日本の“働く”をアップデート!人事・労務教育に取り組むSmartHR

株式会社SmartHR
執行役員 SmartHR 人事労務研究所 所長
副島 智子 氏
そえじま・ともこ/20人未満のIT系ベンチャーや数千人規模の製薬会社、外食企業など、さまざまな規模・業種の会社で15年以上の人事労務経験を持つ。2016年3月にSmartHRへ入社、2019年7月、SmartHR 人事労務 研究所を設立し現職に就任。従業員、労務担当者、経営者の3つの視点を持ち、SmartHRのペーパーレス年末調整機能の企画、育児休業法の解説など、面倒で難しいものをわかりやすくカンタンにしてユーザーに届けることを得意とする。

株式会社SmartHR
マーケティンググループ 広報
桑野 絵維子 氏
くわの・えいこ/制作会社で広告制作・イベント企画に従事し、その後スタートアップ企業でマーケティングを経験。2020年、株式会社SmartHRに入社。プロダクト、コーポレート分野の広報業務を担当しつつ、社会貢献プロジェクト「働くの学び舎」を企画・推進。

株式会社SmartHRは2022年7月より、新プロジェクト「働くの学び舎」を立ち上げた。「誰もがその人らしく働ける社会」を目指し、学生向けの出張講座や実務担当者向けの資格検定「人事労務マイスター検定」を提供している。今回は同プロジェクトに携わる副島氏と桑野氏から、SmartHRがこの取り組みを通して実現したい社会のかたちや、実際の反響などについて話を伺った。

誰もがその人らしく働ける社会を目指して。「働くの学び舎」プロジェクトとは

「働くの学び舎」プロジェクトは、学生向け出張講座「働くの学び舎 for Students」と、人事・労務実務担当者向け資格検定「人事労務マイスター検定」の2つから成る。「働くの学び舎 for Students」では、SmartHRの社員が講師となり「人事・労務」と「ウェブアクセシビリティ」の基礎知識についてワークショップを開講。「人事労務マイスター検定」ではWeb教材と検定試験を無料で提供し、人事・労務担当者の学びの場を創出している。

桑野氏「一人でも多くの人が心地よく、健康に、その人らしく働くための選択肢を増やしたいとの想いから『働くの学び舎』を立ち上げました。日本の“働く”をアップデートするために、当社がこれまで培ってきた知識や技術を社会に共有・還元していきたいと考えています」

給与計算から働き方を考える「働くの学び舎 for Students」

「働くの学び舎 for Students」は、SmartHRの社員が講師として学校に出向く出張型講座だ。全国の大学・短大・高専・専門学校を対象に、2つの講座を開講している。今回は人事・労務の講座、「給与明細から考える働き方講座」の具体的な内容や反響について話を聞いた。

桑野氏「『給与明細から考える働き方講座』では、一人ひとりに給与明細を配って給与計算や各種控除を計算する実践ワークショップを行います。給与計算を軸にして『給与からどのような働き方が見えてくるのか』『自分に合った働き方はどのようなものか』を、学生自身に考えてもらう内容となっています。計算する過程で、自分は今どんな働き方をしていて、だからこの金額になっているんだと気づけるようになっているんです」

既に社会人として働いている人の中にも、給与の計算・支給の仕組みや控除項目について詳細まで理解している人は多くないだろう。学生であればなおさらだ。勤務時間や雇用形態、給与の仕組みなど「人事・労務に関わる知識」は、働き方に直結するものであり、すべての働く人にとって重要な知識だ。しかし、学校でも会社でも、こうした知識をしっかり学ぶ機会が日本にはまだ少ない。

桑野氏「学生が社会に出る前に働き方についての知識を持っているかどうかは、就職活動やその後の選択肢に大きな影響を与えます。なんとなく就活をしている学生の方も多いと思うんですが、選択肢を持った状態で社会に出ることが、『その人らしい働き方』につながると考えています。これまでに早稲田大学、慶應義塾大学、駒澤大学の3校で開講し、多くの反響をいただきました。

どの学校の学生さんも非常に熱心に受講して下さり、自分の働き方や人生にしっかり向き合っている印象を受けました。フィナンシャルプランナーの勉強をしているという方からは『フィナンシャルプランナーの教科書よりも分かりやすく、教科書で理解できなかった箇所がこの講座で分かるようになった』と嬉しい声をいただきました。他にも『自分のキャリアは公務員しかないと考えていたけれど、ワークショップを通してさまざまな働き方を知って、一般企業も就職先の選択肢として増えた』と考えを転換された方もいました」

副島氏「講義の後には個別の質問を受け付けているのですが、毎回長蛇の列ができます。そのうちの8割くらいは自身のアルバイト先での問題についての相談ですね。講座の内容を、自分ごととして聞いてくれているのが伝わり嬉しかったです。先生方からも、自分たちが教えられない専門的な知識をプロに教えて貰えるのがありがたいという声をいただいています」

