残しているという。
「例えば、oViceはあえてノイズキャンセリングの機能を付けていません。雑音のような音も残すことで、よりリアルなオフィスに近づけています。さらに、距離という概念があるのも特徴的です。自分のデスクと会議室との間に距離があることでメンバーには移動の手間が発生するため、会議室までメンバーと雑談をしながら移動するといったことも可能です。URLをクリックするといきなり会議が始まる他サービスとは違い、偶発的なコミュニケーションを生み出すことができます」
同サービスの構想は、CEOであるジョン氏がチュニジアに滞在していた際、コロナ禍によってロックダウンを経験したことから得たという。
「ロックダウンにより当時のメンバーとコミュニケーションが取りづらくなり、『オンラインでも、現実空間と同じようなコミュニケーションを実現したい』と考えたことがきっかけです。
ただ、解決したい課題自体はコロナという外的要因によって顕在化しただけで、以前から存在していたものです。場所の制約があることで自分のやりたいことができなかったり、一人だけリモートワークの人がいることで一体感が作りにくかったりすることは、コロナ禍以前にもありましたよね。oViceはそのような課題の突破口になると考えています」
バーチャルオフィスが築く社員の関係性
同社ではもちろん、毎日の業務をバーチャルオフィス「oVice」上で行っている。宮代氏に、人事的観点から具体的な利用方法を伺った。
「リモートワークにおけるコミュニケーションの一番の課題は、他の部署のメンバーがどんな動きや業務を行っているのか分かりづらい点にあります。そこでoViceのアバター同士が近づくことで声が聞こえるという仕組みをうまく活用し、他のチームがミーティングをしているところに近づいて話を聞くことを可能にしています。バーチャルオフィス上では様々な社員が同じ空間にいるため、ちょっとした情報共有をしたり横のつながりを作ったりしやすいんです」
また、業務以外でもイベントを行うことで社員同士の交流を深めているという。
「月に一度バーチャルオフィス上で『oVice Night』という社員交流会を行っています。oViceに搭載したリアクション機能では拍手などの音まで再現しているので、オンラインイベントでもその場に人がいるように感じるんです。
また、オンライン上の空間であっても振る舞い方はあまり変わらないですよね。普段からせわしない人は、oVice上でもアバターをせわしなく動かしています。バーチャルオフィスがあることで、その人のパーソナリティが分かるんです」
実際には一度も会ったことのない社員も多くいるという。それでもバーチャルオフィスを活用することで、偶発的に生まれる雑談やイベントから顔の知らない社員とも関係を築くことができる。
言語化しづらい情報を伝える採用メタバース
また、oViceでは採用でもバーチャルオフィスを積極的に活用しているという。採用メタバースの具体的な取り組みについて伺った。
「現在、採用メタバースの取り組みとして採用専用のバーチャル空間を『候補者向け』『選考中の方向け』『オンボーディング用』の3つに分けて作成しています。『候補者向け』の空間では求職者の方がオフィス訪問のように自由に移動しながら、会社の概要やこれまでに作成したコンテンツを見ることができます。また、社内の雰囲気を知ってもらうため『選考中の方向け』の空間には、社員のアバターに近づくと社員の雑談が聞こえてくるスペースなどを設けました。
採用メタバースを行うメリットは、言語化しづらい情報を求職者の方が能動的に得られる点。職場の雰囲気など、オンライン説明会だけでは伝わりにくい情報を偶発的に感じてもらうことができます。
実際に候補者の方は採用メタバース上でウロウロしながら、能動的に情報を収集しています。例えば社員の男女比や年齢比、居住国などの情報が分かるコンテンツがあるので、採用メタバースに来ると一目で会社の情報が分かるんです」
今後、採用メタバースの活動を本格的に行っていく予定の宮代氏。採用メタバースを活用した採用を成功させるために必要なことを伺った。
「必要なことは2つあります。1つ目は、企業側も含めてオープンになることです。オンライン会議に特化したサービスだと、加工された情報のみでのコミュニケーションとなってしまいます。コロナ禍では企業側からの情報発信が主となってしまいがちで、人事と候補者の両者にとって判断しづらい状況でした。そのため自社の情報をなるべくリアルに近い状態で開示することで、関係性を築いていくことが重要ですね。
2つ目は採用基準を明文化、言語化していくこと。そして採用基準をチーム内の共通認識として、高い再現性を持つレベルにまで認識を強化することです。よくオンラインだと候補者が自社に合うかどうかわからないという方がいるのですが、オンラインだからといって採用の見極めができないことはないんですよね。あらかじめ採用基準を明確にして、誰でも採用の見極めができる状態にすることが重要です」
バーチャルオフィスで全ての人が働き方を選べる未来へ
オンライン上にリアリティのある空間を生み出すバーチャルオフィスは、今後も続くリモートワークやオンライン採用における新たなコミュニケーションのプラットフォームとなる。最後に、宮代氏にoViceの今後の展望を伺った。
「人事担当者は、変革を求められていると思うんです。これまでは毎日出社する働き方が当たり前でしたが、いまや全く出社しないスタイルも一般的になってきました。バーチャルオフィスは、従来のオフィスが持つコミュニティー形成の役割を失わず、かつ効率的に事業を伸ばすプラットフォームとなっていくと考えています。
また今後は、ビデオ会議ツール・バーチャルオフィス・従来のオフィスで役割が変わってくるのではないでしょうか。例えば従来のオフィスは出社している人でランチに行くなど、関係性の構築に特化すると思います。ビデオ会議ツールは外部との打ち合わせなどでは有用ですが、バーチャルオフィスは内部でのイベントやコミュニケーションで活用できます。
このように役割が変化していく中で、人事としては自社に合った使い分けをしていく必要があると思います。oViceとしてはフルリモートに限らず、働かれている方々が自分に合った働き方を選択できる空間を今後も提供していきたいですね」
現在は働き方が多様化しており、求職者のニーズも多岐にわたっている。企業もそのニーズに合わせ、多様な働き方を受け入れる体制が重要といえるだろう。