自分で調べ、答えを導く力を育む「人事労務マイスター検定」

教科書にはガイド動画や全体感把握用のページなども用意されている

一方で「人事労務マイスター検定」は、実際に人事・労務に携わっている実務担当者向けのコンテンツとなっている。実務上で必要な知識を体系的に学べるように、ウェブ教材・検定試験をすべて無料で提供。担当者が社労士や弁護士などの専門家と建設的な議論ができるようになったり、従業員のよりよい働き方を提案できるようになったりと、人事担当者のキャリアアップにも繋がることを目指しているという。

試験の内容にもこだわりがある。検定試験は全60問で、正答率92%以上で『人事労務マイスター』に認定される。

副島氏「人事・労務の業務では、記憶力よりも『調べて答えにたどり着く力』が求められます。法改正も頻繁にあるので、常に最新の制度や数値を確認して業務に取り組む必要があるのです。そのため、試験では教科書の閲覧やウェブ検索を行ってもよいこととし、代わりに合格ラインを高めに設定しました。その時々の最新情報を調べ、知識と事象を掛け合わせて答えを導き出すという実際の業務で求められるフローを、検定試験でも再現しています。知識の丸暗記ではなく、『こんな場合にはどの項目を参照すればいいか?』というブックマークを脳内に作って頂くイメージです」

現在公開されているカリキュラムは全部で20項目。入社から退職までの間に起きる、さまざまなライフイベントに関する社会保険・雇用保険の知識を身に付けられるという。

副島氏「企業の人事・労務担当者にとって、実務の知識を体系的に学べる環境はあまりありません。人事系の資格としては『社会保険労務士資格(社労士)』があるのですが、あまり実務向きではないんです。そのため人事・労務担当者はなにか事象が起きて初めて調べたり、経験したりして学んでいくことがほとんどです。もちろんそうして力をつけていくことも重要ですが、常に場当たり的な対応しかできない状況は最善とは言えません。

人事担当者の方には前提知識を持った状態で事象に対応できるようになってほしいという思いから、この検定を作成しました。人事・労務のことなら『人事労務マイスター検定』で勉強すればよいという、経理でいう日商簿記検定のような存在を目指しています」

「人事労務マイスター検定」は、2023年1月にリリース記念特別回が開催された。SNSなどを通して、受験者からは「教科書も問題も完成度がすごかった」「とても有意義な検定でした」「認定に届かず悔しいので、(第1回目となる)4月にリベンジする!」など賞賛の声が上がっている。

副島氏「20項目の内容はすべて独立して完結しているわけではなく、実務においては『入社時のこの情報が、この定時決定の手続きと関係しているよね』というようなことが頻繁に起きます。こうした繋がりの全体像を把握できる点が評価していただけているようです。初めて人事労務の業務にあたる方におすすめなのはもちろんのこと、現在実務をされている人事担当者の方にもぜひ受験してほしいと思っています」

日本全体の人事・労務の知識水準を底上げしたい

日本の“働く”をアップデートして「誰もがその人らしく働ける社会」の実現を目指すSmartHR社。そのために人事・労務教育がなぜ重要なのか、その理由を伺った。

副島氏「人事・労務の業務は会社の運営に大きく関わるほか、結婚や出産など従業員のライフイベントにも関与しています。一定水準の知識を持った上での対応が必要なのに、知識を習得する方法が、担当者の経験や属する企業の規模、環境に依存しがちです。知っている人だけが得をする、知らなかったばかりに企業がリスクをこうむるなど、担当者の知識の差によって結果が変わることはあってはならないと私は思います。すべての企業の従業員が安心して働ける世界をつくるためにも、日本全体において人事・労務教育の知識水準を底上げすることが重要だと考えています」

桑野氏「従業員側にも、こうした知識を働く上で必要なものとして持っていてほしいですね。健康保険や雇用保険などの保険料は、企業と従業員の双方で支払っているものです。人事担当者に委ねるのではなく、病気や介護などの問題が出てきた際にどんな制度が使えるのか、自分が取れる選択肢を知っておいてもらえればと思います。人事担当者側と従業員側、二軸でのアップデートが大事ではないでしょうか」

このような考え方をもとに、今後はクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を軸とした業務効率化、従業員エンゲージメントの向上をサポートしていきたいと言う。

副島氏「『SmartHR』に限らず、知識が揃っているとプロダクトをより便利に活用できると思います。この先、人事・労務担当者の方には、知識とデータ活用を組み合わせた場当たり的でない『狙いを定めた対応』が求められると思います。担当者の方たちがより働きやすくなるように、有益な情報を今後もSmartHRから提供していくので、期待していただけると嬉しいです」

桑野氏「現在当社では『働くの実験室(仮)』というプロジェクトを立ち上げ、働きやすさをテーマにしたラジオ番組の発信や、働きやすい仕組みづくりに取り組む企業を表彰する『WORK DESIGN AWARD』の開催を行っています。さまざまな角度から“働きやすさ”という答えのない課題にアプローチし、情報共有をすることで、より働きやすい社会へのアップデートを目指しています。

『働くの学び舎』でも、今後さらに開催数を増やして多くの学生の方に人事・労務の知識を共有していきたいです。SmartHRが持っている知識や経験を社会で共有し、“働く”に対する考え方を転換するきっかけづくりに取り組んでいきます。人事担当者のみなさんも、企業の“働く”をよくしていくキーマンとして、ぜひ一緒に日本社会をアップデートしていっていただけたらと思います」